御殿山 〜温暖な照葉樹林を歩く(後編)〜


 

 (後編)

【千葉県南房総市 令和7年2月24日(月)】
 
 黒潮洗う南房総。温暖な照葉樹林を楽しむ野山歩きの後編です。(前編はこちら
 

 Kashmir3D

 南房総市のほぼど真ん中、山田地区にある公共駐車場を起点に御殿山に向かいます。午前11時30分、前面に立つ峰林山の「大黒様」に到着。ひとしきり眺望を楽しんだ後、奥に向かって延びる稜線を辿り、御殿山まであとちょっとのところまでやって来ました。



 大黒様からの稜線の道は登ったり下ったりを繰り返します。一応道はしっかりしていましたが、やっぱり小石が多く滑りやすいです。

 鞍部

 鞍部は歩きやすいです。でも鞍部ということはこれから上りになるということですが。



 急な坂道を登っていると左手に階段が現れました。すぐそこが展望台になっているようです。

 展望台

 上がってみるとやっぱり展望台になっていました。広さは四畳半程度。ベンチもありましたが、いかんせん座面が高すぎです。駅のホームにあえて座面を高くしたベンチがありますが、そんな高さでした。そういえば近頃は「四畳半」というワード、耳にしなくなりましたね。



 展望台からの眺望もちょっと残念な感じ。20年くらい前なら木々はここまで伸びていなかったかも。



 展望台を後にして階段を下ったところ。写真右下から登ってきました。これから写真奥に向かって歩いていきます。

 マテバシイ

 これはマテバシイの葉ですね。照葉樹林を構成する代表的な樹木で、関東地方南部ではちょくちょく見かけます。かつて薪炭材などの用途で植林されたものが各地で野生化しているのだそうです。

 山頂直下

 御殿山の山頂直下にやって来ました。文字どおり見上げるような、というか現実に見上げていますが、かなりの急斜面で、上の方にはロープも張られていました。標高差は30mほどです。御殿山の山頂をスルーして奥に進う人は右手に延びる巻き道を行けるようになっていて、ガイドブックではその巻き道を行って、折り返すように反対側から登るルートが紹介されていましたが、ここはやっぱりこの急斜面を攻略したいですね。



 いざ斜面に取り付いてみると、予想以上にジャリジャリで、静止するとそのままズルズル滑っていきそうでした。ところどころ両手を使いながら登っていきました。

 コバギボウシ

 これはコバギボウシの果実がドライフラワー化したもの。足場を確保しバランスをとりつつ、斜面の途中で撮影しました。

 御殿山山頂

 そして特に危ない思いをすることもなく山頂に到着しました。時刻は12時15分になっていました。

 東屋

 ピークを少し下ったところに東屋がありました。ここで休憩兼昼食にしましょう。



 その前に眺望を。まず西方向です。伊予ヶ岳も特徴のある姿の山ですが富山もなかなかのもの。双耳峰の典型みたいな姿です。富山の麓は南総里見八犬伝の舞台。二つ耳を持つこの山の姿が犬を連想させたのでしょうか。遠くに鋸山も見えています。浦賀水道を挟んでその向こうには三浦半島も見えていました。(写真にマウスオンで山名表示)



 次に反対側。南方向になります。山が切れて海岸線が見えている辺りは和田地区や千倉地区。5年前に登った高塚山も見えました。あの時は新型コロナのパンデミック前夜。まだダイヤモンドプリンセス号の中での感染がニュースになっている頃でした。(こちら



 上の写真から左にパンして南東方向。標高300m前後の山々が連なっています。遠くの水平線は太平洋。そこを流れる黒潮がここ南房総を温暖な地にしてくれているんですよね。



 眺望を楽しんだら昼食。東屋はこんな感じで日当たり良好です。ただベンチのところは日陰になっていたので、東屋の前の斜面の縁にシートを敷いてそこに腰掛けました。その方が足を投げ出せて楽ということもあるし。

 ランチ

 昼食にいただくのはコンビニおにぎりとペットの緑茶です。以前この辺りでのコンビニ探しに相当苦労した記憶があったので、今回は地元のコンビニで調達してきました。でも海ほたるで千葉の名物を買っても良かったなとおにぎりを頬張りながら思った次第です。

 下山開始

 山頂でしばらく休憩した後、下山開始です。まず来た道の反対側に下り、山頂直下の巻き道を戻ることで急坂下りを回避することにしました。

 急な下りを行く

 こちら側もそこそこの急坂でしたが、しっかりした階段になっていたのでズリズリと滑ることもなく助かりました。



 巻き道との合流点。まっすぐ行くと鷹取山、宝篋塔山を経て大日山に至りますが、yamanekoたちはここを右手前に折り返して行きます。

 ヤブツバキ

 ヤブツバキ。山頂部には植栽と思われるものが多くありましたが、これは自生のものかもしれません。この辺りは元々ヤブツバキが好む環境ですので。

 巻き道

 これが巻き道。斜面をトラバースする形でまっすぐに延びています。ただこの道がなかなかの曲者で、歩き始めてほどなく道幅は30cm程度となり、路面が水平ではなく谷側(進行方向左側)に向かって30度くらい傾斜した道となっていたのです。しかも例の小石混じりの滑りやすい状態。妻は平気な顔で歩いて行きましたが、yamanekoの脳裏には、ここで滑ったら死なないまでもそれなりに怪我をするだろうし、どうやって登山道まで這い上がるか、その後無事に下山できるか、近くに病院はあるかなど、負の思考が浮かび、たちまちそれに占拠されたのです。いきおい歩幅も小さくなり腰も引けていたかもしれません。とはいえ戻るにしても方向転換自体危なそうなので、靴の裏のグリップ力に全てを委ね前に進むしかありませんでした。

 無事通過

 低山で遭難事故が起こるのはこういった場所なんだろうなと考えつつ、亀のような歩みで無事に巻き道をクリアし、往きに登った最後の急坂との分岐点に戻ってきました。妻は、どうかしたの?という顔でしたが、これを度胸ありというのか無思考というのか。後者ということで納得することにしました。



 ここからまずは大黒様を目指して歩いて行きます。相変わらず滑りやすい坂道です。



 展望の利かない小さな展望台への分岐まで戻ってきました。ここは左手の道を下ります。



 そしてまた急な階段を登り…

 戻ってきたよ大黒様

 アップダウンを何回か繰り返すと、前面が開け、大黒様に戻ってきました。時刻は1時30分です。



 眼下の里を見下ろすと…、おお、駐車場の車は少なくなっていますが、ドリーム号Vはちゃんと待ってくれているようです。



 大黒様をすぎると道の傾斜がぐっと増してきました。滑りやすいので、道幅をいっぱいに使ってジグザグに下りていきます。

 ヤブニッケイ

 これはヤブニッケイ。葉がテカテカしていますね。これぞ照葉樹、です。

 イヌガヤ

 おや、こんなところにモミがあるのか?と思いましたが、葉先をよく見ると形が違います(モミは葉先がM字型に尖っています。)。じゃあカヤかと思って葉を軽く掴んでみるとそれほど痛くありません。カヤの場合先端が針のように鋭く尖っていて触るとチクっと痛いのですが(モミも痛い。)、そうでないということはイヌカヤか。カヤは種子を食用油の原料にするほか、材は最高級の碁盤になるのだそうですが、イヌガヤはそれほど有用ではないということで「イヌ」の名を冠しているようです。

 シュンラン

 おっ、これはシュンランですね。葉の付け根を見ると花芽が伸びていました。ちゃんと春を迎える準備ができているようです。

 ハナミョウガ

 これはハナミョウガ。今は赤く熟した実が付いています。民家の跡地などにあるイメージでしたが、どこにでもあるようなものではないらしく、レッドリストに掲載されている地域もあるとのことです。

 イヌマキ

 これは?イヌマキのような気がしますが、丈が小さいので幼木なのかもしれません。関東地方以西に分布するとのことで、千葉県はその東端部に位置するのだそうです。とするとこの幼木は辺境の地で頑張っているんですね。ただ、イヌマキは耐陰性が極めて高いそうで、こんな日陰の環境はなんともないのだと思いますが。

 大ケヤキ

 あれこれ観察しながら下っていくうちに山道も終わり、民家の近くまで降りてきました。往きに見上げたケヤキの大木。やっぱり存在感があります。ケヤキは成木になると一本の幹の上部に放射状に枝を伸ばす「逆さ箒」型になりますが、この木は株立ちのようになっています。おそらく木がまだ若い頃には、伐採され、切り株からひこばえが育ち、成木になり、伐採されを何度か繰り返してきたのかも。そのうち根元が異形となって存在感が増してきて、やがて神格化されたのではないでしょうか。なんていろいろ想像できてちょっと楽しいです。



 見上げると旅客機が。同じようなところを何機も飛んでいきますが、この辺りは羽田空港に着陸する飛行機が通るルートになっているようです。西からやってくる飛行機も一旦房総半島の東海上に回り込んで、半島上空を横切り、羽田へと降りていくのです。若い頃、飛行機から見下ろす房総半島がゴルフ場だらけで異様な光景になっているのに驚いた記憶があります。



 ほどなくスタート地点が見えてきました。正面に見える里まで歩くとゴールです。
 そして、2時20分、駐車場に到着。無事に下山できました。あのちょっとヒヤッとした巻き道も、無事に下山してみれば山道の楽しいアクセントみたいに思えるのが不思議です。そんな風にほのぼの振り返りながら、 整理体操をして、荷物を片付けて、さあこれから花摘みにGOです。
 
  帰りのアクアライン、3か所の事故で10kmを超える大渋滞。この程度の渋滞はここでは日常なのでしょうが、渋滞を抜ける頃にはかなり腰にきていました。