大和葛城山 〜晩秋の幸せ野山歩き(前編)〜


 

 (前編)

【大阪府 千早赤阪村・奈良県 御所市 平成30年11月18日(日)】
 
 秋も深まり、朝夕冷え込む日が多くなってきました。通勤時、停めてある車のボンネットを細かい露が覆い、陽に輝く様子が綺麗です。この頃になると平地でも紅葉が始まります。大阪近郊の山では低山とはいえそろそろラストチャンスかもしれません。そこで今回は金剛山地の北部にある葛城山に行ってみることにしました。 もっと南、和歌山県との境にある葛城山(9月に登った)と区別するため、こちらの方は大和葛城山と、あっちの方は和泉葛城山と呼び分けられています。(和泉葛城山はこちら
 
                       
 
 前日の天気予報では絶好の山日和。ワクワクしながら午前7時前に家を出ました。藤井寺駅から近鉄南大阪線、長野線に乗り、富田林駅で下車。そこから金剛バスに乗り換えて、水越峠に向かいました。



 午前9時、峠の数百m手間にある終点に到着。写真のとおり両側から山が迫っています。ここのかなり手前には若干の駐車場もありましたが満杯で、ここまでの道の脇に延々と駐車されていました。人気の山なのでしょう。もっとも水越峠からは反対の金剛山にもアプローチできるので、みんなが大和葛城山に向かっているわけではないと思います。更に、金剛山地の主稜線にはダイヤモンドトレイルという縦走路が通っているので、それ目当てという人もいるでしょう。

 Kashmir 3D

 今日のルートは、バス停から水越峠まで車道を歩き、そこから北側に延びる山道へ。急登を登りきると傾斜は和らぎ、その先に大和葛城山の山頂があります。下山は奈良県側へ。葛城山ロープウェイに並行する形で尾根や谷を下り、ロープウェイの駅からはバスで近鉄の御所駅へ。そこからは御所線、南大阪線を乗り継いで藤井寺駅に戻ってきます。

 バス終点

 バスの終点は折り返し回転用の広場になっていました。そこから上、峠に向かって道は続いていますが、回転場の手前に車止めが置かれていて、一般車両の進入はここまでとになっていました。
 まずは入念に準備体操です。特に両足の外側の筋をよく伸ばしておかないと、膝に激痛が走る腸脛靭帯炎になりがちなのです。この痛みは膝の外側から五寸釘を打ち込んだような痛みが走るというもので、いったん発症すると対策はただ動かさないということだけ。往々にして下山時に発症するので、動かさないわけにはいきません。上り坂や平坦地では痛まないので不思議なのですが。



 9時10分、スタート。しばらくは峠のピークを目指して舗装路を歩きます。 この辺りは谷のどん詰まりでまだ朝日が届いていないので、空気がシンと冷えています。

 水越峠

 5分ほどで水越峠に到着しました。道はここで完全に通行止め。どうやら台風21号の被害のためのようでした。もっとも奈良県側へ行くにはかなり手前にトンネルがあって皆そちらを通るので、そもそも車でこの峠を越えるということは以前からほとんどなかったのだと思います。復旧工事にも着手している様子がなかったことからも、緊急度は低いと判断されているのでしょう。

 登山口

 道の左手が登山口。いきなりの急登です。登山道脇を山水がどうどうと流れ下っていました。



 木漏れ日がまだら模様になって分かりにくいですが、針葉樹林の中を登っていきます。

 シマカンギク

 キク三種。急登に息を切らしつもカメラに収めます。黄色いのはシマカンギク。漢字では「島寒菊」ですが、沿岸部では見られず、名が生態にそぐわないことから別名のアブラギクの方が通りが良かったりします。ちなみになぜ油菊かというと、昔薬用に用いるため花を油に漬けたことによるのだとか。

 ヒメジョオン?

 キク科シオン属のもののような外形をしていますが、何なのかよく分かりませんでした。頭花の大きさは直径2cm程度で、とにかく舌状花の数が多い(50個以上)。ヤマジノギク? ノコンギク? いずれも似ているようで違います。まさかこの季節にヒメジョオンじゃないよなと思いつつ、後日有識者に聞いてみたところ、ヒメジョオンなら可能性はあるとのこと。本来は春の花なんですが。

 シロヨメナ

 これはシロヨメナでしょう。キク科シオン属の白いキクはどれもよく似ていて迷いますが、頭花の横にある葉を決め手にしました。そもそもシロヨメナの分布の広さと個体数の多さは属中群を抜いているのだとか。どちらかというと里よりも山に多いそうです。



 急な斜面に切ってある階段をふーふー言いながら登ります。振り返ると狭い谷の反対側に金剛山がその姿をのぞかせていました。金剛山地の盟主です。



 急登が終わると山腹をトラバース気味に高度を上げていきます。

 ダンコウバイ

 この黄葉はダンコウバイですね。一日のうち日照時間が短いのでしょう。だいぶん葉の色が抜けてきてはいますが、まだ青い葉もあります。



 いい感じの山道です。こう見ると危なそうですが、実際にはそうでもありません。

 ダイヤモンドトレイル

 ダイヤモンドトレイルの標識。
 このトレイルはまさに金剛山地を縦走するトレイルで(ダイヤモンド=金剛)、北は奈良県香芝市の屯鶴峰から南は大阪府和泉市の槙尾山まで、総延長約45kmもあります。人気のトレイルで、中にはこれを一日で走り抜ける猛者もいるそうです。



 黄葉するコナラ。青空を背景に輝いています。



 水越峠から一気に150mくらい標高を上げた後、勾配が少し緩くなってきました。ホッと一息です。



 背中に朝陽を浴びる形で登っていきます。汗が出てくるにつけアウターを1枚ずつ脱いでいきます。こうやってこまめに体温調節をすることは山登りでは重要なこと。手間を惜しんではいけませんね。



 スタートから45分。頭上が開けてきました。

 ヘクソカズラ

 花が少ないこの時期でも興味を引くものはちゃんとあります。これはヘクソカズラの実。光沢がありリースの素材に使われたりします。

 リョウブ林

 稜線上の肩のような平坦地にリョウブの林がありました。これだけ密に生えていると、夏前、この林は白い花で覆われるでしょうね。



 ベンチがあるのはその花を愛でるためなのか。

 金剛山

 リョウブの林を抜けると再び急な登りに。振り返ると、どっしりとした金剛山の山容が。結構雄大です。

 モチツツジ

 おっ、渋い黄葉ですね。葉にも茎にも細かな毛が密生しています。モチツツジでしょうね。大和葛城山は山頂部のツツジの群落(植栽?)が有名なんです。



 スタートしたとき、冷たい空気が谷を満たしていましたが、そろそろあの谷にも陽が差し込み始めているでしょう。一方、稜線は既に小春日和のような陽気に。延々と続く階段に、日差しのためだけでなく、体の中から暖められています。息も荒いです。

 マムシグサ?

 これはマムシグサの実かな。茎には例の特有の模様が見られませんが。

 ウリハダカエデ

 登山道一面にウリハダカエデの黄色い落ち葉。踏みしめて歩きます。

 大和盆地

 梢越しに奈良県側が見えました。大和盆地です。あぁ、胸のすくような眺めです。
 手前が御所市、中央の丘のような緑は高取町辺り、その奥、高い山地との間が明日香村です。その山地の左端のピークが群が、音羽山(851m)、経ヶ塚山(889m)、熊ヶ岳(904m)。右端の単独ピークが竜門岳(904m)です。竜門岳に重なるように遙か奥にも尖塔が見えていますが、あれは三重県との県境にある高見山(1248m)です。ここから37km先、竜門岳からでも17km先にあります。一方、音羽山と地峡部を挟んで北側(写真左側)に見えるのは鳥見山(734m)、貝ヶ平山(822m)、額井岳(812m)などです。地峡部には初瀬街道(国道165号線)と近鉄大阪線が通っています。



 もうずいぶん登ってきました。山頂まではいくつかアップダウンを残すのみでしょう。

 ムラサキシキブ

 ムラサキシキブの葉も実も色が抜け始めていますね。秋も深まっているということです。

 パラデッキ

 10時35分、突然パラグライダーのデッキが現れました。ここは山頂手前の小ピーク。奈良県側の斜面は陽に暖められ、上昇気流ができやすいのでしょう。これから離陸の準備を始めるところのようでした。

 鞍部

 小ピークからはいったん下って、再び登り返す必要があります。下る途中、10数人ほどのグループが大きなリュックを背負って登ってくるのとすれ違いました。そのリュック、街角の郵便ポストほどもあります。もちろん中にはパラグライダーが詰まっているはずです。葛城山ロープウェイを使って来たにせよ、そこからでも結構な距離と上り下りはあったはずです。

 モチツツジ

 鞍部から山頂部にかけては一面ツツジの群落が広がっていました。中にはこんなとんちんかんなやつも。



 さあ、最後の登りです。



 やっぱり坂の途中で小休止。振り返って鞍部を見下ろすと、おお、ツツジの群落の広がりがよく見えます。



 おっ、標識が見えてきました。山頂へはここを右に折れますが、まずはいったん左にある展望デッキに向かいます。

 金剛山

 ススキ越しの金剛山。晩秋の風景ですね。

 アキグミ

 目の高さの枝にアキグミの実が付いていました。秋に実るからアキグミです。本来ならもっと実付きが良いのですが、やっぱり立て続けにやって来た台風のせいですかね。

 展望デッキ

 展望デッキはこんな感じ。もう山頂まで行かずに帰ってもいいくらいに素晴らしい眺望です。遠くに和歌山県との県境を成す和泉山地の山並みが見えていますね。南方向になります。



 あらためて山頂に向かいます。もうここからは水平移動です。



 晩秋の野山歩き。こんな風景の中を歩けるなんて、幸せです。本当に。

 サザンカ

 サザンカ。これは植栽だと思いますが、でも花はやっぱり気持ちを揚げてくれます。

 トイレ

 山頂直下には食堂や売店、宿泊施設もあります。なにしろケーブルカーで上がってこれますから。これは公衆トイレです。

 山頂へ

 さあ、この丘に上がれば山頂です。いったいどんな風景が待っているでしょうか。気がはやります。(後編に続く)