室堂平 〜天上の地で一足早い秋を(後編)〜
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(後編) |
【富山県 立山町 令和4年9月10日(土)】
立山、室堂平での野山歩き。後編です。(前編はこちら)
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Kashmir3D |
室堂ターミナルを12時30分にスタートして、1時間かけて室堂山荘の手前当たりまでやって来ました。移動距離は300mくらいです。ここからは室堂山荘で左手に折れて、ミドリガ池、ミクリガ池を回ってスタート地点に戻ってくるルート。ちょっとアップダウンがあります。3時15分発のバスに乗りたいので、残り時間は1時間半くらいです。
イワアカバナ |
それにしても次々に新しい花々が現れます。
岩陰で揺れていた小さな花は、その名もイワアカバナ。アカバナといいつつ花の色が白いですが、アカバナの「赤」は葉が紅葉するからということだそうです。
オヤマリンドウ |
おお、ここのオヤマリンドウは勢いがいいですね。深い紫紺色です。
振り返るとこんな感じ。ターミナルの周辺とちがってずいぶん人影も少ないです。標高2400mともなると、雲が下から湧いてきている感じです。
ミヤマコウゾリナ |
ミヤマコウゾリナ。この様子を見ると花序は上から咲いていくんですね。上の方のは蕾のように見えますが、既に咲き終わって種子を作る段階に入っています。
室堂山荘 |
1時45分、室堂山荘までやって来ました。この建物の裏側に立山室堂があります。背後の山は浄土山。
室堂とは修験者が寝泊まりしたり祈祷を行ったりする建物のことで、現存する立山室堂は江戸時代に建てられたものだそうです。国の重要文化財に指定されています。
山荘の手前を左手に折れます。立山(雄山、大汝山、冨士の折立)、真砂岳、別山が屏風のように聳えています。
コバイケイソウ |
これはコバイケイソウでしょう。花期は夏なので、今は実を付けている状態です。コバイケイソウは数年に一度のサイクルで多くの株で花を付けるとのことで、今年は各地で当たり年だったようです。
タカネナナカマド |
タカネナナカマド。葉に光沢があることと実が垂れ下がって付くことがナナカマドやミヤマナナカマドとの相違点です。赤い実は鳥たちに人気です。
さっきと同じようなアングルの写真ですが、ここからは足下の谷の底まで見渡せていますね。そこには立山開山にまつわる伝説の場、「玉殿岩屋」があります。平安時代のこと、越中の有力者、佐伯有頼が鷹狩りの途中に手負いの熊に導かれ入り込んだのがこの窟。そこに現れた阿弥陀如来に僧になるよう促され、立山を修験の地として開くこととなったという伝説です。(超ざっくりとした解説)
クルマユリ |
これはクルマユリの刮ハですね。なかなかこんな姿は目にすることがありません。
ハイマツ |
ハイマツは高山帯の尾根筋など風の強いところに生えるマツで、一般にイメージするマツのような背の高い樹木ではなく、せいぜい人の胸辺りまでで這うように生えています。球果(まつぼっくり)の種鱗の間に隙間が空いているので、もうそこから種子がこぼれ落ちた後の状態だと思います。
イワオウギ |
いかにもマメ科の植物っぽい果実ですね。これはイワオウギ。そういえばイワウチワ(岩団扇)という植物もあるのでこちらはてっきり「岩扇」なのかなと思いきや、「岩黄耆」、すなわち高地(=岩)に生える黄耆なのだそう。その黄耆とは漢方薬の一種だそうです。
コケモモ |
コケモモ。果実は甘く、ジャムやジェラートに使われたりしていますね。でも、お土産屋でコケモモパイとかコケモモクッキーとか見かけたときは、これらに本当にコケモモが入っているとしたら日本のコケモモは取り尽くされているだろうなと苦笑したりもしますが。
シラタマノキ |
こちらはその名のとおり白い果実のシラタマノキ。分布は中部地方以北ですが、我が故郷の山、三瓶山にも隔離分布しています。
ミドリガ池 |
右手にミドリガ池が見えてきました。ミクリガ池と同様に立山火山の火口湖だそうです。
ガンコウラン |
赤い実、白い実ときて今度は黒い実。これはガンコウランです。雪の多いところに生えるからか、地面を這うように広がっています。
ウラジロナナカマド |
さっきはタカネナナカマドに出会いましたが、こちらは葉に光沢がなく、先端が丸みを帯びているので、ウラジロナナカマドでしょう。
ゴマナ |
草原に生える野菊、ゴマナです。頭花の大きさは1.5cmほどで、それが散房状に寄り集まっている状態。風に揺れる様は「高原の秋」そのものです。
ミドリガ池 |
写真右手の丘の上を歩いてきて、ミドリガ池の水辺に下りてきました。立山をバックに奥行きのある風景です。日頃の憂さも消し飛んでしまいますね。
ミクリガ池 |
更に歩いて行くと、今度は左手にミクリガ池が。湖畔左手の馬の背のような丘の反対側にミドリガ池があります。ミクリガ池はミドリガ池より一段下がったところにあり、両者の水面の高度差は20mくらいありそうです。
血の池 |
池の反対側は低地を見下ろす形になっていて、その底は「血の池」と呼ばれる赤銅色の湿地が広がっていました。この色は酸化鉄の色味とのこと。遠くに見える建物は雷鳥荘です。
ミヤマハンノキ |
ミヤマハンノキに若い実が付いています。このミヤマハンノキはハンノキの名前を持っていますがヤシャブシの仲間なのだとか。???
図鑑によると、ハンノキとヤシャブシは、ハンノキ属の中のハンノキ亜属とヤシャブシ亜属とに分かれる兄弟同士みないなもの。両者の見た目の違いは、雄花に柄があるか(ハンノキ)ないか(ヤシャブシ)、雌花の冬芽が鞘(芽鱗)に覆われているか(ヤシャブシ)いないか(ハンノキ)といったところだそうです。
別山と真砂岳 |
少し陽が陰ってきました。時刻は2時15分です。それにしても今日はピンポイントで晴れになって良かった。
ゴゼンタチバナ |
ゴゼンタチバナが実を付けています。背は低いですがこれでも樹木。何年か成長すると葉が4個から6個になり、そうすると実が付くようになるのだそうです。
道の先に小屋風の建物が現れました。あれは火山ガス情報ステーション。地獄谷周辺ではその日の気象条件によって火山ガスの濃度が危険なレベルになるそうで、登山者や観光客に情報提供してくれています。
地獄谷 |
情報ステーション脇から、地獄谷越しの奥大日岳。眼下の地獄谷ではあちこちから白煙が上がっていますね。
剱岳 |
こっちは剱岳。残念ながらなかなか雲が切れてくれませんでした。実際登るのは困難ですが、遠くから見るだけでパワーをもらえる山です。
ミクリガ池 |
ミクリガ池の縁を回り込むように湖畔に下りてきました。湖面に映る逆さ立山。空の青も綺麗に映していますね。このように景色がくっきり映り込むのは、さっきのミドリガ池より水深があることが関係しているのかもしれません。
??? |
再び丘の上に上がっていきます。これは何の実だろう。3室に分かれた液果のようで、萼が6個あるようです。図鑑をめくっても分かりませんでした。
イワギキョウ |
イワギキョウが数個咲いていました。残念ながらどれもアングル的に正面からの姿を撮ることはできませんでした。でも横顔や後ろ姿もいいですね。
絵ハガキのような景色。思い立って室堂までやって来て良かったと思える風景でした。
キオン |
ここからは室堂ターミナルに向かって歩いて行きます。
キオン。漢字では「黄苑」と書きます。同じキク科に「紫苑」(シオン)というのもありますが、見た目はずいぶん違います。ちなみに「苑」の方の意味は?ということですが、この字には園や庭といった意味があり、おそらく群生して一面に黄色(紫色)になる状況を示しているのだと思います。
ミネウスユキソウ |
ミネウスユキソウです。白い花弁のように見えるものは総苞葉と呼ばれる葉。本当の花は中心部に見える黄色の部分なんです。この白色を「薄雪」に例える感性。感心しますね。
エゾシオガマ |
一株だけみつけたエゾシオガマ。花付きも良くないですが、スクリューのような形に花が付いているのが分かります。
ミヤマトリカブト |
鮮やかな青色ですね。ミヤマトリカブトのようです。花序の上の方のものは既に果実になっていました。葉も黄色くなりつつあります。みんな花を付け実を育て、次に命をつないでいくんですね。
ウメバチソウ |
「お花」の模式図のような姿をしているウメバチソウ。花の絵を描くとこうなりますよね。
イワオウギ |
イワオウギの花が残っていました。マメ科特有の蝶形花です。最初、ぱっと見でクララかと勘違いしました。クララは花も葉ももっと厚いというかしっかりしています。
雲海 |
室堂平での散策もそろそろ終わりです。富山平野の方を眺めると一面の雲海でした。
15時、室堂ターミナルに戻ってきました。
室堂平は一見枯れ野色のようでしたが、この時期にも生命を謳歌するたくさんの植物に出会えました。なにより壮大なスケールの中に身を置いて、相当リフレッシュできました。台風が通過するタイミングを見計らい、天気予報と旅行サイトを睨みながら今回の室堂行きを決めて大正解でした。
帰りも立山黒部アルペンルートのバスなどを乗り継いで行きます。今回は室堂平メインでしたが、次に来るチャンスがあれば今度は黒部ダムも満喫したいと思います。
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