夜叉神峠・高谷山 〜白峰展望の尾根へ(前編)〜


 

 (前編)

【山梨県 南アルプス市 令和2年9月22日(火)】
 
 9月も半ば。少しずつ秋らしくなってきました。そして今日は秋分の日です。
 どこか季節の移り変わりを感じられるところで野山歩きができれば、とガイドブックをめくっていたところ、山梨県の夜叉神峠のページが目にとまりました。「夜叉」で「神」でなにやら曰くありげな名前です。峠から高谷山というピークにも行けそうなので、今回はここに決定。ただ、なにしろ四連休の最終日のこと。帰りの大渋滞は覚悟ですな。
 
                       
 
 午前5時30分、ドリーム号Vで出発。最寄りのコンビニで食料を買い込んで、高速道路に上がりました。中央道を西進すること暫し、笹子トンネルを抜けて甲府盆地に入り、甲府昭和ICで一般道へ下りました。後は県道20号線を走って御勅使川(みだいがわ)の谷筋に分け入り、芦安地区に向かいます。目指す夜叉神峠への登山口は、そこから標高差にして一気に750mほど上がったところにあります。 芦安地区から先は、バスも通う道ではあるのですが、くねくね道で離合も難しいほどの道幅。幸い早朝だったおかげで、10kmほどの山道の間対向車は1台もありませんでした。

 駐車場

 8時20分、夜叉神峠への登山口に到着しました。ここには道路沿いに100台程度の駐車場があり、また、宿泊ができる夜叉神ヒュッテもあります。鳳凰三山に向かう登山者はここに前泊して早朝に出立するという登山のベース的場所です。



 ちなみに、この道はこの先でトンネルをくぐり、南アルプスの懐深く白鳳渓谷の山襞を縫うように広河原へと続いています。広河原は北岳などへの登山ベースです。 毎年、6月から11月まではこの先はマイカー規制がされ、路線バスのみが運行しているのだそうですが、今年は新型コロナウイルスの影響でそのバスも運行せず、ここで通行止めになっていました。

 Kashmir3D

 今日のコースは、ここ夜叉神の駐車場から登り始め、山腹の森を登って夜叉神峠へ。峠に出たら稜線を南に辿り高谷山を目指します。登頂後は引き返してそのまま峠を過ぎ、夜叉神小屋で眺望を楽しんでから下山します。

 登山口

 装備を整え、準備体操をして8時30分、出発です。登山口の階段を上がるとすぐに東屋があり、そこで登山届けを書いてから登り始めました。



 すぐに注意書きが現れました。新型コロナ対策として山小屋でのマナーなどについて告知がされていました。今年は山小屋も経営が大変でしょうね。

 セキヤノアキチョウジ

 今日最初に出会った花はセキヤノアキチョウジ。久しぶりです。春に咲くチョウジソウとは色こそ似ていますが、形は全然違いますね。



 空気がひんやりとしていて気持ちいい。秋ですね。



 岩の上に繁っているのはコケの仲間ですね。妖精の世界みたいです。



 この辺りは水源涵養保安林に指定されていて、よく手入れされています。おかげで森の中が明るいです。

 カジカエデ

 カジカエデが庇状に張り出しています。このカエデは標高400mから1300mくらいのところで生育する種で、低地の森では見かけないカエデです。ちなみに、名前の由来はカジノキ(クワ科)に葉が似るからだとか。



 道は大きなジグザグを描きながら標高を上げていきます。木漏れ日の下、気持ちいい山歩きです。

 キバナアキギリ

 高さ10cmほどの小さなキバナアキギリ。通常は50cm程度になり、花は穂状にたくさん付きます。この花は訪れる虫に花粉を付ける絶妙の仕掛けを持っています。

 ウバユリ

 花期が終わり実ができているウバユリ。ただ、実が切られて半分になっています。切り口を見ると動物がかじった感じではありません。誰かが切ったのかもしれませんが、おかげで中の様子はよく分かります。翼果がびっしり詰まっていますね。



 朝の光が差し込んで清々しい気持ちになります。そろそろ息は荒くなってきていますが。

 ミヤマママコナ

 久しぶりにミヤマママコナに出会いました。舌を噛みそうな名前ですね。ママコナのママコは飯子と書き、ご飯粒のこと。花冠の中にご飯粒のような白い膨らみが2つあるのが分かりますね。



 倒木に生えるキノコ。ナメコみたい。いろんなものが出てきて飽きませんな。

 山親父

 コナラとかクヌギとか薪炭材として利用価値のあるものは何十年も伐採と再生を繰り返し、活用します。結果節くれ立ってゴツゴツした形状になったものを「山親父」(やまおやじ)というのですが、このごつごつのハウチワカエデも山親父なのか? カエデを材として利用するというのをあまり聞いたことはないのですが。



 歩き始めて30分、まだまだ元気です。

 タニソバ

 低地でも見かけるタニソバ。花は米粒くらい小さいです。名前の由来は、谷間のような湿ったところに生えるソバに似た植物、ということです。ソバと同じタデ科ですからね。



 小さな祠がありました。今日一日、無事に過ごすことができるようお祈りしておきました。



 これはヤマシロギクか。少し傷んでいます。



 この辺りで登り始めて50分。休憩+あんパンでエネルギーチャージしました。 

 ダケカンバ

 でっかいダケカンバがありました。存在感ありまくりで、精霊くらいは棲んでいそうな感じでした。

 ヒイロチャワンタケ?

 これはヒイロチャワンタケ、だと思うような気がします。(自信なし)

 ミヤマタニソバ

 さっきタニソバを見かけましたが、こちらはミヤマタニソバ。葉はゲイラカイト(!)みたいな形をしています。花弁のように見えるのは萼片という、よくあるパターン。



 登山口から標高にして200mほど上がってきました。斜面を見上げると一面のヤマドリゼンマイ。敷き詰めたみたいです。



 静かな山道を登っていきます。



 「五本松」とプレートが掲げられたカラマツの巨木がありました。確かに根元から5本に分かれています。



 見上げるとこんな感じ。高さは30mくらいはありそうでした。

 ゴイシシジミ

 黒い斑紋を碁石に見立てたゴイシシジミ。ササ類に付くアブラムシを食べて育つとのことで、まさにササの葉裏にいました。大きさは100円玉くらいです。

 ホソエノアザミ

 ちょっと干からび気味なアザミ。かなりトゲトゲしていますね。葉や総苞片の様子からホソエノアザミということで、どうでしょうか。



 「H28保改No道16」 何の標識だろう。きっと登山道の改修の記録でしょうね。野菊が墓標っぽくしていますが。

 イヌヤマハッカ

 イヌヤマハッカの小さな花。長さ1cmに満たない唇形花で、上唇は反り返り、下唇は舟形になっています。



 苔むした岩にオレンジ色のキノコ。ほのぼのとしています。
 
 さて、だんだん峠も近くなってきました。もう一汗で到着します。どんな景色が待っているでしょうか。(後編に続く