尾瀬ヶ原 ~秋の森と湿原を行く(前編)~


 

 (前編)

【群馬県 片品村 平成29年9月24日(日)】
 
 今年も発症してしまいました。「尾瀬症候群」が。しばらく尾瀬から足が遠のいていると、ふとしたときに「尾瀬に行かなければ」という衝動が湧いてきて、やがてその欲求に支配されてしまうというやつです。一旦発症すると行くまで治りません。
 というのは冗談ですが、ふとしたときに「尾瀬に行きたいなぁ」という思ってしまうのは本当のことです。禁断症状とは言わないまでも、これは尾瀬に魅せられた人に共通のことではないでしょうか。で、今年はまだ一度も訪れていないので、紅葉の盛りには若干早いのですが、このタイミングで尾瀬ヶ原に行くことにしました。
 
                       
 
 午前3時起床。4時にドリーム号で出発。圏央道、関越道と走り抜け、沼田ICを下りたのは午前6時でした。そこから国道120号線を北上し、尾瀬へのベースとなる片品村戸倉に着いたのは6時40分。途中にある椎坂峠を数年前にできたトンネルのバイパスで抜けられるようになってから、時間が20分ほど短縮されました。雪の時期には更に効果が出るでしょう。

 乗り合いタクシー

 280台収容の尾瀬第一駐車場は既に満車。係の人に促され第二駐車場に向かいました。こちらは250台収容。yamaneko達が入ったときにはまだ1割ほどしか埋まっていませんでした。今日の天気からすると、ここもほどなく満車になるでしょう。
 第一、第二の双方から9人乗りワゴンタクシーが出るので、チケットを買って待ちます。係の人が無線で配車をしていて、次から次へとやって来るので、待ち時間はほとんどありません。

 鳩待峠

 yamaneko達が乗ったタクシーは7時5分に発車。途中からマイカー規制の道を走り、終点の鳩待峠に着いたのは20分後の7時25分でした。以前はこの広場までバスやタクシーが乗り入れていましたが、去年、峠の少し手前に発着場ができました。そのためここは尾瀬と外界とのバッファエリアとなったようです。

 尾瀬エリア
 Kashmir 3D
〔今回のルートを大きな地図で〕

 今回は日帰りなので、オーソドックスな湿原歩きを。まず、鳩待峠から山ノ鼻に下り、そこから上田代、中田代と湿原を歩いて、竜宮小屋まで。復路は同じルートを帰ってきます。

 記念撮影

 トイレと準備体操を済ませ、山ノ鼻へ下る道の入口前にある看板で記念撮影。今日も無事に戻ってこられますように。

 スタート

 7時50分、スタートしました。初めは石畳の道です。朝露で濡れているので要注意です。



 この紅葉はツタウルシか。東京ではまだ夏日なのに、ここには深まりつつある秋があります。



 道の両サイドの草が刈り込まれているのは、熊対策。人が歩く道と熊が活動する茂みとの間に空間を設け、両者が鉢合わせしないようにするためです。基本、熊は人の気配を感じ取るとその場から遠ざかるものだそうです。不幸なのはばったり出会ってしまったとき。そのための緩衝地帯なんですね。

 オオカニコウモリ

 キク科のオオカニコウモリ。花はこれが満開の状態です。

 オオバセンキュウ

 小さな白い5弁の花をたくさん付けているのはオオバセンキュウ。センキュウは漢字では「川芎」と書き、漢方では血の巡りを良くする薬のこと。(「ありがとう」ではありません。)

 ハンゴンソウ

 魂を呼び返すというハンゴンソウ(反魂草)。3裂する大型の葉が風に揺れると、手招きをしているように見えるからだそうです。



 うーむ、ミヤマアキノキリンソウかな? 花冠の中心にある筒状花の数が少ないようにも感じますが。

 至仏山

 スタートして25分。左手の木々の間から至仏山が望めました。標高2228m。穏やかな山容ですね。左の小さなピークは小至仏山です。



 切り株をツタウルシが覆っています。秋の色ですね。

 ウド

 これはウドの実ですね。「ウドの大木」という言葉がありますが、ウドは木ではなく草です。

 ソウシシヨウニンジン

 トチバニンジン、と思いきや、実の先端が黒いので、これはソウシシヨウニンジン(相思子様人参)。これもウドと同じくウコギ科の植物です。

 ダケカンバ

 堂々としたダケカンバ。見上げる空は秋の空です。

 オクトリカブト

 オクトリカブト。ずいぶん白いですが、うっすらと紫色も帯びているので白花ではないのでしょう。

 ソバナ

 嶮岨な場所に生えるからソバナ(岨花)。キキョウの仲間です。

 ヨセ沢

 鳩待峠から山ノ鼻までは、川上川が削った谷に沿って下っていきますが、その間に川上川に注ぐ小さな沢を3つ渡ります。鳩待峠側から、ハトマチ沢、ヨセ沢、テンマ沢の順。
 こういう水場ではクマに出逢いそうで、ついじっと沢の奥の方まで凝視してしまいます。

 ツタウルシ

 ツタウルシの紅葉は一級品ですね。かぶれも強いけど。yamanekoは以前ツタウルシにひどくかぶれたことがありましたが、それ以来耐性ができたのか、ウルシ系のものにはとんとかぶれなくなりました。

 ゴマナ

 ひょろっと伸びたゴマナ。日当たりがよいと1.5mほどにも育ちます。尾瀬では湿原の縁でもよく見かけますね。

 ムシカリ

 ムシカリの紅葉には「侘び寂び」がありますね。赤い実が付いていますが、完熟すると黒色に。でも花柄は赤いままで、この赤黒のコントラストが鳥の目に留まりやすいのだとか。これを「二色効果」というのだそうです。

 オオツリバナ

 オオツリバナ。果実に稜があるのが特徴。図鑑にはオオツリバナはふつう5数性(花弁の数や萼片の数など1パーツが5個でできている構造)とありましたが、ここのものはほとんど4数性でした。この道沿いにはオオツリバナによく似たヒロハツリバナもあり、こちらは4数性。実に稜がない代わりに大きな翼があり、また、実は水平に開裂する点もオオバツリバナと異なるところです。



 道の傾斜が少し緩くなってきました。木漏れ日が気持ちいいです。

 ユキザサ

 赤く熟したユキザサの実。熟す手前のマーブル柄のものも付いていますね。

 オゼヌマアザミ

 オゼヌマアザミは直立し、頭花もまっすぐ上を向いて咲きます。総苞の部分が釘を並べたみたいになっているのが特徴です。

 オクトリカブト

 このオクトリカブトは鮮やかな紫色をしています。ちなみに全草が猛毒です。

 マルバダケブキ

 マルバダケブキの花はこうやって枯れかけの時でも存在感があるんですよね。yamanekoとしては綺麗に咲いているときよりもこっちの状態の方が好きです。

 ???

 クロモジの仲間っぽいんだけど、何だろう? 葉の縁をよく見てみると細かい鋸歯があるんですよね。

 至仏山山頂

 至仏山の山頂をアップで。もう紅葉が始まっているようです。山ノ鼻からの登山道がこの面を通っていて、写真を拡大してみると登山者が何人も写っていました。この登山道、山ノ鼻からの登り専用で、山頂からの下りに使うことはできません。

 ヤマウルシ

 周りより一足先にヤマウルシが紅葉を始めていました。

 サラシナショウマ

 サラシナショウマの花期はもうそろそろ終わりでしょうか。繊細で綺麗な花です。



 木道脇にあった不自然な痕跡。おそらくクマが座り込んだ跡だと思います。尻の部分には体毛の跡までくっきりと残っていました。また、手前には爪の形も見てとれる足跡も。まだ新しかったので、今日の早朝にでもここにいたのかもしれません。
 
 さて山ノ鼻まであとちょっと。続きは中編で。