高川山 〜360度パノラマの峰〜


 

【山梨県 都留市・大月市 平成23年12月24日(土)】
 
 平成23年も残すところ1週間。巷の慌ただしさをよそに、やっぱり休みの日には野山歩きに出かけてしまいます。今日は山梨県都留市と大月市にまたがる高川山へ。この辺りには手軽に登れる山がいくつもありますが、その中でも富士山の眺望が素晴らしいと有名なこの山に登ることにしたのです。さて、今年を締めくくる山歩き、どんなふうになるでしょうか。
 
                       
 
 新宿駅7時35分発の中央特快に乗って、終点の高尾駅で甲府行きの各駅停車に乗換え。途中の大月駅で下車して更に富士急に乗り換えて、2駅目が目的地の田野倉駅です。ここは大月市街から南に3qほど下った長閑な田園地帯。休日の朝9時過ぎということもあって、下車したのは山登り風の人が数人のみでした。

 田野倉駅

 田野倉駅の駅前はこんな感じ。平日だったら通学の学生くらいはいたかもしれませんが、見事に人っ子一人いません。


Kashmir 3D

 今日のルートは、富士急田野倉駅から歩き始め、高川山を東から西に向かって歩くというもの。ゴールはJR中央本線の初狩駅です。山頂は976m。スタート地点からの標高差は約550mです。

 

 9時20分、まずは登山口を目指して歩き始めます。しばらく行くとこれから登る高川山の山容が望めました。なかなか武骨な姿をしているじゃないですか。頂上は左奥のピークです。

 舟場橋

 この川は山中湖から流れ下ってくる桂川。上流部らしく深く削り込まれた谷になっています。ここに架かる舟場橋という橋を渡って堀之内という集落へ。「舟場」というくらいですから、昔ここに船着き場があったんでしょうね。

 堀之内集落

 堀之内集落から田野倉駅の方角をみた写真。田野倉駅周辺よりまた一段と長閑度がアップしています。道を歩いていると「これから高川山かい?」と地元のおじいちゃんに声をかけられました。住んでいる人も穏やかそうです。そういえば、さっき駅の近くのコンビニ前で缶コーヒーを飲んでいたときも、買い物に来た人から「これから(山登り)ですか?」と声をかけられました。いい雰囲気のところです。

 中央道河口湖線

 しばらく行くと高速道路の下をくぐります。これは中央道が大月JCTで分岐して富士五湖方面に向かう河口湖線です。

 登山口

 9時45分、登山口に到着しました。ここですでにアウターを1枚脱ぐことに。予報では今日も厳しい冷え込みとのことでしがた、ここまでじんわりと上りだったため、体が十分に暖まったのです。ちょうど良いウォームアップになりました。

 ウスタビガの繭

 ウスタビガの繭を拾いました。中にいた虫は既に退去済みです。春に孵化した幼虫が梅雨時に繭を作り、秋には羽化して成虫になるというライフサイクル。成虫は寸胴で正面から見るとなかなか可愛いやつです。ウスタビガの繭はシルエットがミミズクのようでおもしろく、色鮮やかなものを拾うとちょっとした宝物になります。

 

 木立の中を登っていきます。本当は静かさも楽しみたいところですが、この辺りには普通にクマが生息しているので、クマ鈴は付けておかないと。さっき登山口にも熊出没注意の看板が出ていました。

 ホオノキの集合果

 おっと、そのクマの落とし物か? いやこれはホオノキの果実が寄り集まったもの。こういう形態のものを集合果といいます。普通、集合果はバラバラになって飛び散ったりしますが、ホオノキの場合はそのままボトッと落ちています。

 霜柱

 日陰には霜柱が沢山できていました。やっぱり気温は低いです。

 

 支尾根を一つまたいで日の当たる側の山腹に出てきました。ここからは基本的に日向を歩くことになります。

 弁慶岩

 弁慶が投げたとの謂われがある弁慶岩。もちろん実際に投げられるわけはないし、そもそも弁慶がこの辺りを訪れたことすら怪しいですが(奥州に逃げ延びるのにわざわざ鎌倉に近いところを通るわけがないですよね。)、見たことも会ったこともないのにこういったネーミングのものが各地にあるのは、後年になって「弁慶=怪力」という構図が物語や村芝居などで広がっていったからでしょうね。

 

 おっ、あれが頂上か? とも思いましたが、これから通過するピークの一つでした。

 馬頭観音

 大きな岩のたもとに馬頭観音が祀られていました。馬頭観音とは観音菩薩の変化型の一つで信仰対象としての位も高いのだそうですが、民間信仰としての馬頭観音は、荷馬などが路傍で急死した場所に動物供養の意味で祀られていることが多いとのことです(そういえば過去にこんな記述も。)。ひるがえってこの場所を考えてみると、こんな山上に何故? と首をひねってしまいます。昔はここを荷馬が行き来したのでしょうか。

 稜線へ

 10時20分、馬頭観音からすぐのところで稜線に出ました。ここを左に向かえば高川山の山頂。右に向かえば大月方面に下っていきます。

 

 稜線に出てからも結構厳しい上り坂が続きます。肺で効率的にガス交換できるように、鼻から深く吸って口からゆっくりとはき出すという呼吸法で登っていきます。

 

 岩もゴツゴツしていて歩きにくい。

 

 正面に壁のような上りが見えてきました。あのピークは頂上ではなく、頂上はその奥にあるはずです。

 イヌガヤ

 イヌガヤの葉です。茶色一色の世界にあって鮮やかな緑色に生命力を感じますね。昔の人が松のような常緑樹を「活力のある木=めでたい木」と考えたのも分かるような気がします。

 

 いよいよ斜度も大きくなってきました。

 

 クリのイガが落ちていました。もう山頂も近いので、里の人が利用するために植えたものではないと思います。この辺りではクマの好物のブナはないようなので、このクリがクマの重要な食料となっているのだと思います。

 山頂直下

 いくつかの小ピークを越えて、とうとう山頂が見えてきました。ガヤガヤとして結構人がいるようです。

 

 11時10分、山頂に到着しました。田野倉駅から2時間弱の行程でした。山頂は混み合っていて、先客がざっと30人くらいはいるようです。
 とりあえず眺望を楽しみましょうか。

 富士山は

 まずは南南西に鎮座する富士山を…、って、なんと富士山は雲をまとっているじゃないですか。田野倉駅から歩き始めたときにチラッと見えた富士山は純白な姿を見せていたのに。ここに来て雲に隠れるとは。今回の山歩きをなんと心得ているのか!

 東方向

 気を取り直して東の方向に目を転じると、正面に九鬼山(970m)、その左には馬立山(797m)、これらの奥には倉岳山(990m)などのパノラマが。心がスカーッと抜けるような光景です。

 リニア実験線

 九鬼山の麓から突き出ているのはリニアモーターカーの実験線です。トンネルを出てわずかな平地を走り、中央道をまたいで高川山の下に突っ込んでいるのが分かります。残念ながらこの日は走行試験をしている姿を見ることはできませんでした。
 この実験線は10数年前に総延長20q弱で運用が開始され、現在42qまで延伸工事をしているそうです。最高速度は時速500qですから、延伸されてもわずか5分で走りすぎる距離ですね。

 北方向

 北側には滝子山(1590m)、大蔵高丸(1781m)、黒岳(1988m)、雁ガ原摺山(1874m)、姥子山(1503m)などが居並ぶ風景が見渡せました。甲斐国の郡内と国中とを分かつ峰々です。

 

 山頂は更に混み合ってきました。ここらで座る場所をキープして昼食にしたいと思います。

 

 今回は新宿中本の蒙古タンメンです。辛いです。

 北東方向

 昼食後、再び眺望を楽しむことに。北東方向には馬立山から北に派生する菊花山(644m)があります。その麓に大月市街が見えていますね。その奥には百蔵山(1003m)、扇山(1138m)があり、その右手はるか向こうには都県境の山々が並んでいるのが見えます。

 南南東方向

 南南東方向には道志山系の最高峰、御正体山(1682m)が均整の取れた姿を見せていました。手前に見える市街地は都留市の街並みです。

 南西方向

 御正体山から富士山を挟んで反対側、南西方向に見えるのが三ッ峠山(1785m)。あの山の向こうには富士五湖のうちの一つ、河口湖があるはずです。なんとこの三ッ峠山、新宿に住むyamanekoの自宅のベランダから見えるんですよね。

 鳳凰三山

 西北西方向、笹子峠越しに白い頂を見せているのは、南アルプスの鳳凰三山です。右手には甲斐駒ヶ岳の山頂もちょっとだけ顔を出していますね。ここからの距離は50qあまり。ずいぶんと距離があります。それもそのはず、笹子峠と南アルプスの間には甲府盆地が広がっているのですから。ここから鳳凰三山を見る視線はちょうど甲府市街地の上空を通っているんです。

 

 ひととおり眺望を楽しんだので、そろそろ下山を始めようと思います。時刻は12時10分。初狩駅に向かってスタートです。

 

 下りもかなりの急勾配です。しばらく下ると男坂と女坂の分岐が出てきました。ここは距離が短いと思われる男坂の方に。

 

 足を滑らせるとそのまま数十メートル転がり落ちそうな急坂。さすがは男坂です。

 

 12時45分、麓の林道に出ました。30分以上ひたすら下りつづけ、向こうずねの脇の筋肉がカチカチです。

 

 林道は歩きやすく、山頂で楽しんだ眺望などを思い出しながらのんびりと歩いて行きました。山を下りた後の充実感っていいですね。

 

 ここから見ると滝子山がひときわ大きく見えます。初狩の街も見えてきました。

 

 しばらく行くと線路が見えてきました。弧を描いたホームが見えます。あれが初狩駅ですね(ちょうど上りの特急「かいじ」が通過中。)。

 

 2時6分、高尾行きの各駅停車がホームに入ってきました。この電車に乗って高尾で中央特快に乗り換えると、1時間半ちょっとで新宿に到着します。ゆっくりと寝て帰ることにしましょう。
 今回、高川山からの富士山は見ることができませんでしたが、富士山はこの時期毎日ベランダから見ているのでまあ良しとしましょうか(今年のシメだったのに、ああ残念。)。


 

 おまけ。これが今回の装備一式で、毎回これとほぼ同じです。あとこれに水と食料が加わります。救急用品、軽アイゼン、ヘッドランプ、レインウエア、フリースなどはもしもの時のためのもので、通常使うことはありません。でも、それらでザックの半分以上を占めています。備えあれば、ってやつです。