戸河内 〜定点観察・晩秋〜


 

  観察場所はこんなとこ

【広島県安芸太田町 平成17年11月26日(土)】
 
 5月、7月、9月と2ヶ月おきに行ってきた戸河内での定点観察。今回で4回目です。季節は晩秋から初冬へと向かっています。

 スタート地点

 9時45分、県道252号(恐羅漢公園線)入口に集合。今回の参加者は14人です。
 スタート地点からいきなり観察が始まりました。みんな山肌に張られた金網に絡みついている植物を見てああだこうだと言っています。「ヤマブドウ?」、「アオツヅラフジ?」。いやどうやらヤマガシュウだったようです。

 ヤマガシュウ  種子(左)と果実(右)

 ヤマガシュウはサルトリイバラと同じ仲間で、木本ではめずらしいユリ科の植物です。漢字で書くと「山何首烏」。何やら曰くありげな名なので調べてみたのですが、どうやら山に生える何首烏という意。その何首烏とはツルドクダミの漢名だとか。ツルドクダミ自身はタデ科の植物で、パッと見はイタドリのような花をつけます。まあ簡単に言うと山何首烏と何首烏とはたいして似ていないということです。(なんだそりゃ)
 果実は液果で、潰すとジューシーな果肉の中から赤い目玉のようなおもしろい種子が出てきました。

 スタート地点遠景

 ひとしきりヤマガシュウで盛り上がったあと、ようやく移動しはじめました。上の写真の中央、狭い切り通しの向こうが車を停めたスタート地点。その切り通しをこちら側に抜けて、写真右手前に橋を渡ります。太田川本流の右岸沿いの小道を距離にして1qちょっと歩き、また橋を渡って今度は左岸を戻ってくる(上の写真の左の道)というのがいつものコースです。
 
 風はなく日が当たっているところは暖かく感じます。でも吐く息は白い。太田川の水量はけっこう多いようで、川水の音が辺りに響いていました。

 ヒガンバナ  ユキノシタ

 山蔭の細い観察路に入ると日が当たらないので途端に冷えてきました。指先が冷たく感じます。
 葉を展開したまま冬を越す植物二つ。ヒガンバナとユキノシタです。(ヒガンバナの葉のことは前回の定点観察レポートで採り上げたので割愛します。)ユキノシタは冬の雪の下で葉が枯れないで残っていることから名が付いたとともいわれていて、この時期でもその葉は生き生きとしています。火傷に薬効を示したり食用としたりでなかなか有用な植物のようです。

 シマカンギク

 花が少ない中、今が盛りと咲いていたシマカンギク。「島」と名が付きますが実は山地に多く沿岸部は好まないのだそうです。このことから牧野翁はあえてアブラギクを正名としたそうです。(昔、花を油に浸けたものを傷薬に用いたのだそうです。) まあ、日本全体が島なんですから山でも島でもいいような気もしますが。

 ツタウルシ

 ツタウルシが趣のある紅葉を見せています。でもご用心。ウルシの類ではもっともかぶれが強いですから。yamanekoも過去にミミズ腫れができるほどかぶれたことがあります。そのときはニラを塩で揉み込むという民間療法で治したのですが、2週間くらいかかったので、ひょっとしたらほっといても自然に治ったのかもしれません。よいこの皆さんは真似をしないように。その後免疫(?)ができたのかかぶれには耐性がある体になったようです。(一般的には一度かぶれると更に過敏になるのだそうですが。)
 
 途中の廃屋の軒下に作られていた大きなスズメバチの巣が駆除されたようです。でもすかさず次の巣を作り始めたのか、前の3分の1くらいの大きさの新しい巣ができていました。最初の巣を駆除したときに女王蜂を採り損ねたのでしょう。働きバチはほとんど見当たらないところをみると、寒くなってみな死んでしまったのかもしれません。

 落ち葉の小道

 観察路はアスファルトが見えなくなるくらい落ち葉が降り積もっていました。歩くたびにカシャカシャと音がしていい気持ちです。

 オオモミジ

 1本のオオモミジの木に緑色から黄色、橙色、赤色、茶色と紅葉の一部始終を感じさせる葉が同居していました。何枚かいただいてそのグラデーションを楽しませてもらいました。ついでにこの葉の中でいったい何が起こっているのか、先日の石ヶ谷峡レポートとかぶりますが、復習してみたいと思います。

 @葉の仕事は、日光と水と二酸化炭素から糖分などを作り、木の命を維持すること。葉の細胞の中には光合成をする緑の色素クロロフィルがたくさん詰まっていて、そのために葉は緑色に見えます。
 
 A秋、葉がその役割を終える時期を迎えクロロフィルが分解されはじめると、カロチノイドの黄色が目立ってきます。カロチノイドはもともと葉の中にあったものですがクロロフィルに比べて量が少ないため目立たなかったのです。
 
 Bクロロフィルが分解される速度よりカロチノイドが分解される速度の方が遅いので、葉は一時的に黄色になります。
 
 Cクロロフィルなどがあらかた分解し終わると、葉柄の先端(枝に接している部分)の細胞が溶け始め、離層というシャッターのようなものが作られます。以降、水や養分は行き来できなくなります。
 
 D離層ができて行き場を失った糖分から赤い色素アントシアンが作られ、葉が赤く色づきます。日当たりが良く糖分を多く作ったところほど鮮やかな赤色になります。
 
 E葉全体が深い赤色に染まる頃、木は厳しい寒さや乾燥から身を守るために離層のところから葉を切り離します。落葉です。
 
 F落ち葉となった葉の中ではタンニンから褐色色素のフロバフェンが作られ、葉全体を茶色にしていきます。枯れ葉色となって葉はその一生を終えるのです。

(参考:「紅葉と落ち葉」山と渓谷社刊)     
 ミツバベンケイソウ

 スタートから1時間が経過。にもかかわらずまだ500mくらいしか進んでいません。
 ミツバベンケイソウが既に花殻になっていました。前回の定点観察ではつぼみだったので、残念ながらちょうど花期を見逃したことになります。

 白い朝

 冬を間近に控えて空気は白く澄みわたり、木々の梢をそよとも揺らすことなくピンと張りつめていました。これで風でも吹いていたら、いかに晴天とはいえかなり寒かったことと思います。
 今日は観察路のいたるところにフユイチゴの実が赤く熟していたので、めいめいが気が向いたときに口に入れて歩いていました。少し酸味があって口の中がスキッとするようです。でも粒の大きさに対して種子が大きいので実際に食べる部分はあまりありませんが。

 ケヤキ

 ケヤキの葉が落ちていました。この木の落葉には特徴があって、葉が1枚1枚別々に落ちていくのではなく、枝先ごと数枚がまとまって落ちるのです。
 写真をよく見ると葉の付け根に小さな果実が付いているのが分かると思いますが、これが単体で落ちるより葉と一緒に落ちた方がより風に運ばれやすく、遠くに着地できます。加えて、ケヤキの葉は小さいので枝先ごと数枚がまとまって落ちた方がより効果が大きいという訳なのです。なかなかの知恵者ですね。

 「命のプール」の今  4ヶ月前

 前々回の定点観察のときに注目した「命のプール」。傍らのケヤキの枝には毎年モリアオガエルが卵塊を産み付け、そしてその頃になるときまってこの木の下に水たまりができるのだそうです。卵塊の中で孵ったオタマジャクシは下にある水面に向かって落ちていくのですが、季節が巡って今では水たまりは枯れて地面が露出していました。モリアオガエルは枯れ葉の下や柔らかい土の中で越冬するそうなので、今頃その辺りの草の根元でじっとしているかもしれません。

 太田川が180度以上蛇行している部分にやってきました。写真左奥から流れてきた川が写真中央で大きくカーブし、写真右奥に向かって流れているのです。何万年かかかって掘り下げた天然の水路です。今後更に何万年かすると流れが中央の小高い山の部分をショートカットして、手前の蛇行の部分が三日月湖のようになるかもしれません。
 それにしても晩秋の長閑な風景です。

 ザクロ  果実

 民家の庭先にザクロの木。葉はみんな落ちてしまっていますが、いくつか実が残っています。その家のおばちゃんから「どうぞ、採って食べてえや」との言葉をいただいたので、さっそく味見を。酸っぱいけれど懐かしい味です。
 「その男の頭はザクロのように割れていた。」 サスペンス小説などでときどき見かける表現ですが、この時期のザクロの実は枝にあるうちからザックリと割れているものも多くあります。しかも実の先端部からではなく横の方から不規則な割れ方です。赤い可食部は種子。まさに宝石のガーネット(石榴石)のようです。
 ザクロは遠くペルシャから平安時代に渡来した植物とのこと。そう言われればかすかに中東の香りがするような… (気のせいです。)

 ツリフネソウ展開図
  ※マウスオーバーでどうぞ

 もう冬も近いというのにツリフネソウがたくさん咲いていました。それも生き生きと。しばらく眺めていたM女史が「いただきます」といいながら一つ花を採って、おもむろに花冠を展開しはじめました。
 全体的に見るとラッパを水平に吊したような形ですが、そのラッパは5つのパーツからできているようで、そのパーツそれぞれが茎から吊された支点の辺りでくっついているのです。もっと筒状にしっかりとした構造だと思っていましたが、パーツごとが点でつながっているだけなのです。意外でした。
 ツリフネソウの実も熟していたので一ついただきました。この実はちょっと触っただけではじけるように種をまき散らすので、知らずに触るとビックリ。はじけた後の莢はゼンマイのようにクルクルに巻いています。裂けた莢が急激に丸まるときの力で種をはじき飛ばすのでしょう。

 ドングリの絨毯

 12時35分、出発地点に戻ってきました。とりあえず昼食です。
 いつも昼食を食べている場所(太田川と柴木川との合流点の先端にある小さな祠のある広場)にものすごい量のドングリが落ちていました。シラカシのドングリです。ここには台風14号の洪水で堆積した砂がそのまま残っていました。

 柴木川  水棲昆虫採集

 昼食後は水棲昆虫の観察です。小春日和のおかげで川に入っても(もちろん長靴でです。)なんとか大丈夫。前回、大水の影響か全くと言っていいほど生き物の影がありませんでしたが、あれから2ヶ月、いつもどおりの生き物たちが戻ってきていました。

 どんな面々が集まったのか

 採集された生き物は、カワゲラ、ヒゲナガカワトビゲラ、ヘビトンボ、チラカゲロウ、カワニナ、サワガニ、ヒル、といったところですが、チラカゲロウはこれまでの定点観察では見られなかった生き物です。
 ひととおり観察して記録したら彼らにはまた川に戻っていただきました。
 
 午後2時、晩秋の日は早くも西に傾きはじめています。
 さて、次回の定点観察は1月下旬。きっとこの辺りは真っ白な雪景色になっていると思います。はたしてこれまでどおり観察することができるでしょうか。
 


 

 ヤマガシュウで作った「モーラ」

 「モーラ」を知っているあなた。 もういい歳ですね。