渡良瀬遊水地 〜極寒と強風の荒野で鳥を見る〜


 

【栃木県 栃木市 令和6年1月16日(火)】
 
 年が改まり、2024年が始まりました。コンピュータが暴走するだのミレニアムだのと騒いだときからそろそろ四半世紀が経つということになります。恐ろしいです、年月が過ぎ去るスピードが。この驚きと焦りが入り混じったような感覚はジャネーの法則というやつの仕業でしょうね。歳を取るにつれ時の流れを早く感じるというやつです。その体でいくとこの新しい年もあっという間に過ぎていくということになるので、後悔のないよう積極的にあちこち出かけて行って、小さな感動に出会えればと思います。
 ということで新年最初の野山歩きは、関東平野の北端近くに位置する渡良瀬遊水地に行くことにしました。そこは野鳥観察のメッカ(死語)で、yamanekoの自宅からは、高速道路を使って2時間くらいです。
 
                       
 
 午前7時過ぎにドリーム号Vで出発。圏央道、東北道と走り継いで群馬県の館林ICで一般道に下りるのですが、高速に乗ってしばらくして事故渋滞につかまってしまいました。大型トラックの谷間に挟まれるようにしてじわじわ進むこと1時間。渋滞が解消したのは入間ICを過ぎた辺りでした。
 予定より大幅に遅れて館林ICを下りたのですが、遅れついでにそこから直接渡良瀬遊水地には向かわず、反対方向にある多々良沼に寄ってみるこにしました。そっちにも水鳥を中心にいろいろいると聞いていたので。

 野鳥観察棟

  10時30分、多々良沼の北岸にある駐車場に到着。で、車から出るとそこは冷たい強風に晒される過酷な世界でした。この日、今季最強寒波が関東地方に襲来していて、数分外にいるだけで気持ちが萎えてしまいそうな状況。確かに天気予報では晴れマークで、それに間違いはなかったのですが。さすがは上州、「かかあ天下とからっ風」の本場です。

 多々良沼

 多々良沼の畔りに行ってみると、この強風で水面には白波が立ち、水鳥たちは遠く湖の真ん中の方に集まってしまっていました。この状況だと、多々良沼の隣りにある小さめのガバ沼の方が観察しやすいと踏んで、早々にそちらに移動することにしました。



 「隣り」といっても結構歩きます。冷たい強風に向かって。前方には赤城山の方から雪雲が伸びてきているのが分かります。歩きながら、車で移動すればよかったと後悔。

 ツグミ

 木の枝にツグミが。秋に極東シベリアから渡ってくる冬鳥です。初めは北日本や高山にいて、冬になると暖かい地方や低地に移動するのだそうです。年中いると思っていましたが、渡り鳥なんですね。この日は数羽でまとまって移動していました。



 北の方を見ると完全に雪雲に覆われていました。ここは関東平野の北端に近く、うっすら見えている山影は足尾山地。その奥は日光連山に続いています。

 トビ

 トビが頭上を飛んでいました。風に向かっていてほとんど前進していないようでした。図鑑の解説によると、トビは大型のタカで、立派な猛禽類。年中見かける馴染みの鳥なので、あまりそんなことは意識していませんでした。特徴的なのは尾の形。真ん中(三角形の底辺)がくの字に凹んでいるのが分かりますが、日本のワシタカ類で尾が凹んでいるのはトビだけなのだそうです。分かりやすい見分けポイントですね。ただ、尾羽を極端に広げるときがときどきあり、そのときは直線や、逆に弧状に膨らむこともあるとか。



 20分ほど歩くとガバ沼が近づいてきました。で、ガバって何?

 スズメ

 ガードレールの端でスズメたちが井戸端会議。「ちょっとー、見て向こうの田んぼ。なんかお米みたいなのいっぱい落ちてない?」、「うそ、あれお米じゃん。ずいぶん派手に落としてるわね」、「ちょっともらいに行っちゃう?」とか言っていそう。
 近年生活の中でスズメを見かける機会が大幅に減ってきているとする研究があるそうです。それは日本の住宅構造が気密化し、昔の家屋のような隙間がほとんどなく、巣が作りにくくなったというのも一因とのこと。スズメはもともと人家の近くで暮らしているものが多いのだそうです。



 ガバ沼の畔には駐車場と観察舎がありました。



 ん?岸辺に集まっているのは?

 オナガガモ

 オナガガモです。首の両側にある白い縦筋が特徴。というより名前のとおり尾が長いので一発で分かります。それにしてもそんなに密集しなくても。北風対策か?

 オオハクチョウ

 オナガガモの大群を遠巻きにしているのはオオハクチョウでした。うむ、そこはかとなく気品がありますな。長旅の疲れを癒やしているのでしょうか。

 ホトケノザ

 ホトケノザを見ると寒さの中にも春の兆しを感じます。
 さて、そろそろメインの渡良瀬遊水地に向かいます。多々良沼は群馬県館林市の西の端にあるのですが、ここから東に向かい、隣の板倉町も突き抜けて、栃木県境まで移動します。

 渡良瀬遊水地

 12時25分、渡良瀬遊水地の端っこに到着しました。北エントランスと呼ばれているゲートから入ったところの風景が上の写真です。荒野か、ここは。平日ということもあって人影もなく、異世界の入り口に立ったような気分でした。

 Kashmir 3D
 

 渡良瀬遊水地は、群馬、埼玉、栃木、茨城の4県にまたがり、その大部分が栃木県に属しています(地図にマウスオンで県境を表示)。そもそも遊水地とは、洪水時に下流の水害を軽減させるため一時的に水を貯める場所のことですが、渡良瀬遊水地については過去にいろいろな経緯があるようで、その成り立ちについては前回訪れたとき(10年前)の野山歩きに書いています(こちら)。
 北ゲートは遊水地西の端にあたり、今日はそこから車で観察ポイントに移動します。なにしろ半端なく広いので。地図上の黄色の線は車で移動した部分、赤い線が歩いた部分です。

 親水ゾーン

 最初は少し南に下り、谷中湖の畔の親水ゾーンに向かいました。
 駐車場に車を止めて社外に出ると強烈な風。遠くの雲は先端が箒で掃いたような典型的な雪雲です。そして水辺には人っ子ひとりいません。だれも親水してなかったです。

 コガモ

 いるのは水鳥たちのみ。これはコガモですね。雄は目から後頭部にかけての緑色の模様が特徴的です。

 ツルシギ

 嘴と足が赤色のシギ。てっきりアカアシシギだと思い詳しい人に写真を送って確認してみたところ、これはツルシギなのだとか。よく見ると下の嘴は赤く上の嘴は黒いです(アカアシシギは両方赤色)。また、嘴の長さもアカアシシギのものより若干長め。図鑑で見比べると確かに頭の大きさと嘴の長さのバランスが微妙に異なるのです。プロは細かいところの相違を確実に見極めるんですね。

 マガモ

 冬の水鳥の定番、マガモです。主に中国大陸から渡ってきます。日本の冬もそこそこ寒いと思うんですが、大陸の寒さに比べると過ごしやすいんでしょうね。
 雄はグレーの体に緑色の頭。境目の首のところにはチョーカーのように白色の帯があります。加えて嘴は黄色という、なかなかに派手な装いです。

 イカルチドリ

 水際をちょこちょこ小走りに歩いていたのはイカルチドリ。この鳥は渡りはせずに一年中日本にいます。鳥には足を交互に出して歩くタイプと両足でホッピングするタイプがありますが、イカルチドリは前者。



 ここはどこ…。映画「猿の惑星」にこんな風景が出てきませんでしたっけ。

 コウノトリ

 次のポイントへ向かおうと駐車場に戻ったら、上空を優雅に飛んでいく大型の鳥が。コウノトリです。10羽ほど群れて飛んでいました。この渡良瀬遊水地内に繁殖施設があるとのことです。

 鷹見台

 車に乗って東に向かい、渡良瀬遊水地のほぼ中央に位置する鷹見台にやって来ました。「台」とのことなので展望施設か何かかと想像していましたが、現地は遊水地内を流れる渡良瀬川の川土手。橋のたもとの部分が構造上高くなっていて、そこに駐車スペースが設けてあるような場所でした。ただ、周囲がまっ平らな低地なので、そのくらいの高さでも十分に「台」なのです。

 筑波山

 正面(ほぼ真東)には筑波山。ここからの距離は約35kmです。

 チュウヒ

 鷹見台ではコミミズクが見られると聞いてきたのですが、当然運が良ければということですし、そもそも時間帯が早すぎました。夕暮れ時がチャンスとのこと。代わりにチュウヒが姿を見せてくれました。羽を広げると130cmくらいになる大型の猛禽類です。

 チゴハヤブサ

 鷹見台は強風をもろに受ける場所だったので、長居はできませんでした。車で少し戻って、用水路に架かる谷中橋周辺で散策です。するといきなり低空飛行でやって来たのはチゴハヤブサ。飛んでる姿がかっこいいです。こちらは小型(ハトくらい)の猛禽類です。

 オオバン

 用水路にはコサギやカルガモのほか、オオバンもいました。お風呂のアヒル人形みたいに波に揺られていました。

 体験活動センター

 またまた移動して体験活動センターへ。駐車場に車を止めて周囲を散策です。

 シメ

 木の枝にシメがいました。小鳥ですが体つきに比べて嘴が大きく、愛嬌のある姿をしています。夏には北海道で繁殖し、冬になると本州以南に渡ってきます。夏羽は頭が赤くなるそうですが、その姿は本州では見られません。残念ながら。



 咲いてみたはいいが、あまりの寒さに後悔しているタンポポ。頑張れ!



 ピクニックにはもってこいの広場ですが、ここにも誰もいません。「みんな、どこ行ったんだよー!」、「誰かいませんかー!」 ミステリー映画などでは主人公がそんなふうに叫ぶシチュエーションです。

 ウォッチングタワー

 体験活動センターから少し北に位置するウォッチングタワーに行ってみることに。ここもまあダンジョン感満載です。



 ビルの3階分くらい階段で昇ると展望スペースがありました。



 東方向   南方向

 東西南北の四方を写してみました。まずは東から(太平洋まで80km)。うむ、平らです。
 次に南(東京湾まで70km)。真っ平らですね。



 西方向  北方向

 そして西(関東山地まで50km。)。平らであるということ以外言いようがありません。
 最後に北(足尾山地まで20km)。なんとか山影が認められました。

 カルガモ

 ウォッチングタワーのそばの小さな水辺にも鳥たちがいました。これはカルガモですが、なんか首が長いですね。



 時刻は2時30分。最後のポイントにやって来ました。車道からゴルフ場(渡良瀬遊水地の中にある)に向かう小道を歩きます。
 ここでちょっとしたトラブルが。手がかじかんでいたのか、カメラのレンズを取り替えようとして望遠レンズをアスファルトの地面に落としてしまったのです。しまった!と思い拾い上げて見ると、レンズカバーのガラスに派手にヒビが入ってフレームも一部変形してしまいましたが、幸いレンズ本体は無事でした。



 駐車場に車を止めて歩いて向かいます。この道は管理用道路のようで、ゴルファーは利用しないみたいでした。

 ハイイロチュウヒ

 ここではお目当てのハイイロチュウヒを見ることができました。ただ写真はピンボケです。極寒の中1時間近くねばっていたので、最後の方は歩き方がロボコップみたいになっていたと思います。

 ゴルフ場への小道

 鳥を待って一人佇んでるとき、なんでここにいるんだっけ、との思いが頭をよぎりました。BGMは ♪帰りたーい 帰りたーい あったかいわが家が待っているー のCMでした。
 3時半が過ぎでゲートの閉門時刻が近づいてきたので、ロボコップ歩きで車に戻り、家路につきました。
 
 帰りの圏央道、またもや事故渋滞に巻き込まれ、3時間以上かかってしまいました。