八ヶ岳美濃戸林道 〜幻の花ふたたび(後編)〜


 

 (後編)

【長野県 茅野市 令和5年6月6日(火)】
 
 幻の花、ホテイラン。その花に再び会おうと、八ヶ岳西麓の美濃戸に8年ぶりにやって来ました。その後編です。(前編はこちら

 Kashmir 3D

 8時40分に美濃戸口を出発。柳川を渡って、やまのこ村、赤岳山荘を過ぎ、上流部の北沢と南沢が出会うところまでやって来ました。時刻は10時30分になっています。

 北沢

 川はここから北沢と南沢に分かれますが、林道はしばらく北沢に沿って延びています。

 オノエヤナギ

 川面にせり出すように枝を広げているのはオノエヤナギですかね。実が熟して開裂し、柳絮と呼ばれる綿毛を伴った種子が出てきています。やがて風に飛ばされていくでしょう。

 ユモトマムシグサ

 マムシグサの仲間。図鑑をめくってみてユモトマムシグサではないかということに。

 ホテイラン

 ああっ!こんなところにホテイランが! なんと美濃戸山荘の脇にちょこんと咲いているではないですか。まだ群生地に向かう登山道にも入っていないのに。しかもたった一株だけ。これはこの先に期待が高まろうというもの。はやる気持ちを抑えつつ歩を進めます。

 美濃戸山荘

 そしてすぐに美濃戸山荘の前を通過。

 登山道入口

 ここで右手に入る登山道が現れます。ここを入るとしばらく林間を歩き、すぐに南沢の流れに沿う道になります。

 コミヤマカタバミ

 コミヤマカタバミがあちこちに咲いていました。ミヤマカタバミより小型というネーミングでまさに大きさが両者の違いなんですが、葉の形も見分けるポイント。小葉の角が尖り気味で三角形 い近いのがミヤマカタバミ。角が丸くハート形をしているのがコミヤマカタバミということです。



  南沢に架かる橋が現れました。前回来たときは鉤形ではなかったですが、架け替えられたんですね。

 キバナノコマノツメ

 黄色のスミレ。キバナノコマノツメです。前回もここで出会いました。8年経っても変わらずそこにあるというのは嬉しいことです。

 ホテイラン

 流れから少しずつ高度を上げて行くと、やがて道の両側にホテイランが現れ始めました。小さな集まりごとにロープで囲われ保護されています。

 ホテイラン

 ラン科の植物の花の構造は、前面から見ると、唇弁、その両肩に2個の側花弁、それらの背後に背萼片と2個の側萼片、と6個のパーツがプロペラのように配置されているのが一般的。でも、このホテイランを見ると、顎のように下がっている部分が唇弁ということはなんとなく分かるのですが、あとは何がなにやらよく分かりません。

 ホテイラン

 この花がこの姿に進化したのは生き残っていくための必然だったのでしょうか。見れば見るほど不思議。

 ツバメオモト

 ひとしきりホテイランを堪能した後は他の植物も。これはツバメオモト。清楚な姿をしていますね。夏には深いコバルトブルーの丸い実を付け、また違う表情を見せてくれます。

 コミヤマカタバミ

 ここにもコミヤマカタバミが。清楚さでは負けていませんね。

 ズダヤクシュ

 これはズダヤクシュ。高さは15cmほど。花は5、6mmとごく小さいです。信州方面で喘息のことを「ズダ」と言ったそうで、この植物に喘息の薬効があったことから「喘息薬種」。ちなみに、ずだ袋の「ずだ」は「頭陀」と書き、仏僧が行う修行の一つだそう。その修行の際に首から掛けていた袋を頭陀袋と呼んだそうです。



 ホテイランが生育しているのはこんな環境のところ。昼なお暗い、といった感じです。



 時刻は11時40分。そろそろ帰途に着くことに。例の四人組はまだ観察を続けるとのことだったので、ここで別れることにしました。



 登山道が終わると美濃戸山荘。今回もホテイランに会わせていただきありがとうございました。

 サンリンソウ?

 復路も花を見ながら。これはサンリンソウでしょうか。白い萼片が5個あるのが普通ですが、なかには6個のものも。

 カモメラン

 おお、これはカモメランでは。唇弁の赤紫色の斑紋が鮮やかです。名前はこの容姿から付けられたとのことですが、いったいどこがカモメに似ているのか。と思って鳥の図鑑を見てみたら、カモメの若鳥の頭部に薄い褐色の斑紋があるようでした。これなのか?

 シロバナノヘビイチゴ

 シロバナノヘビイチゴ。小さいながら美しく、林道沿いにずっと咲いていました。今日の隠れた主役はこの花だったのかもしれません。

 美濃戸林道

 緩い下りを歩いて行きます。そろそろお腹が空いて来ました。

 レンゲツツジ

  レンゲツツジが生き生きと咲いています。花は日本のツツジの中で最も大きいそうです。晩秋の紅葉も趣があり、以前、赤城山の覚満淵で見たレンゲツツジは、霧の中に紅葉が浮き立ち、感動しました。

 チゴユリ

 チゴユリ。通常は群生するのですが、辺りを見てもこれ一株。もう花期も終わりですね。



 いつの間にか柳川に架かる橋まで戻って来ました。ここから登り返し。昼食までもうひと頑張りです。

 ヤグルマソウ

 ヤグルマソウの葉。大型で、群生していると迫力があります。

 ヒメマイヅルソウ

 こちらは小さく可愛いヒメマイヅルソウです。まだ花序の下の方が咲き始めたところ。これからですね。



 見上げると緑のサンシェード。これはハウチワカエデか。葉柄が長いのでコハウチワカエデか。透かしてみる空は今日はどんよりとしたままでした。

 クサボケ

 地面スレスレのところに変わったものが。これはクサボケの若い果実。子房が膨らみ始めたところで、まだ萼片や雄しべなどが残っていますね。 最終的にはナシのようなリンゴのような形になります。

 ヤマガラシ

 坂を上りきるとゴールの八ヶ岳山荘も近いです。今日出会った花々を思い出しながら林の中をのんびりと。
 そして最後に出会ったのがこのヤマガラシでした。中部地方以北の比較的標高の高い山地で見られるものだそう。

 八ヶ岳山荘

  1時30分、八ヶ岳山荘に戻って来ました。幻の花に会うという目的を果たせ、そしてなにより怪我もなく戻って来られて良かったです。



 そしてお待ちかねの昼食。山荘の食堂でチキンカツカレー(チキンカツのカレーではなく、チキンカレーにポークカツを乗せたもの)をいただきました。ボリューム満点でした。美味しかったです。
 カレーを食べ終わった頃、例の四人組も戻ってきました。また次の観察ポイントに移動するのだそうです。事故のないよう気をつけて。
 
  帰りの高速で運転中に猛烈な睡魔に襲われ、なんとか八ヶ岳PAまでたどり着いて仮眠を取ることができました。今朝早起きしたことに加え、腹が一杯になったからかもしれません。居眠り運転にならなくてなによりでした。
 幻の花、ホテイラン。これからも絶えることなく美濃戸に生き続けてもらいたいです。