野川公園 〜葉月の武蔵野〜


 

【東京都 調布市 平成19年8月19日(日)】
 
 夏真っ盛り。東京では8月2日に雨が降って以来、まったく雨が降っていません。テレビでは「打ち水で省エネ」などと言って丸の内のOLが浴衣姿で水を撒いていたりしますが、この灼熱の大都会を冷やすには夕立のひとつでも降ってもらわないとどうにもなりません。

 トウカエデ

 さて、真夏の野川公園にやってきました。駐車場から芝生広場までの間に広がるトウカエデの林。たくさんの果実が鈴生りになっていました。カエデの仲間の果実はプロペラのような形をしていて「翼果」と呼ばれます。トウカエデの果実は二つの翼があまり開かず、八の字よりもやや狭いのが特徴です。

 芝生広場

 8月半ばの昼下がり。この暑さではさすがに日向に人影はまばらでした。ここは横切っていつも観察しているロウバイのところへ行ってみましょう。

 ロウバイの偽果

 見た目は先月とあまり変わっていません。しいて言えば、偽果の殻の部分がより乾燥して軽くなったように感じられることくらいでしょうか。中の果実の様子に変化はないようです。

 野川

 野川の川べりは先月と異なり夏草が生い茂っていました。

 川遊び

 子供たちが川に入って魚捕りをしていました。護岸のコンクリートなどはなく、水際まで植物が入り込んでいます。
 子供の頃の夏休み、タモ網を持って毎日のように川に出かけたことを思い出します。家から川までは10分もかかりませんでした。川岸の草の根元に網を差し込み、その上流側から足でザクザクと魚を網に追い込むのです。草の根元は小魚や水棲昆虫などにとっては敵から身を隠せる格好のすみかなのです。汗を拭き拭きときどき見上げる青い空。いまでもその情景をはっきりと思い出すことができます。日差しが本当にキラキラと輝いていました。あらかじめ河原の瀬に石を並べて小さなプール状のいけすを作っておき、捕った魚はそこに入れておきます。そのとき石組みがいい加減だったりすると、石と石との隙間から魚が逃げてしまったりしていました。魚採りに飽きると、近くの鉄橋の橋脚に登って、頭上を通過する汽車をやりすごす度胸試しなどをしていました。(これはJRがまだ国鉄といっていた古き良き時代のこと。今のよい子は決して真似をしてはいけません。)

 ヒヨドリジョウゴ

 白い小さな花をつけるつる性の植物、ヒヨドリジョウゴ。漢字で書くと「鵯上戸」。ヒヨドリが好むという意味だとか。秋には朱く丸い果実を付けますが、この果実には毒性があり、ヒヨドリが好むとは思えません。でも、ヒヨドリが赤い実を好むのは確かなようで、アオキの赤い実はヒヨドリの好物ですし、うちのベランダのピラカンサも黄色い実には目もくれず、きれいに赤い実だけたいらげていましたから。(でも、最終的には黄色い実も食べ尽くされました。)
 ちなみにこのヒヨドリジョウゴ、なんとナスの仲間です。

 ヒオウギ

 こちらはアヤメの仲間、ヒオウギです。この花は一日花なので、この鮮やかな花冠も明日にはしぼんでいるのです。
 名の由来となった檜扇とは、ヒノキの薄板をつないで作った扇のこと。ヒオウギの葉が檜扇を広げたところに似ていることから名が付いたということです。最初に聞いたときには「秘奥義」かと思いました。(「北斗の拳」の読み過ぎです。)

 林の中

 木々の葉が青々と茂る頃だから「葉月」なのかと思っていましたが、よく考えてみると葉月(八月)は新暦では9月上旬から10月上旬にかけて。もしかしたら葉が色づく頃ということかも。(調べてみると、明確ではないものの、稲穂が稔る「穂張り月」から「張り月」、「は月」と転訛したという説が有力だとか。)

 オミナエシ  オトコエシ

 もう秋の花も咲き始めています。秋の七草のうちの一つ、オミナエシ。漢字では「女郎花」と書きます。秋野の山で揺れる黄色の花が素朴な感じで好きです。一方、オトコエシは「男郎花」と書きます。全体的にオミナエシよりもしっかりとした印象を受けます。

 カリガネソウ

 ユニークな形をした花のカリガネソウ。「借金草」ではなく「雁草」です。念のため。花の形を雁が飛ぶ姿に例えたということですが、うーん、ちょっと想像力が足りなくて、どうしても雁には見えてきません。残念ながら。

 イヌキクイモ

 鏡池の畔にイヌキクイモが咲いていました。キクイモの塊茎からはアルコールの原料が採れるということで戦争中にはよく栽培されたということです。きっと「芋が採れる菊」ということでキクキモという名が付いたのでしょう。イヌキクイモはその塊茎が小さく役に立たないので「イヌ」が頭に着いたのです。植物の名前では「イヌ」がつくとたいてい人様の役に立たないという意味です。ちなみにキクイモやイヌキクイモはキクの仲間のうちでもヒマワリに近い種類になります。

 キンミズヒキ  ヒメキンミズヒキ

 おめでたい名前のキンミズヒキ。秋の野山で普通に見ることができる花です。ヒメキンミズヒキの方はあまり見かけません。山中の谷沿いなどに生育しています。やはり「ヒメ」が名に付くだけあって全体に華奢な感じがします。いずれもバラの仲間。キンミズヒキの果実はオナモミやイノコヅチのようにひっつき虫になっていて、野山を歩いた後など靴の紐にいっぱいくっついてきます。

 ハッカ

 これもまた子供の頃の話なのですが、缶蹴りやかくれんぼなどで草むらにしゃがんで隠れたときなど、むっとするような草いきれの中からときおりスーッとする臭いがしてくることがありました。それがハッカの臭いだったということを知ったのは、恥ずかしながら大人になってから。しかもけっこう最近です。この香りはメントールという成分のもの。この植物にはいくつか薬効があって、目薬や健胃薬などとして重宝されたのだそうです。

 木陰

 ミンミンゼミ、アブラゼミ、ツクツクホウシ。セミの混声合唱団が木の枝という枝から大音量でがなりたてています。もはや蝉時雨などといった情緒のあるものではなく、蝉の集中豪雨です。でも、それもよし。短い地上での生に悔いを残すことなく、思いっきり鳴き尽くせよ。

 ジュズダマ

 普段あまり目にとまることのないジュズダマの花が咲いていました。ジュズダマはイネ科の植物で、果実のように見える丸い部分(苞鞘といい、この中に本当の果実があります。)がすごく硬くなり、また、色も褐色になることから、これを糸でつないで数珠にしたことによるものです。中心に花軸が通る穴が空いているので、糸を通しやすいのです。
 写真に写っている花序は雄花序。苞鞘の先から細い枝が出てその先にぶら下がっています。雌花序は苞鞘の中にあって、柱頭だけが先端から外に出ています。柱頭は出しておかないと受粉できませんからね。
 ちなみに健康茶の原料にもなるハトムギはこのジュズダマの栽培種です。

 ミズタマソウ

 ミズタマソウは一見、露が付いているかのように見えます。まさに水玉のようなんですが、よく見てみると果実の周囲にびっしりと白い毛があって、それが露のように見えているのです。でも、本当に果実が朝露を集めて水玉のようになるのかもしれません。

 ヒガンバナの原っぱ

 ヒガンバナの原っぱは来月の開花に備えてか、きれいに草が刈られていました。もともとヒガンバナは生い茂る夏草との光の争奪戦に負けて、その葉をライバルのいない冬場に展開させるようになり、この時期には地上から姿を消す戦術を身につけたもの。なので花の時期にも葉はありません。余分な雑草はなくして見事なヒガンバナの絨毯を演出しようということかもしれませんが、この時期にライバルがいないとなると、そのうちヒガンバナの葉が夏に展開するようになるかもしれませんよ(笑)。まあ、それは冗談としても、どうも自然観察園といいながら人間の手がやや入りすぎの感があるように思えます。しかも園芸的に。小さな原っぱであっても季節の移り変わりに伴って植物がどう入れ替わるか、そんな姿も見たいものです。
 

  武蔵野台地と野川公園