雨巻山 〜年の瀬には静かな山へ〜


 

【栃木県 益子町 平成25年12月22日(日)】
 
 今年もいよいよ押し詰まってきました。年賀状、大掃除、あれこれとやるべきことはあるのですが、何をおいても今年の山歩き納めをしなければなりません。年末の三連休、気温は低そうですが概ね晴天の予報。雪山は大変なので、関東平野辺縁の低めの山を歩くことにしました。場所は栃木県南東部に位置する雨巻山。標高は533mで、この辺りでは最も標高の高い山です。アプローチは北側から。焼き物の里、益子から登ります。
 
                       
 
 午前7時、ドリーム号で新宿を出発。今日は冬至で、一年で最も昼間の短い日ですが、さすがにこの時間はもう明るいです。首都高川口線から東北道へ。グングンと北上し、栃木都賀JCTで北関東道に分岐します。真岡ICで一般道に下りて、そこから東に向かって更に小一時間ほど走ります。

 雨巻山

 益子町に入ると雨巻山が見えてきました。この辺りは、太古、鬼怒川が創り出した河岸段丘の縁に当たり、遠望を遮るものは何もありません。写真右手奥の山が雨巻山。いくつかの山並みの向こうに座しています。左手前の山は数年前に登った高館山です。

 駐車場

 田園地帯をしばらく走り、9時45分に登山者用の駐車場に到着しました。登山口は谷間を奥に入り込んだところにあり、道路はその先で行き止まり。民家もまばらです。駐車場は広く整備されていて、きれいに掃除されたトイレもありました。登山者を親切に迎えてくれている感じです。また、駐車場の周りには山小屋風の小洒落たピザハウスがあったり、釣り堀のある(朝から賑わっていました。)ドライブインがあったりと、登山客以外にも人がやって来るようです。寒々とした山里感との不思議なギャップがありました。


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 準備運動をして、ちょっと遅めの午前10時10分、スタートしました。今日のルートは、駐車場前の道を谷間の奥に向かって歩き、三登谷山登山口の標識で右手の山道に入ります。稜線に出てしばらく歩くと三登谷山。そこからはアップダウンを繰り返して徐々に高度を上げ、雨巻山の山頂を目指します。復路は、谷を挟んで反対側(東側)尾根道を辿ります。

 センダングサ

 道端にはセンダングサの実が。晩秋から冬にかけて野山ではよく見かける植物ですね。枯れ野をいい感じで演出していますが、服にくっつくなかなかの厄介者です。先端に3本槍に釣り針の「返し」のような逆向きの刺があって、これが服に引っかかるのです。動物の体などにもくっついて遠くまで運ばれていきます。

 霜

 よく晴れて冷え込んだせいでしょう。路傍の葉には霜が降りて、結晶のように成長していました。

 登山口

 舗装路を5分ほど歩くと右手に登山口が現れました。標識には「三登谷山登山口」と書かれていました。ここから林の中に入ります。

 はじめはヒノキの植林地。

 ヤブコウジ

 森の宝石、ヤブコウジの実です。朝日を受けてルビーのように輝いています。

 次第に森の中にも日が射してきました。いい雰囲気です。周囲の風景も落葉樹の雑木林へと変わってきました。黙々と登って暑くなったのか、妻は中に着ていたフリースを脱いで、リュックにくくりつけていました。まるで大荷物を背負っているようです。

 稜線へ

 10時35分、稜線に出ました。ここからはずっと尾根道になります。妻はいつの間にかアウターも脱いでいました。ちょっと休憩して止まるとすぐに汗が冷えるので、冬場の山歩きではこまめに着たり脱いだりして体温調節をすることが重要なんですよね。

 リョウブ

 歩いていると、妙にテカテカした木肌が。これはリョウブですね。リョウブは幹の表面の皮がむけやすく、その下は元々すべすべの木肌になっているのですが、ここはみんながこの幹をつかんで上り下りするのか、一段とテカテカになっていました。またちょうど握りやすい太さなんです。

 ツクバネ

 枯れ枝に羽根突きの羽根がたくさんぶら下がっています。これはその名もツクバネ。花の時期は藪に紛れて(花自体も緑色で)目立たないのですが、この時期には思わず写真を撮りたくなるほどよく目立っています。ちょっとした工芸品のようです。

 それにしても静かな山です。風もなく、たまに鳥の声がきこえるくらい。空間に動きが感じられないので、まるで時間の流れまでもが遅くゆっくりになったかのようです。

 三登谷山のピーク

 11時5分、三登谷山の山頂に到着しました。ベンチとテーブルがあったので、リュックを下ろして休憩です。

 北西方向

 ここからは西から北にかけての展望が開けていました。栃木県と茨城県の県境付近に連なる山々。高い山はなく、長年にわたって鬼怒川や那珂川、久慈川などに浸食されてきた低山の連なりが、遠く阿武隈山地の南端部にかけて続いています。写真の中央やや左にあるのが高舘山で、その向こう側の麓に益子の街並みがあるはずです。左奥の山々は那須連山になります。一方、中央やや右奥にあるピラミッド型の山は芳賀富士。その右肩遙か遠方には茨城県の最高峰、八溝山(1022m)が見えています。

 雨巻山

 振り返ると今日の目的地、雨巻山が望めました。まだ結構距離がありそうです。
 雨巻山の名前の由来は、一説によると、この山に雲がかかると雨が降るという観天望気からとのこと。雨の幕が山体を包み込むようにして隠してしまう、といった情景を表してのことでしょうか。

 三登谷山の山頂で5分ほど休憩してから、再び歩き始めます。

 谷をはさんで東側の稜線。雨巻山山頂からの帰りのルートはあちらの稜線を辿ります。

 ツツジの仲間。冬芽を膨らませ、もう来年の春の準備をしています。

 アップダウンを繰り返す山道。地味に足腰に応えます。

 分岐

 谷間に下りるいくつかの分岐のうちの一つ。標識に竹箒が立て掛けてあります。登山道整備のためのものだと思います。この山の登山道は地元の森林管理局が中心となって行われているようで、急傾斜地での登山道の崩壊であるとか、雨水による削り込みとかを、こまめな手入れによって防いでいる形跡をあちこちで見ることができました。頭が下がります。

 ミヤマシキミ

 色の少ない世界で生命感を感じさせるミヤマシキミの実。つやつやしていました。でも有毒です。

 ミヤマシキミ

 こっちはミヤマシキミの蕾。来年の夏に咲くための準備です。

 今年最後の山歩き。のんびりとした気分で一年を振り返ります。

 ひょっとして頂上か、と思わせておいて、さらに続くアップダウン。何度かそんなことがありました。

 だいぶ高いところまで登ってきたようです。妻もまだ余裕の様子。

 頁岩?

 その足元にはミルフィーユのような岩石が。露出している部分は風化が進んでいます。色は灰白色でやや薄緑色。あまり見かけない岩です。この辺りは、太古、海だったところがその後に隆起したところらしいので、頁岩など堆積岩の一種なのかもしれません。

 いよいよ山頂

 おお、あれは間違いなく山頂でしょう。何組かの登山客が休んでいるようです。

 

 12時15分、雨巻山の山頂に到着しました。写真は登ってきた方とは反対側、すなわち東側の景色です。若干木立に遮られていますが、遠く大洗方面の太平洋が望めます。

 雨巻山山頂

 山頂はこんな感じ。ベンチとテーブルがいくつかあって、季候のいい頃にはたくさんの人で賑わうのでしょう。今日は風はありませんが、じっとしているとすぐに冷えてきます。

 昼食

 昼食は、いまや定番となった十勝夕張弁当。牛肉の煮汁がご飯に染みてて美味いです。肉も軟らかいし。今回は東北自動車道の佐野SAで調達しました。

 展望台

 昼食後、山頂から南に延びる尾根を100mほど歩いて展望台に行ってみました。鉄骨製の無粋なものを想像していたのですが、行ってみると木製の見張り台のような姿をしていて、登るのが楽しくなるような展望台でした。

 南方向

 展望台からは南の方角が見渡せました。正面奥の山は筑波山。ここからは約20qほど離れています。その手前の山は加波山です。右手奥には広大な関東平野が。そして遙か遠くにやや不明瞭ながらも富士山も見えました。やはり別格の大きさの山です。

 下山開始

 再び山頂に戻ってきてからも、じっとしていると冷えるので、長々と休憩することなく山頂を後にしました。時刻は12時50分。復路は東側の尾根道を行きます。

 猪ころげ坂

 しばらく行くと「猪(しし)ころげ坂」という標識が。確かにその先からのぞき込むような急坂が始まっています。猟師に追われた猪が転げ落ちでもしたのでしょうか。

 イイギリ

 猪の二の舞にならないように注意しながら坂を下りきって、さらに山道を行きます。
 遠くの森の中にオレンジ色の実がたわわに実っていました。あれはイイギリの実でしょう。別名をナンテンギリ。確かにナンテンの実に似ています。

 ムラサキシキブ

 ムラサキシキブの実を見つけました。若干色が薄くなっているようですが、それでも枯れ色一色の山道を歩いてきたので、何か嬉しさを感じます。

 分岐

 午後2時、駐車場へと下りて行くルートとの分岐までやって来ました。すぐそこが御岳山の山頂です。その先は足尾山へと続きますが、yamanekoたちはここの分岐を左に折れて下っていきます。

 雨巻山からの復路も結構アップダウンがありました。やっぱり足腰にも疲労が溜まってきています。こんなときにケガをしやすいので注意して下りなければ。

 急な傾斜ではルートをジグザグにとって。積もった落ち葉も滑る原因になります。

 コアジサイ

 コアジサイの黄葉。黄葉は、気温低下や乾燥によって緑の色素が分解した結果、葉にもとからあった黄色の色素が目立つようになったもの。紅葉が赤の色素が作られることによって発色するのとは違うメカニズムなんですね。

 カワラタケ

 おお、これはカワラタケ。朽ちた切り株を覆い尽くす勢いです。

 道は谷筋に入り、なんか薄暗くなってきました。小さな流れを渡ります。

 駐車場

 谷を抜けると駐車場が見えてきました。時刻は2時35分です。滑ることもなく無事に下山することができました。

 満足

 写真の右奥から下りてきました。ここだけ見ると寂しげな感じですが、今回のコース全般によく手入れがされていて、人気の山だということがよく分かりました。歩き終えて妻も満足げです。
 
 今年ももうじき暮れようとしています。まずはどうにか健康でここまでこれたことに感謝です。来年も健康には気をつけなければ。そして今年もそうであったように、来年も野山歩きを通じて多くの感動に出会えればと思います。