戸河内 〜定点観察・厳冬〜


 

  観察場所はこんなとこ

【広島県安芸太田町 平成18年1月28日(土)】
 
 立春を間近に控えているとはいえ寒い日が続いています。戸河内での定点観察も5回目。当初の予想では、1月の定点観察は雪に埋もれてしまってできないだろうと考えていましたが、あにはからんや現地までの道路には雪の「ゆ」の字もありませんでした。天気予報もまずまず。いい意味で予想が外れてラッキーでした。

 スタート地点

 恐羅漢入口の集合地点に集まったのは13人。車を下りると思ったより空気が冷たい。川辺だからでしょうか。切り通しからのぞき見るいつもの観察コースも何となく冷え冷えとしていました。今日は日陰には雪が残っているでしょう。長靴に履き替えてスタートです。

 軒下の雪

 観察コースの前半は山の北側になっているので雪がしっかり残っていました。特にコース脇にある空き家の軒下には1mくらいの高さまで。中の方は微妙に空洞になっていたりして、油断しているとズボッとはまりこんでしまいます。

 重たい葉っぱ?

 枯れ葉がすっぽりと雪に沈み込んでいます。といってもこの葉っぱが重たいわけではありません。白い雪は太陽光線のほとんどを反射しますが茶色い葉は効率よく吸収し熱を貯め込みます。その熱で雪を溶かして沈んでいったのです。早春の雪山で木の根元の雪が溶けて丸くぽっかりと地面が見えているところに出会うことがありますが、これも同じことです。

 ジャノヒゲ(種子)

 全体的にモノトーンの景色の中で、輝くような色彩を放っていたのがジャノヒゲの種子。これはヤブランの種子と同じように果実に見えて実は種子なのです。それにしても素晴らしいこの輝き。通販でよく見る黒蝶真珠のようでもあります。
 カケスが数羽群れながら梢を渡っていきました。翼の「大雨覆」と呼ばれる部分が青、黒、白の縞模様になっていて、見た目は鮮やかな鳥なんですが、いかんせん鳴き声が濁声なんです。カラスの仲間なのでいたしかたありませんね。

 河原にも雪

 川の蛇行に沿って観察コースが続いています。この道はやがて小さな集落に至るのですが、そこの人たちは車が通れないこの道を使うことはほとんどないようです。なにしろ過去4回ここで観察していますが、トータルで2人しかすれ違っていませんから。

 ヤブコウジ

 小さな樹木、ヤブコウジ。昔の人はセンリョウやマンリョウなど冬でも緑の葉を茂らせ紅い実をつける植物を愛し、めでたいものと喜んだそうですが、この寒々とした野辺にあるヤブコウジを見るとその気持ちが理解できるような気がします。ちなみにセンリョウ(千両)やマンリョウ(万両)に対してこのヤブコウジは「十両」と称され、アリドオシの「一両」、カラタチバナの「百両」とともに植木などによく用いられています。

 スケルトン

 山肌から雪崩のように崩れ落ちてきた雪が道を完全にふさいでいるところがありました。その雪の上に転がっていたのが上の写真の骨。縦の長さは16〜17p。おそらくタヌキではないでしょうか。そう新しいものではありませんでした。山の上の方で朽ちていたタヌキの骨が雪崩とともにずり落ちてきたのかもしれません。
 ここまででスタートから概ね1時間が経過。遅刻してきたM女史が素知らぬ顔で何事もなかったかのように合流していました。これで参加者は14人になりました。

 「命のプール」の今  2ヶ月前  6ヶ月前

 ケヤキの木の下の「命のプール」。モリアオガエルがこのケヤキの枝に産卵する頃にだけ出現する小さな池です。晩秋にはひからびて、草のないところがようやく池の面影をとどめていましたが、今日は河原に積もった雪が溶けて広い範囲が水浸しになっていました。モリアオガエルは土の中や落ち葉の下で越冬するそうですが、大丈夫でしょうか。(ひょっとしたら毎年こうなのかもしれませんが。)

 朝日

 大きく蛇行する道の向こうに集落が見えます。あの辺りまで行くと朝日が当たっているようです。上空も青空の範囲が広がってきました。

 トキワイカリソウ

 トキワイカリソウの葉が紅葉していました。トキワ(常磐=常葉)とは葉が常緑であることからついた名です。常緑とはいっても当然新しい葉と生え替わるわけですが、新しい葉が展開してからそっと散るので常に葉があるように感じられるのです。その散りゆく葉も役目を終える頃には地味に紅葉するんですね。ほかに常緑樹の代表ともいえるクスノキやマテバシイ、モッコクなども散る前にはちゃんと紅葉します。

 ユリノキ(種子)

 ユリノキの集合果が落ちていました。細長い鱗片のようなもの一つ一つが種子です。この集合果が枝にあるうちにばらけて種子が舞い落ちるのですが、ヘリコプターのように回転しながら落ちてくるおもしろい種子です。→花はこちら

 オナジマイマイ?

 カタツムリ(正しくはマイマイ)の殻を拾った人がいました。帰って調べてみたのですがオナジマイマイでしょうか。(奥の小さなヤツはまた別の種類です。)
 NACS−J(日本自然保護協会)が一昨年全国で実施した「自然しらべ」でカタツムリをとりあげています。その結果をまとめたページが同協会のサイトにありました。→こちら
 カタツムリの名の由来には諸説あるようですが、「潟」にある「螺(つぶ)」が転訛したという説が有力なのだそうです。ちなみに「マイマイ」は「巻き巻き」からだとか。
 
 集落を越えたところで橋を渡ってUターン。ここからは車道を戻ります。

 柴木川

 スタート地点まで戻ってきたら、近くにある広場(太田川と柴木川の合流点の先端)で昼食です。ここには小さな祠があってその前に屋根のある土俵のようなもの(おそらく神楽を舞う舞台)があり、いつもここで弁当を食べるのです。おまけにここは日当たりも良いのです。
 食後は遠くの河原でカワガラスが水浴び(?)をしているのをぼーっと眺めていました。
 
 昼食後は川に入って水棲昆虫を採集します。
 晴天で無風とはいえ、長靴越しに伝わってくる水の冷たさは半端ではありませんでした。水温は5度前後です。

 昆虫か? それともゴミか?

 雪解けの水なのか水量は豊富で勢いもありました。加えてこの冷たさ。おそらく昆虫は見当たらないだろうと思っていたのですが、驚いたことに前回以上にたくさんいるじゃないですか。むしろ台風の傷跡が癒えない9月の定点観察のときの方が少ないくらいでした。

 いただきまーす?

 いつもは岩と岩との間の流れの速いところに網を構えて、その上流の岩をめくって流れ出す虫たちを捕獲するという手法をとっていたのですが、今回は流れの緩いところに溜まっている落ち葉ごとごっそりすくってきている人がいました。それを割り箸でていねいに剥がしていくと、その中にいるわいるわ。ヒゲナガカワトビケラ、ヘビトンボ、チラカゲロウ、コガタシマトビケラ、サワガニなどなど。真冬でも自然の片隅で彼らの生活はずっと続いているということを、この目で見て改めて知ることができました。
 
 あまり長く川に入っていると風邪をひくので、そうそうに上陸して閉会のまとめを行いました。
 太田川上流域の定点観察も今回で5回目。あとは早春3月の観察を残すのみです。前年度(野冠〜宇賀)、前々年度(口田)とも6回すべてに参加することができていませんでした。今年度こそとは思うのですが、はたしてどうなることか。


 スギ林

 スギ林が赤く変色しはじめています。枝先の雄花が成熟してきているのです。2月に入って少しずつ暖かくなると、待ってましたとばかりに一斉に花粉を飛ばすのでしょう。(コンチクショウ!)