尾瀬ヶ原 〜厳しい季節を迎える前に(後編)〜


 

 (後編)

【群馬県 片品村 令和元年10月14日(月)】

 冬の足音が聞こえてきそうな尾瀬ヶ原。後編です。(前編はこちら
 
 山ノ鼻で小休止してから尾瀬ヶ原に入りました。上空はすっかり曇り空になってしまいました。この分だと早晩雨が降り出すでしょう。

 アブラガヤ

 これはアブラガヤ。尾瀬ヶ原を代表するカヤツリグサ科の植物です。背丈が高く、湿原からぬっと突き出ています。

 エゾリンドウ

 エゾリンドウは日差しのない時には花を閉じるのですが、これがその状態なのか、それとももう枯れかかっているのか。先端が少し茶色に変色しているようにも見えますが、どうでしょう。

 オオバセンキュウ

 今日、開花状態にあった数少ない花です。これはセリ科のオオバセンキュウですね。

 燧ヶ岳

 進行方向には燧ヶ岳。ここから約8kmほど先に位置しています。
 褐色に塗られたような晩秋の湿原。陽光に照らされるとまた別の表情を見せるのでしょうが、冬へと向かう寂しさのような雰囲気もあるがままの尾瀬といった感じで、良いです。

 至仏山

 振り返ると至仏山。あの林の向こうが山ノ鼻ですから、もうずいぶん歩いてきたものです。

 池塘

 池塘に映り込むのも曇り空で、寒々とした色をしていました。

 牛首

 右手から延びるこんもりとした丘は牛首と言われるところ。右手の山と地形的につながっていて、半島のような形をしています。深い色合いの紅葉が綺麗ですな。

 シラカバ


 湿原の縁とか自然堤防とか土壌が比較的陸化しているところには樹木も育ちます。白い幹の樹木はシラカバでしょう。



 木道の架け替えが行われていました。尾瀬の木道の材には設置された年が刻印されていて、それを見ると概ね10年程度で替えていることが分かります。こういった資材はヘリで運んでいるのでしょうね。ネットにまとめてワイヤーで木道の杭に繋がれていましたが、これは増水時にプカプカ浮いてどっかに流されてしまわないようにだと思います。

 ナナカマド

 木道の間からナナカマド。こんなところでは根が張れず、大きく育つことはできないでしょうね。

 ヒツジグサ

 池塘の水面でヒツジグサの葉が紅葉していました。水面も晩秋の装いです。冬になって葉が枯れても分解されることなく池塘の底に堆積していくのだと思います。

 煙る至仏山

 振り返ると、牛首が随分と遠くになりました。先ほどからポツポツ雨が落ちてきてカメラを濡らします。レインウエアを羽織って、その中に包み込むようにして歩きました。

 ズミ

 この赤く熟した実はズミ。バラ科で、リンゴに近い植物なので、口にしたことのある人も多いのでは。漢字で「酸実」とも書き、酸味があります。もちろんここは国立公園内なので採って食べたりしてはいけません。

 ヤマトリカブト

 ヤマトリカブトですね。ドクゼリ、ドクウツギと共に猛毒三兄弟です。もう花冠は傷み始めているようでした。

 竜宮現象

 竜宮現象の見られるポイントにやってきました。竜宮現象とは、伏流水の一形態で、湿原の只中で水を吸い込み、やや離れたところから湧き出す現象。雪解けの水が尾瀬ヶ原を満たす頃には、渦を巻いて激しく吸い込む様子があちこちで見られるそうです。
 そういった竜宮現象が木道近くで通年見られる唯一の場所がここなのです。左の写真が吸い込み口側。三方から流れ込んでくるのがわかります。木道を挟んで30mほど先にある湧き出し口側が右の写真。この竜宮現象により湿原内部がフィルターの役割を果たして、水が浄化されているのだそうです。



 遠くに森が見えてきました。でもあれは川の両岸に木が並んでいるだけの拠水林という林です。あの向こうは下田代になります。
 湿原の外(すなわち山)から流れ込む川は削った土砂を湿原に持ち込み、流れが緩やかになったところに土砂を置いていきます。そのようにして流れの両岸に堆積したものを自然堤防といい、そこは土壌がしっかりしているので樹木が育つことができるのです。あの拠水林を作っているのは、尾瀬沼から流れ下ってきた沼尻川です。

 ミツガシワ

 木道の中にミツガシワの葉を見つけました。初夏に繊細な白い花を付けます。この花を初めて見たのは島根県の赤名湿原でした。森の中の池を白い花が覆い尽くす風景に感動したものでした。

 竜宮小屋

 拠水林を背に建つ竜宮小屋。尾瀬で唯一湿原の中にある山小屋です。自然堤防はそれほどに地盤が安定しているんですね。尾瀬エリアの山小屋には何箇所か宿泊していますが、まだここには泊まったことはありません。

 沼尻川

 山小屋の脇を通り過ぎ、距水林の中に入ってみました。この川が沼尻川。水量は豊富です。尾瀬沼から標高差200mを下り、尾瀬ヶ原を蛇行して行きます。その後、三条の滝で尾瀬に別れを告げて、後は只見川、阿賀野川と名を変えて、新潟で日本海に注ぎます。

 下田代

 川を渡るとすぐに林は途切れ、下田代が開けました。燧ヶ岳がグッと近くなったような気がします。さて、ここらで引き返しましょう。

 イワショウブ

 雨脚がやや強くなってきたので、復路はあま写真がありません。
 これはイワショウブの花殻。ドライフラワーの状態です。

 冬を待つ尾瀬

 ああ、これも尾瀬を代表するような風景です。これから厳しい季節を迎えようとしているんですね。このタイミングで尾瀬を訪れることができて、そしてこの風景を見ることができて、良かったです。

 至仏山に向かって

 歩き通しで足腰が少し痛くなってきました。ここから山ノ鼻までは3kmほど。鳩待峠までとなると倍の約6kmほどあります。

 ヤチヤナギ

 これはヤチヤナギの果序です。葉もかろうじて残っていますね。ヤナギの名を持っていますが、ヤナギ科ではなくヤマモモ科です。ここ尾瀬は代表的な自生地だそうです。

 上ノ大堀川

 上ノ大堀川を渡り、中田代から上田代に入っていきます。

 ゴマナ

 雨はしっかりとした降りになってきました。枯れかかったゴマナの花にも冷たく降りそぼります。

 山ノ鼻小屋

 12時15分、山ノ鼻まで戻ってきました。3軒ある山小屋のうち山ノ鼻小屋で昼食です。とりあえず雨宿りができてホッとしました。

 定番、カツカレー

 これから鳩待峠まで標高差約200mを登らなければなりません。カツカレーでエネルギー補給です。美味でした。
 
 昼食後、黙々と木道を登って鳩待峠に戻りました。以前は難なく登れていたのに、今回は息が上がって何回か立ち止まったりしました。体力が落ちてきたのかもしれません。日頃運動していませんからね。
 峠からは乗り合いタクシーでドリーム号の待つ戸倉の駐車場へ。戸倉もしっかり雨が降っていました。
 
 帰り道、片品村の中心部に新しくできた道の駅「尾瀬かたしな」に立ち寄ってみました。強い雨脚の中たくさんのお客さんで賑わっていました。
 産直のコーナーで品種名は忘れましたが大ぶりのリンゴを何個か買い求め、帰宅後早速食してみると、これが香り高く美味しかったです。何か得をした感じでした。