口田河原 〜定点観察・初夏〜


 

  観察地点はこんなとこ

【広島市安佐北区 平成15年5月24日(土)】
 
 広島自然観察会では今年度の活動の柱の一つとして、身近な自然の定点観察を行うことにしています。
 その場所は太田川の下流域、安佐北区口田(くちた)地区の河原。ここは、一昨年、昨年と口田中学校の生徒達と自然観察学習を行った、なじみの深い場所なのです。
 都市周辺の自然にはとかく目を背けがちですが、こういう場所の自然の変化を知ることも大切なことです。きっとそこからあらたな「気づき」を得ることができるでしょう。

 観察フィールド

 観察フィールドは太田川の河原。
 幹線道路が走る土手から一段下がったところに幅50mほどの河川敷が川に沿って伸びていて、そこからさらに一段下がったところに河原が広がっています。
 河川敷は大まかに区画されていて、駐車場の区画や草っ原の区画があります。対岸の河川敷にはグラウンドなどもあります。
 河原部分はヤナギタデやオナモミ、セイタカアワダチソウなど河原でよく見る植物が密生していて、その中にヤナギやクワ、アカメガシワなどの木本が散在しています。その先にはソフトボール大の礫が水際まで続いています。川は手前側が瀬になっていて、川幅は広いところで30mくらいでしょうか。まとまった雨が降ったあとは礫の部分のみならずその手前の草原部分にまで川が広がります。


 午前9時集合。
 ギョシ、ギョシ、ショシ…。河川敷に下りてまず最初に気づいたのは賑やかに鳴くオオヨシキリの声です。あと、ヒバリ。およそ20m上空でピリピリ、ピリピリとひとしきりさえずり、そして草むらの中に下りてきます。

 薄曇りのような天気ですが、うっすらと汗をかくほど暑いです。

 クワ

 クワがたわわに実を付けていました。黒紫に熟した実はちょっと枝を揺らすだけでボロボロと落ちてきます。
 幼い頃クワの実を食べた経験のある者であれば、この状態を看過できるわけがありません。枝を揺らしてバケツで受ける者、虫取り網ですくい取る者と、子どもに帰って夢中で食べています。

 クワの実
 (これはまだ未熟)

 今回は河川敷部分で圧倒的な勢力を誇るイネ科の植物を中心に観察しました。
 イネ科の植物は特に難しく、どれを見てもみな同じように見えます。同定作業も遅々として進みません。

 あーでもない、
  こーでもない…

 植物を採集してきては紙の上に置き、図鑑と首っ引き。普段は当然に見過ごしていたような細かい部分の特徴を見つけ出します。

 ハルガヤ  カラスムギ  ヒメコバンソウ  スズメノチャヒキ

 ほかにも、ネズミムギ、シバ、イチゴツナギ、カモジグサなどなど。あと、どうしても分からないものもありました。

 たくさんのツバメが目の前を横切っていきます。アクロバティックな飛行をしながら小さな虫を捕らえているのです。草っ原の上を飛び回っていますが、草が刈ってあるエリアにはまったく飛んでいません。ただの雑草の原っぱであっても、そこがたくさんの昆虫を育て、その昆虫がツバメたちの子育てを支えているのです。
 また、ヘビの抜け殻も見つけましたが、そのヘビが生きていけるのも昆虫たちによって支えられているネズミなどの小動物がいるからなのです。頭上にはトビが回っています。
 つながっていますね。
 遠くの瀬には足先の黄色いコサギ。そして涼しげな嘴のダイサギも小魚を狙っています。ケーン…、向こうの河原からはキジの声です。

 このような環境のところなので植物では外来種の占める割合が他に比べて多いと言えます。そのしたたかさ、たくましさによる勢力の拡大。そして上流から流れ着く植物の定着。周辺民家から逃げ出し新天地を求める園芸種。
 都市周辺に広がる自然では民族のモザイクならぬ種のモザイクが進行しつつあるようです。

 ヘラオオバコ