尾瀬ヶ原・アヤメ平 〜尾瀬で雲上の湿原に遊ぶ(後編)〜


 

    (後編)

【群馬県 片品村 平成27年8月24日(月)】
 

 尾瀬エリア
 Kashmir 3D
〔今回のルートを大きな地図で〕

 竜宮から長沢新道を登って稜線まで上がってきました。目的地はアヤメ平。でもその前に富士見小屋に寄ってみます。(中編はこちら))

 富士見田代から誰もいない湿原の中を下って行きます。

 振り返るとこの青空。さっきは奥の森の中を登ってきたのです。

 しばらく下ると木立の向こうに建物が見えてきました。富士見小屋です。

 富士見小屋

 12時30分、富士見小屋に到着しました。ここで昼食にします。後ろに自動車が見えていますが、麓の戸倉からここまで林道が通っているのです(一般車は途中までしか通行できません。)。

 楽園か?

 ヤナギランのそばに腰を下ろして昼食に。いただくのは東電小屋で用意してもらった弁当です。去年、元湯山荘に泊まったときも同じ弁当だったので、系列の山小屋共同で調達しているのでしょうね。

 ヤナギラン

 ランという名が付いていますがランではなくアカバナ科。なので花弁は4個です。

 ヤマハハコ

 これはヤマハハコ。キクの仲間です。これからが開花時期ですね。

 公衆トイレ

 母屋の前には公衆トイレが。綺麗な水洗トイレでした。尾瀬のトイレはチップ制です。

 再出発

 1時10分、食後しばらく休憩をして、あらためてアヤメ平を目指します。とりあえずさっきの富士見田代まで戻ります。

 モウセンゴケ

 おお、これは食虫植物のモウセンゴケですね。コケと名がつきますがもちろん種子植物です。捕虫葉に長い毛が密生していてそこから粘液を分泌しています(捕虫葉でない葉は普通の葉)。ここに虫が止まるとくっついてしまい、さらに包むように葉が丸まって逃げられなくするのです。そしてゆっくりと消化吸収。
 この赤いモウセンゴケが一面に生えている様子がまるで緋毛氈を敷いたようだということでその名が付いたのだそうです。ここも一面赤かったです。

 富士見田代を過ぎて更にその先へ。富士見小屋からアヤメ平までは標高差100mを上ります。

 すぐに左手がの眺望が開けました。目の高さより低い位置に分厚い雲があって、それが下界に蓋をしています。飛行機の窓から見るような雲海です。雲の下に見える集落は戸倉の家並でしょうね。アヤメ平は尾瀬ヶ原の南側に東西に延びる尾根上にあって、その尾根の南側(すなわち尾瀬ヶ原とは反対側)は麓の戸倉まで一気に下っているのです。

 アカモノ

 足元にアカモノの実が。実と言ってもこれはいわゆる偽果というやつで、果肉化した萼が本当の実を包み込んでいるものです。そういえば本来の実、見たことないです。

 オヤマリンドウ

 これはオヤマリンドウ。富士見小屋からアヤメ平の間でたくさん出会いました。

 昨日の天気とは打って変わって清々しい空です。道は稜線の少し下を通っていて、右手を見上げるとその稜線の向こうに燧ヶ岳が見えました。頂に大きな雲を乗せていますが、天気を崩すようなものではないでしょう。

 ゴゼンタチバナ

 ゴゼンタチバナも実を付けていますね。実りの季節の到来です。

 こんな感じで左手が急な斜面となってかなり下まで続いています。アヤメ平は正面奥。

 最後の上り。この向こうがアヤメ平です。

 アヤメ平

 1時40分、アヤメ平に到着しました。だーれもいません。この広い空間を妻と二人占めです。とりあえずベンチで休みましょう。

 ジョウシュウオニアザミ

 これはジョウシュウオニアザミ。名前に違わずいかついかんじです。こうやって重たい頭花を下に向ける姿がデフォルトです。

 アヤメ平

 ベンチにリュックを下ろして休憩です。どうですこの開放感。遠くに見えるのは至仏山です。陽射しは強いですが風は涼しく心地よいです。しばらくベンチに横になってウトウトしてしまいました。

 キンコウカ

 アヤメ平の「アヤメ」とは、いわゆるあのアヤメではなくキンコウカのこと。葉の形がアヤメに似ていたからその名が付いたのだそうです。でも、そんなこと言ったら単子葉植物はたいがいアヤメってことになってしまうと思うのですが。

 イワショウブ

 イワショウブの花が実になっていく過程。

 池塘

 ここアヤメ平は昭和30年代に大量の観光客が訪れ、その踏み付けなどで壊滅的なダメージを受けたのだそうです。その後植生回復が図られていますが、50年経った現在でもまだ終わっていないそうです。一度失われた自然を元に戻すということは簡単ではないということですね。

 チングルマ

 1時55分、休憩を終え、鳩待峠に向けて歩き出しました。ここからしばらくは横田代という湿原の中を行き、後半は森の中を歩くことになります。
 これはチングルマの果実です。この姿を子どもが遊ぶ風車に見立て、ここから稚児車(ちごぐるま)、チングルマと転訛したとのことです。

 アヤメと言われれば…

 これがアヤメと間違われたキンコウカの葉。それぞれの葉の先端が紅葉し始めていますね。やがてこれが全体に及び、湿原全体が燃え立つような色になる、これが尾瀬名物の草紅葉(くさもみじ)といわれるものです。

 モウセンゴケ

 この小さく可憐な花。これが食虫植物モウセンゴケの花っていうから、世の男どもはここから何かを学ばなければなりません。

 横田代からの至仏山

 至仏山の山頂から雲が取れました。どっしりとした姿をしていますね。

 キンコウカ

 まだ花を咲かせているキンコウカがありました。 漢字で書くと「金光花」。輝く光のような花冠は確かにそんな感じはしますね。

 池塘に映る青空。パラレルワールドへの入り口のようです。

 森の中へ

 やがて道は森の中に入りました。静かです。そういえばアヤメ平からはまだ2、3人としか出会っていません。そもそも朝からでも合計で20人くらいでしょうか。

 少しずつ陽が傾いてきました。森に入ってからでも鳩待峠まではまだけっこう距離があります。朝からの疲れがそろそろ関節にき始めた感じです。

 テツカエデ

 このカエデは…、なんだっけ。立派な翼果ですな。(テツカエデでした。)

 アヤメ平から鳩待峠までは約5km。標高差は約360m。一貫して下り坂が続きます。

 ようやくゴールが見えてき ました。木立の向こうに建つのは鳩待山荘です。ヒャー長かった。

 鳩待峠

 3時55分、鳩待峠に到着しました。東電小屋を出てから8時間半。ケガもなく無事に戻ってこられてなによりです。
 さて、ここからまたバスに乗って戸倉まで降りていかなければなりません。時刻表を見ると次が最終で4時25分発車とのこと。30分ほど時間があります。名物の花豆ソフトを食べておとなしく待つことにしました。

 戸倉第1駐車場

 時刻どおりバスは発車し、5時前に戸倉に着きました。駐車場には主人を待つドリーム号が。さあこれからひとっ走り東京までよろしく。
 
 今回の尾瀬散策。初日は雨に降られましたが、今となって思えばいろんな尾瀬の表情が見られて良かったです。今回目にした様々な風景が、またしばらくしたら日常の中にフラッシュバックしてきて、尾瀬症候群が発症するのだと思います。(高速は渋滞もなく家に着いたのは8時半くらいでした。)