御前山 ~緑の稜線をひたすら登る(前編)~


 

 (前編)

【東京都 奥多摩町 令和4年5月22日(日)】
 
 ゴールデンウィークが明けてからというものぐずついた天気の日が多く、天気予報では早くも「梅雨の走り」といった言葉が聞かれます。特にこのところ週末に崩れることが多いような。せっかく輝くような新緑の季節だというのに。
 そんな中ようやく日曜日に晴れマークが。「曇りのち晴れ」ではあるものの、野山歩きをするならこのタイミングです。ということで、今回は奥多摩にある御前山(1405m)に登ってみることにしました。三頭山、大岳山とともに「奥多摩三山」の一つに数えられる山だそうです。
 
                       
 
 5時30分、ドリーム号Ⅲで出発。八王子バイパスから新滝山街道、吉野街道を通って青梅街道に合流し、小河内ダムを目指します。天気はどんよりとした曇り。予報を信じて車を走らせました。

 駐車場

 7時10分、小河内ダムのダムサイトにある駐車場に到着しました(なぜか屋根付きで、長ーい自転車置き場みたいな造り。)。さすがにこの時間はガラガラでした。気になる天気はというと、雲間にところどころ薄く晴れエリアが見える状況。すこし心が前向きになりました。

 Kashmir3D

 今日のルートは、この駐車場からダムの天端を渡った先にある登山口に向かい、そこからひたすら尾根筋を登るというもの。途中、指(サス)沢山、惣岳山と尾根上にあるピークを踏んでいきます。登山口からの標高差は約1000mと、yamanekoにとってはなかなか手強い相手です(なので今回は妻はお休み)。復路は来た道を戻ります。



 これから登る御前山を望むと、まだ雲に隠れていましたが(雲の手前の山は指沢山)、その雲も薄く、ところどころ青空が見えています。いい感じです。
 ところで、ここのダムサイトを訪れたのはちょうど半年ぶりです。前回は昨年の11月。奥多摩むかし道を歩いた際のスタート地点としてやって来たのです(こちら参照)。その時はまさに紅葉の盛りでした。

 小河内駐在所

 時刻は7時30分。いつもに増して念入りに準備体操をし、スタートです。
 まずは駐在所に登山届を提出。ついでに登山道の情報(倒木とか崩落とか)が何か掲示されていないか見てみましたが、特に何もないようでした。

 ダム下

 あらためて登山口に向かいます。余水吐ゲートの上を通ってダム本体の天端(てんば)の上を歩いて行きます。写真は天端からダム下を覗いてみたところ。元々の谷は深かったんですね。

 天端

 小河内ダムの天端は遊歩道として解放されています。左手の稜線(!)、嘘みたいな傾斜ですが、地図によるとあそこを登って行くようです。



 天端の中程からあらためてダム下を覗いてみました。堤高149m。吸い込まれそうです。



 天端の反対側は満々と湛えられた湖水。写真左奥が駐車場の辺りです。 

 登山口

 天端を渡りきるとちょっとした広場があります。その左手の一段高くなったところにベンチなどがあり、その奥に登山口がありました。ここからが山道です。

 マルバウツギ

 と、その前に登山口の脇にマルバウツギの白い花が。満開でした。多摩丘陵ではとっくに散ってしまいましたが。ここの標高は550mで多摩丘陵が150m前後なので、気温差は単純に2.4℃。あと、山間地形や陽当たりなどの影響もあるのでしょう。
 yamanekoの好きな花に出会えてラッキーなスタートになりました。



 林の中に石段が続いています。ここからジグザグに何回か折り返して上がればすぐに尾根筋に出ます。

 フタリシズカ

 足下にフタリシズカを見つけました。でも「二人」といいつつ花穂は1本だけ。よくあることです。

 ギンリョウソウ

 目の高さの法面にギンリョウソウのご一行様が。一見キノコのようですが、これでも立派な被子植物。ただ葉緑素を持たないので純白な姿をしているのです。少し湿った薄暗い森の中で出会うことが多く、幽玄な雰囲気を醸し出しています。

 稜線へ

 あっという間に稜線に出ました。写真左手から登ってきて、ここから写真奥に向かって行きます。

 急傾斜

 おお、なかなかの急傾斜が現れました。さっき天端からみたあのショッキングな稜線です。地図を見るとざっくり100m先で80m上がっている計算。すなわち100分の80(80%)の勾配になります。えげつないです。
 歩幅を狭めて一歩一歩登って行きます。すぐに息が荒くなりましたが、ここは意識して深い呼吸を心がけて。その方が肺で効率的にガス交換ができるそうです。糖質を燃焼させエネルギーを作るには酸素が必要とこの前テレビで言っていました。浅い呼吸では十分に酸素を取り込めず、結果バテてしまうということになるのでしょう。

 ダンコウバイ

 ダンコウバイの葉。恐竜の足跡のような特徴的な形をしています。黄葉も美しいんですよね。

 

 太い枯木を乗り越え…、

 ヤセ尾根を渡り…、

 

 そしてまた容赦なく現れる急傾斜。心肺機能を最大稼働させて登って行きます。

 コアジサイ

 コアジサイ。装飾花がないタイプのアジサイなので、花の時期には見分けは簡単です。装飾花がないということは、虫を見かけで呼ぶ必要がないということでしょうか。となると花の香りがよいとか。そういえば花を匂ったことはないです。

 ヤマツツジ

 朱い花はこの時期は珍しいような。これはヤマアジサイですね。



 ときには斜面をトラバース気味に。それにしても登山口からずっと森の中を歩いています。そろそろ眺望がほしいところ。

 ギンリョウソウ

 このギンリョウソウはなんとなくタツノオトシゴみたい。



 おっ、なにやら明るくなってきたぞ。ピークが近いのか。

 指沢山

 8時55分、ようやく指沢山に到着しました。歩き出しからいきなり急傾斜の先制パンチをくらった格好で、早くも足がパンパンです。



 ここには展望デッキがあり、北西方向に眺望が開けていました。



 その展望デッキからの眺めがこちら。
 うっすらとベールに包まれたような奥多摩湖。鏡のような湖水に周囲の山影を映し込んでいます。満水時の貯水量1億8500万立方メートルだそう。このとてつもない量の水は、戸河内ダムで発電に用いられた後放流され、中流域にある小作取水堰、羽村取水堰で上水用に取水されるのだそうです。都民の水瓶なんですね(山梨県の一部からも集められている水ですが。)。



 10分ほど休憩してから、次の惣岳山を目指して再び歩き始めます。

 ホソバテンナンショウ

 これはホソバテンナンショウでしょうか。マムシグサの仲間は別種との間で中間的な形態のものが多々あるらしく、なかなか同定は難しいようです。



 指沢山から次のピークの惣岳山までは「大ブナ尾根」と呼ばれる登山道。その名のとおり立派なブナが見られました。

 キアシグロタケ?

 土と岩と木だけの世界ではキノコもちょっとしたアクセントです。これはキアシグロタケかな。こうやって興味を引くものがあると足を止めるきっかけにもなります。



 尾根に沿って幅広に刈られているのは防火帯の目的なのでしょうか。



 ごつごつとした砦のような岩塊が現れました。時刻は9時50分。ここで小休止です。



 リュックを置いて軽くストレッチ。それにしてもかなり大きな岩塊です。なぜこんな稜線上に。稜線上だから残ったのであって、斜面にあったものは転がり落ちてしまっているとも考えられますが。



 岩に腰掛けて登ってきた方を見たところ。頭上から陽射しが降り注いでいます。ここではあまり長居をせずにリスタートです。



 小さなピークを越えて下った先にコバイケイソウの群生地がありました。

 コバイケイソウ

 コバイケイソウには数年に一度見事に咲きそろうという開花サイクルがあります。今年はどうなんでしょうか。盛夏の花です。



 コバイケイソウの鞍部の先は、のしかかってくるような急斜面(写真では伝わりにくいでしょうが。)。登山道が遙か上までジグザグに延びています。



 斜面中程に咲いていたミツバツチグリ。可憐な花に足を止めて、ついでに息を整えました。ただ、その間でもバランスを崩さないように。下手をすると遙か下まで転がり落ちてしまいます。



 急斜面を登りきった先もそれなりの坂道です。苦行か、これは。



 傾斜が緩やかになり、道は防火帯みたくなりました。この先が惣岳山のピークのようです。

 惣岳山

 10時20分、惣岳山の山頂に到着しました。周囲を木立に囲まれ、眺望はありません。山頂は平で、ベンチが5基ありました。



 看板には「消防活動拠点」とありました。山頂がだだっ広いのはそのためだったようです。
 惣岳山を過ぎれば御前山の山頂はすぐそこ。ここでは休むことなく山頂を目指しました。さあ、山頂でのご褒美(眺望)はあるのでしょうか。(後編に続く