能岳・八重山 〜里近い山で秋を堪能(前編)〜


 

 (前編)

【山梨県 上野原市 令和5年10月22日(日)】
 
 今年の季節の進み具合はなんだかおかしいです。10月も下旬になろうかというのに普通に夏日が続いたりしています。そんな感じなので里山の紅葉もほとんど進んでいない状況なのですが、やっぱり秋の自然を観たくて出かけてしまいます。
 今回向かったのは山梨県の東端、神奈川県との県境にほど近いところにある能岳(543m)と八重山です。富士山の眺望が見事とのことなので、楽しみにして出発しました。
 
                       
 
 今回は、山梨県といえども距離的に近いところなので、朝もゆっくり支度をして出発しました。高速道路は八王子JCT付近が混んでいただけで、比較的スムースに。最寄りの上野原ICで一般道に下りて、上野原の中心市街地を抜け5分ほど走ったところで、今回の野山歩きのベースとなる駐車場に到着しました。時刻は10時15分になっていました。

 駐車場

 駐車場には10台ほどの駐車スペースがあり、綺麗なトイレや深いシンクの手洗い場などが設置されていました。野山歩きにはもってこいの施設です。このエリアには能岳や八重山を周遊できるハイキングコースが整備されていて、特にここから八重山までの区間は「五感の森」として、学習の場や憩いの場になっているそう。ここの駐車場がきれいに保たれているのも市民の方や近隣の学校の生徒さんたちが関わって整備しているからなんでしょうね。

 Kashmir 3D

 今日のコースは、駐車場から谷筋を登り最初のピークに。ここに展望台があります。そこから稜線づたいに次のピーク八重山へ進み、更に次の能岳に向かいます。能岳からは支尾根を下り、能岳の前衛的な位置にある虎丸山を経由して駐車場に戻ってくるというものです。スタートから八重山までが「五感の森」エリアです。

 スタート

 今日は妻と歩きます。入念に準備運動をして、10時25分、スタートしました。

 ホオノキ

 最初は頭上を木々に覆われた谷筋を進みます。これはホオノキ。天井の高いホールの中にいるようです。



 木漏れ日の下をのんびり歩いて行きます。昨今の情勢から一応熊鈴を付けているので「静かな小径」といった感じにはなりませんが。

 ホトトギス

 ホトトギス。垂れ下がる茎から上向きに並んで付いています。花被片の内側に紫色の斑点が多数あり、これが鳥のホトトギスの胸の模様に似ているから名前が付けられたということです。じつは葉にも薄い緑色の斑紋があって、てっきりこれがホトトギスの胸の模様に似ているからだと思っていました。

 シラネセンキュウ?

 これはシラネセンキュウか。ヤマゼリかとも思いましたが、よく見ると花弁の形が違うようでした。図鑑には、ヤマゼリの花の花弁は先端が内側に曲がりへこんだようになっているとありましたが、写真のものはそんなことはありませんでした。

 アキチョウジ

 なんだか久しぶりに出会ったような気がするアキチョウジ。この花冠の形が丁字形であるというのが名前の由来だそうです。秋に咲く丁字形の花だから「秋丁字」なんですね。yamanekoが自然観察を始めた頃(20数年前)に「へえ、こんな花もあるのか」と印象に残った花です。

 シラヤマギク

 シラヤマギク。この” 寂れた感 ”がなんとも言えず好きです。葉に特徴があり、葉の根元の部分が翼のある長い柄のようになっています。あと、茎が赤味を帯びるのも特徴。

 タチツボスミレ

 タチツボスミレの刮ハが3つに裂けて、中の種子が見えています。しばらくするとこの種子が飛び散るのですが、種子にはアリの好む物質が付いていて、それを目当てにアリが種子を巣に運ぶのだそうです。これはスミレの分布拡大の戦略なのだとか。

 分岐

 歩き始めて25分ほど(普通の人なら10分くらい)すると分岐が現れました。yamanekoは某有名登山アプリを利用していますが、ここがちょっとしたトラップポイントでした。
 アプリではここで道がY字状に二手に分かれていて進むべき道は左に延びる道になります。そして確かに現況も道が二手に分かれていていました。迷わず左手の道を進んだのですが、しばらく行くとどうも様子が変です。あらためてアプリを開いてみると本来のルートから更に左に外れて30mくらい進んでいるではないですか。首をかしげながらさっきの分岐まで戻りましたが、どうやら写真の分岐から右手に山肌を登る細い道があったようで、アプリの示す二叉はその小径と写真の右に向かう道だったのです。写真の左に向かう道は十分な道幅もあったのにアプリ上には表示がありませんでした。きっと森林保守のための林道なのでしょう。登山道でないのならばアプリにルートとして表示されないのは当然ですね。アプリに頼り切らず現場の地形などをしっかり見ることが重要と勉強しました。そして、ルートを外れていると直ちに分かる点ではやっぱり優れたアプリだと思った次第です。

 炭焼き跡

 分岐のすぐ先にちょっとした凹みがあり、脇に「炭焼き窯の跡」と立て札がありました。どのくらい前までここで炭焼きが行われていたのでしょうか。まさに人々が生活の場として関わってきた里山の証ですね。

 チャノキ

 秋はチャノキに花が付く季節です。チャノキは、漢字で表記した場合(茶の木)の「…の木」まで含めて標準和名となっています。同じような名前の例は結構多く、メジャーな木でもホオノキ(朴の木)、ムクノキ(椋の木)、トチノキ(栃の木)、ハンノキ(榛の木)、ネムノキ(合歓の木)などいくつもあります。ただ、クスノキ(楠)やヒノキ(檜)などは「…の木」と読みながら漢字一字で表記するのが通例のようです。面白いですね。

 ツリバナ

 ツリバナの実が枝先からぶら下がっていました。この時期になると「吊り実」ですね。

 ヤマハッカ

 道はいつの間にか谷筋を離れ、山肌を登るようになってきました。日差しが明るいです。これはヤマハッカ。名前は山のハッカ(薄荷)ですが、ハッカのようなスーッとした香りはほとんど感じません。

 ヤクシソウ

 斜面を広く覆うように生えるヤクシソウ。秋の陽を受けて輝いていました。

 コウヤボウキ

 秋の花が続きます。コウヤボウキは、花も葉も落ちた冬場の姿を、高野山の僧が門前を掃く際に使う箒に例えたもの。名前は渋いですが、よく見ると花はなかなか華やかです。

 ヤブコウジ

 突然、妻が「あっ」と。見るとヤブコウジの花がありました。普通は7月から8月頃に咲くはずで、この時期は赤い実ができる頃です(秋の花が続くと言ったばかりなのに)。背の低い樹木なので、地面に這いつくばるようにして撮りました。



 日当たりの良い登山道。ここだけ見ると瀬戸内の里山みたい。

 休憩スペース

 登山道脇に休憩スペースがありました。ここでザックを下ろし小休止です。そしてあんパンでエネルギー補給を。

 リンドウ

 ベンチの脇にリンドウが。開花期を迎えると、陽が差すと開き、陽が陰ると閉じる、を繰り返す花です。

 テイカカズラ

 立木をテイカカズラが覆っていました。覆われた木からは悲鳴が聞こえてきそうですが、そもそもこれは木にとっては迷惑なことなのか。単に巻き付いているだけならいいんでしょうが、幹に根を張ってそこから栄養を取っているとかなら困ったものです。調べてみると、テイカカズラの場合、木に巻き付いている部分の根は「付着根」という形態のものだそうで、これは自らの体を支えるための根ということのようです。

 アキノキリンソウ

 秋の野の定番、アキノキリンソウです。見慣れた花ですが、この花がないと寂しいですね。

 オトコヨウゾメ

 これはオトコヨウゾメの実。普通は途中から枝分かれして数個ぶら下がっていることが多いです。オトコヨウゾメとはなんか由来が気になる名前ですが、どうやら定説はない模様。一説には、仲間のガマズミのことをヨソゾメと呼ぶ地域があり、それに「男」を冠したものではないかとのことです。ちなみにオンナヨウゾメという植物はないです(図鑑には)。



 山肌の道を辿り徐々に高度を上げていきます。

 シロヨメナ

 シロヨメナ。これも秋の野の定番ですね。アキノキリンソウとは対照的に、どちらかというと半日陰のような環境を好むようです。

 分岐

 稜線に出たところで、八重山山頂へ直行するルートと、展望台を経由して八重山へ向かうルートの分岐がありました。ここは展望台経由で。

 イチヤクソウ

 この枯れ草は? イチヤクソウですね。花茎は枯れていますがちゃんと生きていて、根際にある葉は瑞々しいままです。

 展望台

 展望台が見えてきました。多くの人が休んでいるようです。時刻は11時50分になりました。

 セイタカアワダチソウ

 秋空にセイタカアワダチソウ。案外絵になりますね。

 センニンソウ

 これはセンニンソウの果実ですね。痩果から伸びている髭みたいな部分に毛が羽毛のように生えていて、これで風に乗って飛んでいく仕組みになっています。

 南方向

 そして、展望台に上がって眺望を楽しみました。南方向には、上野原市街や桂川を挟んで丹沢山地が見えています。雲がなければ倉岳山の左奥に富士山が見えるはずですが。(画像にマウスを乗せると山名表示)

 西方向

 右にパンして西方向。こちらは秩父山地の南端部の山々です。ちなみに関東平野の西側に広がる関東山地は、相模川(桂川)を境に、北の秩父山地、南の丹沢山地に分けられています。

 八重山

 更に右にパンして北西方向。同じ稜線上にある八重山が見えました。これからあそこに向かいます。最高峰の能岳はちょうどこの八重山の後ろ側になってここからは見えていません。

 オケラ

 ひとしきり眺望を楽しんだら、あらためて能岳に向けて歩き始めます。これはオケラ。総苞の周囲に魚の骨のような苞があるのが特徴ですが、写真のものはその「魚の骨」がちょっと壊れています。名前は昆虫のオケラとは無関係のよう。



 八重山山頂へは一旦20mほど下り、なだらかな鞍部を歩きます。

 八重山

 鞍部から見上げる八重山。ここから50mほど登ることになります。
 時刻は12時10分。休憩と昼食は山頂までおあずけです。(後編に続く