大野山 〜大地せめぎ合う山塊(前編)〜


 

 (後編)

【神奈川県 山北町 令和3年5月9日(日)】
 
 大地のせめぎ合いが造り上げた(?)大野山での野山歩きの後編です。(前編はこちら) 
 


 Kashmir3D

 JR谷峨駅をスタートし、酒匂川を渡って登り始めた大野山。とっかかりの森のエリアを抜けて標高を上げ、草原エリアに至りました。大野山の山頂部は牧場になっています。

 武蔵(634)

 このベンチには「スカイツリーと同じ高さ!」という看板が。ということはここの標高は634mですね。麓からずいぶん上ってきましたが、こうしてみるとスカイツリーってとてつもなく高いんですね。

 フジ

 登山道脇にフジが花を付けていました。風が強かったので写真を撮るのが難しかったです。



 おっ、柵が見えました。あそこからが牧場の敷地なのかも。



 どどーんと南側の眺望です。正面に足柄の山々。その奥に重なるように箱根の山々が鎮座しています。箱根の左側が小田原あたり、右側が御殿場あたりになります。要は伊豆半島の付け根が目の前にあるのです。
 その伊豆半島は、もともとは南洋の海底火山活動によって造られたものだそうで、フィリピン海プレート(地球の表面全体を覆う何枚かの岩盤のうちの一つ)の上に乗っかる形でプレートと共に北上してきて、今から500万年前頃に日本列島に衝突したと考えられています。まさにここがその現場なんですね。フィリピン海プレート自体は日本列島が乗っている大陸プレートの下に潜り込んでいくのですが、上に乗っていた陸地や海底堆積物は大陸プレートの縁にこそぎ取られ、次々と折り重なるようにして盛り上がっていったとのことです。ちょうど幾重にも皺が寄るように(今も進行中)。なので位置関係からすると、箱根より足柄、足柄より丹沢が先にぶつかって盛り上がったということになるのでしょうね。そう言われれば今もなんとなくぐいぐい押されているような(笑)。



 振り返って北東方向。一つ向こうの尾根上に建物が見えます。どうやら牧場の管理施設のようです。相当広い牧場なんですね。今日は、yamanekoはそのもう一つ向こうの尾根筋から下山する予定です。



 傾斜はかなり緩くなりました。山頂部に近づいたということでしょう。こんな清々しい野山歩き、最高です。

 新東名の工事現場

 南西側の麓、静岡県との県境付近を見てみると、何やら大規模な工事現場が。これは新東名高速(第二東名)の工事現場ですね。現在御殿場JCTと伊勢原大山ICの間を工事していて、ここができると全線開通となるようです。既にトンネルや橋脚も見えていますね。遠くにうっすらと見えるのは御殿場の市街地です。ところで、今もプレートに押され続けているようなところに高速道路なんて造って大丈夫かとも思いますが、おそらくインフラの耐久年数との時間軸が違うんでしょうね。

 東屋

 しばらく行くと東屋が現れました。時刻は11時50分。山頂は人が多いでしょうからここで昼食としてもよいのですが…、やっぱりスルーしました。



 最後の急な上り。正面の木立を抜けていきます。その先は山頂部を左から回り込んでいく感じになります。前を行くのは親子連れ。小さな子どもも頑張っていますね。

 ムラサキケマン

 林床にムラサキケマンを見つけました。ケシの仲間です。写真のように花冠の先端だけが薄紫色になるものもあれば、花冠全体が濃い紫色になるものもあります。

 ヤマナシ

 これはヤマナシの花ではないでしょうか。果物として流通しているナシの野生種だそうです。雄しべの先端の葯が紫色をしているのが、花の表情をキリッとさせています。



 大野山の山頂部の西の端あたりに出ました。正面の山並みは不老山(928m)など静岡県境に近い丹沢最西端の山々。遠く奥には丹沢山塊外縁の菰釣山(1379m)や更にその先道志山塊の御正体山(1681m)の姿も見えています。

 山頂広場

 ぐるっと回り込んで山頂広場にやって来ました。これは確かにピクニック気分で来られそうな雰囲気の場所です。

 大野山山頂

 三角点は少し南側にあるようですが、いかにもなモニュメントがあったので、個人的にはここを山頂に決めました(腹ぺこなので。)。
 12時10分、山頂に到着でーす。谷峨駅からの所要時間は2時間20分ほどでした。

 今日のランチ

 今日のランチは、カニ雑炊とドライカレー。いずれも職場で期限切れになった非常用食品をもらい受けたものです。数日過ぎただけなのでまあOKでしょう。(欲張って両方食べたら腹が膨らみ過ぎました。)

 南東方面

 食後、あらためて山頂からの眺望を楽しみました。こちらは小田原方面。

 北方面

 こちらは反対側(北側)の西丹沢方面。眼下に三保ダムと丹沢湖が見えていますね。その背後の三角の山は権現山(1018m)。そこから右奥に向かって屏風岩山(1052m)、畦ヶ丸山(1292m)と続き、最奥の山頂に少し雲がかかっているのが大室山(1587m)です。大室山は菰釣山と同様に丹沢山塊外縁の山です。一方、権現山と谷を挟んで向かい合っているのは戸沢の頭(880m)になります。

 西方面

 こちらは西側。山頂を雲に隠した富士山が見えます(写真にマウスオーバー)。雪がまだたくさん残っていますね。

 下山開始

 山頂では40分ほどのんびり過ごしました。12時50分、下山開始です。まずは東側の尾根を目指して車道を歩いて行きます。

 謎の彫刻

 すぐに車道と分かれる分岐までやって来ました。大野山の登山道にはところどころに写真のような動物の彫刻が置かれていました。チェーンソー彫刻のようです。山頂にもあったし、休憩場所や東屋などにも。いずれも結構リアルで特徴を捉えた(つまり見るものにとって分かりやすい)彫刻でした。これはクマでしょうか。
 これから正面に見える尾根の斜面を下って行きます。

 北東方面

 分岐からの北東方面の眺めです。正面奥に重なるように日影山(876m)と伊勢沢ノ頭(1177m)。その右肩奥に塔ノ岳(1491m)。左肩奥には蛭ヶ岳(1673m)、檜洞丸(1601m)などが並んでいるのが見えます。丹沢山塊は奥が深いです。



 尾根からの降下地点に到着しました。ここからは麓まで下りオンリーです。

 ウシくん

 下り始めてすぐ、ウシくんに出会いました。草を食べるのに一生懸命で、呼んでも来てくれませんでした。牧場のウシって本当に可愛いですよね。



 つまづくと遙か下まで転がって生きそうな急傾斜。



 その急な傾斜のまま林の中に入っていきました。



 やがて傾斜は緩んできました。等高線に沿うように小さな沢筋をいくつもパスして行きます。



 急な斜面をトラバース。道幅がそこそこあるので怖さはありません。このコースはは変化に富み、飽きませんね。



 ここは去年の秋の土砂崩れで通行止めになっていたところですね。事前に山北町のHPでルート情報を調べていたら、3月末に復旧したと写真入りで掲載されていました。毎年台風などで登山道の状況が変化するので、どの山に登るにしてもガイドブック情報だけで登るのは危険です。

 キブシ

 植物を見る余裕が出てきました。これはキブシの実ですね。プリッとしています(形が)。

 キランソウ

 キランソウ。本来であればもっと一株あたりの花の数が多いのですが。

 マルバウツギ

 清楚な花、マルバウツギです。以前はユキノシタ科に分類されていましたが、調べてみるとAPGVという最新の分類ではアジサイ科だそうです。APGにはあまり耳慣れない科名も多く、いつまでたっても覚えられません。なにしろyamanekoが植物に親しむようになった頃の図鑑(今でも愛用)は2000年の刊行で、旧来の新エングラー体系で分類されていて、それが頭に刷り込まれているので、アジサイ科なんて言われてもピンとこないんですよね。新エングラーは最近の学問的には「古典」なのだそうですが、別にその分類方法が誤りということではないと思うので(AGPは分子系統解析による分類、新エングラーは見た目の形状や生活史などに着目した直感的に分かりやすい分類)、よしとしましょう。覚えられなくても。



 稜線の細い道ですが、両側に木々があるのでヤセ尾根感はありませんね。



 1時50分、舗装路に出会いました。右の写真は舗装路に下りて振り返って撮ったもの。ここがyamanekoが下りてきた「地蔵岩ルート」の入り口です。



 舗装路に下りてほどなく、切り出した木の加工場が現れました。玉切りされたスギが積まれています。森林組合かなんかの施設なのかもしれません。

 炭焼き小屋

 隣に炭焼き小屋があり、煙が上がっています。一人で作業をしていた人に話しかけてみると、昨日火を入れたばかりで、焚き口を塞いでこれから4日間燃やし続けるとのこと。そのあと1週間かけて温度を下げてから取り出すのだそうです。できあがった炭はどうするのか聞いてみると、特段出荷とかするわけではなく、NPO活動の中で使うとのことでした。

 旧共和小学校

 古宿という集落に出ました。この広いところは旧共和小学校の跡地。ここがNPO法人の活動拠点になっているようで、さっきの木材加工場もNPO法人の運営のようでした。校舎跡のカフェで何人かのんびりとだべっていました。
 ちなみに、背後(左奥)の山が大野山。yamanekoはあの斜面を下りてきてここに至っています。



 集落には広い茶畑がありました。これから民家の軒先を通って更に下って行きます。 

 キリ

 足下に桐の花が落ちていました。見上げると高い枝にキリが花穂を付けていました。山を歩いていてキリが現れると集落が近いな、となります。人間の生活と密接な関係を持ってきた樹木なんですね。(この写真を望遠で撮っていて、ファインダーを覗きながら後ずさりしていたら、すんでの所で石垣から転落するところでした。マジ危なかった。)

 山本工業前

 鍛治屋敷という地区です。これまでは舗装路と言っても車もほとんど通らないようなところでしたが、合流した先の道はそれなりに車の往来があるので、轢かれないように道の端を歩きます。それにしても陽射しが暑いです。

 東名高架下

 東名高速の高架の下をくぐります。そろそろ足先が痛くなってきました。

 R246

 2時30分、眼下に国道246号の橋が見えました。これからあの橋のたもとに向かって下りていきます。

 安戸隧道

 国道手前で安戸隧道に入ります。なんか懐かしい雰囲気ですね。国道はその右隣にある新安戸隧道を通っています。

 JR御殿場線

 あとは山北駅を目指して黙々と車道を歩き続けました。途中で御殿場線を跨いでいきます。 

 山北駅

 2時55分、ようやく山北駅に到着し、ここで今日の野山歩きもゴールとなりました。約1時間の舗装路歩きで、足にマメができた感じです。
 
 今日は素晴らしい眺望の野山歩きで、しかもその眺望の成り立ちがとてつもなくダイナミックな地球の活動に関わっていると考えたとき、余計に爽快な気分になれました。自分もこの自然もずっと太古からつながってここにあるものなんだと、そういうことなんですよね。