渡瀬遊水池 〜夏のアシ原でサイクリング〜


 

【栃木県栃木市 平成25年6月9日(日)】
 
 今年の関東地方の梅雨入りは例年より10日程度早く、5月の29日でした。で、お約束どおり梅雨入り後は夏のような晴天が続いています。
 さて、この週末はどこに出かけようかと考えた結果、しんどい思いはしたくないという妻の希望を考慮して、渡瀬遊水池の散策ということにしました。確かに山地とは違って高低差はほぼゼロですが、日射しを遮るものがないのでジリジリと暑いかもしれません。
 
                       
 
 午前10時すぎ、ドリーム号に乗って出発。渡瀬遊水池はとてつもなく広く、ナビの目的地をどこにセットしようかと迷いましたが、遊水池の南西側に道の駅があるとの情報を得て、まずはそこを目指すことにしました。首都高川口線から東北道に入ってひたすら北上です。


Kashmir 3D
 

 縮尺の小さな日本地図を眺めると、栃木と群馬と埼玉と茨城の4県の県境が一点で交わるように見えるところがあります。実際には群馬県と茨城県とは2qほど離れていて、一点で交わってはいませんが、渡瀬遊水池はその4県が近接する微妙な地域に位置しています。
 ちなみに、グーグルアースでアメリカの地図を見ていたら、4つの州の境が完全に一点で交わるところがありました。アメリカ西部のコロラド州とユタ州とアリゾナ州とニューメキシコ州が直線で交わっています。日本では都道府県や市町村の境界は山脈や河川など自然の地形に沿っていることがほとんどで、したがって境界線もくねくねと曲がっているのですが、アメリカのこの辺りでは自然の地形などお構いなし。まず白地図ありきで、その上に定規で引いた線が境界。先住民の歴史や生活などは無視だったのでしょうね。交点のある付近をグーグルアースを拡大していくと、荒野のど真ん中にぽつんと「フォーコーナーズ」というモニュメントがあって、1qほど離れたところを通っている国道から取り付け道路が延びていました。その途中に料金所のようなものも見えたので、きっと地元の観光資源になっているのでしょう。
 
 渡瀬遊水池に話をもどすと、渡良瀬遊水池は、足尾銅山の鉱毒事件による鉱毒を沈殿させ無害化することを目的(表向きは治水目的)に渡良瀬川の下流部に造られた遊水池で、渡良瀬川、思川、巴波川の3つの川が合流する地点にあります。4県の県境が近接するエリア、それは別なとらえ方をすると、4県それぞれから見て端っこの地にあるということ。やはりそれぞれにとって迷惑施設だったということでしょうか。
 明治38年に着工され竣工したのはなんと平成元年。昭和48年の閉山後も10数年間銅の精錬は行われ、現在でも遊水池の土壌には大量の鉱毒物質が含まれているそうです。また、2年前の東北地方太平洋沖地震の際にも、鉱石くずの堆積場が決壊して鉱毒汚染物質が渡良瀬川に流下したそうです。ひとたび自然破壊をしてしまうと永く後世にまで影響が残るという実例ですね。
 行政区画上は栃木、群馬、茨城、埼玉の4県境にまたがっていますが、その敷地のほとんどは栃木県内にあります(地図にマウスオーバーで県境を表示)。遊水池は、当初埼玉県側に造成される予定だったそうですが、明治政府は、当時鉱毒反対運動の中心地だった栃木県の谷中村全域を買収して廃村にし、その地に遊水池を造成することにより、運動の弱体化を図ったといわれています。栃木、群馬、埼玉の県境のラインが元々の渡良瀬川の流路で、その流路を現在のように東側に付け替えることにより、結果として旧谷中村に水が溜まるようにしているのが分かります。
 
 現在の渡良瀬遊水池は、貯水池部分以外はほぼ全域が葦原になっていて、希少な動植物が多く生息しているそうです。昨年(平成24年)7月にはラムサール条約にも登録されました。

 スポーツ遊学館

 館林ICで高速道路を降りて、道の駅「きたかわべ」に到着したのは11時半。ここの道の駅は渡瀬遊水池の堤防の上に建設されています。まずはレストランで昼食をとってから、敷地内にあるスポーツ遊学館に行ってみました。1階はレンタサイクルステーション。2階は自然学習教室。屋上は展望デッキです。

 道の駅きたかわべ

 展望デッキからの道の駅の様子。こぢんまりとしています。L字型になっている建物の奥側がレストラン。手前側が農産品などの直売所です。

 で、こちらが遊水池側。あのずーっとずーっと向こうまで渡瀬遊水池です。手前の谷中湖ではヨットの競技会が行われているようで、スタートの合図でしょうか、ときおり「プァ〜」というサイレン(?)の音が聞こえてきます。

 サイクリング開始

 さて、自転車をレンタルして散策に出かけましょうか。時刻は12時10分です。まずは土手をくだって行きます。

 谷田川

 谷中湖の縁に沿って流れる谷田川を渡ります。谷中湖はこの先です。河畔に大きなシダレヤナギの木が立っていますね。なんだか「水郷」という感じで、いい雰囲気です。

 サイクリングロード

 そして谷中湖の周囲を巡るサイクリングロードに入りました。道の左右にはたくさんの木々が生えています。それにしてもサイクリングなんて何年ぶりでしょうか。
 木々の奥からカッコウの鳴き声が聞こえてきます。初夏ですね。

 シモツケ

 この時期、花はそう多くはないだろうと思っていましたが、いきなりシモツケが現れました。ちょっと盛りは過ぎているか。

 ヌルデ

 これはヌルデですね。葉軸に翼があるのが特徴です。

 

 クワ

 クワの実が完熟していました。これは見逃して通るわけにはいきません。こんなに熟したクワの実、いつ食べるの? 今…。
 しかし、こんなに甘くて美味しい実なのに、フルーツとして流通しないのがもったいないです。軽く触るだけで果汁が出てくるほど脆いからでしょうね。

 アカシデ

 木の枝からぶら下がっているのはアカシデの花穂です。もともと山野の川筋など湿ったところを好む木なので、ここの環境にも適しているのでしょう。小さな葉のように見えるのは苞。その根元に抱くようにして果実を付けています。秋になって実が熟すと、この花穂がバラバラになって、苞がヘリコプターの翼の役割をして遠くまで飛んでいくという仕組みです。

 エノキ

 エノキに実が付いています。熟すと褐色になりますが、この時期はまだ緑色をしていますね。エノキは、村境の標や一里塚などのランドマークとして使われるなど、昔から生活に密着した樹木でした。そんな役目を持っていると切り倒されることもないので、各地に大木として残っていたりします。広島の工兵橋のたもとにも大きな榎木がありました。今も吊り橋を渡る人々を見守っているでしょうか。

 タチバナモドキ

 一見してバラ科の花なんですが、この細長い葉は…?。これはタチバナモドキですね。これよりも葉の短いトキワサンザシとかをひっくるめてピラカンサと呼ばれたりしています。園芸店などではピラカンサのほうが馴染みがありますね。

 すぐ近くでウグイスが鳴いています。声はすれども、ウグイスを見つけるのはなかなか難しいんですよね。あと、遠くからケーン、ケーンとキジの鳴き声も。長閑ですな。

 オニグルミ

 むむ、葉っぱの奥に見えるあれはオニグルミの実。あの中に堅い核(いわゆるクルミ)があるのですが、取り出そうとして実を裂いたりすると指先に汁が付いて、それが真っ黒に変色しなかなか取れません。厄介な実なんです。

 県境

 元々の渡良瀬川の蛇行に合わせて県境が引かれているため、それをまっすぐに貫いている道路を行くと、群馬県に入ったり栃木県に入ったりと、標識も忙しいです。

 水辺に降りられるところがあったので、自転車を置いていってみました。異臭がするので辺りを見渡してみると、大きな魚が打ち上げられていました。1匹だけではなくあちこちに転がっています。酸欠か?

 

 ツルノゲイトウ

 水辺にはびこっていた植物。あまり馴染みがないですが、調べてみるとツルノゲイトウという帰化植物でした。南アメリカ原産だそうです。漢字で書くと「蔓野鶏頭」。確かに花はケイトウのそれの質感です。

 ヤマヤナギ

 これはおそらくヤマヤナギ。白い綿毛のようなものは柳絮(りゅうじょ)といって、つぶつぶの果実が裂けて中から出てきた種子とその付属物です。この綿毛と一緒に種子が風に飛ばされて遠くまで分布を広げるという寸法です。

 ヒレアザミ

 名前のとおり茎にヒレがあり、そのヒレにも刺がびっしり。総苞片も鋭い針のようになっていて、うっかり触れないですね。「オレに触ると怪我するぜ」ってことか。いったい何から身を守っているのでしょうか。

 カジノキ

 これはクワの仲間のカジノキです。葉と今年伸びた枝にはビロード状の毛があって、触るとサワサワした感触です。丸いのは果実(正確には果実の集合体)。夏の終わりには橙色に熟して、食べられます。

 カツラ

 カツラはもともと渓畔林を構成する樹木。街路樹としても多く利用されているので、ここのも植栽でしょう。丸っこい葉がそろって風に揺れる様子が微笑ましいです。
 
 で、ここでちょっとしたハプニングが。妙にハンドルが重いなと思って見ると、なんと自転車の前輪がぺちゃんこじゃないですか。どうやらパンクのようです。とりあえず降りて押すことに。まだ1qちょっとしか乗っていないのに。この先しばらく行くと別のサイクルステーションがあるので、そこまで押し行っててそこで空気を入れることにしました。そしてタイヤがパンパンになったところでダッシュでもとの道の駅に戻りました。無念。

 谷中湖

 ギョギョシ、ギョギョシ。藪の中からオオヨシキリの鳴き声が聞こえてきます。婚活の最中かな。
 
 もとの道の駅に戻ってきてサイクルステーションで自転車を返却。パンクの修理代を要求されるかと思ったら、「不便をかけて悪かったね。」と笑顔で引き取ってくれました。なんて親切な。自分の世知辛い考えに反省です。
 
 今日はなんか尻切れトンボでしたが、それなりに植物や鳥たちも出会えました。そしてなによりここの開放感。降り注ぐ日射し。吹き渡る風。日常から解放されて十分にリフレッシュすることができました。さすがはラムサール条約登録地ですね。