尾瀬ヶ原 〜尾瀬で霧と雨に包まれる(前編)〜


 

 (前編)

【群馬県 片品村 平成27年8月23日(日)】
 
 尾瀬は不思議な場所です。山々に囲まれた大湿原、その中に点在する池塘や拠水林、多彩な動植物。ひとたび尾瀬の大自然に身を置くと、日常のふとした瞬間にその風景がフラッシュバックしてきて、「ああ、またそろそろ行きたいなぁ」となってしまうのです。こういうの「尾瀬症候群」とでも言えばよいでしょうか。
 年に何回か尾瀬の山小屋の運営会社から宿泊割引のハガキが届くのですが、今年はまだ1回も尾瀬を訪れていないので、ちょうどそんな尾瀬の心の呼びかけもあり、この割引期間中に妻と二人で行くことにしました(1枚のハガキで4人まで割引可能。)。ちなみに割引額は一人当たり2千円。大体1泊2食で8千円から1万円が相場ですので、2千円は結構な割引ですよね。
 
                       
 
 午前3時半にドリーム号で出発。この時点ではまだ雨は降っていませんでしたが、圏央道から鶴ヶ島JCTで関越道に入り、花園IC辺りまで走ったところで雨が降り出しました。結構な雨脚です。日本列島の南海上を北上しつつある台風(15号と16号のダブル)の影響もあるでしょう。
 沼田ICで高速道路を下りて、国道120号を片品村へ。尾瀬の麓に当たる戸倉に着いた頃にはその雨も上がっていました。

 戸倉第1駐車場

 時刻は7時30分、第1駐車場は6割方埋まっていました。 車内でちょっと仮眠をとった後、乗り合いバスで鳩待峠まで移動です。これまではワゴンタクシーばかりで、大型バスは初めて。車内は補助席を使うほど混んでいました。

 尾瀬エリア
 Kashmir 3D
〔今回のルートを大きな地図で〕

 今回のルートは、鳩待峠から山ノ鼻に下って尾瀬ヶ原へ。上田代、中田代と歩いて牛首分岐を左手へ。ヨッピ橋を過ぎてヨシッポリ田代に入ります。そして今日は東電小屋で一泊。明日は標高差560mを登ってアヤメ平へ。そこから鳩待峠に戻るというものです。初日は8.5km、二日目は14kmの行程になります。

 鳩待峠

 鳩待峠に着いたのは8時40分。辺りは雲の中といった感じで、雨は降っているかいないか分からないくらいです。

 これは鳩待山荘

 まずは休憩所で装備を整えました。いつ降り出してもおかしくないので、ここでレインウエアを着用。スパッツもしっかりと装着です。

 8時50分、準備運動を済ませて、いざ出発。尾瀬は何回来てもワクワクするんですよね。

 さてここから山ノ鼻まで3.3km、延々と下りです。

 ヤグルマソウ

 これはヤグルマソウの実ですね。葉はかなり大型で、特徴のある形は矢車(鯉のぼりのポールの先端でわ回っているやつ)そっくりです。

 出だしは石段で、雨に濡れていても歩きやすいです。昨日は濡れた木道で滑って両膝を複雑骨折する事故があったそう。十分に気をつけなければ。

 クマイチゴ

 野生のイチゴが実っています。この大型で切れ込みが深い葉はクマイチゴですね。

 ムシカリ

 これはムシカリ(オオカメノキ)の実。まだ8月下旬ですが、植物の世界ではもう実りの季節が訪れているようです。

 オオバタケシマラン

 オオバタケシマランも赤い実を付けています。こうやってみると草木の実は圧倒的に赤色が多いですね。

 この辺りは木道が新しくなっています。板の端に「H26」とか焼き印が押してあって、いつ更新されたものか分かるようになっているのです。場所にもよりますが、尾瀬では平均して10年くらいで新しいもに取り替えているようです。

 ミズキ

 ミズキの果柄がサンゴのよう。みごとに赤いですね。

 スノキ

 葉裏に隠れるように付いているこの黒い実はスノキですね。和製ブルーベリーです。

 小さな流れを渡ります。やはり雨に濡れた木道はかなり滑りやすいです。

 ソバナ

 登山道の周りは様々な植物に溢れていて、なかなか前に進めません。これはソバナですね。「蕎麦+菜」ではなく「岨+花」。「岨」とは嶮岨な場所、すなわち地勢の険しい場所という意味で、岨花とはそんなところに咲く花という意味だと思います。

 オオカニコウモリ

 これはオオカニコウモリですね。まだ蕾の状態で、その先端が紫色になっています。

 コマガタケスグリ

 ちょっと分かりにくいですが、玉暖簾のように何かの実が垂れ下がっています。調べてみたらこれはコマガタケスグリの実でした。この植物の存在は今年の春に初めて知りったばかり。そのときはまだ咲きはじめの状態でした。ちなみにそこは駒ケ岳ではなく八ヶ岳山麓でしたが。

 ツノハシバミ

 ツノハシバミの実。実の表面に生えている細かい棘が厄介ですが、中には美味しいナッツがあり、生でも炒っても食べられます。和製ヘーゼルナッツです。

 ミヤマアキノキリンソウ

 これはミヤマアキノキリンソウですね。キリンソウに似ていて秋に咲くからアキノキリンソウで、その高山形だからミヤマアキノキリンソウ。でもキリンソウとアキノキリンソウは別の科だし見た目も似ているとは思えないんですが。共通点は花が黄色いという点くらいなのでは。

 ナンブアザミ

 ナンブアザミ。総苞片の反り返り具合がすごいです。過激です。

 クロヅル

 ムム、これはなんだろう? と、調べてみたらクロヅルの実でした。なるほど、クロヅルはタデ科なので、同じタデ科のギシギシなどと実の構造に共通するところがあります。

 ハンゴンソウ

 ハンゴンソウの花もちょうど盛りの頃ですな。

 ノリウツギ

 ノリウツギの花。この木の茎でステッキや傘の柄を作ったのだそうです。「ノリ」は糊のことで、樹液を糊として使ったからなのだそうです。

 ハリブキ

 次から次へといろいろなものが出てきますね。これはハリブキの実。大きな葉の陰に隠れるようにしています。名前のとおりかなり激しい棘を密生させています。

 サンカヨウ

 藪の奥にサンカヨウの実が。花は上品で、yamanekoの好きな花の一つです。

 だいぶん傾斜が緩やかになってきました。でもまだ滑りやすいので注意が必要です。

 ミズバショウが…

 ミズバショウの葉が食い荒らされています。犯人はクマですね。やはり柔らかいところを選んで食べているようです。やりたい放題といった感じです。

 キツリフネ

 天然のモビール、キツリフネ。でも、これじゃあゆらゆらして虫は止まりにくいんじゃないだろうか。

 マルバダケブキ

 これはマルバダケブキの花。この花を見ると夏の高山に来たことを実感します。ヨレヨレっぽいですが、これでも新鮮な状態。

 オゼヌマアザミ

 オゼヌマアザミです。この総苞片のワイルドさ。針のよう、いやもはや釘ですね、これは。

 ヤマトリカブト

 これはヤマトリカブトでしょう。花冠は複雑な構造をしています。
 
 いやいや、花や実の波状攻撃で一向にペースが上がりません。もとよりこうやって観察しながら歩くのが楽しみで来ているのでこれで良いのですが。
 それでもなんだかんだで山ノ鼻までだいぶん近づいてきたと思います。その先は広大な湿原へ。ということで、雨の尾瀬ヶ原は後編に続きます。