長沼公園 〜(開発から残された丘陵森後編)〜


 

 (後編)

【東京都 八王子市 令和6年4月25日(木)】
 
 自然度高め、公園らしくない公園の都立長沼公園での野山歩き。後編です。(前編はこちら

 Kashmir3D

 都立長沼公園は、多摩丘陵の支稜線の北側斜面にあり、周囲を大規模団地に囲まれています。地形的には、麓から稜線に向かって伸びる何本かの谷とそれらが削り出した何本かの尾根とで構成されています。
 今日は、麓の駐車場から西長泉寺尾根を登って野猿の尾根道に上がり、尾根道を東端まで歩いて、そこから引き返す形で尾根道の西端へ。井戸たわ尾根を下って麓の殿ヶ谷戸に出て、今度は西尾根を登って再び野猿の尾根道へ。最後は中尾根を下って、霧降の道に出て、そのまま麓に下ります。つまり麓と稜線を2往復するということです。

 尾根道の西端

 野猿の尾根道の西端にやってきました。この先はすぐに住宅地です。ここで右手の森の中に入っていきます。
 ところで「野猿の尾根道」の「野猿」はこの住宅のすぐ先にある野猿峠から名付けられたものだと思います。その峠を越える都道160号線は通称「野猿街道」。こっちの方が有名かもしれません。

 井戸たわ尾根

 ここからは井戸たわ尾根を麓に向かって下っていきます。なかなか雰囲気のある尾根道です。
 「井戸たわ尾根」の「たわ」。どの資料を見てもひらがな表記だったのですが、おそらく「尾根のくぼんで低くなったところ。鞍部」を意味する言葉ではないかと思います。漢字では「峠」とか「乢」、あるいは「撓」といった漢字が当てられ、これを「たわ」と読む地名もよく見かけます。きっとこの尾根の何処か低くなったところに井戸があったのではないでしょうか。「尾根上の鞍部に井戸のある尾根」→「井戸たわ尾根」というわけです。

 北東方向

 木立の間から北東方向が望めました。日野市街、更にその先は立川、国分寺辺りになります。

 マルバアオダモ

 マルバアオダモの花序。開花からちょっと日が経っているのか、少し元気がない感じです。名前には「円葉」とありますが、葉は丸っこくはありません。この木は別名をホソバアオダモともいい、いったいどっちなんだという気もしますが、さりとてそこまで細いわけでもありません。ごく普通の舟形の葉なので、葉の様子を取らまえて名前を付ける方に無理があるのではと思ってしまいます。



 尾根道には傾斜が緩み日差しが届く場所もありました。こういう場所に井戸があったのかも。

 コバノガマズミ

 これはコバノガマズミですね。紛れなし。



 更に下っていくとこんな登山道チックな場所も。よろけて谷の方に転げ落ちたら結構危ないです。ブッシュが深く、下手したら数日間発見されないってことにもなりかねないほど。

 急傾斜

 転げ落ちそうな傾斜です。そういえば井戸たわ尾根の入口に看板があって、そこにはこのルートを下りで使うのはなるべく避けましょうという趣旨のことが書かれていました。確かにサンダル履きとか散歩がてら来たような人にとってはきついでしょうね。yamanekoは靴はしっかりしていますが、膝の痛みが再発しないよう注意です。

 コバノガマズミ

 しつこいようですが、これもコバノガマズミ。この井戸たわ尾根では多く見かけました。



 坂道を下りきると殿ヶ谷戸に入ります。

 殿ヶ谷戸

 谷戸の底面には高木が林立していました。通常谷戸は奥の方まで田畑として利用され、結果開けた谷となることが多いのですが、ここはいったい。日当たりが悪くもともと田畑として利用されていなかったのか、それとも戦後のスギ植林ブームで効率の良くない田畑を植林地に転換したのか。ちょっと興味が湧きました。



 その木立のおかげで木漏れ日が気持ちいです。

 ムカゴネコノメ

 この花、ネコノメソウだとばかり思っていて、後で図鑑で確認したらムカゴネコノメでした。両者はよく似ていますが、例えば葉の鋸歯の様子が異なるそう。ネコノメソウの葉の鋸歯は小さく細かい(3〜8対)ですが、ムカゴネコノメは丸っこく大まか(3対)です。分布域は広くなく、関東地方、東海地方だそうです。

 ムラサキサギゴケ

 このムラサキサギゴケはムカゴネコノメよりももう少し明るい場所を好みます。地面に這うように群生していることが多く、その中で派手目な花がよく目立ちます。紫色の花弁の中央が白色に盛り上がりそこにオレンジ色の斑紋。虫が着地したくなるようなデザインなんでしょうね。虫の気持ちは分かりませんが。



 再び森の中に入って、今度は西尾根を登っていきます。

 ミズヒキ

 この宇宙人の顔みたいな葉はミズヒキのもの。斑紋の色は濃淡あるよう。もっと薄いものやほとんど分からないものもあります。

 カキドオシ

 これはカキドオシですね。花もさることながら葉も可愛いです。名前は漢字で「垣通し」と書き、これは垣根を突き抜けるほど勢いよく成長することから付けられたもの。花のイメージからは遠い感じですね。

 西尾根

森の中を登っていきます。前後左右から鳥の声が賑やかに聞こえていました。



 こういう道を歩くのは本当に気持ちがいいです。体の細胞一つ一つに新鮮な成分がいきわたるような感じとでもいうか。



 ところどころに痩せたところもありますが、ちゃんとテープが渡してありました。



 ときおり足を止め見上げると…。瑞々しい緑の向こうに初夏の空。心がすーっと澄んでいくようです。ほんの1か月前までは幹と枝だけで空がもっと広く見えていたはずで、その頃にはまた違う印象を受けるんでしょうね。

 分岐

 しばらく行くと左にテープが。どうやらここから分かれる道は、一端西の沢に下り、東隣りの中尾根にショートカットできるできるルートのよう。道が荒れているのか通行止めになっていました。ここは予定どおり西尾根を直進します。

 痩せ尾根

 道の両側が急傾斜に切れ落ちています。ただ、しっかりした柵が設置されているので問題なく通れました。

 隣りの井戸たわ尾根

 右手にさっき下った井戸たわ尾根が見えました。それにしても、もう夏のような風景ですね。

 ヤツデ

 ヤツデが新しい葉を展開しつつありました。葉の色は地味ですが、花火が開く瞬間のような伸びやかな姿をしていました。

 野猿の尾根道

 1時30分、再び野猿の尾根に上がってきました。フェンスの向こう側をさっき左から右に向かって歩いていたのです。



 野猿の尾根道に出たら東へ。農地が尾根道まで達しているところでは多摩丘陵の遠景を楽しむことができました。雲がぽっかりと浮かんでいるのも長閑です。

 頂上園地

 すぐに頂上園地に着きました。さっき通り過ぎた広場です。広々としていますね。

 中尾根へ

 頂上園地では休憩せず、広場の奥から中尾根へ。もともとゆっくり歩いているので特に疲れているわけでもないですし。

 コバノガマズミ

 おなじみのコバノガマズミがここでも見られました。それにしてもこれだけコバノガマズミがあってガマズミが見られないのは不思議です。似たような環境に育つものなんですが。



 しばらく下ると左手にテープが現れました。さっきの西尾根からのショートカットルートがここにつながっているようです。当然こちら側からも通行止め。

 シコクスミレ

 沢が近づいてくると花の種類が多くなってきます。これはシコクスミレか。

 ヤマルリソウ

 ヤマルリソウです。花の大きさは1cmほど。薄桃色のものと薄青色ののものがあります。名前に瑠璃の文字が入っているので本筋は薄青色の方か。



 右手から霧降の道が合流してきました。ここから更に高度を下げていきます。

 ホタルカズラ

 ホタルカズラは必ずと言っていいほど斜面に生えています(yamaneko調べ)。ランナーで増えていくのでしばしば群落を作っていて、出会うとおおっとなります。



 霧降の道。中央が石畳になっています。雨水が流れ道が深く彫れるのを防止する役目があるのだと思います。普通のコンクリ舗装よりお金をかけていますね。

 メインエントランス

 1時40分、麓に下りてきました。大きな公園案内板があったので、どうやらここがメインの入口のようでした。駐車場からはちょっと距離がありますが、駅からは最も近い位置にあります。

 田園風景

 さて、公園の北縁に沿って駐車場に戻ります。この辺りはそこここに田んぼが残っています。若い方が代かきをしていたので挨拶して通らせてもらいました。上の写真は通り過ぎた後振り返って撮ったものです。
 
 1時50分、駐車場に戻ってきました。これで今回の野山歩きは終了です。かなり歩いた気がしましたが、時間にすると2時間ちょっと。案外お手軽でした。そして、軽くアキレス腱を伸ばしてから家路に着きました。
 途中でガソリンスタンドに寄り、花粉や黄砂で斑になったドリーム号Vを洗車して帰りましたが、同じような考えの人が多いのか、結構混んでいました。