野川公園 〜睦月の武蔵野〜


 

【東京都 調布市 平成19年1月14日(日)】
 
 都心から西へ約20q、武蔵野台地のど真ん中に野川公園はあります。ここは以前東京に住んでいた頃にバードウォッチングでときどき来ていたところです。懐かしさもあり今回かれこれ12、3年ぶりに訪れてみました。
 
                        
 
 タイトル下には「東京都調布市」と書きましたが、この辺りは小金井市、三鷹市、調布市それに府中市の境界が複雑に入り組んでいる地域。公園の入り口を含めその敷地の大部分が調布市に入っているので、ここでは代表して「調布市」と表記することにしました。

 ヒマラヤスギ

 午前10時過ぎ、公園の南端にある駐車場に新ドリーム号を停め、観察道具一式を装備して歩き始めます。駐車場の営業時間は9時30分からなので、まだ車の数は少なく、広場で遊ぶ親子連れもまばらでした。
 まず現れるのはヒマラヤスギの林。スギと名が付いていますがマツの仲間です。写真ではコントラストが強く出て薄暗い雰囲気ですが、実際にはそんなに暗くはありません。ふと見ると樹上にはソフトボールを楕円形にしたくらいの大きさの松ぼっくりが乗っかっています。松ぼっくりにしてはかなり大きめで、遠目に見ると枝の上にドバトが休んでいるようでもあります。普通松ぼっくりが落ちるときはそのままの形でぽろっと落ちてきますが、ヒマラヤスギの場合バラバラに砕けるようにして落ちてきます。モミなどと同じですね。

 トウカエデ

 ヒマラヤスギの林をぬけると明るいトウカエデの林になります。夏にはしっかりした木陰を作ってくれるのでしょうが、今はその膨大な量の葉もすべて地面の上に落ちていました。この木は潮風や大気汚染にも強いことから街路樹として目にすることが多いです。あと樹皮が短冊状にはがれるのが特徴です。

 大空へ

 野川公園のすぐ南には調布飛行場があります。もともとは軍用の飛行場だったようですが、今では伊豆諸島との間をコミューター航空が運行しています。住宅地の真ん中にあることから騒音問題などいろいろあるとのこと。この日も立て続けに5、6機が離陸していきました。

 ユリノキ

 それにしてもぬけるような青空というのはこの空のことを言うのでしょう。
 この公園、樹木の種類もあれこれありそうです。これはユリノキ。別名チューリップツリーです。さきほどのトウカエデといい、この木といい、落葉広葉樹が目立ちます。もともと国際基督教大学の所有するゴルフ場だったこの公園。コース管理上落ち葉は厄介者でしょうから、これらの木は公園用地として買収した後に植えたものなのでしょうか。買収から33年、開園から27年が経っているそうなのでこのくらい大きくなっているのは不思議ではありませんが。

 東八道路

 野川公園を東西に貫く東八道路。「東八」とはおそらく「東京と八王子を結ぶ」という意味だと思います。甲州街道(国道20号線)のバイパス的な役割を果たす道路なので、交通量は多めです。公園の北側に行くにはこの東八道路をまたぐ歩道橋を渡らなければなりません。3本ある歩道橋のうち真ん中の橋を渡るとすぐに自然観察センターがあり、その先すぐには野川が流れていてそれを渡ると自然観察園です。

 自然観察センター

 歩道橋を渡って土手を下りると自然観察センターがあります。自然観察園のビジターセンター的な役割を果たしていて、中には野川公園周辺の動植物、地形などの解説をしている展示室やレクチャールームなどがありました。事務室には常駐している人がいるようなので、いろいろ聞いてみるのもいいかもしれません。また、屋外にある掲示板には自然観察園で定期的に開催されている観察会のお知らせなども。こっちにもそのうち参加してみたいと思います。

 さくら橋

 自然観察センターの脇にある橋が「さくら橋」。これを渡ると自然観察園です。公園の北側は国分寺崖線で壁が作られていて、その壁のうねりに沿うように野川が流れています。園内でその野川に架かる橋は全部で8本あり、「くり橋」、「なら橋」、「くぬぎ橋」など、すべて樹木の名前が付いていました。

 野川

 これが野川です。さすがに公園内では三面護岸とはなっていません。源流はここからやく5q北東にさかのぼったところにある日立研究所敷地内の湧水です。
 
 落ち葉が積み重なった小径を歩くと足の裏からふかふかの感触が伝わってきます。
 この自然観察園では来園者向けに毎月観察のポイントを示したチラシを配っているようです。今月は「『野草』冬越しの姿観察」。野草が厳しい冬の寒さを乗り切るためにどのような姿で冬越しをしているのか。こういうのがあるとただ漫然と観察するより楽しめるかもしれません。

 カントウタンポポ
 
 ハルジオン
 
 クサノオウ  スイバ

 チラシによると、@1年草のほとんどは種子で、A多年草のほとんどは地下茎塊根で冬を越します。Bこのほかに越年草、2年草、多年草のなかには春から秋に芽を出し幼苗のまま冬を越すものがあり、その状態をロゼットといいます。ロゼットの語源はローズ。根生葉を地表に張り付くように放射状に広げる姿をバラの花に見立てたのでしょう。
 ロゼットの葉の出方には一定の決まりがあって、お互いに重ならないように伸びて、冬の薄い日差しを少しでも浴びようとしています。また中心にいくほど新しい葉で、その真ん中の奥に芽が隠れています。芽は春になって茎や葉を作る重要な部分なので、そうやって大切に守られているのです。
 ロゼットと聞いてまず思い浮かぶのはオオバコの葉。葉柄の部分をポキッと折って、葉脈の中の維管束をゆっくりと引っ張り出したりしていました。あと、茎同士を引っかけ引っ張り合う「相撲」をして遊んだことのある人は多いでしょう。

 散策路

 道の脇にミツマタの木がありました。ビロードの蕾はまだ硬く閉じています。でも今年は暖冬なので来月あたりにはもう咲いてしまうかもしれません。
 広葉樹が葉を落としきった園内は明るく、散策していて伸びやかな気持ちになります。
 前方の梢で何かが動きました。双眼鏡で覗いてみると、スズメを一回り大きくしたサイズのベージュの小鳥が首をひねっています。頭部に比べて大きなくちばし。シメです。双眼鏡の視界の中で愛嬌を振りまいていました。

 ソシンロウバイ

 「寒中」でありながら春を感じさせてくれる花、ソシンロウバイが満開です。辺りは甘い香りに包まれていました。ロウバイは中国原産で江戸初期に渡来したといわれています。漢字では「素心蝋梅」。花被片がやや透きとおりロウ質感があるので「蝋の梅」。「素心」とは花の中心の蕊(しべ)の部分が白い(又は淡い)という意味で、普通のロウバイが中心部が褐色であるのに対し、ソシンロウバイはご覧のとおり黄色です。
 「まず咲く」から名の付いたというマンサクよりさらに早く咲くこの花は、正月に見かけることもままあります。「素心」という言葉には「飾らぬ心」という意味もあり、今年こそはこの花のように…、などと誓いを立てたりもするのですが、なかなか。 

 野辺の流れ

 武蔵野面に降った雨は地中にしみこみ、やがて国分寺崖線の下部からしみ出してきます。その地下水が集まり、小さな流れとなって林をくぐり、そして野川に注いでいきます。

 ダイサギ

 池の畔でハンティング中のダイサギ。小魚に集中しているからか、至近距離にいる人間を気にとめる様子もありません。それどころか更にこちらに近づいてきて、そーっと首を伸ばしたかと思うと「力石のジャブ」のごとき素早い動きで岸の草陰にいた小魚を挟み採りました。そして2、3回くちばしをパクパクさせながら小魚の位置を直してすっと頭から飲み込んでしまいました。生きぬくための技とはいえ、お見事です。(こう書くとあっけないですが、この一部始終を観察するために20分以上じっとしていました。)

 モグラの仕事

 モグラの仕事で土があちこち盛り上がっています。モグラの前足がいかに強力なパワーショベルだとしても、土の中をこれだけ掘って進むのには膨大なエネルギーがいることでしょう。聞くところによるとモグラはミミズや昆虫の幼虫を大量に食べるのだとか。大量に食べるからこんなに掘り進めるのか。掘り進んで腹が減るから大量に食べるのか。食べることだけで終わってしまう人生のようでもありますが、このことに気づき疑問に感じたモグラはかつてなかったのか。(あるわけがない。)
 そういえば以前、広島県庄原市にある「モグラ博物館」に行ったとき、いま日本を二分するモグラの抗争が勃発していると解説してありました。日本には西日本を制圧しているコウベモグラと東日本に勢力を置くアズマモグラがいて、コウベモグラは、古くから日本にすんでいるアズマモグラやコモグラといったほかのモグラを追い散らしながら東へと進出してきているのだというのです。現在、その分布は神奈川県の箱根山の岩石地帯に足止めされているといわれていて、この岩石地帯を突破することができれば、一挙にアズマモグラのシマである関東平野に進出し、アズマモグラをほろぼすことになるのではないかと推測されているのだそうです。人間たちの知らない地中で繰り広げられているモグラ抗争。その行く末やいかに。

 セツブンソウ

 まだ立春には間があるというのにもうセツブンソウが咲いていました。落ち葉を押しのけて数株ほど。丈も低く、つい見逃してしまいそうでした。葉もまだ伸びきっていないので本当に咲いたばかりなのでしょう。
 新年早々かわいい花に出会えて、ラッキー! 今年はいいことがありそうです。
 
 さて、久しぶりにやってきた野川公園。あらためて歩いてみると結構おもしろそうだし、小さな発見や驚きもいろいろありそうです。ということで、今年一年、この場所で自然観察していければと思っています。
 次回は2月。そろそろ花粉が飛び始める頃ですがなんのその、ここの自然がどんな姿を見せてくれるか楽しみです。
 
 
  武蔵野台地と野川公園