御岳渓谷 〜水波に涼を求めて(後編)〜


 

 (後編)

【東京都青梅市 令和5年7月15日(土)】
 
 水波に涼を求めての野山歩き。後編です。(前編はこちら

 Kashmir 3D

 10時に御嶽駅前を出発し、多摩川の左岸を遡り、途中で右岸に渡って川辺を離れ、吉野街道までやって来ました。時刻は11時15分です。

 神路橋

 吉野街道に上がってしばらく車道を歩き、また川辺の遊歩道に戻ります。小道に逸れて坂道を下るとさっき見上げた神路橋に出ました。橋の手前の小屋のところを右に入って行きます。

 ハグロソウ

 水辺からは距離があり、深い森の中を歩いているよう。この辺りはまさにハグロソウにぴったりな環境で、あちこちに小群落を作っていました。なんだか花の色も濃いです。

 東京都交通局 多摩川第三発電所

 しばらく行くと発電所に行き当たりました。「東京都交通局」の看板があるとおり、ここで発電した電気は主に都営交通の運行に使われるのだそうです。都営地下鉄の営業開始が1960年で、同じ年に白丸ダムが着工し、この発電所ともに1963年から稼働しているようなので、将来的な電力事情のひっ迫を見越して建造したのではないでしょうか。都電と地下鉄とでは消費電力量が違うのでしょう。



 発電所の敷地を回り込むようにして歩いて行きます。

 クサノオウ

 これはクサノオウ。ケシ科の植物で、茎を折ると黄色い乳液が出てきます。その色から「草の黄」とも、またその乳液に薬効があったことから「草の王」とも呼ばれるようになったのだそう。

 河原へ

 小さな河原に出ました。キャンプをしているグループがありましたが、発電所からの放流口が近くにあるんじゃないでしょうか。

 ガマ

 河原の脇、少し水が溜まっているような場所にガマが繁っていました。お馴染みの褐色のガマの穂になるのはもう少し先です。

 フジカンゾウ

 河原を離れてまた林の縁を歩きます。これはフジカンゾウですね。茎が長いのでなかなか写真に収めにくいですが、マメ科に特徴の蝶形花であることが分かります。全体としてヌスビトハギを大型にしたような印象。

 フサザクラ

 こんなところにもフサザクラが。一度見たら忘れられない特徴のある葉の形をしています。本来は高木ですが、この株は人の肩の高さくらいでした。茂みの中でよくここまで育ったものです。



 川辺とはいえ涼風が吹くこともなく、じっとり暑いです。

 ユキノシタ

 仄暗い岩肌からユキノシタが生えていました。小さな花ですがアップでみるとこんなにも華やか。作り物みたいです。

 タマアジサイ

 タマアジサイの蕾がほころび始めていました。蕾はピンポン玉みたいにまん丸な形をしています。関東、中部、四国、九州に分布しているとのこと。どうりで広島に住んでいるときに見たことなかったわけです。



 御岳橋の下まで戻ってきました。ここは直進し、この先にある御岳小橋を渡って左岸側に戻ります。

 御岳小橋が…

 御岳橋の下をくぐり、川合玉堂美術館の裏手を通って歩いて行くとなんだかおかしな光景が。なんと御岳小橋がぶっつりと途中でなくなっているではないですか。今回のコースは4年前に発行されたガイドブックを参考にしたものですが、その後の災害かなんかで壊れたのかも。道もだいぶ手前で通行止になっていたので、やむなく引き返すことに。

 ヤマユリ

 引き返す途中で見つけたヤマユリ。美術館の石垣からしな垂れるように咲いていました。見つけたというより目が合ったという感じでした。引き返したことで出会えたと、コース変更ももポジティブに。

 御岳橋

 御嶽駅前の御岳橋を渡って右岸側に向かいます。道幅も広い立派な橋です。

 アカシデ

 橋の欄干から手が届くような位置にアカシデの果穂がぶら下がっていました。まだ若いですね。こんな川辺にも生えているのか。



 下流方向  上流方向

 御岳橋の真ん中からの眺め。川面からの高さは30m近くあると思います。

 御岳小橋

 右岸側の遊歩道を歩いて行きます。近くで見る御岳小橋。ぶっつりです。調べてみると、令和元年の台風19号で被災し、令和4年に部分修復が完了したようです。その結果橋の途切れた先端までは行けるようになっていました。資料には「部分修復」とありましたが、この先を架け直す予定はあるのでしょうか。少なくともニーズはあまりなさそうですが、「まだ途中だよ」としておくことによってなにがしかいいことがあるのかもしれませんね。

 キンシバイ

 これはキンシバイ。垣根に植えられることも多いです。ここから先は民家やお店がぱらぱらとあって、その裏手を歩くような恰好になりました。お店は遊歩道側からも入れるようになっているところが多かったです。

 ミゾソバ

 ミゾソバの花はごく小さいので見逃しがちですが、近づいてみると透明感のある可憐な姿をしていることが分かります。大きさは8mmほどでしょうか。



 相変わらず蒸し暑いです。もうちょっと風があると良いのですが。

 ハンゲショウ

 ハンゲショウ。花序が伸びています。花の時期に葉が白いのは葉緑素が作られていないからだそうで、実ができる頃には緑色になるそうです。虫を呼ぶために葉を白くする戦略をとるにしても、マタタビとは仕組みが異なるんですね。

 アキノタムラソウ

 アキノタムラソウ。「秋の」と名が付いていますが初夏から咲いています。花はシソ科の特徴の唇形花です。

 ノハカタカラクサ

 ノハカタカラクサです。漢字では「野博多唐草」。別名をトキワツユクサといい、こっちの方が通りがよいのかも。どことなくツユクサに似ていますね(ツユクサ科です)。南米原産で、日本には昭和初期に観賞用として移入されたものだとか。当初葉が斑入りだったものが、野生化して斑が消失したのだそうです。

 鵜の瀬橋

 鵜の瀬橋。この橋を渡って再び左岸側を歩きます。右岸と左岸を行ったり来たりです。

 オニグルミ

 橋の上から見下ろす形でオニグルミの実が観察できました。本来は高木なので、なかなかこのアングルはありません。

 クールスポット

 左岸側も森の縁を歩く道です。すると、小さな谷というか流れがあり、岩の上の方から涼しい風が吹き下りていました。涼しいというより冷たいレベルの風です。ここでしばしクールダウン。生き返りました。

 キツネノボタン

 再び歩き始めると、足元にキツネノボタンが。久しぶりに出会いました。yamanekoが暮らす多摩丘陵にはケキツネノボタン(毛狐の牡丹)はよく見かけますが、「ケ」の付かないキツネノボタンは出会った記憶がありません。

 楓橋

 またしばらく歩くと今度は楓橋が現れました。車も通れそうなちょっとしっかりした橋です。あの橋でまた左岸側に渡ります。



 道は山側に上がる階段となりました。結構息が上がります。

 寒山寺

 階段の先にあったのはこの建物。山号額には「寒山寺」とありました。明治時代に日本の書家が中国蘇州の寒山寺を訪れた際に仏像を託され、それを安置するために建てられたもののようです。寺というよりお堂といった佇まいでした。

 楓橋

 寺の先に楓橋がありました。しっかりした造りですがやっぱり車は通れなさそうです。本家中国の寒山寺にも楓橋があり、有名な詩に詠まれていたとのことで、お寺同様こ楓橋も本家にちなんで付けられた名前のようです。



 今日は左岸側から始まり、釣り堀の渡し橋で右岸へ、御岳橋で左岸へ、鵜の瀬橋で右岸へ、そしてまた楓橋で左岸と行ったり来たりしました。

 ヒルガオ

 ヒルガオですね。アサガオもヒルガオも花はすぐに思い浮かぶのですが、ユウガオの花ってどんなだったっけ?
 図鑑で調べてみると、ユウガオはウリ科でフリルのような細かい襞があり、どっちかというとキュウリやゴーヤの花に似ていました。アサガオやヒルガオはヒルガオ科で、お馴染みのラッパ形をしています。ちなみにヨルガオというのもあるようで(熱帯北アメリカ原産)、こちらはヒルガオ科でやはりラッパ型。

 車道へ

 やがて散策路は川辺を離れ、青梅街道に出ました。野山歩きとしてはここがゴール。時刻は1時20分でした。そして、ここからは歩道歩きです。

 軍畑駅

 10分後、軍畑駅に到着しました。最後に繰り出された信じられない斜度の坂道(青梅街道から駅に上がる小道)に息絶えそうになりましたが、どうにかたどり着きました。もうヘトヘトでした。
 
 水波に涼を求めてやって来た御岳渓谷。今日は風もほとんどなく蒸し暑い野山歩きとなりました。一方で日差しもなかったので熱中症にかかることもなく良かったです。
 軍畑駅のホームで上り電車を待ち、また4回乗り換えて帰宅しました。