白金自然教育園 ~都心に残された森・冬12月~


 

【東京都 港区 平成24年12月16日(日)】
 
 白金自然教育園での月イチ自然観察。いよいよ最終回です。都心の紅葉は12月前半が見頃。今回は紅葉を愛でながらの観察になると思います。
 
 昼前、まずは衆議院総選挙の投票を済ませてからと、投票所になっている近所の小学校へ向かいました。今日は気温が高くぽかぽかの陽気。風もありません。外出するには最適の日和です。そんな天気が影響したのか、投票所に行ってみると順番を待つ行列が体育館の外にまで長く伸びているでなないですか。こりゃこのまま並んでいたら当分かかりそうだわいと考え、投票には夕方あらためて来ることにしました。
 ということで、駅に向かって踵を返したyamaneko。JRで四ッ谷まで行って、そこで地下鉄の南北線に乗り換えました。白金台駅で降りて地上に出ると、自然教育園の入口まではおおよそ3分ほどです。

 路傍植物園

 午後1時半、観察の開始です。
 入口の管理棟を抜けて園内に入ると、奥に延びる観察路の左右に路傍植物園が続いています。落葉樹の木々が葉を落としているせいで、日差しが地面にまで届き、明るいプロムナードになっています。

 ムサシアブミ

 落ち葉の中から突き出ているこの赤いマイクはムサシアブミの果実です。ちょっと頭が重そうですね。同じサトイモ科のマムシグサの果実も似たような姿をしていますが、それよりも二回りくらい大きいです。

 コゴメウツギ

 コゴメウツギの黄葉は芥子色。マスタードというより和芥子の色合いです。初夏に咲く花は、白く小さく、まるで砕けた米(=「小米」)のようということで、これが名前の由来となっています。

 センリョウ

 クリスマスカラーなのに、クリスマスを飛び越してその先の正月をイメージさせるセンリョウ。「千両」の名前から縁起物として正月の生け花などに使われますからね。

 

 左右をキョロキョロしながらゆっくりと歩いて行きます。今日は園内に人影も少なく、静かです。年の瀬ですな。

 

 ところどころにこんな鮮やかな紅葉があって、しかもそれが雑木林の中に普通にあったりするのがいいです。

 

 路傍植物園の先で道は二手に分かれ、右は水生植物園へ、左は水鳥の沼へと続いています。今日は左から回ってみましょうか。

 ムクロジ

 レモンイエローに黄葉しているのはムクロジです。黒々とした幹とのコントラストが印象的ですね。

 

 こうやってみると黄葉にもいろいろな色があるものです。

 

 初冬の野山を静かに歩く(本当は都会のど真ん中ですが)。紅葉の様子も作った感がなくて好感が持てます。

 

 散策路はモミジの葉で埋め尽くされていました。

 水鳥の沼

 水鳥の沼も落ち葉だらけ。ここはいつも薄暗いのですが、木々の葉が落ちると雰囲気が一変しますね。写真右奥の木立の向こうに見える構造物は首都高2号線です。うむ、こういう構図は東京ディズニーリゾートと共通するところがありますね。すぐ外側には現実世界が広がっているのに、上手く遮蔽することによって、広大なディズニーの世界の中にいるような感覚になってしまうという。でも、ここの場合は、もともと広大な自然溢れる場所だったところが周りから開発の波が寄せてきて、結果として残ったのですが。

 コバギボウシの種子

 水鳥の沼から流れ出る小川に沿って歩いて行きます。これはコバギボウシの種子。鞘の中に黒くて薄い種子が詰まっていて、熟すと鞘が開いて風に飛ばされていくという作りになっています。ところで種子の大きさに大小があるのはなぜなんでしょうか。

 いもりの池

 しばらく行くといもりの池です。いつになく明るく、そして静かです。そういえばこの池では夏に行儀の良いカルガモの親子を見ました。あのうちの何羽が生き延びることができたでしょうか。

 

 ここから丘の上にある武蔵野植物園に向かって歩いて行きます。林の中の低層の植物はアオキやシュロなどの常緑樹。高層の植物はアカマツ。その間の中層を構成しているのがモミジなどの落葉広葉樹です。

 

 下から見上げるとこんな感じ。冬の午後、低い光に照らされて熾火のような色になっています。

 武蔵野植物園

 森の上部が開けた丘の上にやってきました。ここが武蔵野植物園。園の北西部に位置しています。

 ヒイラギ

 おお、今日初めて出会う花。これは冬に咲くヒイラギです。漢字では「柊」と書きます。なるほど、木偏に冬となるわけですね。ちなみに木偏に春と書くのは椿(つばき)ですが、花の盛りは春ではなく冬ですよね。同じように榎(えのき)の花は夏ではなく春に咲きます。そして楸(きささげ)の花もやっぱり秋ではなく夏に。そうするとヒイラギの花だけが名前に忠実に咲いているんですね。

 マルバウツギ

 マルバウツギの紅葉は渋い色合い。こういうのと森の中で出会うとじんわりと秋を感じるんですよね。

 ハリギリ

 カエデのような形をした葉ですが、これはハリギリ。大きさは団扇くらいあります。ハリギリはカエデの類とは無縁で、ウコギ科に属しています。タラノキ(タラの芽が採れる木)などと同じ仲間です。名前のとおり茎に鋭い刺があるので要注意です。

 テンニンソウの実

 テンニンソウの実。午後の光に照らされて輝いています。

 ツクバネウツギ

 おやこの花は? ドライフラワーのようでもありますが、これは花冠の部分ではなくツクバネウツギの萼片。花冠は枯れて落ちてしまっています。主役が去ってしまった後の舞台(枝先)でなお楽しませてくれる、名バイプレイヤーですね。

 ヤブラン

 丘を下って湿地の近くを歩きます。
 黒光りしてお節の黒豆を思い起こさせるのはヤブランの種子。一見、果実のように見えますが、外側の部分は早くに離脱してしまって、残っている部分は種子なのです。

 

 おもしろいモミジの葉を拾いました。斑入りみたいになっています。おそらく上に重なっていた葉で日陰になっていたのでしょう。そこだけ糖類が生成されずに、紅葉の季節になっても赤くなれなかったのだと思います。

 

 ここの落ち葉は黄色が主体。ここの自然教育園は基本的に落ち葉かきをしないので、吹きだまりには落ち葉がうずたかく積もっています。

 

 すっかり冬枯れですね。ここは夏には鬱蒼としていたところなんですが。

 

 でも、そのおかげでたっぷりと陽光が差し込み、カラスウリの実を赤々と照らしています。ところでこのカラスウリ、鳥たちにはウケが悪いらしく、真冬になっても食べられることなくぶら下がっているのを見かけます。yamanekoは口にしたことはないですが、ひどく苦いらしいです。

 水生植物園

 水生植物園が見渡せる場所に出てきました。いい感じの枯れ野原です。来るたびに違和感を感じるんですが、確かにここは港区白金台なんですよね。

 ハンノキ

 湿ったところを好んで生えるハンノキ。湿地でも森林を形成することが出来るほど湿潤な環境に適応している植物です。材も水っぽいと思いきや、油分を含み良く燃えるとのこと。薪炭材として重宝されたのだそうです。

 

 細長いのは雄花序の冬芽。今は固く締まっていますが、春先にはほぐれて花粉を飛ばします。丸いのは熟した果穂です。

 マユミ

 褐色の中に桃色の実が愛らしいマユミ。若干くたびれ気味ですが、その色にホッとさせられます。マユミは茎がよくしなるので弓の材料に使われたといいます。漢字では「真弓」と書きます。

 

 ノイバラのヤブの中にいるのはシジュウカラですね。赤い実は食料が少なくなるこの時期ではご馳走でしょう。なかなか表に出てきてくれなかったので、これがベストショットでした。

 定点写真

 今年最後の定点写真です。先月まで緑色だった左手の木立が今月は茶色になっていました。頭一つ抜け出しているアカマツが緑色で残っているのみです。観察を始めた今年の1月も茶色一色でしたが、そのときこの池は全面凍結していました。この一年の移り変わりはこちら

 アオキ

 熟す前のアオキの実が、何か季節外れに思えるほど瑞々しいです。これから冬が深まるにつれて深紅に色づいていきます。

 東屋

 水生植物園とひょうたん池との間にある東屋。常緑樹の林の下にあるのでいつも薄暗いのが難点です。そういえばこの一年間、この東屋で休憩したことはありませんでした。

 物語の松

 さあ、そろそろ園の入口の方に向かって戻って行きましょう。
 おそらくここが松平讃岐守の下屋敷だった頃から立ち続けているであろうクロマツ。名前を「物語の松」といいます。見るからにいろんな逸話がありそうですね。

 

 こんな小径を歩けることの幸せ。静かに時が流れていきます。

 

 アカガシの太い枝がアーチのように伸びています。その奥には明かりが灯ったような紅葉が。

 

 近づいてみると、キチジョウソウの草むらにモミジが降り積もっていました。ありそうでなかなか見かけない光景です。

 

 午後3時、観察を終えて管理棟まで戻ってきました。この先には目黒通りが通っています。そこには現実世界が広がっていて、通りに出ると止まっていた時間が再び動き出すような感覚になります。今回はこれで終了です。
 
 この一年、港区白金台にある国立科学博物館附属自然教育園で観察してきました。いや、観察というより、毎回のんびりと散策していたと言った方が良いでしょう。昔、この近所に住んでいた頃にはしょっちゅう訪れていましたが、その後長く東京を離れていたこともあり、今回のように一年を通して訪れたのは久しぶりです。懐かしく、楽しい一年間の定点観察でした。これからも長く残してほしい場所です。
 
 おお、そういえばまだ投票を済ませてなかった。これからもう一度投票所に足を運んで一票を投じてきたいと思います。さすがにもう行列は解消しているでしょう。
 
 
   自然教育園の周辺の様子