燧裏林道・三条ノ滝 〜静寂の森・轟々の滝(前編)〜


 

 (前編)

【福島県 檜枝岐村 平成26年9月2日(火)】
 
 9月に入っても不順な天候が続いています。いわゆる「秋の長雨」というやつでしょうか。安定した秋晴れの日々がやってくるのはもうちょっと後になりそうです。さて、またどこか気持ちいい野山歩きがしたいなあと考えていたところ、尾瀬の山小屋から宿泊割引券が送られてきていたのを思い出しました。尾瀬には20以上の山小屋がありますが、東京電力傘下の東京パワーテクノロジーが管理運営する山小屋が5軒あって、そこの割引券です。
 なぜ、尾瀬に東京電力が、という疑問が湧くわけですが、元々この辺りの土地(尾瀬地域の群馬県側全部)はダム建設のために東京電力が所有していたものとのこと。計画自体は大正年間にはあったそうですが、反対運動により事業は進まず、昭和20年代以降は子会社の尾瀬林業という会社が土地の管理などをしていたそうです。その後、尾瀬の自然保護活動が盛んになると尾瀬林業(というか東京電力)は国や自治体とともにその中心的な役割を果たすようになり、その一環で山小屋経営も行っているということ。東京パワーテクノロジーは、尾瀬林業を含むいくつかの東電子会社が合併して去年設立された会社だそうです。
 
                       
 
 3時半起床。予定では4時出発でしたが、寝ぼけまなこでもっさりと準備をしたので、実際には4時半出発となりました。まあ、これはいつものことで想定内。通常、東京方面からだと、関越道を北上して、群馬県の片品村から尾瀬の南側に入るのが便利ですが、今日は、東北道で栃木県から福島県に入り、尾瀬の北側に回り込みます。今回、尾瀬へのアクセスポイントは福島県檜枝岐村の御池(みいけ)というところです。
 高尾山ICから圏央道に乗り、中央道、関越道を横切って、桶川北本ICで一般道へ(ここから先はまだ工事中で、圏央道は来年度中に東北道と接続するとのことです。)。朝靄の長閑な田園地帯を走って久喜ICから東北道に乗りました。平日の朝ということもあり道はスカスカです。順調に走って西那須野塩原ICで高速を降りたのは7時過ぎでした。ここから国道400号、121号、352号と走り継いで、9時半に御池に到着しました。出発から5時間かかったことになります。

 御池駐車場

 前日までの天気予報では今日は雨、明日は曇りということで、レインウエアを着込んでの野山歩きを覚悟していたのですが、どうでしょうこの青空。日頃の行いだとは思いますが、神様にも感謝です。

 御池ロッジ

 ここには宿泊施設やビジターセンター、売店などがあります。沼山峠までのシャトルバスもここから出ています。


〔今回のルートを大きな地図で〕
 尾瀬エリア
 Kashmir 3D 

 今日のルートは、ここ御池から燧ヶ岳の北側を巡る「燧裏林道」を歩いて三条ノ滝へ。三条ノ滝は尾瀬ヶ原や尾瀬沼に降ったすべての雨水を集めて落とす豪壮な滝です。そこから燧ヶ岳の西麓に位置する尾瀬温泉まで歩いて元湯山荘で一泊。翌日、御池に戻るというものです。ちなみに滝の水は只見川として会津方面に流れ下り、阿賀川に合流した後、名前を阿賀野川に変えて新潟で日本海に注ぎます。

 御池登山口

 今日はエスケープルートはありません。途中で捻挫とかしても足を引きずって山小屋まで歩くかここまで戻るかになります。なのでいつもより入念にストレッチをして、御池登山口を出発しました。時刻は10時ちょうどです。

 暑くもなく寒くもなく、気持ちのいい歩き出しです。

 ほどなく立派な木道となりました。この先に左に分ける分岐があり、そちらは燧ヶ岳の山頂に続く道になります。

 ヤマトリカブト

 その分岐辺りにはヤマトリカブトが。トリカブトの仲間の中でも一、二を争うほどの猛毒だそうです。

 サラシナショウマ

 このもさもさはサラシナショウマの花。ガガンボみたいな虫がたくさんたかっていました。

 御池田代

 森はすぐに終わり、その先には御池田代が広がっていました。この先いくつも「○○田代」という場所が出てきますが、この田代とは本来田んぼのことで、それに見立てた湿原のことを意味します。ここは御池にある湿原なので御池田代です。

 オニシオガマ

 なにやら茎のごっつい花が直立しています。これはオニシオガマ。「オニ」とはそのガッシリした姿を言い表したものでしょうね。これからぐんぐん背を伸ばすはずです。

 オゼミズギク

 歩き出しからいろんな花々が現れ、なかなか先に進めません。これはオゼミズギク。

 サワギキョウ

 サワギキョウは鮮やかな紫色。確かに色はキキョウと同じですが、この花の形からキキョウの仲間だとは思いつきもしません。名前を付けた人はキキョウとの共通点を認識していたということなんでしょうね。

 ゴゼンタチバナ

 御池田代を過ぎて森に入ると、登山道脇にはゴゼンタチバナが赤い実を付けていました。秋ですな。

 森に入るとすぐに上りになりました。標高差約30mを登ると…

 一段上にある湿原に出ました。ここは姫田代。「姫」とは小ぶりなということだと思います。

 姫田代

 小ぶりとはいえ開放感は満点。初秋の尾瀬。一面黄金色に輝く草紅葉までにはまだ間があります。

 イワショウブ

 花が終わった後のイワショウブ。尾瀬の湿原を代表する花の一つです。

 ほどなくまた森に入りました。こんな小さな流れを何回も渡っていきます。

 

 ヨツバヒヨドリ

 ヒヨドリバナの仲間はみんなモシャモシャとした印象。でも、例えばこのヨツバヒヨドリの花をよく見てみると、おお、なかなかスマートではありませんか。細身の筒状花からは先が2つに分かれた柱頭が長く出ていて、洒落た一輪挿しのような感じでもあります。

 ムシカリ

 ムシカリの若い実。輝いてますね。

 姫田代から更に登ること約60m。森が開けました。

 上田代

 標高1600mに広がる上田代(うわたしろ)です(尾瀬ヶ原にある上田代は「かみたしろ」)。今日歩く燧裏林道では最も大きな湿原です。地面が斜めっていますが、上田代は標高1650mから1570mまでのなだらかな斜面になっているのです。
 奥の稜線の向こうからちょっとだけ頭を出しているのは燧ヶ岳の山頂、俎ー(まないたぐら)ですね。

 キンコウカ

 花を終えた後のキンコウカ。これから始まる草紅葉の主役です。

 平ヶ岳

 西北西の方角には平ヶ岳(2141m)。山頂までのアプローチが長く上級者向けの山とのこと。どっしりとしていてyamanekoとかが近づくと軽く一蹴されそうです。ここからの距離は11q。あの辺りはもう新潟県です。

 ミヤマアキノキリンソウ

 湿原は日当たりが良く、様々な植物が咲き誇っています。これはミヤマアキノキリンソウ。

 イワショウブ

 イワショウブ三態。開花状態のものから実を結ぶところのものまで。

 ミヤマウド

 長い花茎(7、80p)の先に黒い果実を付けているのはミヤマウド。

 上田代を過ぎるとまた森の中へ。ここからは下り基調。三条ノ滝近くの兎田代まで約4qをかけて標高差約200mを下っていきます。

 西田代

 今日のコースで最も高い地点となる横田代を過ぎ西田代までやって来ました。池塘に映り込む空の色も青いです。

 沢を横切るたびに下って上ってを繰り返し、これが地味に応えます。

 ツルリンドウ

 木陰で見つけたツルリンドウ。花期はこれからですかね。

 スギゴケ

 ふかふかのスギゴケは十分に水を含んで、触るとひんやりして気持ちいいこと。

 森の中の木道は朝露に濡れてよく滑ります。転ぶと捻挫とか脱臼だとか、こんな山の中ではシャレにならないことになるので、ホント気が抜けませんでした。

 木霊が宿っていても不思議ないくらいの巨木。確かコメツガだったと思います。いったいいつからここにいるんでしょうか。
 
 ほとんど人と出会わない燧裏林道。クマとも出会いたくないので鈴を付けて歩いていますが、本当ならこの静寂も楽しみたいところです。
 今日は三条ノ滝を見た後、尾瀬温泉(赤田代の手前)の元湯山荘に泊まる予定。まだまだ先は長いです。(後編へ続く)