飯盛山 〜冬隣りの晴天の下で(前編)〜
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(前編) |
【長野県 南牧村 令和6年11月19日(火)】
11月に入ってようやく各地から紅葉の便りが届くようになりました。各地といってもテレビの情報なので有名観光地の様子ばかりなのですが、いずれも混雑と渋滞がセットになっていて、とても出かけようという気になれません。紅葉を楽しむのなら近所の小山内裏公園で全くもって十分で、むしろ静かに秋の深まりを感じられたりするんですよね。見頃まであと半月ほどかかりますが。そこで今回yamanekoが出かけたのは、長野県西部、野辺山高原にある飯盛山(めしもりやま)。長野県の東信と呼ばれる地域の南端に位置していて、東京方面から向かうと山梨県を抜けてすぐ、長野県に入ったのか?というくらいのところにあります(行政区域で言えば南牧村)。八ヶ岳の絶好のビューポイントであるとともに、360度素晴らしい眺望の山ですが、おそらくもう紅葉は終わっていて、何なら冬の装いを始めている頃だと思います。
午前7時20分、ドリーム号Vで出発。車に乗り込む際にドアロック解除の反応が鈍かったりエンジン始動にわずかにタイムラグがあったり、夜半から急に冷え込んだせいかバッテリーも能力低下気味のようでした。
圏央道から八王子JCTで中央道に入り、そこからはひたすら西進。平日とあって車も少なく順調なドライブでした。甲府盆地を過ぎ、長坂ICで一般道へ。そこから八ヶ岳の広大な山裾を北上していきます。途中にある清里をバイパスで抜けるとその先からが長野県。県境には鉄道最高地点(JR小海線)があり、その筋には有名な場所のようです。長野県側は高原になっていて、一面に広がる農場と遠くに連なる山々が長閑な風景画のようでした。そして、そこから今日の野山歩きの基点となる平沢峠を目指して更に標高を上げていきました。
獅子岩駐車場 |
10時15分、平沢峠の獅子岩駐車場に到着。かなり広めの駐車エリアには先客が10数台停まっていました。大型バス専用の駐車区画もあり、休日にはツアーの登山客も多いのでしょう。綺麗なトイレも併設されていました。
八ヶ岳(南八ヶ岳東面) |
そしてこの駐車場からの眺望がこちら。八ヶ岳の東面です。もうこれで帰ってもいいくらいの圧巻の風景でした。今日は雲一つない晴天ですが、気圧配置は冬型で、空気が刺すように冷たいです。大きく息を吸うと肺が冷たくなるのが分かるくらいに。
駐車場にはこんな立派な標識も。「野辺山高原 平沢峠」とあります。この駐車場自体が観光名所になっているんですね。
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Kashmir3D |
今日のルートは、獅子岩駐車場の登山口からまっすぐに稜線を歩き、飯盛山の山頂へ。そこで眺望を楽しんだ後下山というシンプルなもの。途中の平沢山や大盛山は復路に立ち寄ります。
凍結 |
準備体操をして装備を整え、さて出発と歩き出したところ、駐車場のフェンスに「獅子岩」との看板が。駐車場のすぐ横にあるようなので、とりあえず行ってみることにしました。フェンスを出ると地面は凍っていてカチカチでした。
獅子岩 |
で、すぐに大きな岩塊が居並ぶ場所に。この辺りが獅子岩のようなんですが、具体的にどの部分が獅子なのか今ひとつ判然としません。更に奥まで道は続いていましたが、とりあえず獅子岩の探求は下山後にすることにしました。
登山口 |
あらためてスタートです。時刻は10時25分になっていました。クマはそろそろ冬眠のシーズンですが、一応熊鈴を付けて歩きます。
熊鈴 |
この熊鈴、真鍮製でかなり高い音で鳴るのですが、これがクマが認識しやすい音域とのこと。しかも3連で付いているので音量も大きいです。なので、前後に人がいるときやすれ違う時には手で握って音が鳴らないようにしています。使い始めて20年になりますが、革製の土台も含め壊れる気配すらありません。(写真は3年前に撮ったもの)
葉を落とした梢越しに陽射しが届いていますが、登山道は凍結していました。登山口の標高は1450mとのことで、空気は頬を冷たく刺激します。
霜柱 |
羽毛布団の中身か?というくらい伸びた霜柱。踏むとシャリシャリと音を立てて砕け、気持ちいいです。
しばらく歩いて振り返ると、八ヶ岳東麓のなだらかなラインが望めました。山頂部の荒々しい岩嶺とは対照的です。古の噴火による噴出物が降り積もってできたものだと思いますが、有史以来、噴火の記録は残っていないのだそうです。それもそのはず、とある文献によると、八ヶ岳の火山としての活動期間は約200万年前から約1万年前までの間とされていました。ちなみにこの活動期間は日本の火山の中でも際立って長いのだそうです。でもまてよ、ということはその200万年の間には活動を休んでいる期間が1万年を超えるようなことはおそらく何回もあったでしょうから、これから八ヶ岳が活発に活動し始めることも十分考えられますね。休憩終わり!って感じで。
宮司の滝分岐 |
10時40分、宮司の滝への分岐が現れました。事前のリサーチでは挙がってこなかった地名なので、あらためて調べてみると、ここから約7kmも下った先にある滝のよう。どうやらそこを登山口とした飯盛山への登山道がここまで延びているようで、この標識はそこへの下山口を示すものとして理解した方が良さそうです。間違ってちょっと立ち寄ってみようなどと下りだすとえらい目に合います。
登り始めてからずっと稜線歩きですが、ぴったり尾根筋の真上ではなく微妙に北側にずれているので、陽射しは基本木立越しです。これが稜線の南側を通るようになっていると陽射しをたっぷり浴びることができると思うのですが。
野辺山高原 |
視界が開けている左手(北側)を望むと、広大な高原が見下ろせました。野辺山高原です。むむっ?何か変わった構造物が…。そうか、これは国立天文台の野辺山電波観測所ですね。存在は知っていましたが、こんな開けっぴろげなところにあるとは。
宇宙電波観測所 |
でっかいパラボラアンテナです。調べてみると、これは電波望遠鏡。パラボラの直径は45mもあるそうです。解説を読んでも難しすぎて何を観測しているのかよく分かりませんでした。宇宙から来る電波から何かを調べているんでしょうね、きっと。
冬枯れの木立ち。今日の晴天は束の間の休息でしょうね。
平沢山 |
正面に平沢山が見えてきました。この山には復路で登るので、この先の分岐で右手の巻き道に進みます。
浅間山遠望 |
立ち止まって小休止。双眼鏡で左手遥か遠くに鎮座する浅間山を眺めました。山塊右端の台形の山が浅間山。その左が外輪山で、ひときわ尖ったピークが黒斑山です。更に左手、たなびく雲に隠れそうになっているのが今年7月に登った篭ノ登山になります。ここからの距離は50kmちょっとあります。
ツルウメモドキ |
今回の野山歩き、花は期待できないまでも実なら何かあるかもと思っていました。これはツルウメモドキの実ですね。鮮やかなオレンジ色が好まれ、リースの素材などに使われたりします。
平沢山分岐 |
11時ちょうど、平沢山との分岐に到着しました。直進すると上り坂になります。ここは右手に折れ、稜線の右側に(南側)に出ます。
南面へ |
尾根を越えるとこの風景。南面になるので陽射したっぷりです。写真左手に今日の目的地、飯盛山のピラミダルな姿が見えていますね。そしてその右手奥の雲の上に富士山の姿も望めます。
霊峰富士 |
富士山を望遠で。まさに「霊峰」と呼ぶにふさわしい神々しさです。
南アルプス |
富士山から視線を左に移すと長大な南アルプス。正式には赤石山脈ですね。南北約70kmにも及ぶ日本を代表する山脈で、富士山に次ぐ高さの北岳を始め、9つの3千m峰を抱えています。そして今も年間4mmペースで隆起しているのだそうです。(写真にマウスポインタを乗せると山名表示)
カラマツ |
さて、山頂に向けて歩き出しましょう。
青空を背景にカラマツの黄葉が映えています。針葉樹でありながら落葉樹という変わり者。漢字では「落葉松」と書くことも。
ヤマツツジ? |
鮮やかな紅葉。葉の形や付き方の特徴からヤマツツジかオオヤマツツジではないかと。花の時期なら区別しやすいのですが。
しばらく行くと平沢山から下ってきた道が左から合流してきました。復路ではここから平沢山に向かいます。
冬枯れの野 |
猛暑だ酷暑だと言っていた夏も、いつまでも夏のようだと言っていた秋もこの時期になるとやっぱり遠ざかって行き、巷にも冬の気配を感じるようになりました。平地でそうなので、標高1千mを超えるこの高地ではもう完全に冬です。今日は天気が良いのでまだ明るい気持ちでいられますが、これが天気が悪かったりすると、遠い異国の荒野に取り残されたような寂しい気持ちになること必定です。
平沢山 |
振り返ると平沢山が。あの左側を巻いてここまでやって来ました。
中央アルプス |
右手に南アルプスを見ながら歩いていると、んんっ?あの山は何だ? 南アルプスが北に向かって高度を下げていく辺りに、明らかに距離感の違う山並みが見えます。双眼鏡で確認してみると特徴的な稜線。そう、あれは中央アルプスの盟主、木曽駒ヶ岳ではないですか。ここからの距離は約60kmあって、南アルプスの肩越しに顔をのぞかせている感じですね。中央アルプスも日本を代表する大きな山脈で、正式には木曽山脈です。
南八ヶ岳 |
犬連れの登山者とすれ違いました。その後、振り返ってみると大きな八ヶ岳がこちらを見下ろしていました。圧倒的な存在感です。
一般に八ヶ岳という場合、夏沢峠以南の南八ヶ岳を指す場合と、これに天狗岳や北横岳などの北八ヶ岳を合わせたエリアを指す場合、さらにこれらに蓼科山を含めた南北30kmにわたる八ヶ岳連峰全体を指す場合があるようです。この写真に写っているのは南八ヶ岳になります。最高峰は赤岳(2899m)で、他に横岳(2830m)、阿弥陀岳(2805m)、硫黄岳(2760m)、権現岳(2715m)などのピークが連なっています。ちなみに八ヶ岳というピークはありません。
大盛山(左)と飯盛山 |
さて、進行方向に視線を戻すと、飯盛山はもうすぐそこです。均整の取れた山ですね。その左手のなだらかな山は大盛山。飯盛に大盛とは、命名に何やら曰くがありそうですね。
路傍のササ。日が当たっている場所なのに葉に下りた霜が融けていません。今日の気温の低さを物語っていますね。
大盛山分岐 |
大盛山との分岐までやって来ました。ここは右手に向かいます。
いざ飯盛山へ |
最後のアプローチの手前は広い場所になっていました。風や雨が強いときなどは身を隠すところもなく辛いでしょうね。
山頂直下 |
急な坂道を登るとすぐに山頂です。それにしても木一本生えていません。表土の流出を防ぐためか、石組みや板が埋め込んでありました。
飯盛山山頂 |
そして11時25分、飯盛山の山頂に到着です。360度の眺望を独り占めです。
ところで、標識には1643mとありますが、国土地理院の2万5千分の1の地形図には隣の大盛山が1643mと表記されていて、飯盛山には標高の表記はありませんでした。ほぼほぼ同じ高さなのかもしれません。
さあ、360度の眺望を楽しみましょう。(後編に続く)
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