月居山 〜名瀑を望む古城の山(前編)〜
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(前編) |
【茨城県 大子町 平成25年3月17日(日)】
3月に入って若干寒さが和らいできたでしょうか。突然初夏のような日になったかと思うとまた真冬に戻ったり、日々の寒暖の振れ幅は大きいですが、確実に春に近づいていっているようです。これが三寒四温ってやつですね。
さて、今回は花粉が大量に飛散する中、茨城県の月居山(つきおれさん)に行ってみることにしました。茨城県北部は遠いということもあってこれまであまり足を運んだことがないエリアでした。月居山は有名な袋田の滝(かつて日本の滝百選の人気投票で1位を取った)のすぐ脇にある山で、滝の成り立ちにも関係が深いとのこと。名前にも何かしら風情を感じるものがあります。
午前6時30分、ドリーム号で出発。首都高中央環状線から6号三郷線に入り、そのまま常磐道に接続。渋滞もなくスイスイと走って、北関東道とクロスする友部JCTを越え、水戸を過ぎて那珂ICで高速を下りました。そこからは国道118号線を北上。久慈川に沿って八溝山地に分け入っていきます。
月居山 |
東京を発って約3時間、左右の山並みが川筋に迫ってくるようになってからしばらくすると「袋田の滝 → 」の標識が現れました。これに促されて山側に道を逸れます。そして1qほど走ると今日の目的地、月居山が見えてきました。月居山は南北に頂をもつ双耳峰で、写真の右の方が後山、左が前山と呼ばれています。月居山としての山頂は後山のピークです。月居山の名は、この二つの峰の鞍部から月が昇る様子を「月居」と表現したことによるものだそうです。窪みに月が収まったように見えたからでしょうか。
町営駐車場 |
道沿いに町営の駐車場があったのでそこにドリーム号を停めました。広大な駐車場です。観光シーズンにはここが満杯になるんでしょうね。袋田の滝まではまだちょっと距離のある中途半端な立地なのですが、滝周辺の駐車場はみな有料らしいので、つまり民間の駐車場経営への配慮なんですかね。むしろ登山口には近いのでyamnekoにはこっちの方が好都合です。
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きょうのルートは、駐車場から袋田の滝の方に車道を歩き、滝川に架かる橋を渡ったところで畑の中の道に入ります。その先の道路を横断した辺りから山の中に。「七曲がり」という登山道を上ると旧道と呼ばれる山道に出ます。旧道からあらためて山道に入り、しばらく登ると双耳峰の鞍部に出るので、まずは後山に登ります。その後いったん鞍部に戻ったあと、今度は前山に登り返します。その後、袋田の滝に向かって下りて行って、最後はお土産やさんが並ぶ川沿いの車道を通って駐車場に戻ってくるというものです。
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午前10時、静かな駐車場を出発。しばらく歩いて橋を渡ったところで野辺の道へ。花粉のピークの時期なので、さすがに今日はマスク着用しました。それにしても人影がほとんどないですね。
オオイヌノフグリ |
視線を低くしてみるともう春満開。「生命の息吹」という言葉が頭に浮かびます。
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道路を横断して民家脇から山道に入っていきます。
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するとほどなく右手に登山口が。標識には「七曲がり」とあります。そこをその名のとおりジグザグに登っていきます。
テイカカズラ |
この時期、テイカカズラの葉も薄く柔らかそうです。常緑のつる性植物ですが、この時期に葉が生え替わるのでしょうか。
旧道 |
うっすらと汗をかいたころ、旧道に合流しました。舗装はされていますが落ち葉に覆われていて、車の往来がほとんどないことが分かります。この道は滝の下流側の集落と上流側の集落とを結ぶ道のようですが、今では幅の広い道が別に整備されているので、わざわざこの細い道を通る理由がないのだと思います。
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車の通らない静かな道。聞こえてくるのは鳥の声のみで、本当にのんびりと歩くことができました。遠くに見えているのが月居山の後山です。
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ダンコウバイ |
頭上に小さな黄色い花を付けた枝が張りだしています。むむ、これはダンコウバイ。ああ、今年も野山にダンコウバイが咲く季節がやって来たんですね。
分岐 |
旧道から離れて左手の山道に入っていきます。時刻は10時40分。写真の右奥に写っているのはトイレです。駐車場のトイレもそうでしたが、ここもきれいなトイレでした。どうやら町を挙げてきれいなトイレを整備しているようです。
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後山がグンと近づいてきました。木々に葉が繁り出すと見えなくなる景色です。
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山道の脇に地層が露出しています。斜めになっていますがこれは明らかに堆積岩。どうやら砂岩のようです。調べてみると、この辺りの地層は1500万年前の海底(もしくは湖底)に堆積したものとのこと。
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(あくまでもざっくりとしたイメージ) |
当時、日本列島は大陸から分離し、その間にできた大きな窪みに海が侵入してきて日本海ができあがった頃。北海道から東北地方までにあたる細長い陸地と、九州から東海地までにあたる細長い陸地が、ちょうど左右に扉が開くようにして移動してできたのだそうです。現在の茨城県辺りはちょうど列島が折れ曲がっているところで、浅い海になっていたと考えられています。やがてその辺りは火山活動などにより隆起して陸続きになったということです。
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それにしても誰一人出会う人がありません。登山道はこんな感じでいい雰囲気です。静かな山道を歩いて行きます。
ヤマイタチシダ(たぶん) |
法面からしなだれかかるように繁っていたシダ。あまりに色つやがいいので写真に撮っておきました。シダはどれも同じに見えてしまうのですが、よくよく見てみるとそれなりに特徴があるもの。図鑑と何度も見比べた結果、全体の形、葉の質感、小羽片のプクプク感などの特徴から、イタチシダの仲間、ヤマイタチシダだということに決定。
アオイスミレ |
おお、スミレが咲いています。これはアオイスミレ。春まだ浅い時期に咲くスミレの一つです。まさに早春の使者ですね。
カンスゲ |
日陰でもへっちゃらなカンスゲ。名前のとおり寒さに強いスゲです。今がちょうど花の時期です。
ユリワサビ |
これはユリワサビ。高さ10センチほどの小さな花で、アブラナの仲間です。この山道ではいくつかの花に出会いました。ここだけ春が早くやってきたのか?
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歩いてきた道を振り返るとこんな感じ。これぞ日本の野山、子どもの頃に見たことがあるような風景です。
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こういったマーブル模様の山道を歩くのもあとわずかですね。新緑の季節になると木々の葉で日射しが遮られ、森の中の道は薄暗くなりますから。
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11時10分、分岐に出ました。直進すると山腹を下って袋田の滝へ。右手前に折れて登ると月居山方向です。
鞍部 |
先ほどの分岐から登ること3分、月居山の前山と後山との鞍部に出ました。
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2万5千分の1地形図 | 実際の道 |
2万5千分の1の地形図では、先のほどの分岐は記載されておらず、鞍部から直接袋田の滝に下りる道が出ているように記載されていました。案内標識があるので迷うことはないと思いますが、分岐で「今どこにいるんだ???」とちょっと考えてしまいました。
月居観音堂 |
鞍部では小休止。左手の前山側を見上げると、木立の向こうに朱塗りのお堂が見えました。あれは月居観音堂。後でこの観音堂を経由して前山に向かうことになります。
後山へ |
小休止していると後山から5、6人のグループが下りてきました。今日初めて出会う登山者です。それをやり過ごしてからyamanekoたちも後山に向かいました。
カタクリ |
スプリング・エフェメラルの一つ、カタクリの葉です。さすがにまだ花芽すら出ていませんね。今、日光が地面にまで届くこの時期にたっぷりと光合成をして、これから花を咲かせるために必要な栄養を蓄えているのだと思います。
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ロープが垂らしてあるところが2箇所。でも決して危険な所ではなく、むしろ単調な上りの中でアクセントになって楽しかったです。
頂上か |
おっ、妻がヤッターのポーズをしているではないですか。ということはあそこが頂上か。
月居山山頂 |
やはりそうでしてた。時刻は11時30分。駐車場を出発してから1時間半。のんびり歩いての時間なので、普通の登山者なら1時間で到着でしょう。山頂は3段の平坦面で構成されていて、登山道からはその真ん中の段に登り着きます。ここには室町時代に常陸国の領主佐竹氏によって月居城が築かれていたとのこと。戦国時代の終わりとともに廃城となったらしく、3段の平坦面はその遺構だそうです。
ダンコウバイ |
山頂でもダンコウバイが迎えてくれました。よく似た花にアブラチャンというのがあり、これも同じクスノキ科の木です。もっとも分かりやすい相違点は花柄の有無。ダンコウバイは枝から直に花冠が出ていますが、アブラチャンには枝との間に1pくらいの花柄があります。あと全体的にダンコウバイの方が大きいですね。
さて、お昼までにはまだちょっと時間があるようです。ここでは小休止のみにして前山に向かいましょう。続きは後編で。
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