至仏山 〜山上の花畑ふたたび(後編)〜


 

 (後編)

【群馬県 片品村 平成25年7月28日(日)】
 
 花で覆い尽くされる夏の至仏山、後編です。さあ、いよいよ山頂に近づいてきました。(中編はこちら

 尾瀬エリア
 Kashmir 3D
〔今回のルートを大きな地図で〕

 午前9時前に鳩待峠を出発し、オヤマ沢田代を過ぎて、小至仏山の手前までやって来ました。時刻は12時、ちょっと時間がかかりすぎでしょうか。なにしろ花が多すぎていちいち観察していたらいくら時間があっても足りないのです。中編ではこの山の名を冠したオゼソウにも出会えました。ここからまた違う花が現れ、きっと退屈することはないでしょう。

 

 雲の中に入ってきたのか視界に白いベールがかかってきました。いい雰囲気です。斜面にはコバイケイソウの白い花がいっぱい咲いていますね。

 イブキジャコウソウ

 環境が草原から岩場に変わってくると、花のラインナップも変わってきます。これはイブキジャコウソウ。「イブキ」は滋賀県と岐阜県にまたがる伊吹山のこと。ハクサン○○が多いように、イブキ○○という植物も多くあります。

 イワシモツケ

 イワシモツケはバラの仲間。標高の高い蛇紋岩地や石灰岩地に生えるのだそうです。

 ホソバコゴメグサ

 背丈10pほどのホソバコゴメグサ。唇弁の中央にある黄色の斑紋が可愛いです。

 完全な雨装備で登っていきます。透湿防水のゴアテックスとはいえ、若干蒸し暑いです。

 ハクサンフウロ

 これまたハクサンファミリーのハクサンフウロ。花弁に雨粒が乗ってみずみずしいです。

 エゾウサギギク

 タンポポのようなこの花の何がウサギなのか。図鑑によると、葉の形と質感がウサギの耳に似ているからだということです。ふーん。

 ジョウシュウアズマギク

 これはジョウシュウアズマギク。上州とは現在の群馬県のこと。ミヤマアズマギクの変種で至仏山と谷川岳周辺の蛇紋岩質の場所にのみ生えるのだそうです。至仏山と谷川岳は花崗岩の基盤の上に蛇紋岩が乗っている形で、よく似た地質をしているのだそうです。

 ジョウエツキバナノコマノツメ

 こちらは上越黄花の駒の爪。元となるキバナノコマノツメは唯一、名前に「スミレ」の文字が付かないスミレ。その変種がジョウエツキバナノコマノツメです。上越は新潟県西部のことで、こちらも谷川岳と至仏山周辺でしか見られないそうです。ちなみに「駒の爪」とは、葉の形が馬の蹄に似ているからだとか。

 ホソバツメクサ

 このホソバツメクサも至仏山や谷川岳に特徴的な花。ただ、分布はかなり広く、東北や北海道でも見られるそうです。ナデシコの仲間です。

 小至仏山

 12時30分、小至仏山に到着。ガスって何にも見えません。妻は通り過ぎてからバンザイポーズです。

 タカネバラ

 小至仏山を過ぎると山頂まではあと1qほど。タカネバラが「ガンバレ!」と励ましてくれていました。

 登山道は稜線の西側を通っています。雨粒は落ちなくなりましたが、辺りはすっぽりと雲の中です。

 ミヤマウイキョウ

 砂礫地や岩場で健気に咲いているミヤマウイキョウ。細かく裂けた葉が震えるように揺れていました。

 足場の悪いアップダウンが地味に体力を奪っていきます。

 タカネナデシコ

 雨に濡れてしょぼくれているタカネナデシコ。今度はこっちが「頑張れ」と声をかけました。

 山頂間近

 傾斜がさらにきつくなってきたようです。そろそろ山頂か?

 到着

 そして1時15分、山頂に到着しました。するとさっきまで辺り一面真っ白だったのが急にガスが晴れて、頭上には青空が広がってきたではないですか。これはやはりあれか、普段の行いというヤツか?
 妻が笑っているのは、石柱の後にいるおじさんがシャッターを押したタイミングでぬっと顔を出し、石柱の上にさらし首のようになったから。おじさん、またしゃがんでしまいました。

 遙か下には尾瀬ヶ原。その奥には至仏山の盟友、燧ヶ岳が。尾瀬ヶ原の右手の山の上には明日訪れる予定のアヤメ平。そしてさらに右には今朝出発した鳩待峠が見えます。白い小さな点が山小屋ですね。今朝、あそこからここを見ていたのです。

 尾瀬ヶ原

 尾瀬ヶ原をアップで。湿原を隔てる緑の帯が幾筋か見えますね。あれは拠水林。湿原は貧栄養に加え枯れた植物が厚く堆積した環境なので高い樹木は生えることができないのですが、湿原に流れ込む川のほとりには、山からの土砂が栄養分と共に堆積して自然の堤防ができ、そこに並木状に木が生えるのです。なのであの緑の帯は川の流れでもあるわけです。

 山頂の西側はスパッと切れ落ちた断崖。かなりの高度感です。

 十勝夕張弁当

 さて、ひとしきり眺望を楽しんだら、昼食です。これは今朝、関越道の上里SAで買った十勝夕張弁当。これは去年、たまたま買って気に入った弁当で、上里SAで買ったことを覚えていたので、再び購入。うん、変わらない美味しさです。

 至仏山山頂。雲がびっくりするほどのスピードで動いています。ラピュタの「竜の巣」が現れそうです。

 下山

 山頂での休憩時間は30分ほど。1時45分には下山開始です。下山は来た道を折り返します。

 コメツツジ

 亜高山に生えるコメツツジ。透き通るような白い花弁です。下りも花を楽しみながらなので、相変わらずゆっくりペースです。

 チングルマ

 これも高山植物の代表格のチングルマ。この花を見て高山に来たなと感じる人は多いと思います。

 

 小至仏山をすぎてようやく木道エリアに。滑りやすい蛇紋岩から解放されてホッとしているところです。

 コバイケイソウ

 ちょうど満開のコバイケイソウ。この花はなぜか今日のようなガスで霞んだ風景にも似合うんですよね。

 ワタスゲ

 午後3時、オヤマ沢田代まで下りてきました。ワタスゲが風に揺れています。

 

 さらに下ると雲の下に出たのか日が射してきました。遙か下に鳩待峠の山小屋が見えています。芥子粒のようです。まだこれからあそこまで歩かなければならないのか。
 途中、若い山ガール二人組を追い越しました。どうも一人が膝を痛めたようで、痛みをこらえながら足を引きずるように下りています。もう一人の女の子がその子のザックを抱えて心配そうに付き添っていました。聞くと、今日は尾瀬ヶ原の山ノ鼻から登って、これから鳩待峠に下り、戸倉の温泉に宿を予約しているとのこと。ちょっと遅くなりそうと宿に電話を入れたと言っています。痛み止めのスプレーをしても痛みは治まらないとのこと。おそらくyamanekoも時々痛くなる腸脛靱帯炎でしょう。これは下りで激痛が走るのです。yamanekoもこの春、塔ノ岳の下山で苦しみました。さすがに背負って下りることもできないので、妻が持参している痛み止めの薬を渡しました。打撲や関節炎などの痛みにも効くものです。無事に下山できればよいですが。

 ダケカンバ

 やがて登山道は森の中へ。風雪に耐えてきたのでしょう、ダケカンバの大木がグニッと曲がっていました。存在感ありまくりでした。

 ヤマナメクジ

 おっとこれはヤマナメクジ。体長は10pを超えていました。奥は妻の靴です。

 鳩待峠

 午後4時20分、鳩待峠に到着しました。下山は2時間半ちょっとでした。やれやれ、これから正面に見える鳩待山荘にチェックインです。
 今日は日曜日なので宿泊者は少ないようで、相部屋になることもなく、10畳ほどの部屋を二人で使わせてもらいました。装備を解いたら早速お風呂へ。尾瀬では石鹸やシャンプーは使用できません。さっぱりして部屋に戻り窓から外を見ていると、さっきの山ガール二人組が下山してきました。時刻は5時、yamaneko達から遅れること40分でなんとか無事に下山できたようです。良かった良かった。

 夕食

 夕食は午後6時です。食堂に集まった宿泊客はyamaneko達以外に5組ほど。みんな今夜はここに泊まって、明日はそれぞれ目的の場所に向かうのでしょう。yamaneko達の目的地は山上の湿原、アヤメ平です。山小屋では9時消灯。新宿の夜とは違ってまったくの無音の夜です。ぐっすりと眠れました。
 
 で、翌朝。なんとザーザー降りの雨になってるじゃないですか。朝食を済ませ、7時くらいまで悩みましたが、アヤメ平は今回はあきらめて帰ることにしました。残念です。乗り合いタクシーで戸倉まで下りて、待機していたドリーム号に乗り換え、東京に向かいました。「尾瀬は逃げやしない。」と言いながら、帰りの高速道路で今日の山弁当(山小屋で昨日の晩に注文していたもの)を食べました。
 アヤメ平、近いうちに再チャレンジです。