白金自然教育園 ~都心に残された森・秋10月~


 

【東京都 港区 平成24年10月20日(土)】
 
 10月も後半、ずいぶん朝夕が涼しくなってきました。朝起きてブラインドを上げると窓の内側がうっすらと曇っていたりします。もうそんな季節になったんですね。
 街路樹の色づきはまだまだですが、野の草花にはきっと変化が現れているはず。さあ、秋の白金自然教育園の様子を見に行きましょう。

 歩き出し

 管理棟をくぐって園内に入ります。街の賑わいが一気に遠のいたよう。森には音を吸着(?)する作用があるんでしょうね、きっと。

 シロヨメナ

 園内を奥に向かって歩いて行きましょう。最初に出会ったのはシロヨメナ。ヨメナは薄紫色なのでその白いやつということです。漢字では「嫁菜」とも「夜目菜」とも書き、名前の由来も諸説あるそうです。

 タイアザミ

 関東地方ではポピュラーなタイアザミ。ナンブアザミの変種とされています。白い粉のようなものが出ていますが、これは葯筒から押し出された花粉ですね。刺激を与えるとにゅっと押し出されてきます。花蜂などが留まったときにその振動を感じて花粉を出すのだそうです。

 チャノキ

 ツバキの花をぐっと小さくしたような姿をしていまるチャノキの花。みんな下向きに付いています。
 お茶を飲む習慣が広く根付いている日本。でもチャノキは日本に自生していたものではないそうですね。奈良時代に伝来し、本格的な栽培が始まったのは鎌倉時代のことだとか。当初は限られた階層の人でなければ飲むことができないものだったそうです。落語などで庶民がお茶を飲む様子が出てきますが、この習慣が庶民にまで広まったのは江戸時代のことだそうです。
 一方、原産国とされる中国ではかなり歴史があるようです。吉川英治の「三国志」は好きで何度も読み返している小説ですが、若き日の貧しい劉備が茶の葉を買うため黄河の畔に佇んで洛陽船を待つシーンから始まるんですよね。瀕死の病人に飲ませるかよほどの身分の高い人しか飲めないものだったお茶。船が運ぶ交易品の中から当時金よりも高価だった茶の葉を買い求め、病弱な母に飲ませようとしたのです。(直後、何年もかけて貯めたお金で購ったそのわずかの茶葉を黄巾賊に強奪されるという悲劇。) 2千年後の日本では食堂に入るとだまっていても出てくるんですが。しかも無料で。

 ひょうたん池

 のんびりと園内の奥まで歩いて行きます。やがてひょうたん池まで下りてきました。遠くでカモがのんびりしています。カルガモですね。夏場は見かけませんでしたがどこに行っていたんでしょうか。

 定点写真

 水生植物園での定点写真です。先月よりも少し季節が進んだか。水際のアシが茶色くなっています。

 

 モミジの紅葉はまだまだですね。といいつつ狙っていたのはカモの方。でも動きが素早くてどうしてもいい具合に写ってくれませんでした。

 水生植物園

 水生植物園の風景。ススキが風に揺れています。秋ですな。

 カミエビ

 「カミエビ」 聞き慣れない名前ですが、調べてみるとアオツヅラフジの別名なのだとか。ふーん。漢字で書くと「神葡萄」。葡萄はエビヅルのことで、神のように薬効のあるエビヅルという意味なのだそうです。

 

 そのエビヅルの写真を撮っている手に遠慮なく乗ってきたイナゴ君。振り払わないとどいてくれないほど呑気なヤツでした。

 

 アキノウナギツカミ

 「秋の鰻掴み」 茎に下向きの刺があり手に引っかかるのでウナギでも掴めるということらしいです。しかしこのネーミングの奔放さよ。ギザギザの茎を言うのにウナギを持ち出すとは。

 秋の野

 秋が深まりつつある港区白金台。空が高いです。

 ノダケ

 これはノダケです。もう果実ができていますね。セリの仲間なのに「野竹」とは。葉の付け根にある鞘がタケノコのようだということで付けられた名だそうです。

 キタテハ

 これはキタテハですね。このまま成虫で冬を越す個体でしょうか。カメラを近づけても逃げようとはしませんでした。ひなたぼっこ中に邪魔するなよといわんばかりに、ときおりめんどくさそうに羽根をたたんだり開いたりしていました。

 ミゾソバ

 湿り気のあるところに群生するミゾソバ。小さな花ですがよく見ると色といい形といい美しいです。花弁の縁や先端がピンク色に染まっていて、これで花冠がもっと大きかったらきっとみんなからチヤホヤされると思うのですが。

 ホトトギス

 ホトトギスは枝垂れて咲くようなイメージがあるのですが、この株はしっかりと直立しています。もうそろそろこの花の時期も終わりですね。
 ところでホトトギスはそのまま鳥の名でもあります(というかもともと鳥の名が先。)。他にも鳥の名を持つ植物はたくさんあって、探し出すと次々と出てきます。例えば、この時期ならヒヨドリバナ(鵯花)、写真のホトトギスのすぐ近くにも咲いていました。あと、先月咲いていたのはカリガネソウ(雁草)。サギソウ(鷺草)やトキソウ(鴇草)はランの仲間。マイヅルソウ(舞鶴草)やツバメオモト(燕万年青)はユリの仲間です。カラスムギ(烏麦)やスズメノカタビラ(雀の帷子)は土手にはびこるイネ科の植物。ほかにもキジムシロ(雉蓆)、カモメヅル(鴎蔓)など地味なラインナップもそろっています。「花鳥風月」とはよっくいったもので、花と鳥は切っても切れない間柄なんでしょう。

 

 ん? …ユリ科の植物の蒴果ですね。この辺りにはノカンゾウが咲いていたので、その蒴果かもしれません。この中にコインを積み上げたようにして種子が格納されていたはずですが、もうあらかた落ちていますね。

 森の小径

 森の小径をたどって武蔵野植物園に向かいます。静かです。

 サネカズラ

 なんかこんな形の和菓子を見たことがあります。これはサネカズラの果実。正確には小さな丸いのが果実で、それがくっついている真ん中の部分は果床と呼ばれるもの。イチゴでいえば実の本体部分に当たります。
 サネカズラは別名ビナンカズラ(美男葛)といい、これは昔、蔓から取れる粘液を整髪料にしたからだそうです。

 チャノキ

 ヤブの中にチャノキの実がありました。チャノキは茶畑では高さ1mくらいに刈りそろえられていますが、放っておくと2mくらいにもなる植物です。

 武蔵野植物園

 武蔵野植物園までやってきました。まだ昼過ぎですが日射しが弱々しく少し白いです。

 コウヤボウキ

 秋の林縁でよく見かけるコウヤボウキ。高野山の僧がこの木の乾燥した枝を束ねて箒として使っていたということです。

 ヤマハッカ

 ヤマハッカにはハッカ(=ミント)の名前が付いていますが、ほとんど香りを感じません。花の大きさは7、8㎜くらいとごく小さいです。でも、よく見るとちょっと変わった形をしているのに気がつきます。シソ科の花は下の花弁に切れ込みが入っているものが多いですが、このヤマハッカは上の花弁に切れ込みがあって、4裂しています。ぱっと見小さな野球のグローブのようです。

 フジバカマ

 フジバカマは今では野生のものを見かける機会は少なくなっているそうです。その花の形は独特。線香花火の光跡をそのまま花にしたような造形ですね。

 

 午後の日を透かしてみるモミジの葉。この葉が赤くなるのはあと1箇月以上は必要でしょうね。都内での紅葉は12月初旬なんです。
 そういえば今月は神無月。全国の神様はこぞって出雲に出張しているときです。出張先での仕事は縁結び会議。そろそろ結論を出すべく会議も佳境を迎える頃でしょうね。最後の方はなかば適当に決めていたりして。いろいろ想像してみるとおもしろいです。神様の実力もまちまちで、その後の離婚率とかで神様のランキングができていたりして。「あの神様の結んだ縁はすぐほどけるんだよね。」とか。
 神無月の次は霜月。実際に霜が降りるのにはまだ間がありますが、少しずつ冬に向かって季節が動いていくでしょう。そのあたりはまた来月の観察で見てみたいと思います。
 
 

   自然教育園の周辺の様子