安達太良山 〜「二度あること」か「正直」か(前編)〜
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(前編) |
【福島県 二本松市 令和2年11月1日(日)】
東北地方を南北に貫く脊梁、「奥羽山脈」。全長500kmにも及ぶその山並みの南端近くに安達太良山があります。近くには吾妻山や磐梯山などもあり、これらを含めた福島県を代表する山岳の一つです。
今回は、この安達太良山の登頂にチャレンジ。実はこの山はyamanekoにとって曰く因縁のある山で、これまでに2回(平成19年、平成24年)チャレンジし、2回とも途中で登頂を断念したという残念な経験があるのです。
過去2回は紅葉のピークを目指していずれも10月21日に登山。今回はそれより10日ほど後の登山になるので、紅葉のピークはもう過ぎているかもしれません。
午前4時、ドリーム号Vで出発。辺りはまだ真っ暗です。
当初、この日はのんびりと昼過ぎに出発し、夕方に現地に入って一泊してから翌日登山するつもりでいたのですが、予報が変わり天気の崩れが1日早まりそうだったので、先に登って下山後温泉で一泊することに急遽変更したのです。なのでこんな早朝の出発となってしまいました。全走行距離は約320kmです。
圏央道から東北道に入って二本松ICで下道に。早朝出発のおかげで渋滞にはまることもありませんでした。そしてそこから登山口までの道沿いがまさに紅葉の盛りでした。
駐車場 |
8時過ぎ、あだたら高原スキー場の駐車場に到着。早くも7割方埋まっていました。
この辺りは奥岳と呼ばれ、標高は約950m。なだらかな地形となっていますが、麓から見ると尾根の張り出しが独立したピークのように見えるのでしょう。
車の前でまずは準備体操。その後、装備を整えて登山口に向かいました。晴天下の野山歩き。ワクワクしてきます。
薬師岳 |
駐車場の先には左手にゴンドラの 乗り場があります。そのゴンドラのケーブルは正面の薬師岳の山頂に向かって延びていて、安達太良山の山頂へのピストンをする人の多くはこれを利用すると思います。薬師岳はここから見ると独立峰のように見えますが、その奥の安達太良山から見下ろすと、尾根の張り出しであることが分かります。ちょうどここが尾根筋の張り出しで奥岳と呼ばれているのと一緒ですね。
登山道方面 |
yamaneko達は往路ではゴンドラは利用せず、右手のゲレンデ脇から回り込むようなルートで登っていきます。
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Kashmir 3D |
今日のルートは、反時計回り。まず登山口から北側の斜面を登り勢至平に上がります。そこから安達太良山の北側稜線に向かって高度を上げ、稜線に出て眼下に爆裂火口が現れたら南下し、山頂を目指します。下山は薬師岳に向かいそこからゴンドラで下りてくるというものです。
奥岳の湯 |
登山道脇に奥岳温泉の入浴施設があり、そこの紅葉が見事だったので、手始めにここの写真を撮っておきました。まだ時間が早いので、施設は営業していませんでした。
オカトラノオ |
8時55分、登山道に入ってきました。これはオカトラノオの果穂ですね。ドライフラワー化しています。
ウワミズザクラ |
見上げると鮮やかな色合いの黄葉が。これはウワミズザクラでしょうか。
登山道はいい雰囲気です。この道はこの奥の黒鉄小屋まで続いていて、昔は馬車も通ったということもあり、登山道とはいえそこそこ道幅もあります。
ハウチワカエデ |
和の風情を感じさせるハウチワカエデの紅葉。背景の青空に映えていますね。
マイヅルソウ |
足下に目を移すと、小さな宝石が。この深紅の実はマイヅルソウのもの。ルビーのような色合いです。
落ち葉を踏みしめながら歩く。しみじみと幸せを感じますな。
妻は早くもアウターを脱いでリュックに括り付けています。今日は風もなく、日差しの下ではポカポカの状況です。
コシアブラ |
この透明感のある淡い黄色の葉はコシアブラですね。春、新緑の葉は天ぷらで美味しくいただけます。タラノメといいウドといい、このコシアブラといい、ウコギ科の植物には山菜として活用されるものが多々あります。
クマノミズキ |
紅葉にばかり目が行きがちですが、葉を落とした枝も捨てたものではありません。このサンゴのようなものはクマノミズキの果序枝。何でわざわざこの部分が色づくのでしょうか。果実自体は黒く熟すので枝の方で目立って鳥に食べられようとする作戦でしょうか。ちなみに、クマノとは三重県の熊野地方のことで、熊野に生えるミズキということです。
静かな山の道。今年もいろんなことがあったなあ、としみじみ思い歩く、にはまだ少し早いです。
コブシ |
見上げるとオレンジ色の天蓋が。これはコブシでしょうか。
薬師岳分岐 |
9時15分、分岐が現れました。左に折れると薬師岳の山頂に直登していく道です。12年前、初めて安達太良山に来た時にはこのルートで登りました。今回は前回(7年前)と同様にここは直進し、勢至平方面に向かいます。
オオカメノキ |
この黒熟した実はオオカメノキのもの。枝の先端にあるには冬芽(葉芽)です。季節は晩秋。花こそありませんが面白いものはいろいろあります。
烏川 |
しばらく行くと小さな渓流がありました。これは安達太良山山頂直下から流れ出している烏川です。下流で阿武隈川と合流し、福島平野を北上して宮城県に入ってから太平洋に注ぐことになるはずです。いったい何日間くらいで下りきるのでしょうか。
魚はいないかと橋の上から覗き込むの図。腰が引けています。流れは清らかで、何かいたようでした。
まるで新緑? |
これはまた新緑のような色合いですね。何でしょうか。この一株だけが目立っていました。
9時30分、また分岐が現れました。馬車道は左手。右は細く急傾斜になっています。この先馬車道はジグザグに折れながら距離をかけて標高を上げていくのですが、右の小道はそれをときどき横切ったりかすめたりしながらショートカットする直登の登山道です。yamaneko達はここはやはり馬車道へ。
飴玉サイズのキノコ、ホコリタケです。小枝でトントンと叩くと、中央の口から胞子をポッポッと噴き出します。
まるで用水路のような登山道。くろがね小屋への物資搬入もこの道なら四駆を使えば簡単そうです。
イロハモミジ |
鮮やかなレモンイエローのイロハモミジ。糖分不足とか何かの事情で赤い色素(アントシアニン)が生成されなかったのでしょうか。
イロハモミジ |
でも、黄色いモミジも新鮮でいいですね。
頭上の木々が疎らになってきたことから、標高が高くなってきたことがわかります。行き交う人もほとんどなく、静かな野山歩きです。
燃え立つような紅葉。常緑樹の中で自ら発光しているかのようです。この木の下で休憩をとって、あんパンでエネルギー補給をしました。
チゴユリ |
これはチゴユリの花。草本もこういう風に黄葉するんですよね。
カラマツ |
陽当たりのよいところにカラマツがありました。この木は針葉樹には珍しく黄葉し落葉します。
カラマツはスギやヒノキを植林する際に防寒対策に混植することがあったそうですが、ここのはちょっと小ぶりで、周囲に同じカラマツがないことからすると、少なくとも計画的に植えられたものではないようです。
イワカガミ |
イワカガミの葉。テカテカとした光沢のあるのが特徴です。この後暗紫色になりますが、これも紅葉の一種なんでしょうね。
なんども折り返しながら登っていきます。こんな道を歩いていると、日頃の面倒くさいことなど完全に忘れてしまいます。意識のクリーニングですね。
ドウダンツツジ |
これはドウダンツツジでは。本来燃えるような深紅に紅葉するのですが、陽当たりが関係しているのか、黄葉しています。それともこれらから赤くなるのか。
薬師岳 |
10時5分、薬師岳が見通せました。ゴンドラの山頂駅の駅舎が見えます。山麓駅からわずか数分であの稜線に立てるのですから、機械文明ってすごいです。
西から薄い雲が広がってきました。天気予報どおりです。まあ、今日は雨は降らないでしょうが。
カマツカ |
カマツカの黄葉。鮮やかです。その実にはほのかにリンゴのような味わいが。まあ遠縁とはいえ同じバラ科ですから。
カマツカはyamanekoにとって愛着のある木で、それはきっと自然観察を始めて間もない頃に出会った印象深い木だからだと思います。
喧噪とは無縁の空間。ゴンドラで登っていたならこういう雰囲気は味わえなかったでしょうね(体力的にはゴンドラに頼りたいのですが(笑))。
ツルリンドウ |
ツルリンドウの実。実の上(基部)の長い萼のようなものは残存している花冠です。ツルリンドウでは花冠が枯れてもなお脱落せずに残っているのです。あと、果実の先端に花柱がちょんと残るのも特徴です。
完全に頭上が開けました。こうなると勢至平まではあとわずかです。
ダケカンバ |
ダケカンバの白い幹。背景と相まって急にひんやりとした景色になりました。
ここまで直登の登山道と何回か出会い分かれてきましたが、ここが最後の接点、すなわち合流点です。
ナナカマド |
ナナカマド(手前)の実が赤く色付いていました。ダケカンバといいナナカマドといい、高山型の樹木が多くなってきました。
ナナカマド |
ナナカマドの実です。これを好む鳥は多いようです。雪の季節の貴重な栄養源なんでしょうね。ナナカマドの材は堅く、七回竈でくべても灰にならないということで名付けられたようです。
勢至平の縁までやって来ました。眺望がひらけています。
二本松市遠望 |
東側には二本松市の盆地が見下ろせました。今朝、東北道から下りたところにある町です。二本松市は由緒ある城下町だそうで、有名な酒蔵なども何件かあるそうです。これまでもインターを下りたらすぐに安達太良山に登っていたので、町の方には行ったことがありませんでした。
鉄山 |
10時45分、勢至平に出ました。いきなり目に入ってきたのは鉄山の偉容。鉄山はここから2kmほど先にある大きな山で、テーブルマウンテンみたいです。
カラマツ |
カラマツの森。肉眼ではもっと鮮やかな黄色だったような気がするのですか。
勢至「平」とはいえ、じんわりと上りになっています。地味にこたえますね。
安達太良山山頂 |
左手に安達太良山の山頂である溶岩ドーム見えました。その形状から安達太良山は乳首山とも呼ばれているそうです。右にあるなだらかな姿の山は篭山という、勢至平奥にある独立した小峰で、安達太良山山頂よりかなり手前に位置しています。
さあ、これからが安達太良山登山の核心部。過去2回のリベンジなるか。続きは後編で。
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