野川公園 〜如月の武蔵野〜


 

【東京都 調布市 平成19年2月11日(日)】
 
 2月の野川公園です。まだ冬のまっただ中なのに今日もポカポカ陽気。暖かいのは嬉しいのですが、今年の冬はちょっと素直に喜べないのもがありますね。
 さて、園内ではどんな自然の様子が見られるでしょうか。

 駐車場

 午前11時、約250台収容する駐車場は7割方埋まっていました。料金は1時間まで300円、その後は30分ごとに100円が加算されます。お得なプリペイドカードか回数割引券のようなものがあればありがたいのですが。

 落ち葉の絨毯

 公園によっては頻繁に落ち葉を掃除してしまうところもありますが、ここはそのままにしてあるようです。落ち葉はその木を知るのに重要な手がかりなので、落ち葉がそのままにしてあるというのは嬉しいことです。でもこの広大な園内に落ちる葉の数たるやものすごいものがあるでしょうから、春先あたりには業者さんが入って一気に回収するのかもしれません。

 ロウバイの偽果

 ロウバイの枝にミノムシのようなものがくっついているのを見つけました。果実のようにも見えますし虫コブのようでもあります。さっそく一ついただいて確かめてみることに。割ってみると中からゴキブリの卵塊そっくりなものが出てきました。少しぎょっとしつつもさらにその卵様のものを割ってみると、中から小さな虫がわらわらと…、というのはウソで、中には子葉(ドングリを割ったときに出てくる白っぽいあれです。)が詰まっていました。調べてみると、このゴキブリの卵塊のようなものがロウバイの果実で、このようなタイプの果実を「痩(そう)果」というのだそうです。小形でただ一個の種子を持ち、果皮は薄く熟しても裂けません。キクやタンポポ、キンポウゲなどの果実もこのタイプで、一見種子のように見えます。ちなみに、虫コブのようにも果実のようにも見えたのは「偽果」と呼ばれているものです。

 自然観察センター

 東八道路を越えて自然観察園にやってきました。まずは観察センターの中に置いてある月替わりの観察の手引きのようなチラシをもらって行きましょう。今月のテーマは「2月自然観察園の花だより」でした。園内にはすでに早春植物が咲き出していると書いてあります。

 春の兆し

 ん? 先月と何か雰囲気が違っているぞ。野川を渡った先にある景色を見てそう感じました。そう、居並ぶシダレヤナギの枝先が薄緑に色づいているのです。早くも若葉を展開するための準備を進めているのですね。もう春本番もそう遠くはありません。

 シナマンサク

 シナマンサクが花弁を広げようとしていました。花芽の中に小さく折りたたまれていた花弁が「あぁ窮屈だった。」と言わんばかりに伸びていきます。マンサクの花の色は清涼感のある黄色で、早春の眩しい日差しによく映えます。
 シナマンサクは去年の枯れ葉が落ちずに花の時期まで枝に残っているのが特徴です。普通、落葉樹が秋に葉を落とすのは冬の乾燥から身を守るためですが、葉柄と枝の間に離層が作られて水分の往き来は遮断されているのだから枯れ葉が残っていても幹の乾燥は進まないでしょう。でも、あえて葉を枝に付けたままにしている意味がよく分かりません。そういえばクスノキ科のヤマコウバシも葉を残して春を迎えます。葉芽や花芽を保護するような役目でもあるのでしょうか。

 青空に梅

 桜もそうですが、ウメも青空がよく似合いますね。こうやって花越しに空を見上げていると、梢の下に筵を広げて日本酒でも飲みたい気分になります。花見というのはこういう自然な欲求から始まったのかもしれません。(単に酒好きというのもありますが。)
 ところで、万葉集には梅を詠んだ歌が104首あって、万葉集に詠まれた植物としては2番目に多いのだそうです。では1位はというと、桜でも牡丹でもなく、萩なのだとか。ちょっと意外な気もします。桜には武士のイメージがあり、梅からは宮廷貴族を連想します。なんとなく雅なイメージです。

 ウグイスカグラ

 ウグイスカグラが葉の展開に先駆けて花を咲かせていました。普通、1、2センチの花柄があり、しかも下向きに花を付けるのですが、ひょっとしたらこれは園芸種なのか? ウグイスカグラは庭木として植栽されることが多いのでそういうことも考えられます。

 陽だまりの丘

 上の写真の中央に見える小高い丘の部分は「カタクリの森」と名付けられていて、早春植物が多く見られるところだそうです。落葉樹の林になっていて、今は陽光が地面までたっぷりと降りそそいでいます。

 セツブンソウ

 先月、数株が顔を出していたセツブンソウでしたが、今日は一面に咲き競っていました。
 春まだ浅い頃、他の花々が伸び出す前にいち早く花を開き、一生懸命に光合成をして栄養を地下に貯蔵し、初夏には地上部が枯れてしまう。あとは次の春まで眠りにつく花たち。このような花を春植物ともスプリング・エフェメラル(早春の妖精)ともいいます。

 フクジュソウ

 この花弁の輝き。これこそフクジュソウの真骨頂。熱を花冠の中央に集めるパラボラ構造です。これならようやく活動を始めたハナアブたちの目にもとまりやすく、また花の中で体を暖められて活発になって花粉を運んでくれるでしょう。スプリング・エフェメラルたちはみな虫媒花なのです。

 キクザキイチゲ

 キクザキイチゲ、漢字では「菊咲一華」と書きます。花弁状の萼片が菊の花に似ることから名が付いたそうです。他にもアズマイチゲ(東一華)やユキワリイイゲ(雪割一華)など似た名前の花がありますが、「一華」とは読んだまま「一輪の花(一輪で咲く花)」ということのようです。
 「一華開いて天下の春」。一輪の花が開くことによって天下に春が来たのを知るという意味ですが、まるでこれらの花からできた古諺のようです。(転じて「一つの兆しによって全体の動向を察知する」というたとえです。)

 スハマソウ

 スハマソウも早春に咲く花ですが、葉が長く残るのでスプリング・エフェメラルではありません(間違いやすい。)。まだ葉を展開しておらず、淡い紫色が地味な林床に鮮やかです。ちなみに、セツブンソウ、キクザキイチゲ、フクジュソウ、スハマソウともにみなキンポウゲ科の植物です。

 「渓流の宝石」

 「カタクリの森」を離れて池の畔にやってきたら、巨大な望遠レンズを三脚に固定した人たちが数人。そのレンズが向いている方を見てみるとカワセミが一羽停まっているでなないですか。モデル慣れしているのか、瑠璃色に輝く背中をこちらに向けてポーズをとっていました。

 ミツマタ

 さすがにミツマタはまだ蕾も硬かったですが、一つだけ気の早いのが。来月来たときには満開かもしれません。

 ザゼンソウ

 おっと、こんなものにまで出会えるとは。たしかに崖線からしみ出した水で水気の多い場所ですが。ザゼンソウはこのフード(仏炎苞といいます。)のようなものが花ではなく、仏炎苞の中にある丸い花序の表面にびっしりと花が付いているのです。花といっても花びらもなく、一般にイメージするものとはかなり異なっているものです。

 ヒガンバナ

 ヒガンバナも競争相手のいない冬場にしっかりと葉を伸ばし、たっぷりと光合成をして栄養を蓄えます。春になると枯れて地上から姿を消してしまいますが、秋、まさに彼岸の入り近くになると、わずか1週間ほどで花茎を伸ばして赤く妖しげな花を咲かせるのです。この原っぱ、秋になったら一面真っ赤になるでしょうね。

 クサノオウ

 先月見かけたクサノオウのロゼット。一月ほど経って少し立体的に立ち上がってきたようです。花ばかりに気を取られてしまいがちですが、こういう変化にも春が近いことを教えられます。

 武蔵野崖線

 自然観察園の奥までやってきました。フェンスの向こう側は武蔵野崖線の切り立った斜面。こちら側が立川面で、斜面の上が武蔵野面になります。この辺りで標高差は10mくらいでしょうか。
 
 ここまでゆっくり観察して歩いて2時間あまり。そろそろ腹が減ってきたので帰途につくことにしました。
 今日は風もなく気温も高めで、まさに観察日和でした。次回は3月。このぶんだと気の早い、いや、ひょっとしたら満開の桜を見ることになるかもしれません。
 
 
  武蔵野台地と野川公園