尾瀬が原 〜秋の森と湿原を行く(後編)〜


 

 (後編)

【群馬県 片品村 平成29年9月24日(日)】
 
 秋の尾瀬。森と湿原を歩く「野山歩き」の後編です。(中編はこちら

 尾瀬エリア
 Kashmir 3D
〔今回のルートを大きな地図で〕

 山ノ鼻を10時に発って、広大な尾瀬ヶ原を竜宮小屋に向かって歩いていきます。

 下ノ大堀川

 中田代のちょうど真ん中辺りを横断する下ノ大堀川。正面に見えるのは景鶴山。
 尾瀬ヶ原では、上田代から下田代に向かって湿原を縦に貫く流れがありますが、湿原のど真ん中を流れているわけではなく、なぜか北側の山際に沿うようにして流れています。その川は猫又川からヨッピ川と名前を変え、尾瀬ヶ原を出てからは只見川と呼ばれます。一方、湿原の南側の山並みから流れ込む川はいずれも湿原を横断して、猫又川(ヨッピ川)に合流しています。この下ノ大堀川もその一つです。

 イワショウブ

 イワショウブの花は白く、それが実になるとこんなに鮮やかな赤色に。栄養に乏しい湿原で頑張って生きていますね。

 エゾリンドウ

 エゾリンドウが満開状態。晴天で陽が高くなる時間にはここまで開きます。



 景鶴山を背景に、白い幹のダケカンバ。色づき始めた湿原に空を映す池塘。カレンダー写真のようです。
 ところでこの景鶴山には現在は登山道がないのだとか(かつてあったらしいが廃道に)。土地の所有者も入山を認めていないらしいですが、残雪期には登っている人もいるようです。なにしろ藪がひどく、雪に覆われている時期でなければ大変な苦労を強いられるのだそうです。

 ナナカマド

 わずかな土壌に根を張り、ナナカマドが紅葉していました。春に葉を伸ばし、夏に花を咲かせ、秋に実を付け紅葉した葉を落とす。厳しい環境でも毎年命のサイクルを営んでいるんですね。森の中に根を下ろしていればもっと大木に育っただろうに。

 カラコギカエデ

 湿原を好み、尾瀬にも多いというカラコギカエデ。写真は翼果です。種子とそれに付随する翼が2個くっついて、鋭角なブーメランみたいな形になっています。陽を透かす赤い翼が綺麗ですね。



 燧ヶ岳  至仏山

 「前門の虎後門の狼」ではありませんが、「前面の燧ヶ岳背後の至仏山」。なにか大きなもの見守られているような感じがします。
 初めて剣岳を見たときに、その存在感に、山というより目に見えない人智を超えた生命体が形になってこちらを見下ろしているといった印象を受けましたが、尾瀬ヶ原から眺めるこの二つの山には少し似たような感じを受けます。

 ミツガシワ

 本来は春に咲くミツガシワ。なぜかこの時期に花を付けていました。何年か前の秋にもこの場所でミツガシワの花を見たことがあるので、ひょっとしてと思って注意していたのですが、やっぱり咲いていました。ちょっと嬉しくなりました。



 木道の先に黒っぽい山小屋が見えてきました。あれが竜宮小屋です。背後の木立は拠水林。樹木がみっしりと繁っているのは、そこを流れる川が大きいということ。運んでくる土砂の量も多く、しっかりした自然堤防を作ったからです。この川は沼尻川で、尾瀬沼から流れ下ってきたもの。沼尻川はここでは県境となっていて、拠水林の向こうは福島県。そしてそこから燧ヶ岳の麓まで広がっている湿原が下田代です。

 竜宮小屋

 11時45分、竜宮小屋に到着しました。たくさんの人が休憩しています。ここで昼食をいただこうかと思いましたが、人が多くてパスすることに。昼食は山ノ鼻に戻ってからにしましょう。



 小屋の前のベンチで20分ほど休憩してから、山ノ鼻に向かって折り返しました。それにしても至仏山、大きさが変わりませんね。相当でかいです。



 振り返って燧ヶ岳。また来るからねー!

 マムシグサ

 木道の間から顔を出していたマムシグサ。実が朱く成熟しています。

 エゾリンドウ

 こちらはエゾリンドウ。尾瀬の秋は深まりつつありますな。



 真北には1箇所山並みの切れているところがあり、尾瀬ヶ原に集められた水は一つにまとまって、あの切れ目から尾瀬を後にします。その川は只見川となって会津に下り、そこから阿賀川、阿賀野川となって新潟で日本海に注ぐのです。遙かな旅ですね。

 ゼンテイカ

 これはゼンテイカ(いわゆるニッコウキスゲ)の実ですね。ぷっくりとしています。



 近づいているのかいないのか、歩いても歩いても至仏山は同じような大きさに見えます。

 ヒツジグサ

 池塘にヒツジグサが咲いていました。往きに通りかかったときにはまだ開いていませんでしたが。ヒツジグサのヒツジは「未の刻」のこと。即ち、未の刻(午後2時頃)に咲くことからこの名が付いたとのだそうです。今は午後1時ですが、まあ昔の時間感覚からすれば概ねそんな時刻でしょう。

 山ノ鼻小屋

 1時10分、山ノ鼻に帰ってきました。復路は結構スイスイ歩いてきました。なのでお腹ペコペコです。山ノ鼻小屋の食堂で遅めの昼食です。

 昼食

 注文したのはカツ丼。尾瀬でこんな美味しいものをいただけるなんて。有難いことです。美味かったです。

 山ノ鼻

 山ノ鼻では昼食がてら40分ほど休憩をしました。さてここから鳩待峠に向かって森の中を登っていきます。

 ウワミズザクラ

 クマの大好物のウワミズザクラ。そういえばこれまで味見したことはありませんでした。サクランボみたいな味がするんでしょうか。

 ノリウツギ

 これはノリウツギ。見た目からアジサイの仲間であることが分かりますね。幹から糊の成分が採れ、それを製紙に用いたのだそうです。なのでノリウツギ。



 また川上川を渡ります。

 ハンゴンソウ

 ハンゴンソウともしばしの別れ。来年は早春の尾瀬にも、また紅葉の尾瀬にも、季節を変えてやって来たいです。

 

 尾瀬にはクマがたくさん生息しているのだそうです。なので、人の存在を知らせるためにこんな鐘があちこちにあります。クマ君、お互い出逢わないように気をつけよう。



 鳩待峠に向けて坂を登る。けっこう息が上がります。

 至仏山

 午後の陽を受ける至仏山。また来年も来ますからねー。



 ほかの登山者達もぞくぞくと坂を登っていきます。高校生らしき女の子達がゴミ拾いをしながら登っていました。地元の学校の子でしょうか。

 鳩待峠

 2時55分、鳩待峠に到着しました。ふーっ、足がパンパン。でも、楽しい森歩き、湿原歩きでした。

 ワゴンタクシーの車内

 整理体操をしてからタクシーの発着場へ。待ち時間なしでワゴンタクシーに乗り込んで、戸倉に向かいました。途中睡魔に襲われながら、尾瀬の風景を思い返しつつ、車内でまったりと過ごしました。

 尾瀬第二駐車場

 3時25分、戸倉の尾瀬第二駐車場に到着。駐車場には半分くらい車が残っていました。
 今回も期待を裏切られることなく楽しい尾瀬でした。これでしばらく「尾瀬症候群」は発症しないと思います。今度来るときは現地で1、2泊して、これまで歩いたことのない皿伏山の辺りも散策してみたいと思います。来年かな。