身延山 〜千年の信仰の山(後編)〜


 

 (後編)

【山梨県 身延町 平成24年5月26日(土)】
 
 不信心3人組が巡る身延山。その後編です。(前編はこちら


Kashmir 3D

 南アルプスを眺めながらの昼食、最高でした。山頂で1時間ほど休憩。いつまでもまったりしているわけにもいかないので動く準備を始めますか。

 12時40分、西に延びる稜線に沿って下山開始です。

 タチツボスミレ

 タチツボスミレはどの山に登っても必ず見かけます。それともみんなタチツボスミレに見えるだけか?スミレの見分けは難しいからね。

 ハコベ

 ハコベはナデシコの仲間。今、ナデシコと言えば女子サッカーですが、ナデシコとは本来繊細で穏やかなイメージの花。そもそも「大和撫子」は日本女性の清楚な美しさを例えた言葉です。10個あるように見える花弁は、実は5個の花弁がそれぞれ真ん中から深く裂けているのです。おもしろい造形です。

 ヤマナシ

 頭上に白い花。これは果物の梨の原種と考えられているヤマナシです。果実はゴルフボールくらいの大きさで、かじると確かに梨の香りがします。今はちょうど花の時期です。おっ、そういえばこれは山梨のヤマナシではないか。(苦笑)

 ヤブウツギ

 こちらの登山道は花が多いですね。この濃い紅色の花はヤブウツギ。漏斗状の花冠から雌しべの白い花柱が顔を出しています。

 感井坊

 午後1時10分、尾根上にある感井坊までやって来ました。どうやらここは無人のようです。奥には朽ちかけた建物もありあましたが、手前の建物内には綺麗な仏具などもあったので、定期的に人が来ているのかもしれません。
 道はここで二手に分かれていて、直進すれば西側に谷を下り七面山の登山口ある赤沢集落の方に向かいます。一方、南側に下る道は久遠寺の方に下りていく林道。yamaneko達は南側の道を下ります。

 サンショウ

 見覚えのある葉ですね。ちらし寿司などに添えられ、いい香りを放っているサンショウです。小葉を1枚失敬して、手のひらでパンとたたいて匂ってみました。うん、まさにサンショウの香り。今年はウナギが高いというので、粉末のサンショウにお会いすることはないかも。写真の木は雄花ばかりを付ける雄株です。小粒でぴりりと辛いサンショウの実を採るには雌雄両方の株がなければなりません。庭木などに植えるときも要注意です。

 千年杉

 巨大なスギが林立しているエリアにやってきました。解説板によると、ここは久遠寺所有のスギ林で、いずれも樹齢は300年以上。目通り3mから5m超で、高さは概ね55mだそうです。単独での巨木にはときどき出会いますが、辺り一帯がみんなこのレベルの巨木というのはそうそうないと思います。急に異空間に入り込んだような感じでした。

 林道を下ります。久遠寺にはさっきのようなスギ林を管理する部署もあるようで、「久遠寺」のネームの入った作業トラックともすれ違いました。

 

 ガクウツギ

 ガクウツギの純白の花。でもこれは装飾花の萼片で、脇にある地味な方が実質的な花です。右の写真は装飾花がないバージョン。ガクウツギは別名をコンテリギ(紺照木)といい、これは薄暗いところで見ると光沢のある葉が紺色がかった濃い緑色に見えることからだそうです。確かに何とも言えないいい色合いをしています。

 ヒメレンゲ

 岩場に張り付くように生えていたヒメレンゲ。仏の山に蓮華とは。花を付けていないロゼットの状態がハスの花に似ているからだそうです。花は小さいながらもよく目立ち、レモンイエローの花弁に赤い葯が鮮やかです。肉厚の葉も独特です。

 ハンショウヅル

 火の見櫓の上にある半鐘のような形だからということで「半鐘蔓」。臙脂色の花冠は肉厚で表面にはうぶ毛のような手触りがあります。でもこれは花弁ではなく萼片。キンポウゲ科の花には定番の構造です。開く前の形も可愛いですね。

 ガクウツギ

 こちらもガクウツギ。さっき見たのに比べるとずいぶん花が多いです。

 林道は大きく蛇行しながら徐々に高度を下げていきますが、これだと麓に着くまでにかなりの距離になります。でも、歩行者用には途中から林道をショートカットする形でまっすぐに下る道がありました。かなりの勾配ですが、だらだらと林道を行くより楽しそうです。

 松樹庵

 2時15分、山肌にぽつんと建つ松樹庵に出ました。その昔、この谷の麓に隠棲していた日蓮上人が夜中に経文を読んでいると、遙か山の中腹の大樹の幹から放たれた光が届いて、手元の経文を照らしたといいます。後日その場所を訪れてみた日蓮上人は、そこに松の大樹があるのを見て「この大きな松が京や鎌倉にあったなら見事な松と賞されただろうが、この深山にあっては誰一人としてその存在を知り得ない。」と、三度国家を諫めて用いられず山に入った我が身と重ね合わせたのだそうです。それからというもの奥の院に登る際にはここで休憩するようになり、その後この庵が建てられたということです。

 松樹庵からの眺望。門前町の家並みが見えます。そこから左手の山を登ったところに久遠寺の伽藍が見えますね。遠くの雲の辺りに富士山があるはずですが、今日は霞んでいて姿を隠しています。

 ジャケツイバラ

 小休止してから再び急な山道を下ります。
 全身鋭い刺だらけのジャケツイバラ。でも花の色は鮮やかで、花穂は20〜30pもの大きさになり見事です。マメ科でありながら蝶形花ではなく、普通の左右相称花という変わり者。5個の花弁のうち上の1個にだけ赤いラインが入っているのも洒落ています。

 ハリエンジュ

 蜂蜜の蜜源として有名なハリエンジュ。元々は北アメリカ原産で、日本には明治の初めにやって来たものだそうです。この花はちゃんと蝶形花ですね。

 コアジサイ

 装飾花がないのが特徴のコアジサイ。中身で勝負といったところでしょうか。

 妙石坊

 谷筋にある妙石坊の裏手まで下りてきました。山道はここでおしまいです。

 高座石

 表に回ってみると、注連縄の架かった大きな岩がありました。これは「高座石」といい、日蓮上人がこの岩の上に立って法華経の説教をしていたものだそうです。

 三門

 妙石坊からは川沿いの車道を歩いて久遠寺の方に戻ってきます。そして午後3時、久遠寺の正面玄関の三門に到着しました。ここから本堂に向かって一直線に参道が延びています。空・無相・無願の三つの門(解脱)を経て覚りに至ることから、この先にある本堂を覚りの世界に見立てたものだそうです。さて、ここからあらためて参拝です。

 やって来た方角を見返すと身延山の全身像が見えました。あのピークから下りてきたのです。

 菩提梯

 三門をくぐりまっすぐ進むと、ちょっと目を疑うような光景が現れました。正面に階段があるのは分かるのですが、その先端が見えません。何か壁のようにも錯覚します。そういえば麓から久遠寺の境内までは標高差にして100mほどあるはずですが、それをこの階段で一気に登るということのようです。
 解説によると、この階段は「菩提梯」といい、104mの高低差を287段の石段で登るようになっているのだそうです。1段あたり36pということになり、登ってみると確かに1段が高いなと感じました。この菩提梯は、南無妙法蓮華経の7文字になぞらえて全体が7区画に分かれているのだそうです。3人でどこまで止まらずに登れるかやってみましたが、南無辺りまでのぼったところでギブとなってしまいました。覚りの道は遠そうです。

 本堂

 息も絶え絶えに菩提梯を登り切ると、そこには再び異空間が。今朝方出会ったのと同じ(かどうか不明)白装束の信徒さん集団が、お題目を唱えながら行進していました。ざっと2、3百人はいるようで、最後に修学旅行のように何組かに分かれて撮影用のひな壇に収まって記念撮影をしていました。仕切り役の人が「次は○号車のみなさんでーす。」とか言っていたので、参拝ツアーなのかもしれません。
 一行をやり過ごしてから本殿に上がってお参り。そして渡り廊下を通って祖師堂でもお参り。最後に報恩閣に移動して、TさんとMさんの2人は御朱印を書いてもらっていました。今日は奥の院とも合わせて2つゲットです。

 閻魔様?

 御朱印をいただいたところで今日の山歩きは終了。祖師堂の軒で屋根を支えている閻魔様(?)に今日一日の無事を感謝して、駐車場に向かいました。
 
 さて、帰りも中央道を走るのですが、どうせ渋滞が待っているだろうということで、とりあえず近場の温泉にでも行って、ついでに夕食もとってから帰ろうということになりました。帰路をたどること20q、富士川町にある「かじかの湯」という日帰り温泉施設に行って疲れを癒し、渋滞を回避してから帰りました。新宿到着は9時半くらい。楽しい一日を終えました。