曽場ヶ城山 〜小雪舞う山で遊び納め〜


 

【広島県東広島市 平成16年12月30日(木)】
 
 さぁ、今年もいよいよ押し詰まってきました。さすがにそろそろこの一年の山歩きを総括しなければならないでしょう。
 ということで、今年最後の山歩きは、ここ東広島市八本松町にある曽場ヶ城山(そばがじょうやま)にしました。なぜこの山なのかというと、昨日、広島大学構内の「ササユリ谷」の下草刈りをした後みんなで食事をして、その後延々とだべっているときに窓ガラス越しにこの山がチラチラと視界の端に入っていたのを覚えていたからです。

 曽場ヶ城山(南から)

 今年の山歩きを総括するにふさわしい行き当たりばったりのセレクトですが、昨夜3時まで年賀状を書いていて超寝不足であること、ここから帰ってから蛍光灯の掃除をしなければならないこと、などを考え合わせると、近場でお手軽なこの山を選んだことは妥当な選択ですね。そこまでして遊ぶかという感じですが。
 
 JR山陽本線八本松駅前から県道67号線を広島大学方面に南下。約1qほど行って西条バイパスの高架をくぐるとすぐ右手に分かれる細い道があります。車がようやく離合できるくらいの幅ですがきちんと舗装されています。この道を200mくらい登っていくと、そこが登山口です。

 登山口

 10時45分、登山口に到着。軽くストレッチをしてから登り始めます。
 朝方は青空が広がっていたのですが、だんだん雲の量が増してきて、ほとんど空一面を覆ってきました。
 静かな林に甲高いヒヨドリの声が響いています。
 
 辺りはアカマツが中心でその中にいろいろな木々が混じっている、広島県南部を代表するような林。ソヨゴの葉の緑が色の少ない景色の中で目立っています。と、一羽のジョウビタキが目の前の梢に停まりました。背中の紋付き模様がくっきりと鮮やか。雄です。
 しばらく行くとメジロの声がしてきました。いるいる。落ち着きなくキョロキョロと体の向きを変えています。餌でも探しているのでしょうか。でも、停まっている木はリョウブ。この時期、実どころか葉すら残っていません。 

 キクバヤマボクチ

 しばらくは谷筋の湿った道を行きます。登山道に敷き詰められた落ち葉もみなしっとり濡れています。
 キクバヤマボクチの頭花が季節はずれのみずみずしい緑色をしていました。葉の裏は白く、茎も粉を吹いたようになっています。
 
 年末の静かな山登り。行き交う人もいません。
 ツルリンドウの実が光沢のある暗赤色に熟しています。ツルリンドウの花冠は実の時期になっても落ちずに残っているので、まるでタートルネックのセーターを着ているように見えます。

 タカノツメの落ち葉

 タカノツメの落ち葉の甘い匂いがします。綿アメの匂いにそっくりです。葉が枝にあるうちはこんな匂いはしないのに、落ち葉となって地面に舞い降りると甘い匂いを放つのです。なぜでしょうか。

 尾根道

 八本松小学校からの登山道と合流。ここから尾根道になります。上空が少しだけ開け、登山道が明るい雰囲気になってきました。
 携帯で天気予報サイトにアクセスして八本松町の3時間ごとのピンポイント予報を見てみたら、今日は一日中曇り。気温も低く、わずか4度。吐く息も白いです。明日の大晦日はさらに気温が下がって、明け方から午前中にかけて雪のマークがついていました。久しぶりに寒い年の暮れになりそうです。
 
 気温が低いせいかどうもデジカメの調子が悪い。オートフォーカス機能が効かなかったり、露出もでたらめに働いたり、ディスプレイも急に真っ暗暗くなったりします。デジカメはチョークバッグに入れて腰にぶらさげて歩くのがいつものスタイル。寒風にさらされて動きが鈍ったのかもしれません。それともこれまで酷使してきたせいなのか。(このカメラを買ってから2年とちょっと。少なくとも1万回は撮影していて、そのほとんどが屋外です。) とりあえず懐に入れて暖めてみることにしました。
 
 尾根道から右手、八本松駅方面に目をやると、木立越しに米軍の川上弾薬庫が見えます。周囲をぐるりと小高い山に取り囲まれ隠れ里のようになっていて、自然の地形を利用して周囲から敷地内を窺うことができないようになっています。でもここからなら丸見え。敷地内にはいくつかの建物が見えます。また大きな盛り土が板チョコ(死語ですね。)のようにいくつも整然と並んでいます。きっとその地下に弾薬が保管されているのでしょう。 

 待望の日差しが

 ときどき雲間から日差しが漏れてくるようになりました。それだけでも気分が明るくなるようです。
 左右にネジキが多く出てきました。ネジキのねじれ方はみんな同じ方向なのかこの前から気になっていたのですが、見る限りはどれも左巻きのようです。先日来右巻きは1本も目にしていません。
 竜巻の渦、台風の渦、洗面所の栓を抜いたときの渦。北半球ではみんな左巻きになるといいます。ひょっとしたら南半球にあるネジキは右巻きだったりして。

 ウラジロノキの落ち葉  葉の裏を拡大してみると

 ウラジロノキの葉が一面に散らばっていました。パッと見落ち葉に霜が降りている様に見えます。その名のとおり葉の裏は白く、フサフサとした感触。しかし何で葉の裏が毛布のようになっているんだろう。気孔から水分を放出するのにじゃまになるような気がするんですが。そういえば葉の裏に毛が生えている植物は他にもときどき見かけます。さっき見たキクバヤマボクチもそうだし。
 
 汗をかいてきたので上着を1枚脱ぎます。冬の山歩きではレイヤードが基本。こまめな体温調節のために面倒でも脱いだり着たりをする、これが快適の秘訣なんです。インナーは綿素材のものはNG。汗を吸ってしまい、体を冷やしてしまいますからね。
 
 11時50分、曽場ヶ城三の丸跡に到着。ちょっとしたピークで、平らな場所はわずかしかありません。山城なのできっと簡素な造りだったものと思われます。さぁ、腹の虫が鳴くのでスピードアップです。 

 矢竹の切り通し

 11時55分、二の丸到着。ここを過ぎていったん下ると両側を矢竹に覆われた切り通しが現れます。これは戦国時代に矢を調達するために栽培したものの名残りと言われていますが、実際にこの城で戦があったという記録はないそうです。
 この切り通しを抜けたところにあるピークが本丸跡です。標高は577m。ようやく本丸に到着しました。

 向こうに曽場ヶ城山頂

 目の前に曽場ヶ城の山頂が見えます。あれっ、という感じですが、山頂に本丸はなく、二の丸から連なる小さなピークに本丸があるのです。山頂へはここからいったんグッと下って、そこから急な坂を登らなければなりません。

 本丸跡

 さすが本丸があった場所にふさわしく、ここからは広い範囲が見渡せます。でも東には木立があって、また西は山頂のピークがじゃまをして、その部分だけ展望がありません。ガイドブックには、山頂は360度の展望とあります。展望に関してはやっぱり山頂の方が一歩抜きんでているようです。

 本丸跡から見渡せる範囲

 1:水ヶ丸山 2:小田山 3:野呂山 4:蚊無奥山 5:洞山 6:龍王山 7虚空蔵山
 8:安駄山  9:高鉢山 10:高城山 11:呉娑々宇山 12:蓮華寺山 13:古鷹山
 西条盆地

 南西の方向には西条盆地が広がっています。西条盆地は標高200mちょっと。松林の丘が点在し、いくつものため池がちりばめられています。街並みが集中しているのは西条駅周辺。あとはのどかな田園風景で、広島大学が正面に見えています。昨日はそこからこの山を見ていたのです。
 二の丸には長居せずに、さっさと山頂へ。一気に鞍部まで下ります。
 5分ほどで鞍部に到着。ここから最後の急登になります。ここまでもそうでしたが登山道のいたるところに倒木があるので、それを跨いだりくぐったりしながら進みます。今年はどの山を歩いても台風のすさまじさをまざまざと見せつけられました。
 
 12時20分、ようやく山頂到着。標高は607m。本丸より30mほど高いことになります。

 曽場ヶ城山山頂

 やっぱりここからは360度のパノラマ。展望を確保するためか、本丸よりも木立が少なく、ベンチなども整備されています。

 水ヶ丸山(右)と小田山(左奥)

 西南西の方向すぐ隣りにあって最も大きく見えているのは水ヶ丸山、南南西には小田山(こたさん)、その間遙か遠くには広島湾を挟んで江田島の古鷹山の姿まで見えています。
 真南には野呂山の大きな山塊、その左奥には雲と半分一体化していますが四国の山並みまで。

 呉娑々宇山(右奥)と
 高城山・蓮華寺山(中央)

 西の方向には呉娑々宇山、その手前には先日歩いた高城山とそれに続く蓮華寺山。その左肩を越えて遠くに広島湾が見えます。なんと、みるみるうちに呉娑々宇山に雪のカーテンがかかってきました。そういえば一段と気温が下がったような気がします。デジカメの調子は相変わらず。だましだまし使っています。
 
 昼食のカップラーメンを食べていると、とうとうここにも雪が舞ってきました。東の方にはまだ日差しが残っていますが、西の方からどんどん雪雲が移動してきて、山々は次々と雪のカーテンに覆われていっています。足下から冷気がはい上がってくるようです。

 北の方向(12:40)  同(12:45)

 1時、下山開始。相変わらず雪が舞っていますが、風はありません。無風で降る雪の醸し出す情緒、和の心を感じるときです。(自分だけか?)
 下山時にはどうしても足下を見てうつむき加減に歩くことになるので、いろいろなことが頭をよぎりあれこれ考えながら歩くことになります。
 今年もこうやって無事に野山で遊ぶことができました。1月3日の牛田山歩きに始まりこのサイトに掲載したものだけでも50回を超えています。まったくもって遊びすぎです。でも遊ぶにしても自分の納得がいくまでやらないと。「三国鼎立」ではありませんが、「仕事」、「家庭」、「遊び」、この三本足で立っていると安定がいいようです。だからそれぞれに全力投球です。もちろん全力投球できるようにそれそぞれで支えてくれている人たちへの感謝を忘れてはなりませんね。
 
 二の丸まで下りてくると、北の方の山々にかかっていた雪のカーテンが少しとれて稜線がハッキリ見えてきました。
 
 1時45分、登山口に戻ってきました。これで今年は締めくくり。
 それにしても野山に出かけるたびにいろんな興味が湧いてきて、これが尽きることがありません。
 「よーっし! 来年も遊ぶぞー!」(高らかに宣言することじゃないか。)
 


 今年の10月の定例観察会のときに「ガマの穂にはいったい何個の種子が詰まっているのだろうか?」といった話題を書きましたが、これを読んだ島根県邑南町在住の春日さん(指導員仲間で、ときどき三瓶山でご一緒します。)から分かりやすい資料をいただきました。これを見ると飛び散るメカニズムまで一目瞭然。図鑑のコピーと見まがうほどですが、手作りだそうです。ありがとうございました。(ところでどうやって数えたの?)