矢倉岳 〜花と絶景の穴場ポイント(前編)〜


 

 (前編)

【神奈川県 南足柄市 令和元年5月25日(土)】

 梅雨入り前の晴天は本当に輝くような日差しです。木々の緑も深まってきて、その日差しを柔らかく拡散しているようです。 今日はそんな緑を楽しもうと、のんびりと歩ける山に向かいました。場所は箱根の北側、足柄山地にある矢倉岳です。ガイドブックによると山頂からの眺めも素晴らしいとのこと。比較的近くにこんな良い山があるなんて今まで気がつきませんでした。
 
                       
 
 午前6時30分、ドリーム号Vで出発。相模原愛川ICから圏央道に乗り、海老名南JTCで新東名へ。このジャンクションは先の10連休の際に有名な渋滞ポイント海老名JCTの迂回ルートとして話題になったところ。確かにこの日も海老名JCTに進入する車線からすでに車が並んでいましたが、そこをスルーして2km先の海老名南JTC経由で新東名に入るとまったくガラガラでした。ただ、現在の新東名は6kmほどですぐに東名に合流します。合流地点は伊勢原JCTといい、今年中に東名とクロスする形でその先2kmほど延伸するとのことです。

 矢倉岳(南足柄市苅野地区から)

 東名高速を大井松田ICで下りて、最初は市街地を走ります。やがて道は農村部に入り、そして次第に山が近くに見えるようになってきました。

 バス停

 狩川沿いにどんどん山中に入っていき、最後はヘアピンカーブが連続する峠道に。そして8時20分、登山口近くの足柄万葉公園に到着しました。 6、7台停められる駐車スペースに最後1台分の空きがあり、そこに駐車。ラッキーでした。
 駐車場の横にはバス停がありましたが、時刻表を見てみると、休日のみ一日数本の運行で、ここで折り返しのようでした。



 そのバス停からは富士山の姿が。これだけでも気分がぐっと上がります。やはり富士山は雪を残した姿が美しいですね。

 散策路入り口

 装備を整え、準備体操をして、8時35分、矢倉岳山頂を目指してスタートです。歩き出してしばらくは足柄万葉公園の散策路を進みます。


 Kashmir 3D

 今日のルートは、足柄万葉公園から矢倉岳へと続く尾根を徐々に高度を下げながら歩いて行きます。清水越で地蔵堂からの道を合流すると、そこから急な登りとなり、ほどなく山頂となります。復路は来た道を戻ります。

 万葉公園

 この足柄万葉公園、公園と名が付いていることで街場にあるそれをイメージしていましたが、そもそもが山の中にあり、その様相はかなり違っていました。尾根沿いの林間に散策道が開かれていて、そのところどころに万葉の歌碑が置かれているというスタイル。休日の子供連れのレジャーにと思って出かけてくると、アレっとなるかもしれません。
 ところでなぜここに万葉の歌碑なのか。地元の南足柄市のHPには次のような記述があります。「ここ足柄峠は、奈良・平安の時代には東国と西国とを結ぶ官道(足柄道)であり、東海道の交通の要所でもありました。当時、東国から西日本の防備のために赴いた防人が、足柄山や足柄地方を詠んだ歌が万葉集の中に多いことでも知られています。」
 東国に別れを告げ、再び戻るとも知れない故郷や家族のことを思いこの峠で振り返るとき、防人たち誰しもがその気持ちを歌に詠まずにいられなかったのではないでしょうか。

 キンポウゲ

 足元の揺れる黄色い花はウマノアシガタ。またの名をキンポウゲと言います。花弁に見えるのは萼片で、表面に金属光沢があるのが特徴。きっとこの光沢が虫の眼には目立って見えるんでしょうね。

 矢倉岳

 矢倉岳が見えています。ここをスタートし、左手から回り込むようにして登っていきます。

 カマツカ

 この白い花はカマツカですね。もう花の盛りは越えたあたりでしょうか。こう見えてもバラの仲間です。



 やがて公園内の散策路はこんな感じに。もうほとんど登山道ですね。

 ツボスミレ

 小さな小さなスミレ。ツボスミレです。坪=庭のことだそうです。

 ミツバウツギ

 ミツバウツギの花は純白。花弁だけでなく萼片も白いです。花柄が長いので下を向いて花を付けます。古来、茎が中空の植物に対して「空木(うつぎ)」と呼ぶことが少なくなく、分類上の様々な科にわたって標準和名にウツギの名が付くものがあります。ミツバウツギはミツバウツギ科です。

 フタリシズカ

 林床にはフタリシズカ。花柄に付いている白いぶつぶつが花です。花と言っても花弁も萼もなく、3つの雄しべが椀状になって内側の雌しべに覆いかぶさっている状態です。



 登山道は稜線のすぐ下を通っています。ところで、スタートからずっと微妙に下り続けているんですよね。この先の反動が恐いです。

 ヤマツツジ

 ヤマツツジ。オレンジ色のツツジの代表格です。yamanekoとしてはミツバツツジなど紫色のツツジよりもこちらの方に親しみを感じます。



 スタートから25分、麓の地蔵堂から登ってくる道が右手から合流してきました。辺りはいつの間にかヒノキの植林地になっていました。

 クルマムグラ

 これはクルマムグラですね。花は径5mmほどと小さいですが、薄暗い林床ではよく目立っています。ムグラとは群がって生える様子を表した言葉で、クルマは葉が車輪状に生えるからだそうです。

 ノリウツギ

 ローアングルからでちょっと暗いですが、これはノリウツギですね。こちらはアジサイ科に分類されています。ちなみにノリウツギのノリは、樹液を糊に使ったからだそうです。

 ヤブウツギ

 こちらはヤブウツギです。ラッパ状の花冠はスイカズラ科のウツギの特徴。よく似るタニウツギとの違いで分かりやすいのは色の濃さで、タニウツギは淡い桃色をしています。



 登山道はずっとこんな感じで、暑い日差しを遮ってくれています。快適です。

 キランソウ

 キランソウ。地面に張り付くように生えるシソ科の植物で、濃い紫色でよく目立ちます。普通もっとたくさん花を付けるのですが、やっぱり日当たりの関係ですかね。

 トチバニンジン

 これはトチバニンジンの葉ですね。中央から花茎が伸びようとしている段階です。こうやってスポットライトが当たるところで植物は成長していくんですね。

 矢倉岳

 スタートして1時間が経過。ちょうど木立が途切れ矢倉岳が見えるポイントがありました。ずいぶん近づきましたね。これからあのてっぺんまで登るのか。



 下り勾配がやや大きくなってきました。地図で確認するとこの先が鞍部になっていて、今回の行程中最も標高が低い地点となるようです。

 ハンショウヅル

 その鞍部で見かけたハンショウヅルの花。この形が半鐘に似ていることからのネーミングだそうです。花弁のように見えるけれどじつは萼片、というのはキンポウゲ科の植物でよくあるパターン。もともと花弁の主な役割は派手に目立って花粉を媒介する虫などを集めることにあるのでしょうから、まあ確かにその役割を萼片に負わせても悪くはないのかもしれません。では、花冠全体を支えるという萼本来の役割はどうなるのか。少なくともこのハンショウヅルに関してはしっかり支えているように見えますね。一人二役です。

 ホウチャクソウ

 道は上りに転じました。
 ホウチャクソウは直接陽が当たらない明るめの林床を好む花。少し緑色がかった白色が清楚な印象を与えます。

 イタヤカエデ

 見上げるとこんな風景が。ザ・カエデといった姿のカエデですね。葉の大きさは子供の手のひらほどで、縁に鋸歯がまったくないので、これはイタヤカエデだと思います。

 クワガタソウ

 少しずつ傾斜がきつくなってきました。その登山道脇に一株だけ生えていたクワガタソウ。高さが10cmに満たない小型の植物です。果実の形が兜とその飾りの鍬形に似ているからの命名だとか。

 清水越

 幾つかの登山道が分岐する清水越というポイントに至りました。時刻は10時5分。ここから山頂に向かって更に傾斜がきつくなってきます。幸い陽射しは遮られているので、暑さに悩まされることはなさそう。さあ、もうひと頑張りです。(後編に続く)