両神山 〜神棲まう修験の山(後編)〜


 

 (後編)

【埼玉県 小鹿野町 平成27年5月22日(金)】
 
 信仰の山、両神山の後編です。(前編はこちら


Kashmir 3D

 日向大谷の登山口を7時45分に出発して、薄川沿いに谷を遡り、清滝小屋を経て産泰尾根に出てきました。山頂まではあと1.4kmです。

 ここから山頂までは稜線上を歩いていきます。

 早速鎖場の登場。ここから何箇所かあるはずです。

 高低差3、4mで足場がしっかりしているので難しくはありません。 鎖場でいつも困るのはストックの扱い。いちいちリュックの横に固定するのが面倒で、つい縮めた状態で手に持ったまま登ってしまいますが、それでも邪魔だし、なんか引っかかりそうなんですよね。

 トンボエダシャク

 長さ3cm弱の可愛いイモムシ。帰宅後図鑑で調べたところ、たぶんトンボエダシャクだと思うのですが。でもこんなに目立っていたら鳥に食べられやすいんじゃないだろうか。

 鉄パイプで組んだ階段が現れました。コース上に梯子があるとするガイドブックがありましたが、おそらくここに架かっていたのでは。

 コヨウラクツツジ

 この小さな壺のようなものはコヨウラクツツジの花。花冠の大きさは8mmほどの小さな花です。ぱっと見、花ではなく実のようですよね。

 横岩

 道幅の狭い箇所に注意しながら進んでいくと大きな岩が現れました。標識が立っていて横岩と書かれていました。右手はかなりの急斜面。よく崩れ落ちないものです。

 苦しい息をこらえて一歩一歩登っていきます。やがて朱色の鳥居が見えてきました。両神神社の本社です。

 両神神社本社

 10時50分、両神神社の本社に到着しました。鳥居をくぐり息を整えてから参拝しました。
 ものの解説によると、両神山には3系統の神社があるようです。一つは今朝参拝した両神神社で、もう一つは旧両神村浦島という所(日向大谷から東に5kmほど)にある両神山両神神社。こちらの方は昔は両神権現社といい、両神神社同様にここにも金剛院という寺院が併設され、山上にある両神権現社の別当寺として機能していたとのことです。第三勢力は両神山の北東(小鹿野町 尾ノ内という所)にある龍頭神社。ここも山上に奥宮があるそうです。
 山麓の里それぞれに山を敬う神社があるのは普通のことで、それぞれの神社の奥宮は同じ山の山頂に同居するということになりがちです。そして所によってはかなり激しく覇権争いをしていたりします。



 鳥居の手前で睨みをきかせていた狛犬。なかなかユーモラスな顔をしていますが、狼です。同じ秩父三山のうちの一つ、三峰山の三峰神社の影響が何かしらあるのかもしれません。狼は三峰神社の神の眷属(神使)で、三峰神社系列の神社では狛犬が狼になっているようです。二つの狼は互いに向き合っていて、阿吽の形なのか片方は口を開け、片方は口を閉じていました。

 両神山両神神社本社

 ここには両神山両神神社の本社もありました。ということは両神権現社からの参道がこの辺りで合流していたのかもしれません。

 境内で小休止した後、山頂を目指して再び歩き出しました。 ここから山頂までの標高差は100m弱。アップダウンを繰り返しながら登っていきます。

 アカヤシオ

 これはアカヤシオの葉。開花時期は5月上旬から中旬とのことだったので、まだ残り花くらいには間に合うかとも思ったのですが、全然遅かったです。今年は全般的に花の時期が前倒し傾向にあるようです。

 登山道が崩落しているところには鉄パイプで橋が架けてありました。助かります。こういった恩恵にいつもただで浴しているわけですが、一体どこが費用負担をしているんでしょうか。ありがたいことです。

 急な斜面に紫色のツツジが。近づけないのでよく分かりませんが、トウゴクミツバツツジでしょうか。

 これはコハウチワカエデですね。紅葉の時期もどっと人手が繰り出すんでしょうね。

 こういった斜面も鎖が掛けられていているので安心して登っていくことができます。

 清滝小屋辺りから明るい斜面に群れていたこの植物。コバイケイソウか。

 いよいよ露岩が多くなってきました。 もう山頂はすぐそこです。

 ここには八丁峠コース(両神山の北側に連なる西岳、東岳などのピークを辿り山頂に至る鎖場の多い難コース)の登山口に向けて下る分岐があるようでしたが、ロープで封鎖されていました。所要時間も短く、厳しい鎖場の連続をピストンしなくて済むので八丁峠コースで登ってきた人に重宝されていたコース。かなり危険なところもあり廃道になったようです。

 この辺りから山頂ピークの岩塊にとりつきます。ここの岩場は左上に登っていきます。

 山頂は狭いのでここで昼食を取っているグループも。

 ここを登れば山頂です。

 山頂

 おっ、両神神社の奥社です。ようやく山頂に到着しました。時刻は11時25分です。

 まずは風景を楽しみましょうか。これは北西方向。ずいぶん遠くまで見渡せます。気持ちいい〜!

 八ヶ岳連峰

 一番目立っていたのは八ヶ岳連峰。雪渓が美しいです。ここからの距離は約40kmです。

 北アルプス

 視線を右手に移すと遠くにうっすらと北アルプスの峰々が。穂高までの距離は約110km。遠いですね。

 浅間山

 更に右手に視線を移すと浅間山の巨大な山塊。雪が残っていないのが意外でしたが、これは火山活動での地熱のせいでしょうか。

 幽谷

 眼下には深い谷。さっき封鎖されていた八丁峠コースの登山口へ下る道はこの谷を急降下していきます。

 ピーク

 この尖ったところが最高地点です。この周囲の山頂部と言える場所にも平坦なところはなく、せいぜい同時には10人弱しか滞在できません。

 そのピークに立っての視界がこれ。南西の方向になります。写真左側のピーク群が甲武信ヶ岳や朝日岳、金峰山など。足元に見えている石碑には修験の真言、ではなく「日本観光地百選入選記念」と彫られていました。なんだそりゃ。

 霊峰富士

 南に目を転じると奥多摩の稜線越しに富士山が顔を出していました。

 武甲山

 南西には武甲山。両神山、三峰山と共に秩父三山と呼ばれている山です。片面を削り取られたいびつな山容が特徴です。ネットで昔の姿を記録した写真を見たのですが、秩父盆地に面して独立峰のように聳える雄姿は秩父三山の名に恥じないという感じでした。
 ところで武甲山は山の北面を削り取るようにして石灰岩が採掘されていますが、これまでなんで山の上部を全部削り取らないんだろうと思っていました(決して削ることを良しとしているわけではありませんよ。)。調べてみたら山を縦半分に切った南側の部分は石灰岩ではない(凝灰岩)とのことです。石灰岩は太古の海で微細な生物の遺骸などが堆積したもの。なので本来他の岩石の上に水平に乗っかっているはずですが、それが縦になっているということは、相当に強い力で基盤ごと変形させられたということでしょうか。きっと秩父盆地の成因と関係があるかもしれません。

 下山開始

 山頂部の小さなくぼみに腰を下ろして昼食をとり、休憩を含めて30分ほど山頂部に滞在してから下山を開始することに。 再び木漏れ日の中を歩きます。

 途中で振り返る山頂部。

 こういった箇所でも、このような橋ではなく、ガイドロープが渡してあるだけといった状況ならそれなりに緊張を強いられるはずです。

 12時25分、両神神社の本社まで下りてきました。
 ちなみに、両神神社は、両神明神社から八日見神社と名を変え、そして現在の両神神社となっています。八日見とは、日本武尊が東征した折、この山を八日間にわたって見ながら通行したという言い伝えによる名前で「ようかみ」と読み、これが両神山の名の由来とする説もあります。また、尾ノ内の龍頭神社神社は正式には「りゅうかみ」と読み、これも両神山の名の由来とする説もあります。いろんな由来があって、みんなそれぞれに理由があるんですね。

 12時35分、横岩を通過。

 表参道では鎖はむしろ下りの際に助けとなります。

 ミズナラ

 下りではついついスピードを上げてしまいがちですが、たまには立ち止まって体勢を整えることも必要。yamanekoもこの大きなミズナラに「気をつけろよ」と声をかけられたような気がして、ここで立ったまま小休止としました。

 分岐

 やがて七滝沢コースとの分岐が現れました。ここは右手に折れて下っていきます。

 清滝小屋のトイレ

 1時、清滝小屋まで下山。トイレを済まし水分補給をしてすぐに出発しました。

 弘法の井戸

 清滝小屋を過ぎると間も無く弘法の井戸です。水量もしっかりしています。

 長い下りでだんだん足の各種関節がギシギシいってきました。転んで滑落しないようにしなければ。

 出会

 急な坂道を延々と下ってようやく会所までやってきました。ここではリュックを下ろして大休憩。水分補給と、ガチガチになった体をストレッチでほぐします。

 そして観蔵行者の像のある鳥居まで戻ってきました。ここまで無事に来られたことに感謝。二礼二拍手一礼をした後で、「あ、ここ神社じゃなかった。」

 日向大谷

 森を抜けると日向大谷の集落(といっても1軒だけですが。)が見えてきました。こうして見るとかなり急な斜面に家が建っていることが分かります。

 両神山荘

 2時35分、登山口の両神山荘に戻ってきました。下りは2時間半かかったことになります。ここに泊まって登山をする人も多いでしょうね。yamanekoはここで記念のバッジを購入しました。普段はこういったものは買わないのですが、なんか衝動的に。

 番犬(?)のワンちゃんはものに動じないタイプのようでした。人が出入りしても我関せず。泰然としたものです。

 サラサドウダン

 最後に両神神社の里宮に参拝して登山終了。サラサドウダンの花が「お疲れさん」と労ってくれているようでした。
 
 さて、今回の両神山。ずっと前から登りたいと思っていてなかなか叶わなかった山でした。なので満足感もひとしおです。それに今日は天気にも恵まれ山頂からの眺めも良かったです。今度はアカヤシオの咲く頃に再訪したいと思います。