富山 〜南房総・早春の里山へ〜


 

【千葉県 南房総市 平成26年1月25日(土)】
 
 先週まで居座っていた寒波が緩み、ここ2、3日は春先のような陽気になっています。今日は房総半島南部にある富山に行ってみることにしました。この時期スイセンが満開とのことで、地元では観光資源として大々的に売り出し、毎年多くの観光客が訪れるとのことです。
 
                       
 
 今回のメンバーは、いつものTさん(埼玉在住)、11月に一緒に三頭山に行ったN女史とS君、そして今回初参加のN君とその息子達(6歳と4歳)。yamanekoを入れて計7人です。 新宿駅西口でTさん、Nさん、S君をピックアップ。まずは首都高に入って湾岸線を目指しました。
 羽田空港の手前の大井PAでN君親子と合流。向こうは渋滞にはまって予定より30分くらい遅れてやってきました。9時、あらためてスタートです。空港を越えて多摩川をくぐった先にある浮島JCTからアクアラインへ。長い長い海底トンネルを抜けて海上に出ると遠く前面に千葉の陸地が見えてきました。でも、ここからまだまだ海上の橋を延々と走って行くことになります。

 今日のメンバー

 房総半島に上陸してからは館山道を南下し、目的地近くの鋸南富山ICで高速を下りました。町営の無料駐車場にドリーム号を入れたのは10時すぎ。30台くらいの広場でほぼ満車状態でしたが、どうにか隅っこに停めることができました。
 軽く準備運動をして、10時30分、出発です。


Kashmir 3D

 今日のルートは、ここからまずは車道を歩いて行きます。途中から山に入り、尾根道を辿って富山の南峰へ。続いて鞍部をはさんだ北峰へ向かいます。北峰の山頂は公園のように整備されているとのこと。標高も低いこともあって、散歩気分で登ってくる地元の人も多いのだとか。帰りは往路の北側にある谷筋の道を通って戻ってくる予定です。

 出だしは長閑な農道を歩いて行きます。天気予報では晴れのはずだったのですが、青空は見当たりません。でも気温は予報どおり暖かいです。 さすがは南房総、道ばたのあちこちに花が咲いています。

 福萬寺山門

 駐車場から700mほど歩くと左手に福萬寺というお寺が現れました。そこの山門の脇を通って山路に入っていきます。ここには登山者用の杖が何本も置いてあって、ご自由にお使いくださいと書かれていました。さすがは仏に使える身。慈悲深いです。

 山門からしばらくはコンクリート舗装の道。これは農家さんが上の畑に軽トラで上って行けるように整備されているんでしょうね。

 やがて森の中に入り登山道らしくなりました。落ち葉が積もって滑りやすいのは、ここが照葉樹林で葉が硬くツルツルだからでしょう。急に傾斜が増しましたが、N君の息子は元気いっぱいです。

 Tさん(右)のザックが350mの山に登るにしては大きすぎる気がしますが、これは中にカセットコンロが入っているから。山頂で温かいおでんを食べるためのものです。

 登山道脇の斜面をスイセンが覆い尽くしているところがありました。おおー、と思わず声が出るぐらい見事です。きちんと手入れがされているようでしたが、スイセン畑なんでしょうか。市場に出荷するような感じではありませんでしたが。

 ニホンズイセン

 この時期の南房総といえば、この花。スイセンには温暖な地域の花といったイメージを持つ人も多いでしょう(スイセン属の原産地はスペインやポルトガルだそうです。)。でも、yamanekoのスイセンに対するイメージは、日本海の海辺で小雪まじりの風に吹かれて寒さに耐えているといったものなんですよね。あまり華やかな印象はありません。子どもの頃に見た風景が影響しているのでしょう。なんとなく「薄幸」という言葉を連想させる花なんです。

 ヤブツバキ

 椿の唾(つばき)、ではなく、これはヤブツバキの蜜が垂れているんですね。と、ここまで書いて「唾」の字が「口」から「垂れる」で成り立っているのに初めて気がつきました。漢字って面白いですね。でも口から垂れるのは唾というよりも涎(よだれ)ですよね。

 弟君4歳。木切れを拾って杖にして元気に歩いています。

 アオキ

 色の少ない季節にアオキの実や葉は生命感を感じさせてくれます。正月にセンリョウやマンリョウなど緑と赤の組み合わせがめでたいものとされるのは、そういった感覚に基づくものかもしれません。

 登山道の傾斜が急なところは階段状に整備されていましたが、段差が大きくて小さな子供には難しかったかも。

 マメシダ

 岩肌にマメシダの可愛い葉が。これはいわゆる栄養葉。光合成でもっぱら栄養を作る役割です。これとは別に茶道の茶杓のような形をした胞子葉というのもあって、こっちは胞子を作って飛ばす役割です。真冬でもちゃんと生きているんですね。

 仁王の大杉

 やがて大きなスギが現れました。このスギは「仁王の大杉」というそうです。ここのベンチで汗を拭きながらの小休止。ここからは南東の方角の視界が開けていて、ちょっとした展望台のようになっていました。

 

 仁王の大杉のすぐ先、左手に石段が現れました。どうやらこの上に寺社がありそうです。建っていた案内板を見ると、昔この石段の登り口には仁王門という山門があったとのことです。この門の名前がさっきの大杉の名前の由来になっているのでしょうね。

 観音堂

 石段を登りきると境内のような広場があって、正面に観音堂の額の架かった建物がありました。ちょっと朽ちかけています。左手を見ると小さな丘があり、そこにはNTTの電波塔が建っていました。そこが南峰の山頂ということになるのでしょう。
 富山は双耳峰で、南峰(342m)にはこの観音堂があり別名を観音峰、三角点が置かれている北峰(350m)には金比羅神社があり別名を金毘羅峰というのだそうです。
 ここまで歩いてもう額に汗が浮くほど。今日は本当に暖かいです。 南峰で小休止後、緩やかな鞍部を経て北峰に向かいました。

 鞍部

 すぐに北峰との鞍部に到着。そこはちょっとした広場になっていて、東屋がありました。数人の山ガール達が昼食をとっていましたが、山頂ではなく、なぜここで。確かに眺めはそこそこ良さそうでしたが。

 金比羅神社

 鞍部からやや急な坂を上ると路傍に作業小屋が? いやこれは金比羅神社を覆うように建てられた上屋でした。思ったより小さなお社でした。

 北峰山頂広場

 11時50分、北峰の山頂に到着しました。スタートからゆっくり歩いても1時間半かかりませんでした。なんてお手軽! 山頂にはそこそこ人がいますね。道中の山道は静かでしたが。

 三角点

 広場の手前、右側にある丘の上が三角点が置かれているピーク。この横にも南峰と同じように高い電波塔がありました。こっちは何の塔だろう。

 

 このピークからの東方向の眺めです。正面に伊予がヶ岳の岩峰。その右奥には千葉県の最高峰、愛宕山(408m)が見えています。お隣の伊予ヶ岳からこちらを見た様子はこちら

 昼食

 もうお昼なのでシートを敷いて早速昼食の準備。ザックからコンロを引っ張り出しておでんを温めます。
 お日様の光も差してきて、長閑なランチタイムになりました。ちびっこ二人も行儀良く食べていました。

 十一州一覧台

 食後は熱いコーヒーでリラックス。休憩ついでに広場にある展望塔に上ってみました。これには「十一州一覧台」という名が付けられているそうです。ちなみに、十一州とは? と思って帰宅後地図を広げてみました。現千葉県の安房、上総、下総は当然として、対岸の武蔵、、相模、伊豆などもばっちり見えるでしょう。冬晴れの日には遠く北関東の雪山なども見えるかもしれません。なので上野、下野、常陸もを加えて、計9州です。ここまででももう結構ギリっぽいですが、あとは…と考えて思いついたのは富士山。東側から眺めることになるので、山体を二分する形で甲斐(山梨県)と駿河(静岡県)が見えていることになるのでは。うーむ、なるほど。これで「十一州」か。あと、振り返ったら太平洋越しにハワイ州も見えたってオチはないですかね。

 

 一覧台に上ってみるとこの風景。南西側にはさっき登った南峰が見えます。眼下にはスタート地点の駐車場も。

 

 富士山は目をこらしてようやく輪郭が認識できるくらいで、意識しないで眺めたらその存在に気がつかないくらい霞んでいました。
 気温が高いからなのか、今日はせいぜい3州くらいしか見えていないようですね。正面の岩井海岸は海水浴場で、昔会社の福利厚生の海の家があったのを思い出します。夏の間だけ民宿を借り上げるのですが、平成に入った頃から利用者が減ってきて、不景気もあいまって今ではなくなってしまいました。職場単位での旅行などにも利用されていて、親睦には一役買っていたのですが。

 

 広場の方を見下ろすとこんな感じ。

 再び、鞍部

 ひとしきり休んだ後に13時15分、下山開始です。鞍部から右手の道に入り、谷筋を下りて行きます。

 

 道の傾斜はかなりのもの。こっち側から登ってきたらちょっときつかったかも。でも序盤の急傾斜が終わると、道は舗装された林道になりました。ただ車の通行はまったくありません。

 タチツボスミレ

 おっと、春の使者が早くも。今日のような陽気の日が続くといいのですが、これからまだまだ寒波もやってくるでしょう。無事に春を迎えてほしいものです。

 フウトウカズラ

 ツル性の植物が長さ10pくらいの果穂をぶら下げています。葉も生き生きとしていて、この果穂がたくさん付いている様子は、何となく熱帯の植物のような雰囲気を醸していました。これはフウトウカズラ。漢字では「風藤葛」と書きます。コショウ科ということで、本家のコショウもこんな感じに果実が実るのだそうです。

 トベラ

 ガーネットのような輝きを見せているのはトベラの果実。

 伏姫籠窟

 14時、お寺の塀のようなものが現れました。でも本堂のようなメインの建物は見たりません。ここは伏姫籠窟といって、曲亭馬琴の南総里見八犬伝の登場人物、伏姫が愛犬八房と暮らしたという洞穴があるところだそうです。もちろん小説の中の話なのでフィクションなのですが、こういった建築物を見るとあたかも史実であるかのような感じです。ここでちょっと寄り道して洞穴を見に行くことにしました。

 

 寒々とした風景の中で気の早い紅梅が満開です。毎年、こういう景色を目にしながら少しずつ春が近づいてくるのを感じるんですよね。

 

 門のところから左手に上ること100m。参道の先に洞窟がありました。深い山の中といった感じのところで、物語の舞台としてイメージどおりのところでした。ところで伏姫の「伏」の字は「人」と「犬」でできているんですね。

 

 伏姫籠窟を過ぎるとほどなく開けた場所に出ました。あちこちにスイセン畑があります。この辺りは緯度としてはyamanekoの故郷島根とほぼ同じですが、沖を流れる黒潮の影響で暖かいんですよね。

 富山

 駐車場近くまで戻ってきました。今日登った山を振り返ってみます。双耳峰の富山も西側から見るとごく普通の里山ですね。 
 14時40分、ゴールに到着。ちびっこ達も元気に歩きとおしました。えらいものです。駐車場の車は半分くらいに減っていました。ここからまたアクアラインを通って都内に帰ります。
 
 実は今回の企画、一週間前に予定していたものだったのですが、当日は南房総にも雪を降らせたほどの寒波がやって来ていました。それが一週間でこの陽気です。暦の上でもまだ寒の内。こうやって寒い暖かいを繰り返しながら少しずつ春に向かって行くのでしょう。