六甲高山植物園 〜山上の花園は雲の中に〜


 

【神戸市 灘区 平成30年8月25日(土)】
 
 今日は六甲高山植物園での植物観察会(神戸山草会主催)に参加。5月に参加した時に8月にも開催されると聞いていたので、今回も楽しみにしていました。ただ、数日前には台風20号が神戸地方を直撃。開催を心配しましたが、当日朝起きてみると真夏の青空だったので、安心して出かけました。それにしてももう9月も近いというのに朝からギラギラの陽射しで、思わずしかめっ面になりながら駅に向かいました。(前回の様子はこちら
 
                       
 
 梅田で阪急神戸線に乗り換え。約30分、六甲駅で下車しました。そこからは神戸市営バスに乗り、六甲山ケーブルへ。
 ところがこの辺りまでくると低く雲が垂れ込め、さっきまでの夏空がどっかに行ってしまっているではないですか。 台風通過後、まだ大気が不安定のようで、どうやら六甲山地の中腹以上はすっぽり雲が被さっているようなのです。でも、まあここまで来たんだし、上まで上がってみるかと思い、9時40分発のケーブルカーに乗り込みました。

 六甲山ケーブルカー

 車窓からは木の葉がしっとりと濡れているのが見て取れますが、雨は降ってはいないよう。でも視界は数メートル先で閉ざされています。
 10分ほどで山上駅に着き、駅舎の外に出てみると、そこはまさに雲の中。はっきり言って肌寒く、レインウエアはもちろん長袖シャツすら持ってきていないことを後悔した次第です。朝家を出るときにはあんなにギラギラの陽射しだったのに。

 ウド

 白い世界の中で客待ち停車していたバスに乗り込み、植物園へ。まだ開会までに20分ほど時間があったので、来た道を戻る形で車道沿いを観察して歩くことにしました。
 これはウドの実。芽吹きの頃の茎や芽、若葉は食用になります。「ウドの大木」という言葉がありますが、ウドは草であって、木ではありません。それでも通常で高さ2m近くまで育ちます。

 ウツギ

 こっちはウツギの実ですね。コマのような形をしています。yamanekoが愛用している山渓の図鑑ではユキノシタ科に属していることになっていますが、ゲノム解析に基づく最新の植物分類系統APGVではアジサイ科ということです。旧分類系統で覚えてしまっているので、馴染みのない科名にはその都度もやっとしてしまいます。
 ちなみに、「◯◯ウツギ」とウツギの名を持つ植物はいくつかありますが、必ずしもこの本家(?)ウツギの仲間というわけでもありません。スイカズラ科であったりバラ科であったり、果てはドクウツギ科なんてのも。

 ボタンヅル

 露を含んだボタンヅルの花。何がボタンなのかというと、花ではなく葉の方なのだそうです。確かに葉はボタンのそれに似ています。写真ではちょっと見づらいですが、3出複葉で、小葉の縁に大きめの切れ込みが左右1つずつあります。



 さてそろそろ時間なので植物園に向かいましょう。状況はこんな感じですが、幸いにも雨は降っていません。

 西門

 西門の前にスタッフの方がおられました。受付を済ませ、開会までの間、辺りを観察です。

 オオバオオヤマレンゲ

 するとこんなものを見つけました。これはオオバオオヤマレンゲの果実。長さは10cmほどで、なんだか萎んだサツマイモのようにも見えます。
 もう少し熟して朱い種子が露わになったものが地面に落ちていました。おそらく台風で落ちたものでは。この姿、コブシの実と似ていますね。同じモクレン科モクレン属であることで納得。

 ゲンノショウコ

 10時半、観察会は定刻に始まりました。参加者は10人弱ですが、観察会としてはやりやすい規模です。
 これはゲンノショウコ。赤紫色のものと白色のものがあり、西日本では赤紫色のものが、東日本では白色のものが多く見られるそうです。とすれば、これはこの地では珍しい方ということになりますね。

 カノコユリ

 カノコユリです。優美な姿をしていますね。「カノコ」の名は花被片の斑紋が鹿の子模様だからということでしょう。九州に多いユリだそうです。

 ツリフネソウ

 豪華客船の船べりに救命用のボートが吊り下げられているでしょう(乗ったことはないですが。)。そんな感じで花茎から吊り下げられているツリフネソウの花。
 それにしてもなんでこんな構造になっているんでしょうか。この花には結構大型のハナバチなどが訪れますが、花冠に潜り込んだときに吊り船構造が揺れを吸収して、他の花冠への訪問者の邪魔をしない(受粉を妨げない)ように、なんてことはないでしょうか。

 キレンゲショウマ

 おお、キレンゲショウマですね。これでも満開状態です。結構広い範囲で生き生きと咲いていました。もちろん植栽したものだそうです。もともと中央構造線より南側に分布するもののようですが、それよりもかなり北に位置する西中国山地に自生するものを見たことがあります。もう15年以上も前のことです。



 園内には来園者は数少なく、幽玄な感じ。一方、強風で折れた小枝なども散乱していて、復旧作業を行うスタッフの姿の方が目立っていました。

 ミツバウツギ

 小グループで園内をゆっくり歩いて行きます。これはミツバウツギの実ですね。具の少ないギョウザみたいに潰れた袋果の中に種子があるのが分かります。また、葉を見ると確かに小葉が3個あります。これが名前の由来ですね。

 ヤマジノホトトギス

 ヤマジノホトトギスです。強風に耐えて我々を迎えてくれました。

 ロックガーデン

 白く霞むロックガーデン。まだ8月ですが、今日はけっこう肌寒い感じです。

 ヒダカミセバヤ

 これはヒダカミセバヤ。北海道の日高地方や十勝地方、しかも海岸沿いの岩場という、なかなかハードな環境に生きる植物だそうです。肉厚な葉がそれを物語っていますね。



 園内ではウラジロモミの大木が何本か倒れていました。ただいま解体中。立っているときはそうでもないのかもしれませんが、横になっているところをみるとびっくりするほど巨大でした。

 マイヅルソウ

 林の中に入っていきます。
 ルビーのような輝きを見せるのはマイヅルソウの果実。更に熟していくと深紅色になっていきます。

 ヤマシャクヤク

 これは…、ヤマシャクヤクの果実ですね。熟して開裂した鞘の中から桃色の種子がのぞいています。

 ナツエビネ

 なんかごちゃっとしていますが、これはナツエビネ。

 ハガクレツリフネ

 葉の下に隠れるように花が付くからハガクレツリフネです。でも、ツリフネソウの仲間のスタンダードは本来葉の下に付くタイプで、さっき見た紫色のツリフネソウのように上に出ているタイプの方が特殊なんだそうです。ふーん。

 イワタバコ

 濡れた岩場に張り付くように生えるイワタバコ。葉がタバコの葉に似ているからだそうですが、大きさは全然違います。本物のタバコの葉はカレーのナンを2倍にしたくらいの感じです。
 そういえば昔親戚がタバコの葉の栽培をしていて、収穫した葉を乾燥させるための専用の建物が別棟でありました。「カンソバ」と呼んでいましたが、これは「乾燥場」だったんだと今更納得した次第。

 ホツツジ

 露に濡れたホツツジの花。言われないとこれがツツジの仲間とは思いませんよね。可憐な姿ではありますが、結構な毒を持っていて、誤食すると痙攣や昏睡に至ることもあるそう。また、毒は花粉にもあって、蜂蜜に混入して中毒を起こす事例もあるそうです。

 コバギボウシ

 これはコバギボウシですね。花茎の下の方から咲いていくので、既に実になっているものも見えます。

 センジュガンピ

 変わった名前の花、センジュガンピ。ガンピというのはセンノウの中国名「岩菲」のことで、センジュは日光中禅寺湖の千手ヶ浜で発見されたからだとか。てっきり花弁の先が細かく分かれているので千手観音のセンジュかと思いました。

 オオナルコユリ

 おお、アメリカンクラッカーがいっぱい!(古いですか) オオナルコユリの実です。

 レンゲショウマ

 レンゲショウマがまだ咲いていました。さっき見たキレンゲショウマとは特段近い仲間という訳ではありません。見た目も全く似ていないのですが、でもキレンゲショウマという名前はどう考えても「黄色いレンゲショウマ」ということですよね。疑問です。

 ヒゴタイ

 林間を抜けて再び開けたエリアへ。
 これはまるで前衛アート系生け花みたい。でもこれがヒゴタイの自然の姿。キクの仲間です。

 マツムシソウ

 むしろこっちの方がキクに似ていますが、このマツムシソウはキク科ではなくマツムシソウ科。
 この花を見ると秋の高原を連想します。やっぱりマツムシが鳴く頃に咲く花だからでしょうかね。

 キンロバイ

 キンロバイ。たしか5月に来たときにも咲いていたような。調べてみたら花期は6月から8月までだそうです。

 ツリガネニンジン

 秋の山野を感じさせる花、ツリガネニンジン。この姿、確かに釣り鐘ですが、ニンジンって? 根っこのこと? 確かに根は漢方薬に用いられるようです。

 トウテイラン

 トウテイランは隠岐の島に自生するものが有名ですよね。見てのとおりランの仲間ではありません(ゴマノハグサ科だそうです。)。それもそのはず漢字で書くと「ラン」は「蘭」ではなく「藍」。なるほど花の色のことだったんですね。一方、「トウテイ」とは中国の洞庭湖のことだそうで、この花の色を湖水の色に例えたものなのだとか。ずいぶん飛躍した発想ですね。日本の固有種で洞庭湖畔に生えているわけでもないのに。植物の名前って最初に言った者勝ちってことろがありますよね。

 サワギキョウ

 紫の花が続きます。湿った環境を好むサワギキョウ。こちらは名前のとおりキキョウの仲間です。キキョウとは似ても似つかない花ですが。キキョウの花はラッパ状の形をしていますが、サワギキョウは手のひらを開いたような形をしています。

 コウホネ

 園内をぐるっと回って入り口近くまで戻ってきました。時刻は12時を回っています。
 スタッフの方のまとめがあり、終始白い靄の中だった今日の観察会は無事に終わりました。楽しかったです。



 で、ケーブルカーを降りて六甲駅まで戻ってみると、この天気。阪急神戸線を境に六甲山側にだけ雲が覆っていました。やっぱり下界は真夏のままだったのです。一日の内で違う世界を往き来したような気分です。