千足池 〜夏の茜、秋の茜〜


 

【広島県東広島市 平成16年10月3日(日)】
 
 いつの間にか本格的な秋が来ていました。ついこの前まで生活が夏モードだったのに、10月の声を聞いたとたんに、Tシャツはタンスの奥に追いやられ、布団が厚手になり、テレビでは風薬のコマーシャルが流れ始めています。
 10月の定例観察会は、「ため池のアカトンボに見る自然のしくみ」がテーマ。場所はJR山陽新幹線の東広島駅周辺に点在するため池です。

 開会

 新幹線の駅といってもここ東広島駅はのぞみやレールスターは停まらないローカル駅。駅前は商業施設やマンションの建設を当て込んだのか広々と区画整理がされていますが、ざっと見渡してもコンビニが1軒あるだけ。あとは駐車場と空き地が広がっているのみ。ときおり通り過ぎる新幹線が静寂を破りますが、それも一時のことで、また静かな世界にもどっていくのです。
 
 午前9時50分、駅舎の横で開会。本日のリーダーはQJYこと真鍋さんです。今回は、「広島自然の会」で活躍されている呉市在住の神垣さんが講師として協力してくださるとのこと。面白そうな話が聞けそうです。

 新池

 この辺りは西条盆地の東の端にあたります。西条盆地は昔から水の便が良くないところで、いたるところに農業用のため池が造られました。東広島駅からわずが半径1qの範囲内に大小20以上のため池があります。地図を開いて盆地全体でどのくらいあるか数え始めましたが、あっさり諦めました。いっぱいあります。

 神垣氏

 ため池の土手に上がりました。どんよりとした天気が影響しているのか、思ったよりもトンボの数は少ないようです。
 でも神垣さんは手慣れたもので、あっというまにアカトンボを捕まえて解説を始めました。
 アカトンボといってもそれは種の名前ではなく、ナツアカネやアキアカネなど約20種にものぼるアカトンボ属のその属の名前を指すのだそうです。
 神垣さんが捕まえたのはナツアカネのメスで、産卵の様子を見せてもらいました。トンボがホバリングをしながら水面にお尻をチョンチョンとつけているのを見たことがある人は多いでしょう。あの要領で空きビンの水にチョンチョンとつけると、直径1oにも満たない小さな卵を水の中に産み落としていました。通常メスのナツアカネは1回の産卵で数千の卵を産むのだそうです。ちなみにイトトンボなどは木の幹などに直接産卵管を突き立てて産み付けるのだそうです。

 ナツアカネ

 ナツアカネとアキアカネの簡単な見分け方。
 オスで、目まで全部赤いのがナツアカネ、しっぽの先だけ赤いのがアキアカネ。メスでは…、メスは専門家でも間違うくらい見分けがつきにくいそうです。
 もっと大雑把に言うと、池を飛び回っているのはナツアカネ、田んぼを飛び回っているのがアキアカネ、だそうです。なんとアバウトな。

 コガマ

 池のほとりにコガマが咲いて(?)いました。短めの魚肉ソーセージのようなものは雌花穂。すなわち雌花がぎっしり集まったものです。その上の細長い部分は花粉を出し終わってしぼんだ雄花穂です。もっと秋が深まってくると、雌花穂が白い毛のかたまりのようになり、風に乗って飛び立ちます。いつか誰かが「ガマの穂にはいったい何個の花があるか数えてみてはどうか。」と言っていましたが、誰か数えた人はいないでしょうか。
 
 観察会の一行は新池を離れて里山の方へ向かいました。小さな神社に田んぼ。その向こうに広がるアカマツ林。これぞ里山といった感じの風景です。ただ田んぼは休耕田となっていましたが。

 ワレモコウ

 この時期よく見かけるワレモコウの花です。正確には小さな花が集まった花序という状態のものです。
 ワレモコウの花は窮屈そうに身を寄せ合っていますが、ナイフで花序を切ってみるとはじけるように開いて、きれいな形を見せてくれます。この花には花弁はなく、4個の花弁のように見えるのは萼です。

 セイタカアワダチソウ(上から見たところ)

 セイタカアワダチソウがそろそろ咲き始めています。
 この花は花粉症の原因だとか、あたりかまわず跋扈しているだとか、とかく良くないイメージで語られますが、そもそも虫媒花なので花粉は飛ばないし、よく見ると小さな花がかわいいです。yamanekoも決して嫌いではありません。

 イボクサ

 休耕田に赤紫色の小さな花が。イボクサです。雄しべの葯はターコイズブルー。ツユクサの仲間だけあって鮮やかな色合いです。

 イヌセンブリ

 みんながしゃがんで覗き込んでいたのがこのイヌセンブリ。よーく見ると花冠の真ん中にモジャモジャの白い毛があります。これがイヌセンブリの特徴です。

 キリの果実

 道路脇のキリの枝でその果実が熟していました。もう二つに割れかけていて、揺すると小さな種が飛び出してきます。種には翼がついていて風に乗って遠くまで飛んでいくことができるようになっています。大きな木、厚ぼったい花からは想像できないほど小さな種です。フッと吹いてみると、手のひらからあらかた消え去ってしまいました。

 千足池

 12時過ぎ、折り返し地点の千足池に到着しました。ちょっと大きめの池です。
 堰堤の草原の上にはたくさんのトンボが飛び回っていました。そのトンボたちの下に腰を下ろして昼食です。視点が下がると今度はバッタやコオロギが目につきます。黄色い蝶も飛んできました。

 堰堤の斜面

 今日もたくさんの発見をしました。日頃よく目にしているものでも、ちょっと近づいて見てみたり、ちょっと見方を変えたりするだけで、いろんな発見があるものです。ホント、毎回飽きることがありません。
 
 午後2時半、出発地点の東広島駅に戻ってきました。けが人もなく何よりでした。
 さあ、次回はどこだっけ?