武蔵丘陵森林公園 〜静かな静かな里山の秋(前編)〜


 

 (前編)

【埼玉県 滑川町 令和7年11月20日(木)】
 
 長かった暑い夏がようやく終わったと思ったら、急に秋が現れ、その秋も足早に過ぎようとしています。yamanekoが暮らす多摩丘陵でも木々は葉を落とし始め、静かな散策が楽しめるようになりました。こんな時期は本来なら山歩きにもってこいと言えるのですが、今年は山の状況がちょっと違う感じ。東北地方を中心に連日クマによる人的被害の状況が報じられ、「山の中=腹を空かしたクマだらけ」といったイメージが巷に蔓延しているような気がします。 yamanekoとしては、まあ大丈夫なんじゃないかという思いと、とはいえ出会ってしまったらただじゃ済まないという思いが交錯しつつも、確たるエビデンスも持ち合わせていないので、結局ちょっと控えておこうかとなってしまいます。
 ということで、今回向かうのは埼玉県滑川町にある武蔵丘陵森林公園。関東山地が荒川低地に向けてなだらかに下っていく途中の丘陵地にあります。念のために事前に埼玉県のホームページでクマの出没状況を調べてみたところ、埼玉県内ではもっぱら秩父地方に出没しているようで、その他では飯能市など山地と市街地が直接接しているようなところに出没しているようでした。公園のサイトでも特段注意喚起はされていないようなので、基本独行の多いyamanekoでも安心して歩けそう。ちょっとビビり過ぎかとも思いますが、今や市街地で出会っても不思議はないですからね。
 
                       
 
 午前9時前、ドリーム号Vで出発。圏央道、関越道と走り抜け、東松山ICで一般道に下りました。県道47号線をしばらく走って、10時30分、公園の南口にある駐車場に到着しました。武蔵丘陵森林公園には南口の他、中央口、西口、北口と計4か所の入り口があり、それぞれに大規模な駐車場が併設されています。休日にはこれが満杯になるのでしょうが、今日はガラガラ。なので入口に最も近いスペースに車をとめました。

 Kashmir3D

 今日は、南口から展望台を経由して野草コースまでの往復。園内には舗装路も通っていますが、なるべく自然度の高い小径を辿っていきます。公園全体から見ると南側3分の1の範囲でしょうか。
 ところでここは国営の公園。国土交通省が設置したもので、全国に17か所ある国営公園のうちの一つだそうです。なんで国土交通省が公園を?と思いましたが、都市局の所管のようなので、街づくり施策の一環なのでしょうね。大規模災害時には復旧・復興拠点となるよう定められているようですし。そもそもこんな広大な公園は市町村では難しいかもしれませんね。ちなみに地名(地図の表記)として武蔵丘陵という丘陵はないのだそうで、この辺りは比企丘陵と呼ばれています。

 南口

 広大な駐車場の先には広大なエントランス。その奥に南口があります。入園料と駐車料金をここで支払うのですが、このパターンだと駐車場を無断で使われてしまう可能性もあります。もともと駐車料金は駐車場入り口のゲートで支払う形だったと思いますが、そこに職員を置く余裕がなくなったのでしょうね。人件費削減のためか。まあ、わざわざここに車を置いてどこに行くのかって話ですが。



 南口改札をくぐるとこんな感じ。ほぼ人影がありません。

 巨大ケヤキ

 ほどなく立派なケヤキ群が現れました。巨大な衛兵が「よく来たな」と迎えてくれているようでした。



 このケヤキ群の奥は日本庭園とのことですが、そこには向かわず、左手の丘を上っていきます。

 ヤツデ

 樹林の下のやや薄暗いところにヤツデが開花の準備をしていました。花序が球形になって、某有名キャンディーのようです。この花序が集まって全体として円錐状になっています。円錐の上部の花序は両性花、下の方は雄花なのだそうです。つまり花粉の受け手より出し手の方が多いということになりますが、その方がヤツデにとって有利なんでしょうか。ちなみにヤツデの両性花は雄しべ先熟で、まず雄しべが花粉を飛ばしてから雌しべが成熟するパターン。自家受粉を避ける仕組みですね。

 南サイクリングセンター

 丘を上っていくとサイクリングセンターがありました。この公園のウリの一つは長大なサイクリングコース。全長17kmにも及ぶ林間コースだそうです。園内の4つの入口にそれぞれサイクリングセンターが設けられています。マイ自転車の持ち込みもOKですが、レンタサイクルもあります。(公園の宣伝か?)

 雑木林

 サイクリングセンターの脇から小径を辿り、雑木林の中に入っていきました。なかなかいい感じです。

 テイカカズラ

 地面の落ち葉を割ってテイカカズラの青々とした葉が繁っていました。テイカカズラの葉には見た目の違う2パターンがあって、写真のように林床を這う蔓の葉は2cm程度で、浅い鋸歯があり、葉の表面の脈に沿って斑が入っています。一方、木々の上の方まで達している蔓に付く葉は3cmから7cmと大きく、全縁で、革質で光沢があります。なんでだろう。受けられる光の量で栄養状態が違うからか?

 ヒサカキ

 ヒサカキの実がたわわです。春先の開花時に独特の臭気があることから実も不味そうに感じますが、少なくとも鳥たちには好評のよう。メジロやジョウビタキなどが好んで食べているようです。冬は食料が少なくなるので不味いだの贅沢を言えないのかもしれませんが。



 カサカサと落ち葉を踏みながら歩く道。林の中が静かなのをあらためて感じました。

 シロダモ

 シロダモの枝に満開の花序と熟した実が付いていました。よく考えると同時にあるのは変な感じですが、実は去年開花した花から実ったものです。成熟するまでに1年かかるんですね。花を咲かせるだけでも相当なエネルギーを使うのだろうに、併せて実まで成熟させるとは。どんだけタフなのか、シロダモは。その年のうちに葉(栄養を作り出す器官)を落とす落葉樹にはできない技でしょう。
 ところでこんな時期に花を咲かせて花粉はだれによって媒介されるのだろうと疑問ですが、図鑑を見ると虫媒花とあります。もうそこそこ寒いのに虫もタフに活動しているんですね。

 展望広場

 11時過ぎ、展望広場にやって来ました。広々とした芝地です。奥に見える建物は展望レストランで、屋上から周囲を見渡せるようです。ただ、丘の上とはいえ周囲は木々に囲まれているようにも見えますが。展望、利くのか?

 スズメウリ

 真珠のようなスズメウリの実。初めは緑色をしていますが、熟すと灰白色になります。大きさは直径1cmほどなので、真珠よりちょっと大ぶりです。

 クズ

 とかく嫌われがちなクズでも黄葉すると見事です。本当は有用な植物でもあるのですが、いかんせん蔓延る速度が半端ないんですよね。



 展望レストランの屋上に上がってみました。周囲の立ち木と同じくらいの高さです。

 西方向

 比企丘陵からの西方向の眺望です。写真中央が西南西になります。奥の山並みは関東山地の前衛で、ここから大霧山までは20kmほど。その向こう側に秩父盆地があり、更にその奥が関東山地の核心になります。
 ここからの眺望はこの方向だけだったので、ひとしきり楽しんでから下りました。

 メタセコイア

 再び歩き始めます。
 メタセコイアも奇麗に紅葉しています。長く絶滅したと考えられていたそうですが、80年くらい前に中国の奥地で生きているのが発見されたのだそう。日本の公園でもよく見かけますが、もちろんすべて植栽です。

 林間広場

 林間広場にやって来ました。ここにも誰もいません。立ち止まり空を見上げて深呼吸(七五調)。この一帯の自然を独り占めにしている気になりました。

 クサギ

 多摩丘陵では概ね終わってしまっているクサギの実。星形のものは萼片で、中心の濃紺の物が実です。まだ色鮮やかですね。

 粟谷沼

 林間広場を突っ切って、急傾斜の坂道で丘を下っていくと、ほどなく沼が現れました。粟谷沼だそうです。おそらく灌漑用に人工的に作られた堤だと思います。



 倒木の影響で道はここで行き止まり。しばらく休んでから引き返します。それにしても静かです。風の音すらしません。もちろんyamaneko一人です。

 ノダケ

 ノダケです。この時期、果実を付けていました。不入りの籾のような形をしています。

 林間広場

 再び丘を上って林間広場に戻ってきました。

 クリ

 これはクリの葉です。葉の葉脈と刺が特徴で、主脈から左右に伸びた支脈が縁に突き当たってそのまま刺となって飛び出しているように見えます。クヌギの葉も同様ですが、もう少し荒々しい感じです。

 ヒヨドリジョウゴ

 いったんこの公園の主脈とも言える舗装道路に向かいます。これはヒヨドリジョウゴの実ですね。ナスの仲間です。よく似るものにヤマホロシがありますが、ヒヨドリジョウゴには茎や葉に軟毛が密生しているので見分けられます。

 アカマツ林

 園内を南北に貫く舗装路に出ました。この道は園内バスの運行ルートにもなっています。道の左右はアカマツ林。幹をまっすぐに伸ばし、先端の方で枝葉を繁らせます。何が何でも陽を浴びたいんですね。生育に多くの日光を必要とするこのような木を「陽樹」と呼びます。

 オオバギボウシ

 道ばたにオオバギボウシが。黄色く色づいた葉が放射状に広がり、その中央から長い花茎が伸びています。その先端には熟しきって開裂した実がずらりと並んでいました。果実の中の黒っぽいものが種子。薄い翼のような形をしていて、風に飛ばされ散布します。それにしても少しでも高い位置から種を飛ばそうと、へたることなく頑張って花茎を伸ばしている様子に感心します。
 
 さて、もう少して野草コース。そこをぐるっと巡ってから南口に戻っていきます。時刻は11時55分。まだ空腹感はないので、急ぐことなくのんびりと歩いていこうと思います。(後編につづく