八菅山・鳶尾山 〜相模野台地一望の山(前編)〜


 

 (前編)

【神奈川県 愛川町・厚木市 平成29年12月10日(日)】
 
 早いもので今年ももう12月。歳を取ると1年が早く感じるということをよく聞きますが、これは「生きてきた長さ」分の「1年の長さ」という分数の計算で説明できる感覚なのだそうです(ジャネーの法則)。ただ、単純に「量」の話だけでなく「質」も関係しているとも。すなわち、歳を重ねて酸いも甘いも噛み分けてくると、初めての経験とか心を奪われるような出来事とかは少なくなり、1年のうち記憶に残るようなことがそうそうないということに。結局、1年を振り返ったときに記憶以外のスカスカの部分をギュッと縮めて短く感じるのだとか。そう言われればなるほどとも思えます。これはもっと遊んで思い出をたくさん作れということでしょうか。
 ということなので、家の用事もうっちゃって山に行くことにしました。場所は相模川の対岸の鳶尾山(235m)。近場の山でのんびりしたいと思います。
 
                       
 
 8時50分、ドリーム号で出発。国道129号線を南下し、相模野台地の河岸段丘を最下段まで下って相模川を渡ったところで対岸の河岸段丘に上がり、内陸中津工業団地の中を突っ切って、今度は中津川を渡ります。



 多摩丘陵の西側には相模川の堆積と浸食の作用で作られた相模野台地が広がっていて、その左岸側には数段の河岸段丘が発達しています。右岸側にも段丘の平坦面があり、鳶尾山を含む山並みとの間を中津川が穿っています。

八菅山いこいの森駐車場

 9時40分。野山歩きのベースとなる「八菅山憩いの森」の駐車場に到着しました。ここは八菅山の山腹にある八菅神社の隣りにあり、神社を訪れる人も利用するようです。そこにドリーム号を停め、まずは来た道を歩いて戻ります。八菅橋のたもとまで下って中津川を渡り、工業団地の段丘の縁まで。

 八菅橋より

 中津川に架かる橋の上から段丘崖を望む(あの崖の向こうに工業団地が広がっています。)。河床からの比高は40mほど。ここからさっき車で下ってきた坂道を歩いて登ります。



 なぜそんなことをするかというと、この風景を眺めたかったから。段丘の縁に立って、今日歩く山並みを見渡したかったのです。間には中津川が削った低地が広がっていて、広々とした風景です。車を停めた八菅神社が山の中腹にあることがよく分かります。



 山並みの奥には丹沢山地の前衛、経ヶ岳(633m)や、更にその奥には丹沢の盟主、蛭ヶ岳(1673m)を望むことができました。


 Kashmir 3D

 今日のコースは、ここから再び駐車場に戻って、あらためて八菅神社に参拝。そこから八菅山に向かいます。引き返して途中から谷に下り、今度は鳶尾山を目指して登り返し、ピークを踏んだ後はその先にある展望台まで稜線を歩いて、駐車場に戻ってくるというものです。ざっくり言うと、谷を挟んだ南北二つの稜線を歩いて、また谷のところにある駐車場に帰ってくるというものです。

 八菅神社

 10時5分、再び八菅神社に戻ってきました。参道の階段を上ります。ここからが実質的にスタートです。

 ケヤキ

 参道には大きなケヤキが。脇に「ふるさとの木」という銘板が立っていて、それによると高さ21m、目通り3.4m、樹齢は推定280年だそうです。



 地味にしんどい参道。なんとなく由緒の正しそうな石段です。

 クロガネモチ

 こちらはクロガネモチの巨木。高さ20.5m、目通り2.3m、樹齢は推定250年以上とのこと。

 八菅神社

 実はこの八菅神社、中世から続く修験道の霊場として重要な場所だったのだそう。江戸時代まではかなり大勢の修験者がこの辺りに逗留し、修行をしていたそうです。明治になって廃仏毀釈により神道と仏教が分離された際に、修験道は解体され(修験道は古神道と仏教が習合した日本独自の宗教のなで)、その後は静かな村の神社となったとのことです。



 社殿の左手に山頂に向かう道がありました。

 マメヅタ

 ツタという名が付いていますが、シダの仲間です。丸いのは栄養葉。

 ヤブムラサキ

 ヤブムラサキは全体に軟毛に覆われていて、葉を触るとベルベットのような感触です。花柄や萼も同様。ムラサキシキブとの相違点です。

 稜線の道

 八菅神社の裏手に上るとすぐに稜線の道になりました。この辺り一帯が「八菅ふれあいの森」として整備されていて、道の脇にフィールドアスレチック的な木製の遊具がいくつか設置されていました。

 コナラ

 関東平野南部の低山もそろそろ紅葉は終わりのようです。

 梵天塚

 梵天塚。梵天とは修験道で祈祷に用いる幣束のことだそう。この場所に梵天を立てて修行をしたのだろうと解説板にはありました。



 明るい稜線の道を行きます。八菅山は山容がなだらかなためピークははっきりしません。まだ少し坂が上っているので、山頂はこの先でしょう。

 コゴメウツギ

 コゴメウツギの黄葉は和テイスト。鮮やかな黄色にならないところが良いです。

 展望台

 展望台がありました。さっそく上ってみましょう。



 地面からの高さは5mくらいか。それでも眺めは良さそうです。



 おお、相模野台地を一望です。画角的には正面が町田方面、左端が橋本方面、右端は海老名方面になります。

 東屋

 展望台の脇には東屋などもあり、子供連れの若い夫婦がお弁当を広げていました。



 ひとしきり眺望を楽しんだ後、再び稜線を歩きます。

 クロモジ

 クロモジの黄葉は、コゴメウツギのものよりちょっと明るいイエロー。

 折り返し

 地図の等高線を確認しながら歩いていて、おそらくこの付近が八菅山の山頂だろうというところがあったので、そこで引き返すことにしました。このまままっすぐ行くとゴルフ場に至ります。

 谷筋へ

 先ほどの梵天塚のところまで引き返してきて、そこから右手の谷に下っていきます。スタート地点の駐車場まで戻ってから鳶尾山を目指さなくても、ここからショートカットできるのです。



 谷への道は湿り気が多いからか紅葉も若干鮮やかです。



 急な坂を下っていきます。木漏れ日を浴びて気持ちの良い野山歩きになりました。

 トンボ池

 しばらく行くと谷筋に下りて来ました。水棲生物などを観察できる場所のようで、ここに生息する生き物についての解説板が設置されていました。

 芝生広場

 ドリーム号を停めた駐車場の前の道をどんどん奥に進んでいくとここに至るようです。車道としてはここで行き止まり。芝生広場は春の暖かい頃などは敷物とお弁当持参で来るとのんびりできそうです。

 あおぞら館

 芝生広場の横には「あおぞら館」という建物がありました。中に入ってみると、ここの自然を紹介するパネル展示がしてありました。無人ですがきれいに保たれていて、どうやら日に1回くらい管理のためにどなたかがやって来るようでした。地元に愛されている場所であることがよく分かりました。

 大沢橋

 谷に沿って道を下ります。すぐに大沢橋という橋が現れました。道なりに左手に向かうと駐車場に至りますが、ここは橋を渡って、右手の坂道を上ります。

 ヒヨドリジョウゴ

 もうすっかり朽ちてしまったヒヨドリジョウゴ。さすがに谷筋はひんやりとしていて、冬枯れの侘びしさが感じられます。

 フユイチゴ

 でも日向には小さな実りも。これはフユイチゴの実ですね。



 この道は峠を越えて向こう側に広がる団地に続いています。こんな寂しげな道ですが、ピザの宅配のスクーターがyamanekoを追い越していきました。



 じんわりと高度を上げていきます。初冬の白味がかった陽射しのおかげもあって、うっすらと汗ばむほどです。
 時刻は11時30分。さて、これから鳶尾峠で稜線の道に入り、鳶尾山の山頂を目指します。(後編へ続く)