大楠山 〜三浦半島最高峰を歩く〜


 

【神奈川県 横須賀市 平成20年11月15日(土)】
 
 11月の半ば、季節は鮮やかだった秋とモノトーンの冬とのちょうど境目の時期です。遠出をするにはちょっとおっくうなこの週末。比較的近場で朝普通に起きて行ける所は、と探してみて、三浦半島の山に行ってみることにしました。場所は半島の中程にある大楠山。三浦半島の最高峰です。といっても標高は241mですが。
 
                       
 
 午前9時、ドリーム号のエンジンをかけ出発です。山手通りからR246へ。途中、駒沢通りにそれて、環8、第3京浜と比較的スムースに走り抜けました。横浜新道を経て狩場ICからは横横道路(横浜横須賀道路)です。この高速道路は昔、子ども達を連れてよく観音崎へ向かった道。何回通っても懐かしいです。
 衣笠ICで高速を下りて、相模湾沿いの道に出てからは少し逆戻り。海を左に見ながら快適なドライブです。

 立石

 11時15分、立石の駐車場に到着。途中のコンビニで昼食を買っていたら遅くなってしまいました。
 ここは「立石」という景勝地。今日は雲が広がっていますが、相模湾の水平線越しに富士山が望め、日本画のような風景が見られるところです。奥の岩場は「ぼんてん」(梵天=天竺ということか?)と呼ばれ、松の風情もなかなかのもの。手前の突出した岩は高さ12m。これが「立石」の名の由来でしょう。立石は凝灰岩の岩で、日本列島の背骨がようやく大海原に顔を出し始めた頃(約2500万年前)に、火山噴出物が海底に堆積してできた岩石だそうです。当時は火山活動が活発だったのでしょうね。どんな世界だったのでしょうか。(もちろん人類はまだいません。)
 ここの駐車場は公営で、無料なのがありがたいです。ここに車を停めて、登山口まで移動します。


Kashmir 3D

 駐車場の背後はすぐに国道134号線。横須賀から大磯までの湘南海岸を走る道です。茅ヶ崎あたりでは広い道路ですがこのあたりでは海辺の生活道路といったいい雰囲気の道です。登山口への分岐があるのは、駐車場から約1キロ戻ったところにある前田橋。歩いて戻ろうと思っていましたが、ちょうど京急バスが来たので乗ってみることにしました。

 前田橋バス停

 バス停にして二つ分なのですぐに到着しました。ここから山側に入り込んでいきます。

 空き地に

 天気予報は曇りでしたが、ときおり柔らかい日射しが降りそそいできます。風もなく、陽の下ではポカポカな感じ。
 登山口に向かう途中、空き地にセイタカアワダチソウが広がっていました。長閑ですね。

 セイタカアワダチソウ

 近寄って観てみると美しい姿をしています。yamanekoの好きな花のうちの一つです。

 シロダモ(花)  シロダモ(実)

 民家の垣根にシロダモの花と実が。実の方は去年の花の後にできたもの。それを今年の花と同時に見られるのです。当然、今年の花の実は来年の秋に熟します。

 トベラ

 こちらはトベラの実。昔この木の枝を魔除けとして扉に掲げたことから「扉→とべら」と訛ったとのことです。それにしてもなぜ実は赤い色が多いのか。やっぱり鳥の目での視認性が高いからでしょうか。

 どんどん奥へ

 バス停の付近にあった民家も途切れ、ぐっと野山感が高まってきましたが、この奥にもう一つ小さな住宅団地があり、その先が登山口です。山はモコモコとした常緑広葉樹林で覆われています。ここが海岸近くの暖かい場所だということが山の姿からも分かりますね。

 登山口

 国道から約1キロ入ったところに登山口がありました。大楠山から流れ出る前田川を渡って山道にとりつきます。時計を観るともう12時前。昼食は山頂まで我慢です。

 ヤマノイモ

 綺麗な色の黄色い葉。対生なのでヤマノイモですね。別名は自然薯で、すり下ろしてトロロにすると美味しいやつです。あの長いイモは一つのイモが何年もかけて大きくなるのではなく、毎年新しいイモができて、それが前年のイモの養分を吸収してより大きく育つのだとか。食べられる大きさになるのに4、5年は世代交代が必要なのだそうです。

 登山道

 森の中にはいると木漏れ日の道になりました。静かです。ときおりヒヨドリが鳴き交わしている他は、遙か上空を飛ぶ飛行機のくぐもった音が聞こえるのみです。心が落ち着きますね。

 テイカカズラ(実)  テイカカズラ(種子)

 道ばたにはけっこう面白いものが落ちているものです。これはテイカカズラの実。長いインゲン豆のような鞘で、中に種子がぎゅっと詰まっています。この鞘は縦に裂けて種子をこぼしますが、鞘から出たらとたんにパラシュートのような冠毛を広げて、風に乗っていきます。できるだけ遠くに種子を運んで子孫を残したいということなんでしょうね。

 1・2・3

 黄葉したカクレミノの葉。4裂、5裂のものも見たことがあります。

 リョウメンシダ

 道の脇に青々とした大型のシダがありました。近寄ってみるとリョウメンシダでした。右の写真は葉の表の面ですが、葉脈の盛り上がり具合とか羽片の付き方だとかが、まるで葉の裏面のような感じなのです。表なのに裏みたいだから「両面」シダです。

 ヤマハゼ(実)

 ヤマハゼの果実を見つけました。鳥たちが好みそうな感じです。ヤマハゼの分布はどちらかというと西日本が中心ですが、関東でもけっこう見かけます。yamanekoはあるときからかぶれに強くなったようで、ヤマハゼなどではなんともなりません。

 木漏れ日の道

 登山口からずっと登りが続いています。うっすらと汗ばんできました。息も少し上がり気味。昨夜も4時間しか寝ていないのですぐにバテてしまいます。
 ん?小さな生き物の影が横切ったぞ。梢の先に視線を走らせると灰色の大型のリス。タイワンリスです。三浦半島では20年前頃から繁殖しているということを聞いたことがあります。(こちら

 フユノハナワラビ

 フユノハナワラビはシダ植物。秋になりまわりの草の丈が短くなってきたら、栄養葉でたっぷりと光合成をして、胞子葉の胞子に栄養を供給します。(写真下部のシダっぽい葉が栄養葉、胞子が着いているのが胞子葉)
 そういえば先月まで山でよく見かけたキノコたちも、この時期になるとすっかり見かけなくなりました。菌が活発に活動して子実体(いわゆる「キノコ」と呼ばれる部分)を作ったりするのには気温が低くなったということかもしれません。

 尾根道を行く

 道の両側にアオキのテカテカした葉っぱが。冬によく目立つ木ですね。さあ、ここからは小さなアップダウンを2、3回繰り返すと山頂も近くなってきます。

 大きなシロダモ

 山頂手前に巨大なシロダモがありました。こんなに大きなシロダモはあまり見たことがありませんが、図鑑には10〜15mになるとあったので、この木はまちがいなく最大級の部類に入るでしょう。

 雨量観測所

 山頂の手前、一段低いところにちょっとした平らな場所があって、そこにこんな巨大な建造物が。看板によると、この灯台のようなものは国交省の大楠山レーダー雨量観測所なのだとか。気象庁が運用している気象レーダー(全国に20箇所。例えばここ)とは別系統で、国交省の河川局が運用しているもののようです。こちらは全国に26箇所設置されていて、大楠山のレーダーは関東地方をカバーする4箇所のうちの一つ。ここのレーダーアンテナから発射された電波を雨に当ててはね返ってくる電波の強さを計算して雨の量を測定する仕組みなのだそうで、半径120qの観測範囲で5分間隔でデータを収集し、他のレーダーのデータを合わせて日本全国をカバーしているのだそうです。関東地方の他の3つは、高鈴山(茨城県)、赤城山(群馬県)、三ツ峠(山梨県)だそうです。

 小田和湾  荒崎(アップで)

 レーダー塔の横のキノコのような形のものが展望台になっていたので、登ってみました。南の方角には初冬の午後の薄い日射しに照らされた小田和湾が、その日射しを物憂げに乱反射させて輝いていました。

 空高く

 穏やかな陽気。見上げるとトビが3羽、上昇気流に乗って円を描きながら高く高く上がっていくのが見えました。こういうのをぼーっと見ていると、日常の細々としたことが別の時空での出来事のように思え、どうでも良くなってくるから不思議です。

 大楠山山頂

 東の方向に大楠山山頂があります。こことの標高差は約30m、距離にして300mほどで、10分もあれば到着です。

 ヤブラン(種子)

 山頂への登り道にヤブランの黒い種子が。ツヤツヤして黒い真珠のようです。一見、果実に見えますがこれは種子なんです。果肉にあたる部分は早いうちに脱落してしまって、あまり見ることはありません。

 山頂広場

 1時5分、登山口から1時間ちょっとで大楠山山頂に到着しました。標高は242m、山頂は広場になっていて、50mプールくらいの広さ。NTTの大きな中継アンテナが2基建っています。その他に螺旋階段の展望塔があったので、まずは眺めを楽しむことにしました。

 西方向  北方向

 手すりはあるものの結構スリルがある階段で、高いところが苦手な人はパスした方がいいかも。でも眺望は全方向に開け、空気が澄んでいたら横浜の市街地はもちろん、富士山とかずいぶん遠くまで見渡せると思います。
 西方向にはさっきの雨量観測所が。北の方には広大なゴルフ場が広がっていました。

 昼食

 山頂広場に戻って昼食です。ローソンのおむすびに、おかずは「からあげくん」です。周囲にはグループや夫婦とおぼしき2人連れなど、全部で30人くらいが昼食をとっていました。そこそこ人気のある山のようです。

 「オレの庭先なんだけどな」

 おにぎりをほおばっているとノラがゆったりと横切っていきました。別にエサをねだるでもなく泰然としています。やがてグループの輪の外、3mくらいのところでピタッと止まり、何事もないかのように毛づくろいなどをはじめました。「ん?エサ? くれるんだったらそこに置いといて。」とでも言っているかのような、でも明らかにそのグループを目指して近づいてきたと分かるような、絶妙なポジショニングです。
 
 食後、ベンチで横になっているとつい寝てしまいました。昨夜の寝不足がたたっているようです。いつのまにか上空は雲に覆われてしまっています。時刻は1時50分、そろそろ下山の準備を始めましょうか。

 粘土質の地表

 上りのときはそれほど気になりませんでしたが、下りになると登山道が滑りやすく、何度がズルッとしました。この辺りの地質は「逗子層」と呼ばれる、シルト岩が主体(その間に砂岩や凝灰岩の層が挟まっている)の構造なのだとか。シルトは砂より細かく粘土より粗い粒子の砕屑物で、このシルトが堆積して固まったものがシルト岩です。これが登山道の表面に露出していて、湿り気を帯びるとぬめりが出て滑りやすいのです。
 
 2時30分、登山口まで下りてきました。帰りは黙々と歩いたのであっという間。前田橋からはバスには乗らずに立石の駐車場まで歩くことに。それでも15分ほどで到着しました。
 今日は三浦半島の最高峰を極めることができました。標高250mたらずですけど。
 だんだん寒くなってきて早起きが辛くなかなか遠出ができなくなってきますが、こうして近場でのんびりと楽しめるところはたくさんありますね。休日にゆったり起き出して、気ままに散策するのもいいです。(でも、日が短くなっているので、やっぱり遅くまで寝てちゃだめなんですが。)