雲山峰 〜春浅い紀泉アルプスを行く(前編)〜


 

 (前編)

【大阪府 阪南市 平成31年2月17日(日)】
 
 2月と言えば世間的には一年で最も寒い頃。この時期、立春はとうに過ぎていますが、まだまだ厳しい寒さが続いています。
 数年前、中国大陸発祥の「二十四節気」を日本の気候風土に合ったものにリメイクし「日本版二十四節気」を作ろうと日本気象協会が提唱したことがありました。面白そうな話だなと思っていましたが、世間の反発ですぐに沙汰止みになってしまい、ちょっと残念に思ったのを覚えています。ただ、狭い日本であっても北海道と九州・沖縄では随分季節が違うので同じ問題が起こってしまい、やっぱり技術的に困難というのはあるかもしれませんね。 さて今回は「立春」の暦どおりの春の兆しを感じようと、南の方の山に行くことにしました。和歌山県との県境をなす、その名も「紀泉アルプス」の尾根歩きです。
 
                       
 
 大阪メトロから天王寺でJR阪和線の快速に乗り換え、和歌山方面へ。大阪湾沿いの平野部を走っていた線路は和泉山地の先端近くで峠を越え紀ノ川の河畔に下りて往きます。その峠の手前にある山中渓(やまなかだに)駅で下車しました。「渓」を「たに」と読むんですね。

 ホームにて

 ホームの様子はこんな感じです。駅があるということは集落があるということで、周囲にはパラパラと住宅がありはしますすが、さすがは県境の駅。若干寒々としてました。

 山中渓駅

 同じ電車から多くの年配、いや先輩ハイカーが降り立ったので、その人達が出発するまで、装備を整えたり入念に準備体操をしたりして時間を潰していました(ときに傍若無人ともいえるあのかしましさがちょっと苦手なんです(笑)。)。そして周囲がようやく静かになってからyamanekoも出発しました。時刻は9時40分です。

 Kashmir 3D

 今日のコースは、山中渓駅から川を渡って山にとりつき、府県境の尾根道を西へ。雲山峰を過ぎた辺りから南下し、最終的に紀伊駅まで歩きます。ただ、電車にすると一駅なんですがね。

 山中関所跡

 天気予報は曇り時々晴れから午後は晴れというもの。今はどんよりとした空ですが、回復を期待しつつ歩きます。ふと左手を見ると「山中関所跡」という小さな標識が目にとまりました。ちょっと寄ってみます。
 解説版には次のような記述が。「この地は、熊野街道(熊野古道)の山中関所跡地で東西から山がせまり、間に川が流れ、関所としては最も良い場所である。南北朝時代に岸の和田氏の一族、橋本正高氏がここに関所を設けて関銭を課した。応永二年(一三九五年)長慶天皇が河内の観心寺に法華堂の造営のために、この山中に関所を料所とされたとの記録がある。この関所で課せられた関銭を前記の法華堂の造営のためにつかったものと思われる。村の人は、ここを「ほけんとう」と今でも呼んでいるが「ほっけどう」が「ほけんとう」にかわったものであろうと云われている。なお、この関所は、江戸時代に入って廃止された。」 (原文ママ) 峠を通るだけで金を取られるとは理不尽なとも思いますが、峠の道はその地形からして当然険しいところにあるわけで、その道を整備していることに対する、今で言えば有料道路みたいなものだったのかも。そもそも当時は移動の自由が制限されている中で、その移動者のために整備するならなおさら、ということかも。
 あと、岸和田の元が「岸の和田氏」だったことにトリビア感も。

 阪和線

 などとあれこれ思いを巡らした後、また歩き始めました。すぐに右手に折れて川と踏切を渡ります。ちょうど阪和線の電車が通過中。

 ニホンズイセン

 路傍にスイセンの花。花冠の黄色が鮮やかですが、陽射しがない分輝きには欠けていますね。遠く地中海沿岸が原産のこの花。日本には古くに大陸を経由して入ってきたそうですが、いったいどのくらいの年月をかけてこの日本列島までやってきたのでしょうか。

 ビワ

 民家の庭先にビワの木が。これは花序です。11月から2月が花期なので、もう花弁が散った後でしょうかね。

 銀の峰ハイキングコース入り口

 少年野球をしているグラウンドを横目に山に入っていきます。すぐにゲートが現れました。ハイキングコースが設定されているようですが、そのコースとは紀泉アルプスの尾根歩きではなく、ごく近場を周回するもののようでした。

 登山口

 ゲートからすぐに高速道路が現れ、その下をガードでくぐると、登山口の標識がありました。ここからしばらくは急な斜面をジグザグに登っていきます。

 ざっと45度はありそうな斜面。まっすぐ立とうとしても、なんか谷側に傾いていきそうです。

 コシダ

 これはコシダ。比較的小ぶりなシダですが、葉柄は強くしなりもあり、藪歩きではなかなか手強いやつです。西日本を代表する普通種で、瀬戸内地方でよく見かけました。

 結構繁っていますね。奥の方はウラジロでしょうか。

 ウラジロ

 やはりウラジロでした。その名のとおり、裏返すと葉の表面が粉白色をしています。ウラジロは葉柄の先端で左右に羽片を伸ばし、次の年にはその間(羽片の付け根)から軸を伸ばしてまたその先に一対の羽片を左右に出します。それを年々繰り返すので、「代々繁る」ということで縁起が良いものとされています。正月の鏡餅や注連縄などに飾り付けたりしますよね。

 おお、いい感じのシダの森ですね。

 これがウラジロの羽片の間で待機する新芽(まだ丸まっている)。これから一気に伸びていきます。

 ヤマモモ

 なんじゃこりゃ。樹形からはなんだか分かりませんでしたが、落ちている葉からヤマモモと判明。伐採を繰り返してこんな姿になったのではないでしょうか。人々の生活の近くにある森だったということでしょう。
 子どもの頃、口の周りを赤黒くしてヤマモモの実を食べたものです。

 これはコシダの新芽。魔法の杖か?

 頭上が開けてきました。稜線が近いのかもしれません。

 どんよりと曇っていた空から時たま陽が射すようになってきました。これだけでも気持ちが明るくなります。またすぐに陰ってしまいますが。

 稜線へ

 おっと、稜線に出たようです。目的の雲山峰へはここを左ですが、右手すぐのところに展望台があるとにことなので、行ってみます。

 第1パノラマ展望台

 おお、視界が開けています。入れ違いで年配ハイカー軍団が去って行ったので、急に閑散としました。ちなみに、銀の峰ハイキングコースはここから下って行くみたいです。

 阪南市、泉南市あたり

 曇天が残念ではありますが、泉南地方とその先の大阪湾が一望です。正面に関西国際空港があります。

 このビルは、空港への連絡橋の本土側のたもと、りんくうタウンにあるホテルです。唐突感満点ですね。

 尾根道

 眺望を楽しみながらあんパンでエネルギー補給をし、靴のひもを締め直して再び歩き始めました。
 この石組みは何だろう? 灯台の基礎だったとか? この辺りは海からもよく見えていたでしょうし。

 うわっ、木が倒れてる。奥にも。去年は台風、ひどかったですからね。関空の連絡橋にタンカーがぶつかったあのときも凄まじかったです。

 ヒサカキ

 この小さなつぶつぶはヒサカキの冬芽。春4月になると開花し、なんとも言えない香りを漂わせます。その香りは、薬臭くもあり、人によっては嫌な臭いと感じるようですが(いやそっちが多数派か)、yamanekoは春の訪れを感じさせる香りとしてむしろ好きな香りです。
 ヒサカキの 名前は、サカキに似て非なるものとして「非榊」であるとか、サカキより小さいので「姫榊」であるとか、由来には諸説あるようです。

 モチツツジ?

 これはツツジの葉ですね。葉を展開したまま越冬したのでしょうか。それとも芽吹いた直後?枝や葉に毛が密生しているところをみるとモチツツジのようですが、モチツツジは冬には落葉するので、だとしたら早くも葉が展開し始めているということになります。よく見たら枝も若いようです。葉を付けて越冬するといえばヤマツツジですが(細かい毛も生えている。)、ヤマツツジの冬の葉はもっと寒さ焼けしたように赤黒くなったりするので、ちょっと違う感じがします。

 少しずつ陽が射す時間が長くなってきました。いい感じです。

 分岐

 11時、標識が現れました。歩いてきた方向に向けて「山中渓駅」、これから向かう方向に向けて「雲山峰」とありますが、もう一本その間(写真左斜め奥方向)に小径が延びています。指標はありませんが、地図によるとその先に四ノ谷山のピークがあるようです。行ってみましょう。

 入ってみると荒れた感じはなく、登山者が普通に歩いている道のようです。

 四ノ谷山

 標識の分岐から50mたらずで山頂に到着。ほぼ水平移動でした。三等三角点がありました。ちなみに眺望はなし。

 ムベ

 これはムベの葉。冬でも青々としていますね。輪生のように見えますが、掌状複葉。なので一段ずつが一つの葉ということになります。登山ガイドブックに「4月にはムベの白い花がきれい」と紹介されていました。きっとこの辺りに多いのでしょう。

 分岐に戻り、雲山峰を目指して更に歩いて行くとこんな光景が。大きな木が見事に倒れていました。それにしても根の張りは浅いんですね。

 ウバメガシ

 登山道沿いにはウバメガシが現れ始めました。紀州備長炭の原材料であり、和歌山県の県木でもあります。沿岸部に多く見られますが、ときに山間部でも。葉は小型で、堅く、主脈の左右で弯曲しているのが特徴です。

 緩やかにアップダウンする尾根道を歩きます。木立の向こうに雲山峰が見えてきました。まだ結構距離がありますね。

 木漏れ日をくぐって歩く早春の野山。健康に歩けるって嬉しいことです。

 展望地

 おっ、なんか開けた場所が。

 和泉山地

 ここからは東側の眺望が開けていました。和泉山地の山々です。青空が広がり、冬の終わりを告げているような風景ですね。うーん、ウキウキするなー!春ももうすぐそこです。
 
 さあ、空も明るくなってきました。あらためて雲山峰を目指して歩きましょう。続きは後編で(こちら