杓子山・鹿留山 〜秋の富士を眺めつつ〜


 

【平成25年9月21日(土) 山梨県 忍野村】
 
 暑さ寒さも彼岸まで。朝夕がずいぶん涼しくなってきて、野山の花も秋バージョンに入れ替わっているでしょうね。しばらく野山に出かけていなかったら、いつの間にか9月も後半に入っていました。なんと前回の野山歩きから1箇月以上経っています。
  今回は、忍野八海で有名な山梨県忍野村にある杓子山(しゃくしやま)と鹿留山(ししどめやま)に行ってみることにしました。標高は、杓子山が1598m、尾根続きの鹿留山が1632m。富士山の東側に位置していて間に遮るものがないので、きっと眺望は申し分ないでしょう。
 
                       
 
 午前4時40分、ドリーム号で新宿を出発。辺りはまだ真っ暗。夜明けがずいぶんと遅くなったものです。とはいえこの時期ちょうど昼と夜の長さが同じくらいなんですが。
 首都高の初台入口が24日まで工事で閉鎖されているので、甲州街道をひた走って永福ランプから首都高に上がりました。3連休の初日ということもあり、この時間でも車は多いです。
 中央道を西進し、山梨県に入り大月JCTで河口湖線へ。今話題のリニアの実験線の高架下をくぐってしばらく行くと正面に富士山が現れました。普段、東京から眺めているサイズとは違って、巨大な山容がいきなりどーんと出てきます。
 河口湖線の終点河口湖ICからはそのまま東富士五湖道路に接続。山中湖ICで一般道に降りて、忍野村の内野地区にある内野コミュニティーセンターに向かいました。

 内野コミュニティーセンター

 ナビにしたがって迷うこともなく6時20分に到着。この施設は名前のとおり地域の公民館的な役割のところのようで、なぜか消防の分駐所とも合体していました。清潔な公衆トイレもあり、ガイドブックに駐車可と紹介されていたので、ここを今日の登山ベースにさせてもらいました。少し眠いのでそのまま車内で仮眠。30分ほど経ってから、出発の準備に取りかかりました。

 杓子山・鹿留山

 軽く準備体操をして、7時ちょうどに出発。静かな集落の中を通って登山口に向かいます。長閑な田園風景。辺りにはもう秋の空気が漂っていました。 途中、畑越しに今日これから登る山々が一望できました。写真中央にあるピークが杓子山で、今日の目的地の一つ。ガイドブックによると富士山の眺めが素晴らしいとのこと。楽しみです。そしてもう一つの目的地の鹿留山は写真右のピークの奥にあってここからは見えていません。 写真左手前のピークは通過する高座山(たかざすやま)です。


Kashmir 3D

 今日のルートは、まず高座山に直登し、あとは稜線の道を辿って杓子山へ。杓子山からはさらに稜線を歩いて、今日の最高点の鹿留山に向かいます。下山は立ノ塚峠を経由して下りてくる予定です。

 秋本番

 駐車場から10分ほど歩いて高座山の麓までやってきました。ここから山際に沿った道を200mくらい歩くと右手に登山口があるはずです。
 歩きながら眺める富士山。見事に左右対称です。そして、高い空を掃いたような絹雲、黄金色の田んぼ。里の秋は本番を迎えています。
 さて、そろそろ登山口があるはず。ところが注意しながら歩いたにもかかわらず、それらしいものがありません。ガイドブックに示された辺りを2往復くらいしてもないのです。たまたま通りかかった人に聞いてみると、地元の方もそんな登山口は知らないといいます。ただ、ずいぶん遠回りにはなりますがこの車道をまっすぐ行って、約2q先の鳥居地峠まで行けば登山口があるとのこと。もう一人、犬と散歩中の人に聞いても同じ趣旨の回答でした。ということで、ガイドブック記載の登山口を探すのは諦めて車道を鳥居地峠まで歩き、そこから稜線に沿って登ることにしました。

 鳥居地峠

 鳥居地峠に着いたのは8時。なんだかんだで40分くらいはロスしてしまいました。

 はじめは林道

 登山道の歩きはじめは林の中。こぶし大の石がゴロゴロしている林道で、乗用車での通行はちょっときついかも。実際には車どころかyamaneko以外は誰も歩いていません。おっ、10mほど前をリスが横切っていきました。大きさからするとタイワンリスか。

 シロヨメナ

 日陰をポッと明るくするシロヨメナ。路傍の花々にも秋を感じます。

 ほどなく登山道入口の看板が現れました。ここで林道を外れて山道に入ります。看板には「落石や滑落等危険箇所があります」と。

 

 登山道はいい雰囲気。木々の間から差し込む陽射しが気持ちいいです。

 高座山

 5分ほど歩くと開けた尾根道へ。正面に見えるのが高座山です。なかなか尖ってますな。

 ハバヤマボクチ

 「葉場山火口」。葉場山とは草刈り場のある山のこと。ここ高座山もそうですが、昔はカヤを採るために山野を定期的に野焼きするなどして草原をを維持していました。いわゆるカヤ場です。名前に「葉場山」が付くということは、そんな環境に生えるということでしょう。「火口(ほくち)」とは火打ち石の火花を受けて火種を作るもので、この種類の植物の葉に生える毛を集めて綿のようにしたもののことです。

 ゲンノショウコ

 これは下痢止めの民間薬として利用されたゲンノショウコ。即効性があることから「現の証拠」だそうです。西日本では紅花が、東日本には白花が多いと聞いたことがありますが、ここには紅花が咲いていました。

 ヤマゼリ

 セリ科の植物は分かりにくくて…。おそらくヤマゼリだと。

 道は尾根筋に沿った直登で、しかも火山灰土なのでまあ滑りやすいこと。普通は段々に足がかりがあるものですが、のっぺりとした斜面です。この上りにはちょっと苦労しました。

 振り返ると転げ落ちそうなほどの急坂が下の方まで続いています。左側の草原状のエリアがカヤ場。現在でもここのカヤを利用しているかは分かりませんが、観光目的で草原を維持している場所も多いです。

 高座山山頂

 最後の方はちょっと信じられないような斜度になりましたが、そこをなんとか登り切るとようやく高座山に到着しました。時刻は8時45分。狭いピークで少し休憩です。息はゼーゼー言っています。

 ガマズミ

  ガマズミが実を付けていました。熟したものはルビーのような輝きを持っていて、見た目は美味そうなんですが、食用に適しているという話は聞きません。もっぱら鳥たちのご馳走、と思いきや、晩秋になっても実が残っていることが多く、鳥にとっても美味しくないのかもしれません。

 ここから杓子山までは再び林間。まずは鞍部に向かって下ります。

 ツルウメモドキ

 足元に落ちていたオレンジ色の実。これはツルウメモドキの実。殻が開いて面白い形になるので、蔓のまま生花やリースなどの材料に使われたりしています。

 テンニンソウ

 テンニンソウの花はそろそろ盛りが終わりかけ。写真は辺りで最も状態の良いものを写しました。名前を漢字で書くと「天人草」。何やらいわくありげな名前ですが、由来は不明とのことです。シソの仲間です。

 登山道に大きな岩が出てくるようになりました。こういうのも単調な山歩きのアクセントになって楽しいです。

 三ツ峠山

 小さな鞍部に高圧電線の鉄塔が現れ、その下をくぐります。谷に沿って北西の展望が開けていて、正面に見えるのが三ツ峠山(1785m)。左奥のは黒岳(1793m)ですね。三ツ峠山はyamanekoの家からも見える山です。直線距離で約80qほど離れています。
 ところで数年前から国土地理院の2万5千分の1地形図には高圧電線が表記されなくなりました。これがあると登山道と電線の交差する地点で現在地を把握でき便利だったのですが。 何で表記しなくなったのでしょうか。yamanekoはテロ防止とか治安上の措置ではと考えているのですが。 

 

 面白いものを拾いました。この籠のようなものはヤママユガの繭だったもの。元はフェルトのような素材で覆われていたものですが、朽ちていく過程で繊維質の丈夫な部分だけが残ったものです。

 シュロソウ

 シュロソウが花から実になりつつあります。実(緑色)は花被片(褐色)を台座のようにしてその中央に直立するという変わったスタイルをとっています。実の形も面白いですね。

 

  小さなアップダウンを繰り返しながら木立の中を歩いていきます。

 ???

 大権首峠(おおざすとうげ)という小さな鞍部に出ると、急にツーストのエンジン音が。見ると山間の果樹園などで使われている作業用のモノレールが山肌の急斜面を登ってきているところでした。何やら3mくらいはありそうな長い荷物を牽引しています。

 テイク・オフ

  すぐ先にハンググライダーの離陸デッキがありました。モノレールはここが終点のようです。いったいどこから上がってきたのでしょうか。荷物と一緒に上がってきた2人組に聞いてみると、直下の谷まで車で上がってそこからレールが続いているのだそうです。それにしてもここから飛んだら気持ちいいでしょうね。

 

 大権首峠からはまた一段と斜度がきつくなりました。道はジグザグになり、山頂が近いことをうかがわせます。

 フシグロセンノウ

 フシグロセンノウの花はペーパークラフトのようです。名前のフシグロは、茎にある節が黒褐色をしているから。センノウは中国原産のナデシコ科の花の名で、京都にある仙翁寺(せんのうじ)に伝えられたことからその名が付いたといわれています。その後、「センノウ」という言葉がナデシコ科センノウ属の花全般を指すようになり、フシグロセンノウのほか、オグラセンノウ、エンビセンノウ、マツモトセンノウといった和名が付けられたようです。

 ヤマトリカブト

 これはヤマトリカブトでしょうか。和の心を感じさせる紫色をしています。「日本の伝統色」でいうところの菫色から青紫、菖蒲色へと移るグラデーションです。

 サラシナショウマ

  サラシナショウマ。瓶ブラシのような花をしています。昔、この花の若葉を水に晒して食べたことから「晒し菜(さらしな)」だそうです。

 山頂はすぐそこ

 周囲が開け、いよいよ山頂が近くなってきました。あとちょっとです。

  10時15分、杓子山の山頂に到着しました。肩で息をしつつも絶景に目を奪われて、しばし呆然。富士山を中心として富士吉田市街から山中湖までが一望です。空気は朝より少し霞んできたでしょうか。でも五合目辺りから上はクリアです。

 杓子山山頂

 山頂には一組の夫婦が。話しかけてみると、東京の東久留米から電車を使って来たとのこと。最近夫婦で山登りを始めたばかりで、この辺りのお勧めの山はと聞かれたので、この春に登った今倉山を推薦しておきました。今倉山から二十六夜山に向う稜線からの景色は抜群でした。

 

 さて、ひとしきり眺望を楽しんだ後、ちょっと早めの昼食を。カップヌードルとスーパーのおにぎりです。なぜかおにぎりにはカープふりかけが。それにしても、日射しを遮るものがないので、暑かった。

 山頂で30分ほど休憩してから、次の目的地の鹿留山を目指します。ガイドブックには「美しい雑木林の稜線漫歩」とありましたが、そこそこアップダウンも。

 半円形に連なる稜線の最も奥まったところに絶景スポットがありました。長い裾野を広げる富士山の姿はもとより、右手にはこれまで登ってきた高座山や杓子山。左手には山中湖や道志山塊まで。さらにその先には箱根の山並みまで見えています。今日のような天気の下でこの風景を見られたこと、これは天恵ですな。(大きな写真でどうぞ)

 足元は…

 足元は急な角度で落ち込んだ崖のような斜面になっていて、それは麓で緩やかになり、内野の集落まで続いています。

 子の神分岐

 我に返ったように再び歩き始めます。子の神と呼ばれる分岐で下山方向と稜線を分けて、鹿留山のピークへ。

 鹿留山山頂

 分岐から5分ほどで鹿留山の山頂に到着しました。木立の中で眺望は得られませんが、大きなミズナラを中心としたホールのようになっていて、なかなかいい雰囲気です。先ほど杓子山の山頂で話をしたご夫婦が先着していたので、ここでもひとしきり世間話を。

 

 小休止の後、子の神の分岐まで戻り、そこからは急降下と言っていい感じで下っていきます。

 

 ところどころ両側が切れ落ちたような箇所もあり、そんなところにはガイドロープが張られていました。

 マツムシソウ

 足元に注意を払いつつも花たちとの出会いは見逃しません。これは秋の花の代表選手、マツムシソウです。涼やかですね。

 コウシュウヒゴタイ

 こっちはコウシュウヒゴタイです。

 険しい道が続きます。岩が露出した急斜面も多く、その都度ストックはたたんで忍者刀のように背中に挿し、設置されているロープを使って慎重に下っていきました。

 ところが、気をつけていたにもかかわらず途中で滑ってしまいました。普通はズルッと滑ってもせいぜいその場で尻餅をつくくらいですが、今回は手を突いても止まらずズザザザッーと数メートル。ひょっとしてこのまま滑落かと滑りながら慌ててしまいました。

  急傾斜の場所が過ぎると比較的なだらかな稜線に。

 立ノ塚峠

  12時15分、立ノ塚峠に到着しました。ここで小休止。急傾斜の連続で緊張していた筋肉をほぐすために軽く体操をしました。

 

 ここからはなだらかな傾斜の林道を延々と下っていきます。気持ちのいい森の中の道ですが、なにしろ単調。これまで疲労もあって、この道が結構こたえました。

 

 やがて数件の家屋が現れ、その先で道は舗装路に。一般住宅とはどこか違った佇まいで、停まっている車のナンバーはみな東京近郊のものばかり。おそらく別荘地なのでしょう。

 さらに下っていくと内野地区の集落が見えてきました。 集落に出てから山の方を振り返ると、今日歩いて来た稜線が一望できました。急傾斜もあって、yamanekoにしては歩きごたえがあった方です。それにしても山上は秋の風情満点だったのですが、里に下りてくると日射しは強くまだ残暑の中でした。
  1時30分、コミュニティーセンターに到着。駐車場は朝と同様に停まっている車はまばらでした。整理体操をして、帰路につきました。
 
 今日は思いのほか秋の雰囲気を楽しむことができました。満足です。 中央道は予想に反し渋滞なし。都内に入って国立府中IC辺りから渋滞しはじめ、調布の先まで止まったり動いたりの渋滞にはまったのみでした。3時20分、無事帰宅。久しぶりの野山歩きで足の関節とふくらはぎの筋肉がガチガチになっていました。2、3日は痛いでしょうね。