磐梯山 〜紅葉輝く宝の山(前編)〜


 

 (前編)

【福島県 北塩原村、磐梯町、猪苗代町 平成21年10月12日(月)】
 
 今年も紅葉の季節がやって来ました。そういえば、去年は那須岳に登ろうとして紅葉狩りラッシュに巻き込まれ、途中であきらめて帰ったという残念な想い出が。今年はそんなことにならないよう、周到に計画しなければ。
 
 ということで、今年は一泊で磐梯山に登ることにしました。♪会津磐梯山は〜宝〜のぉ山よ〜、っていう磐梯山です。
 IT社会の進展というのは、功罪いろいろあるのでしょうが、ほんと生活の様々なところで便利になったと感じることが多いです。
 例えば、ホテルの予約。金曜日に仕事を終えて帰ってきてからでも、ネットで週末の予約を確認でき、そのまま予約もできる。しかもお得なプランが色々用意されていて、複数のホテルやプランを比較しながら決めることができるのですから。
 今回予約したのは、裏磐梯にあるホテル。いくつかある宿泊プランのうち、「トレッキングプラン」といって翌日の昼食用の弁当とお茶がセットになっているもので、yamanekoにとってはまさにお得です。ちなみに予約を終えたのは深夜1時。電話予約の時代ではあり得ないことですよね。(周到というわりには土壇場の予約でした。)
 
                       
 
 土曜日は終日家の用事をあれこれと。ゆっくりと休んでから、日曜日の午前中に東京を出発。首都高から東北道に入ると既に渋滞が始まっていました。さすがは3連休。高速道路も1000円だし、今日も激しい渋滞は必至でしょう。
 結局、埼玉県内はノロノロ状態で、栃木県に入った頃から少しずつ流れ始め、那須を過ぎたとたんにスイスイ走れるようになりました。やっぱり那須は大人気の紅葉ポイントのようです。
 福島県に入っても目的地はなかなか近づいてきません。やっぱり遠いんですね。昼過ぎに会津盆地に入り、その足で喜多方まで行って名物の喜多方ラーメンで昼食としました。連休ということもあって、市内の主立ったラーメン屋さんの前には長蛇の列ができていました。yamanekoが目指したのは、喜多方ラーメンの元祖で、戦後、屋台から始めていたというお店。評判どおり美味しかったですが…。
 食後は会津若松へ。白虎隊ゆかりの飯森山に行ってみました。お土産屋に並んでいる赤べこにグッときて買いそうになりましたが、なんとか踏みとどまりました。
 そうこうしているうちに夕方になってきたので、ホテルのある裏磐梯へ。秋の夕暮れ、標高も約800mと高いこともあって、チェックインしたときにはしんしんと冷えてきました。
 
 翌日は8時に朝食を済ませ、今日の昼ご飯の弁当を受け取って出発。空には薄雲が広がっていますがそれも朝のうちだけのことで、天気予報では晴れだった昨日より更に安定した晴天とのこと。ワクワクしてきます。

 八方台駐車場

 裏磐梯から猪苗代湖のある表側に出るルートの一つに、猫魔ヶ岳(磐梯山の西隣の山)との鞍部を峠越えする磐梯ゴールドライン(宝の山だからか?)という有料道路があり、その峠のところに八方台駐車場と登山口があります。8時半過ぎに到着しましたが、駐車場は既に満杯状態でした。


Kashmir 3D

 磐梯山の標高は1819m。その周囲にある赤埴山(1430m)と櫛ヶ峰(1636m)を含めて磐梯山と呼ぶこともあります。というのも、上の地形図を見て分かるとおり、もともと一つの山だったものが噴火による山体崩壊で今の姿になったと考えられているから。有史以来でも大きな噴火が2回記録されているそうで、初めは平安初期、806年の大噴火。現在の沼ノ平付近の崩壊でそれまで2000m超の富士山型だった磐梯山が大磐梯(現磐梯山)、小磐梯(その後消滅)、櫛ヶ峰、赤埴山の4つに分かれたとされています。その後約1千年をその姿で過ごし、明治21年に再び大噴火。小磐梯が北側に向かって山体崩壊を起こし、大きくえぐれてしまいました。その際に発生した岩石の雪崩によって麓の集落は壊滅し、また、いくつもの川がせき止められて、現在裏磐梯に点在する大小様々な湖沼が作られたのだそうです。これは明治時代に起こったことなので、当時の惨状なども記録に残っているのだと思います。

 登山口

 午前9時、八方台の登山口を出発。駐車場の車の数からすると、既に多くの登山者が登っているはずです。

 落葉広葉樹林

 ブナやミズナラの林の下を行きます。冷たい空気を吸い込むと気持ちいい。まだ朝の冷え込みが残っていて、防寒ウエアをしっかり着込んでいます。

 ハウチワカエデ

 バックの空が白いので鮮やかさに欠けますが、それでも見事な紅葉。ハウチワカエデですね。

 タムシバ

 コブシによく似た花を咲かせるタムシバ。その果実です。葉は甘くスーッとする香りがするのが特徴。でも、種子の赤い部分は激辛だそうです。

 ブナ

 クマの大好物、ブナの実です。今年は山の実りが思わしくないのだとか。腹を空かせたクマが里の方に下りていかなければよいのですが。(クマについてはこんな話も)

 斑入り

 斑入りの紅葉を発見。1枚の葉の中で紅く色づいている部分と黄緑の部分があります。
 紅葉の仕組みは、まずクロロフィル(緑色の色素)が壊れ、次に葉の付け根にシャッターができて光合成で作った糖が葉に貯まっていき、その糖に含まれるアントシアン(主に赤色色素)の色が目立ってくる、というもの。この場所は林床で、高木の木漏れ日を斑に受け十分に光合成を行えた部分のみが紅く色づいたということでしょう。

 冬眠の穴?

 苔生したブナの老木にぽっかりと空いた洞。なかなかいい雰囲気の木です。冬場にはクマが冬眠場所として使っているかもしれません。それにしては狭そうでもありますが、その辺はクマにとってはあまりこだわりはないらしく、中には頭だけ洞に突っ込んでお尻は出たまま一冬を過ごすものもいるのだそうです。

 ムシカリ

 ムシカリの葉が淡く色づいています。これから更に紅くなっていくでしょう。

 ナナカマド

 鳥たちの冬場の食糧、ナナカマドの実です。鳥に食べられることによって種子を運ぼうとする木の果実は、赤い色をしていることが多いようです。これも目立つための戦略でしょうか。でも、もともと鳥は人間の8倍も目がいいそうですが。

 ツクバネソウ

 ツクバネソウの実が黒いのは鳥頼みではないということか?
 ツクバネソウはこう見えてもユリの仲間。ユリをはじめとした単子葉植物は花や葉の構造が3の倍数であることと葉が平行脈であることが特徴ですが、ツクバネソウは4の倍数となっていることと葉の葉脈が網目状になっているのが異端です。

 中ノ湯

 9時45分、中ノ湯に到着。ちょっとした休憩ポイントです。湯治宿のような建物がありましたが、今は廃墟となっていました。でも付近に温泉は湧いているようで、硫黄の臭いが漂っています。辺りを見渡すと、崖の斜面のちょっとした窪みからもプクプクと泡が立っていました。

 リョウブ

 リョウブの葉もいい感じに色づいていますね。中ノ湯からは尾根筋の道を辿ります。ただ両側に高い木々が茂っているので、展望はほとんどききません。こういうときは足元の自然に目を向けてみましょう。

 ユキザサ

 ザクロのような輝き。ユキザサの実です。葉は枯れてしまって、熟した果実が朽ちそうな花柄の先にかろうじて残っていました。

 アキノキリンソウ

 次に目にとまったのはアキノキリンソウ。落ち葉の中でハッとするような黄色をしています。でも、この花ももうじき枯れてしまいますね。

 稜線の道

 稜線の道を黙々と登っていきます。この辺りから早くも下山してくる人とすれ違うようになりました。山頂は雲に包まれ眺望はなかったとのこと。やはり秋晴れの日の朝はそういうことなのでしょう。これからきっと良くなるはずです。

 櫛ヶ峰が

 一つ隣の尾根筋から櫛ヶ峰の先端部分がちょこん覗いています。あの尾根の向こう側は明治の噴火で崩壊しえぐり取られた部分。あと少し登って向こうの尾根筋と合流するあたりまで出ると、きっと眼下に望むことができるはずです。

 檜原湖

 木々の途切れたところから北側の景色が望めました。正面に見えるのは檜原湖。裏磐梯で最も大きな湖です。冬には全面凍結し、ワカサギの穴釣りなどでも有名なところです。今から17、8年前、友人とクロスカントリースキーをしに来て、湖の上を歩いたことや湖面のど真ん中でお湯を沸かしてカップラーメンを食べたことなど、懐かしく思い出されます。

 サラサドウダン

 ツツジ科の紅葉もなかなかのもの。一株の枝の中でのグラデーションが美しいですね。

 裏磐梯

 10時30分、前の尾根筋との合流点まで登って来ました。裏磐梯が一望です。ずいぶん雲が少なくなってきましたが、まだ正面奥の吾妻連峰の方には厚い雲がかかっています。
 それにしても凄まじい光景。おそらく目の前にあったであろう小磐梯が崩壊し、岩石の雪崩となって裏磐梯の村々に襲いかかったのです。現在湖のあるところは当時は谷筋で、いくつもの集落があったといいますから、明治の大噴火はわずかな期間でこの辺りの情景と人々の暮らしを一変させたということになります。

 再び林間へ

 北側を望むビューポイントで景色を楽しんだ後は、一転して尾根の南斜面を進みます。空も明るくなってきて、本当に気持ちのいい山歩き。こんな道を歩くのがなにより好きです。

 ツルリンドウ

 登山道脇の斜面にぶら下がっていたツルリンドウの実。赤い実にへばりついているのは花冠の名残。ツルリンドウの花は枯れた後も落ちずに残るのです。最後まで実を守ろうとしているのかもしれません。

 輝く紅葉

 おそらくカジカエデと思われる大ぶりの葉。陽光を浴びて輝いています。

 小休止

 根曲がりで横になったダケカンバ。ここで小休止です。あと少しでなだらかな平坦地に出るはず。お菓子でも食べてエネルギーを補給しておきましょう。

 猫魔ヶ岳

 谷筋に沿って展望の開けているところがありました。西の方角になります。正面に猫魔ヶ岳(左のピーク)があり、手前のなだらかな鞍部が登山口のあった八方台です。猫魔ヶ岳という名前はおどろおどろしいですが、こうやって見るとスキー場だらけですね。

 タチアザミ?

 ドライフラワーになりつつあるアザミ。何だろう、タチアザミでしょうか。こんな状態でも花には惹かれてしまいます。特に花の少ない時期ですから。

 燃える山肌

 11時20分、ふいになだらかな地形のところに出ました。地形図で見てみると、この辺りは小磐梯があった頃の大磐梯との鞍部にあたるところなのではないでしょうか。写真の稜線の向こうは切り立った断崖です。ここは櫛ヶ峰方面への分岐になっていて、その道は断崖の縁に沿って延びています。

 山頂

 振り返ると、これから登る山頂がのしかかるように迫ってきていました。雲もほとんどなくなっています。いいぞいいぞ。

 岩峰

 さっきの分岐から山頂に向けてしばらく登ると、眼下にモニュメントのような岩峰が。まるで空中に浮いているかのようです。櫛ヶ峰方面に向かう道はあの辺りを通っているはず。さすがにあの岩のてっぺんに登っている人はいませんね。

 弘法清水小屋

 11時30分、弘法清水小屋というところに到着しました。これから登る人、頂上から下りてきた人、大勢の人が休憩しています。yamanekoたちも休憩です。
 ここまで主に北の方角の展望のみで、南側、すなわち猪苗代湖方面の展望には接していません。これは山頂に登ってのお楽しみです。予報どおり秋晴れになってきました。さあ、どんなパノラマに出会えるのか。《後編に続く