立山 〜天上に広がる別世界(後編)〜


 

 (後編)

【富山県 立山町 平成22年7月20日(火)】
 
 (中編はこちら
 さあ、これから室堂平の花巡りです。時刻は午後3時。帰りのバスはターミナルを5時発ですから、そこそこ楽しめるでしょう。万が一乗り遅れても最終便はもう1本後にありますから。

 ミドリガ池、ミクリガ池と巡って、時間があれば最も低いところにある野営場の辺りまで行ってみたいですが、それはちょっとムリか。

 ミドリガ池へ

 室堂山荘の前から道を右にとってミドリガ池に向かいます。室堂「平」といいつつも、結構高低差があります。ターミナルと野営場とでは150mも。なかなか歩きごたえがありました。

 ミヤマダイモンジソウ

 ダイモンジソウといえばちょっと湿ったようなところに生えているイメージがありましたが、高山のこんな乾燥した岩場でお目にかかれるとは。ミヤマダイモンジソウは花弁の長さがかなり不揃いです。それにちぎり絵の花のように花弁の縁が波々です。

 チングルマ

 こちらも高山植物の代表選手、チングルマです。名前は「稚児車」から来ているのだとか。花弁が淡紅色のタテヤマチングルマというものもあるそうですが、この日は出会えませんでした。

 クルマユリ

 クルマユリはうつむいて咲く花ですが、決して地味ではありません。反り返った花被片の先までピンとしているからでしょう。夏の日射しによく似合う花です。名前は、葉が茎に輪生するから。

 ミドリガ池

 ミドリガ池に立山が映り混んでいます。「逆さ立山」ですね。雄山の山頂あたりは雲の中です。

 ゴゼンタチバナ

 先週、草津白根山でたっぷりと堪能したゴゼンタチバナ。今日は立山で再会です。名の由来となった白山にちょっと近づきました。

 ヤマハハコ

 ヤマハハコはこれから開花ですね。

 テガタチドリ

 スッと伸びているのはテガタチドリ。実物はもう少し赤っぽい紫色です。この花は、去年、霧ヶ峰の車山でたくさん見かけました。

 キレハノハクサンボウフウ

 ハクサンボウフウですが、小葉の切れ込みが大きいところを見ると、キレハノハクサンボウフウではないでしょうか。立山にも分布しているとのことですし。

 ヨツバシオガマ

 砂礫地に咲いていたヨツバシオガマ。谷川岳や乗鞍岳で見たものに比べて室堂平のものはみな小柄のような印象を受けました。

 コバイケイソウ

 コバイケイソウです。高原の花といえば必ず名前が挙がりますね。

 地獄谷

 ミクリガ池の外周を離れ、野営場方面に行ってみます。すぐに展望のよいところに出て、その眼下に広がるのが地獄谷です(右端の建物は雷鳥荘)。地獄谷は、現在立山火山の活動を見ることができる唯一の場所なのだとか。前述しましたが、立山火山は、位置的には現在の立山カルデラの中、既に廃湯となった立山温泉のあった辺りを中心として約13万年前頃に活動が始まり、まず山頂部に噴火口がある円錐状の火山ができあがったそうです。もちろんカルデラができる前です。その後活動の最も盛んだった約10万年前頃にはさかんに火砕流などを発生させ、大量の噴出物を流下させて現在の弥陀ヶ原の平坦面を造ったとのことです。どうやらこの時期に陥没カルデラができたのをきっかけに、その後浸食と崩壊を繰り返して、現在のような大規模なカルデラ地形になったとされています。地獄谷やミクリガ池ができたのはごく最近、火山活動が沈静化した約1万年前以降のことのようで、水蒸気爆発によりできた窪地が成因なのだそうです。このように立山火山は山としての姿は消してしまいましたが、完全には消滅しておらず、ここ地獄谷にその痕跡を残しているということです。

 イワイチョウ

 さて、雷鳥荘の前辺りまで行ってみましょう。ここからだと一段下がる形になります。
 イワイチョウはyamanekoお気に入りの花。フリルの付いたブラウスのようで、清楚ですよね。

 コイワカガミ

 この道もフラワーロードで、両側にこれでもかというくらい様々な花が出てきます。このコイワカガミも大きな群落を作っていました。

 山崎カール

 ときおり視線を上げると、雄山が正面に。雄山山頂の左下にある雪渓のところは「山崎カール」と呼ばれる氷河地形です。地獄谷よりも少し前に作られた地形ということになりますね。

 エゾシオガマ

 この花は花冠が横向きにねじれて付くのが特徴。上唇が嘴状に尖っていますが、一応唇形花ですよね。あの嘴の中に雄しべと雌しべが格納されているそうです。どうやって受粉すんの?

 シナノオトギリ

 細かい種の同定が難しいオトギリソウの仲間。高いところに生えるものにイワオトギリというのもありますが、葉面に黒点が少なかったので間違いないと思います。イワオトギリには葉の表面に黒点が多くあります。

 マイヅルソウ

 マイヅルソウも草津白根山でたくさんお目にかかりました。

 ミヤマアキノキリンソウ

 これだけいろんな花が一斉に咲くと、虫の方も迷ってしまうでしょうね。花の方としても、せっかく花粉を運んできてもらったと思ったら別の種類の花のものでガッカリしたりとか。まあ、虫サイドでもお気に入りの花があるでしょうから、そんなに問題にはならないのかも。特殊な形をした花ならお客さんを限定していますし。

 ハクサンシャクナゲ

 一つの花でも十分綺麗なのに、ボール状に集まって咲くと何かの装飾品のように華やかになりますね。奥の方を向いて咲く花は「ちぇっ!」とか思っているでしょうか。

 オンタデ

 全体にボソボソっとした印象のあるオンタデですが、花をよく見てみると結構可愛いものです。小さい花にはそれに合った小さい虫が来るんですね。オンタデのことを決して割れ鍋とは言いませんが、世の中よくしたもんです。

 血の池地獄

 ここも水蒸気爆発でできた窪地で、そこに水が溜まったもの。水分中に酸化鉄が多く含まれることから、こんな赤い色をしているのだそうです。立山信仰の中で地獄のうちの一つとされていてます。

 アオノツガザクラ

 このアオノツガザクラの花粉を媒介するのも並大抵ではないですね。よっぽど小さな虫でしょう。それともアリか(アリも虫か。)。

 ミクリガ池

 このミクリガ池は、立山信仰では寒の地獄だそうです。そういわれれば水面に靄が立ちこめていて、いかにも寒そうです。残雪に冷やされた空気の温度が水温よりも低くなっているんでしょうね。

 あっ  ああっ

 あっと、これはライチョウ(♀)ですね。しかも子育て中。結構離れていますが、一応こちらを警戒しているようです。立山といえばライチョウですから、会えてラッキーでした。それにしても、雛たち可愛すぎ。

 シナノキンバイ

 シナノキンバイは、名前は信濃なのに基準標本は北海道だそうです。北海道では別な地方名もあるのかもしれません。
 少し日が傾いてきました。そろそろ立山ターミナルに戻らなければなりません。

 弥陀ヶ原

 午後5時、バスに乗って室堂平を離れます。今日は、登山あり、花巡りありで、本当に満足の一日でした。天気にも恵まれたし。
 帰りの車窓から弥陀ヶ原を見下ろすことができました。ここは立山火山の火砕流でできた広大な平坦地です。これだけの量のものを噴出したのですから、そりゃ陥没カルデラもできるというものです。その結果、火山自体は消滅してしまったのですが。まてよ、ということはこの弥陀ヶ原は立山火山が形を変えたものということになりますね。でも、それも称名滝などによってどんどん削り崩されていて、それらは富山平野に向かって流れ下り、扇状地を造っているのです。そのようになだらかになった土地も、また何十、何百万年後には、立山連峰がそうであったように、何千メートルも隆起をするかもしれません。まさに時間、空間ともに人間の物差しを超える、壮大な大地の輪廻転生ですね。 
 
 立山駅に下りてきたのは6時過ぎ。宿のおばちゃんに電話をして迎えに来てもらいました。温泉で汗を流して、その後の夕食とビールが美味かったこと。クーっ! これぞ立山地獄ならぬ「立山極楽」です。(チャンチャン)