尾瀬ヶ原 〜一面のミズバショウを求めて(後編)〜


 

 (後編)

【群馬県 片品村 平成28年5月22日(日)】
 
 一面のミズバショウを楽しみに訪れた尾瀬。後編です。(前編はこちら

 尾瀬エリア
 Kashmir 3D
〔今回のルートを大きな地図で〕

 

 池塘

 山ノ鼻からのんびりと上田代を歩きます。今日は湿原を縦断するつもりはなく、適当なところで引き返すつもり。尾瀬に訪れていながらなんか贅沢な時間の使い方です。
 湿原が緑になる前の池塘はこんな感じ。なんだか山火事があった後のようです。

 タテヤマリンドウ

 タテヤマリンドウ。この花はちょっと変わった生活史を持っています。普通、冬を越して咲く花は、前年に地上部の花も茎も枯れても地下の根は生きていて、そこから翌年伸びていくのですが、タテヤマリンドウは前年に一旦すべて枯れてしまって、種から発芽して冬を越し、春になって延びていくのだそうです。種のまま冬を越さないのは何でなんだろう。
 それにしても青い花は涼やかでいいですね。湿原のあちこちに咲いていました。

 至仏山

 振り返ると山ノ鼻が随分遠くになったのがわかります。至仏山の大きさは変わらないように感じるのは、山が大きいからでしょうね。
 ああ、この風景、大好きです。

 燧ヶ岳遠望

 進行方向正面に燧ヶ岳が見えています。右手のこんもりとした森は牛首。今日はあの辺まで行って引き返すことにしました。おそらくこの先も下田代まで同じような状況でしょう。

 ミツガシワ

 左右の木道の間にミツガシワがありました。氷河期の生き残りと言われている花です。花序はまだ花が咲き始め。花弁に細かい毛が生えているのが特徴で、これが優雅さを醸しているようです。

 木道の所々に休憩スペースがあります。高速道路で言えばパーキングエリアのよう。

 上ノ大堀川

 湿原を歩いていると何回か川を渡ります。これは上ノ大堀川。山から流れ込んでいる川なので両岸に自然堤防ができ、そこに拠水林が茂っています。そのような場所にはミズバショウの群落もできやすいようです。

 ちょっとアップで。おお、まだ生きのいい株もたくさん見えますね。

 振り返るといつの間にか牛首を過ぎていました。

 至仏山頂

 牛首越しに見る至仏山の山頂。僅かに雪が残っています。至仏山の登山にはいくつかのルールがあります。例えば、山ノ鼻からの登山道は上り専用。これは登山道に露出している蛇紋岩は滑りやすく、下りに用いるのは危険だからです。また、雪解け時期(5月上旬から6月末まで)は鳩待峠からのルートも含め登山禁止となりますが、これは芽吹き始めた植物を踏みつけから保護するためです。
 さて、そろそろ引き返しましょうか。時刻は10時55分です。

 アカハライモリ

 池塘に漂う浮島です。よく見るとアカハライモリが泳いでいました。彼にとって浮島は大陸のように見えているかも。

 モウセンゴケ

 これはモウセンゴケですね。食虫植物です。水滴のように見えるのは粘液で、これに虫がくっついてしまいます。実際、アリのような虫があちこちで捕らえられていました。

 ヒメシャクナゲ

 ヒメシャクナゲの花は初めて見ました。これまで実になったものしか見たことがなかったので、これはすごく嬉しいです。まだ蕾のように見えますが、もともと壺型の花でこれが開花の状態なのです。今回、ミズバショウはちょっと残念でしたが、この花を見ることができて挽回できた気がします。

 ミズバショウ&リュウキンカ

 ミズバショウとリュウキンカをセットで。これぞ尾瀬といった感じです。

 山ノ鼻小屋

 山ノ鼻に戻ってきました。時刻は11時50分。昼食は4軒ある山小屋のうちの一つ、山ノ鼻小屋で。

 昼食

 暑いのでざる蕎麦を注文。妻はカレーです。手打ちの麺で美味。生き返りました。

 

 昼食後は研究見本園へ。こっちは訪れる人もまばらです。

 研究見本園

 上田代から下田代までのいわゆるメインエリアに比べると随分小さな湿原ですが、それでもこれだけの広がりがあります。「見本園」といっても特段植物を集めてきて造園したものではなく、メインエリアと同じく自然のままの状態なのだそうです。

 池塘に映る逆さ至仏。太古の昔からここに聳えているのかと考えると、日々何を小さなことであたふたしてるのかと我が身を笑い飛ばしたくなります。

 人影もほとんどなく、静かな散策が楽しめます。「ヤッホー」は違うかな、ここでは。

 燧ヶ岳

 ここからだと燧ケ岳も随分遠くに見えます。直線距離にして約10kmほどです。

 幸い今日はここまででクマに出会うことはありませんでした。念のために鐘を鳴らして行きましょう。

 ややくたびれ気味ですが、ここにもミズバショウの小群落がありました。例年6月上旬にはミズバショウ目当てのバスツアーも多いと聞きますが、今年はその頃にはミズバショウの跡形もなく、「ツアー募集時の内容と違う!」とかトラブルの一つも起こりそうですね。トラベルだけに。

 リュウキンカ

 ここにもリュウキンカが。こちらはまったく元気です。

 至仏山荘

 ぐるっと回って30分。研究見本園を一周して再び山ノ鼻に戻ってきました。

 ミネザクラ

 これはミネザクラですね。別名タカネザクラ。そろそろ散り始めといったところでした。

 鳩待峠へ

 ネイチャーセンターをちょっと見てから鳩待峠への帰路につきました。時刻は午後1時5分。帰り道にはどんな出会いがあるでしょうか。

 ミヤマエンレイソウ

 これはミヤマエンレイソウ。ちょっと霜にやられているでしょうか。褐色の花のエンレイソウとは別の種で、こちらはエンレイソウにより希な存在なのだとか。

 シラネアオイ

 シラネアオイ。これは往路では見逃していた株です。和の色合いをしていますね。

 ユリワサビ

 水辺に咲くこの白い花はユリワサビ。

 流れのない水の中に何かの卵塊が。カエルでしょうかね。

 ヒメタケシマラン

 これはヒメタケシマラン。タケシマランよりかなり小さく、高さ20cmほど。ちなみにランと名が付いていてもラン科ではなくユリ科です。

 ミヤマカタバミ

 おっ、ミヤマカタバミが開花しています。往きに見たときはどれもまだ閉じていたのですが。日差しを受けて暖かくなったのでしょう。

 ショウジョウバカマ

 背景とかぶってちょっと見にくいですが、これはショウジョウバカマ。

 イワナシ

 やや、これはイワナシではないですか。綺麗に咲いています。お目にかかるのは15年ぶりくらいかもしれません。

 木道は山の斜面に沿ってぐんぐん登っていきます。

 ミヤマカタバミ

 ここにもミヤマカタバミが。これはややピンク系ですね。

 ユキザサ

 瑞々しいユキザサの葉。花序はまだ伸び始めたところですね。

 静かな山道、と言いたいところですが、実は腰で熊鈴がリンリン鳴っているのです。やはりクマには出くわしたくないですからね、お互いのためにも。

 見上げると新緑に青空。心が解放されますね。

 サンカヨウ

 サンカヨウです。葉はこれから大きく展開するところ。花は純白ですが、実はコバルトブルーなんです。



 2時55分、鳩待峠のゲートまで戻ってきました。山ノ鼻から1時間50分。通常の2倍の時間がかかっています。あれこれ観察しながらだとこんな感じなんですよね、いつも。で、足もパンパンです。

 幸いクマに出会うこともなく、無事に帰って来れました。

 鳩待山荘

 バスが上がってこなくなった峠の広場。こうやってみるとだだっ広いって感じがします。さて、とりあえず花豆ソフトクリームを食べて、ストレッチをして、それからバスや乗合タクシーが停車している駐車場へと向かいましょう。
 
 今日は期待していた一面のミズバショウはありませんでしたが、それでも綺麗な株にはいくつも出会いました。それだけでなく、ヒメシャクナゲやイワナシなど、思いがけない花との出逢いも。やっぱり尾瀬はいつ来ても満足させてくれますね。また季節を変えて訪れたいと思うのでした。