安達太良山 〜「二度あること」か「正直」か(後編)〜
![]() |
(後編) |
【福島県 二本松市 令和2年11月1日(日)】
過去2回、いずれも天候不良により登頂途中で下山を余儀なくされた安達太良山。満を持しての今回は「三度目の正直」となるか、それとも「二度ある事は三度ある」となるのか。まあいずれにしてもそんな大層な話ではありません。(前編はこちら)
![]() |
Kashmir 3D |
奥岳登山口から勢至平を目指して登ってきて2時間。ようやく開けた台地に到着しました。
ハクサンシャクナゲ |
これはここまで見かけなかったハクサンシャクナゲ。勢至平にはたくさんあるようです。もう来年にための芽が準備されていました。
分岐 |
しばらく行くと分岐が現れました。この道を直進するとやがて谷筋に下り、くろがね小屋に至ります。多くの人はそちらに向かうようですが、yamaneko達はここを左折して、勢至平の中を突っ切る形で山頂を目指していきます。これは前回と同じルート。
その分岐の手前にこんな岩があり、ちょっとした休憩スポットになっていました。なんでも溶岩が冷える過程で火山性ガスが抜けてできた穴だということです。火山性ガスが抜けた岩というと普通はスコリアのようなガサガサした不定形の岩を想像するのですが、この岩が丸っこいのは長い年月をかけて表面が磨耗してこんな姿になったのでしょうね。でも辺りに似たような岩は見当たりませんが、この岩だけ?
一休みしてから分岐を折れると、その先の道は結構荒れていました。前回も歩きにくい道だったことを今更ながらに思い出しましたが、浸食が進み困難度がグレードアップした感じです。
以前より道幅がより細くなったように感じたのは、両側の灌木が成長し、繁ってせり出してきたからでしょうか。
タカノツメ |
おお見事な黄色。タカノツメですね。特徴でもある三出複葉がサツマイモのような鮮やかな黄色になっています。タカノツメは落ち葉になると綿アメのような甘い匂いがするので、歩いていてもすぐに分かります。
アスヒカズラ |
地面にも面白いものはあります。恐竜時代の植物を高さ10cmに縮めたようなこの植物は、アスヒカズラ。ヒカゲノカズラ科のシダ植物です。地上を葛のように長く這う性質があり、葉がアスナロ(明日檜)の葉に似ているから明日檜葛という名前になったとか。アスナロカズラとは読まずに漢字のとおりアスヒカズラと読んだみたいです。
アカミノイヌツゲ |
この赤い実は? クロソヨゴかと思いましたが、生育地が違います(クロソヨゴは山梨県以西)。調べてみるとクロソヨゴの変種で、東北地方、中部地方の亜高山帯の岩場などに生えるアカミノイヌツゲであると判明しました。
矢筈森 |
黙々と進むことしばし、正面に矢筈森が見えました。特徴的な岩峰です。これからあの左肩を目指して登ることになります。
鉄山 |
更に視界が開けました。矢筈森より奥にある鉄山の威容も遮るものなく望めます。西日本生まれで、浸食の進んだ中国山地のなだらかな山容を見ながら育ったyamanekoとって、こういうゴツゴツした山は新鮮で、あらためて火山地帯に来たんだなと感じます。何しろ中国地方には火山は2箇所しかありません。yamanekoはそのうちの一つ三瓶山の近くで育ったのですが、その三瓶山ですら独立峰ながら女性的な山容でした。
荒れ気味の道にいい加減飽きてきた頃、休憩に適した小広い場所が現れました。やれやれ、ずっと両側から灌木に迫られていたのでホッとしました。ちょうどお昼前でもあり、ここで昼食をとることにしました。なんかボックス席のように岩に囲まれた平らなスペースがいくつもありますね。
ランチタイム |
昼食はカップ麺+ゆで卵。体が少し冷えてきていたので、暖かいというだけで美味しく感じました。
昼食に満足する妻。元気回復です。
福島平野 |
食後は風景を堪能。北東方向に福島平野が広がっていました。平坦地の中に島のように浮かぶ山があります。 信夫山というのだそうです。
12時25分、再スタートです。長く休みすぎるとかえって辛くなりますからね。
ナナカマド |
ナナカマドの実を拾いました。鮮やかな赤い色は、枝にあって辺りが雪景色になった後でもよく目立つでしょうね。山で冬を越す鳥たちにとってはありがたい食料でしょう。
やがて辺りに灌木はなくなり、荒涼とした風景になってきました。午後になって急速に雲が広がってきたことも荒涼感を増加させています。
篭山 |
いつの間にか篭山を横に見る高さまで登ってきていました。この辺りで標高1500mくらいです。
右手には矢筈森の山腹があり、そこを巻くように延びる登山道が見えます(写真中央)。この道はくろがね小屋から登ってくる道。やがて峰ノ辻で今yamanekoたちが登っている道と出会います。
振り返るとこんな感じ。右手の小山が篭山。すでに眼下です。左手に谷が見えますが、その中にくろがね小屋があります。
峰ノ辻 |
13時、峰ノ辻に到着しました。前回は悪天候のためここで撤退し、くろがね小屋に下って行ったのです。その時は完全に視界ゼロだったので、正面の稜線に安達太良山の溶岩ドーム(写真左)が見えることも分かりませんでした。これからあの稜線の右側に上がり、稜線を辿る形で山頂を目指します。
さあ稜線に向けて荒野を進みましょう。目指すは写真奥に見える矢筈森の左肩です。
矢筈森 |
そして、矢筈森の直下までやってきました。見上げると魔王かなんかが棲んでいそうな荒々しさです。
やはずがもり分岐 |
13時25分、ようやく稜線に到着しました。標識には「やはずがもり分岐」と書いてありました。登り始めから4時間半。テンションが上がります。
爆裂火口 |
そしてその稜線の向こう側にはこんなど迫力の風景が。火星か? いや、安達太良山の爆裂火口です。稜線の西側には東側とはまったく違った世界が広がっていたのです。
沼ノ平 |
火口部分をアップで。中央の丸い平坦なところは沼ノ平といい、付近から有毒ガスが噴出しているとのことで、そこに向かう道は通行止めだそうです。何年か前に数人が亡くなる事故がありました。
奥に見える森は裏磐梯で、湖は秋元湖です。磐梯山の噴火でできた湖ですね。更に遥か右奥には雪を頂いた飯豊連峰も望めました。
飯豊連峰 |
飯豊連峰は飯豊山を中心とした東北地方有数の山塊で、福島県と新潟県、山形県にまたがっています。ただ、飯豊山山頂は三県の接点にはなっておらず(三県の接点は三国岳)、接点から稜線上を数km行った先の新潟県と山形県との境に位置しているのですが、飯豊山山頂にある神社と会津側の人々の結びつきが強かったことから、境界を設定し直し、山頂付近とそこに至る稜線上の登山道のみ福島県とされた経緯があるそうです。地図を見ると三県の接点からひょろっと福島県の土地が伸びているというおかしなことになっています。
船明神山 |
火口壁左側の異形の山はその名も船明神山。確かに船型をしています。右手奥に見える三角の山影は磐梯山ですね。
尾瀬の山々 |
その磐梯山の左手をよーく見てみると、おお、最奥に尾瀬の燧ヶ岳と会津駒ヶ岳が見えました。更に両山の間にはかすかに至仏山の山影も。至仏山までの距離は約130km。ここから尾瀬の山々を見つけられたことにちょっと感動です。
那須連山 |
その更に左手、方角で言えば南南西ですが、遠く那須連山が望めました。その手前にはわずかに猪苗代湖の湖水も見えています。
稜線の先に |
さあ、安達太良山の山頂を目指して進みましょう。ここから見ると乳首というより烏帽子ですね。左手前の小ピークは牛の背と呼ばれていて、その右肩を巻いて行きます。この稜線は、風が強いときにはそれなりに危険なのだそうですが、今日はほぼ無風で助かりました。
安達太良山山頂 |
いよいよ山頂直下までやってきました。溶岩ドームへの登頂口はこの反対側。12年越しの登頂にワクワクしてきます。
溶岩ドーム直下に到着。荒涼感が半端ないです。
溶岩ドーム |
そして最終アタックへ。本当に溶岩がゴツゴツしています。
とっかかりはアルミの梯子。しっかり固定されていて、なんなく登れました。
そこからはルートがはっきりしていたので、特に危ないところはありませんでした。でも強風時や積雪時は要注意です。数mの滑落でも打ち所が悪ければアウトですから。
山頂 |
そしていよいよ安達太良山の山頂に到着です。ヤッター! 時刻は14時10分。登り始めて5時間ちょっとかかりました。
|
北側の眺望。ぱっくり穴が開いているのが分かりますね。さっきの爆裂火口です。なんとなく口内炎を連想してしまいました。
奥に見えるのは吾妻連峰ですね。山形県との県境の山々で、その向こうは米沢です。
磐梯山 |
こちらは西側です。安達太良山のお隣さんとも言える磐梯山。標高はあちらの方が100mちょっと高いですが、火山としての歴史は安達太良山の方が古いようです。
溶岩ドームの上はこのくらいの広さです。yamanekoたちの他には一組の夫婦(たぶん)がいたのみでした。
日差しもなく寒くなってきました。そろそろ下りましょう。
階段を下る妻。奥に見える山は、安達太良山塊の南端に位置する和尚山です。ここから見るとどっしりとした山です。
溶岩ドーム |
無事に溶岩ドームから帰還しました。 念願だった安達太良山の溶岩ドーム。これでサヨナラです。あばよ!(柳沢慎吾調)
さあ下山開始です。眼下に二本松市街地が見えていて、そこに向かって急降下していくような感じです。
眼下に薬師岳 |
滑りやすい岩の道に苦闘することしばし、丸っこい薬師岳が見えてきました。あそこの突端にゴンドラの駅があるのです。まだ結構な距離があります。
ゴンドラ山頂駅 |
そこからは足元に全集中しながら下山し、写真すら撮ることを忘れていました。
そうこうするうちゴンドラの駅に到着です。時刻は15時40分でした。山頂からは1時間半。足腰の関節がガキガキになって、ロボットみたいになっていました。
駅に入る階段の前に水道があり、そこで靴の泥をブラシで落としました。確かに登山道はぬかるみやすい感じだったので、雨上がりなどは乗り場が泥だらけになるでしょうね。
ゴンドラに乗ってようやく一息つけた感じでした。そしてあっという間に麓に到着。
駐車場に向かうと半分以上は空いていました。とりあえず整理体操です。「ぐあっ」とか「つうっ」とか小さく悲鳴をあげながら体をほぐしました。無事に下山できて何よりです。
そして安達太良山(残念ながら駐車場からは見えない)にお礼を言ってドリーム号IIIに乗り込みました。
今回の野山歩き、三度目の正直となり念願の山頂に立つことができました。とても満足です。
駐車場を後にしたら安達太良山の中腹にある岳温泉へ。そこで温泉にゆっくり浸かり本格的に体をほぐしたのでした。
![]() ![]() |