玄岳 〜静かな山で一年を振り返る(前編)〜


 

 (前編)

【静岡県 熱海市 平成27年12月27日(日)】
 
 暮れも押し詰まってきました。この年の瀬にやるべきこともあらかた終えてしまい、さて今年の山納めはどこにしようかと考えて、熱海の玄岳に登ることにしました。ここならのんびりと今年一年を振り返りながら山歩きをすることができると思ったわけです。
 
                       
 
 予定では朝5時起き。橋本から相模線で茅ヶ崎に行き、そこで東海道本線に乗り換えて熱海に行くつもりでいましたが、目が覚めたら7時でした。しょうがないので朝食もそこそこに家を出て、橋本から横浜線で新横浜に行き、こだまに乗って熱海に向かいました。ところで、こだまといえば団子っ鼻の0系の新幹線のイメージでしたが、ホームに入ってきたのはN700系。ちょっと前まではのぞみとして活躍していたのに。新幹線の世代交代も厳しいようです。
 で、熱海駅に着いたのは9時14分。当初在来線乗り継ぎで予定していた到着時刻とまったく同時刻でした。やっぱり新幹線は速いです。


Kashmir 3D

 今日のコースは、熱海駅からひばりヶ丘行きのバスに乗り、終点の一つ手前のその名も「玄岳ハイクコース入口」バス停で下車。そこから谷を遡り、山腹にとりついて、標高798mの山頂を目指します。復路は玄岳の北側にある氷ヶ池に立ち寄り、その先から熱海新道を歩いて、往路の谷道に合流するというものです。


Kashmir 3D

 玄岳は、箱根からまっすぐ南に延びる山稜の中程に位置しています。この山稜は、伊豆半島形成時(約60万年前)に活動していた多賀火山という大型の火山の名残で、山体の東側が大きく浸食されて残った地形だそうです。当時、フィリピン海プレートに乗って北上してきた島が本州に衝突し、衝突部が隆起して大きな火山が3つ活動していたそうです。多賀火山はそのうちの一つです。(詳しくは伊豆半島ジオパークのHPで)

 玄岳ハイクコース入口バス停

 熱海駅から東海バスで20分弱。登山口になる玄岳ハイクコース入口バス停に着きました。熱海は基本的に平地はなく、海岸からすぐに傾斜地が始まっています。この辺りも結構な斜度で、バスを下りてから歩道で柔軟体操をしているときにもバランスを崩して転がりそうになったほどです。



 準備を整えて、9時50分スタート。バス停から左手に延びる坂道を登っていきます。正面の家の1階地面と車道との高低差が坂道の斜度を物語っています。

 オステオスペルマム

 民家の庭先にこんな花が咲いていました。オステオスペルマムというキク科の園芸種だそうです。花弁の中程がロールしてくびれ、先端が水滴のように見えますね。全体ではミルククラウンのようでもあります。いろんな花があるものです。

 谷のけっこう奥まで住宅地が続いています。この立地はお年寄りには大変でしょうね。

 愛犬供養塔

 民家が途切れ始めたあたりに石碑がありました。「愛犬供養塔」と彫ってあります。裏には昭和37年龍爪會建立とも。近くで落ち葉掃除をしていたおじさんに聞いてみると、この近所の家が以前猟師をやっていて、その猟犬のための供養塔なのだそうです。なんで家の庭先などでなくこの道端に建てているんだろう。ここが最期の地だったとか。

 サネカズラ

 舗装路の上り坂はまだ続いています。でも路傍に興味を惹くものも多いので退屈はしません。これはサネカズラの実。昔この実から油を採って整髪に用いたことから、ビナンカズラ(美男葛)の別名を持っています。

 アオキ

 アオキの実も色づき始めています。葉は革質で光沢があり、暖地の植物であることを示しています。



 ヤブニッケイ  シロダモ

 よく似た樹種が並んで生えていました。いずれも3行脈が目立つ葉ですが、ヤブニッケイは葉が枝にほぼ等間隔に付くのに対し、シロダモは枝の先端に集まって付くという特徴があります。これらの葉もテカテカです。

 山道に

 登りはじめて30分、舗装路が途切れ山道が始まりました。

 しばらくの間、左側には竹林が続き薄暗い感じに。

 ゴンズイ

 静かな山道。出会う人もほとんどなく、今年あった出来事をあれこれと思い出しながらゆっくりと登っていきます。

 やがて明るく陽が差す落葉樹林の道になりました。聞こえるのはときおり樹林の上部を揺らして過ぎる風の音のみです。

 山道に入って30分、車道のガードレールが見えました。

 登山道はこの道路を橋で跨ぎます。

 熱海新道

 橋の上から道路を見下ろすの図。この道路は熱海新道。熱海市の錦ヶ浦付近から伊豆スカイラインの玄岳ICまでを結ぶ、かつて有料道路だった路線だそうです。しばらく橋の上にいましたが車は1台も通りませんでした。

 ニシキウツギ?

 橋の欄干越しにニシキウツギ(ハコネウツギか)の果鞘を。

 ツルグミ

 反対側にはツルグミが。実は春に赤く熟します。

 橋を渡ってまた上りはじめます。この辺りは才槌の洞というところ。なんでもこの近くに洞窟がありその前の大岩に才槌が彫られていたからこの地名になったのだとか。岩に才槌が彫られるって、才槌の形がレリーフのように彫られていたっていうことでしょうか。今ひとつ状況がピンと来ません。

 再び静かな山道を登っていきます。

 ヤマアジサイ

 ヤマアジサイのドライフラワー。単調な登山道にもよく見ると興味深いものはあります。

 やがて谷頭に至ると道は山腹にとりつき、ジグザグに高度を稼いでいきます。

 ツルリンドウ

 枯れ野にツルリンドウの実が。棗のような色、形です。

 イヌツゲ

 これはイヌツゲ。モチノキ科は概ね赤い実を付けますが、唯一イヌツゲだけが実が黒いです。

 アセビ

 アセビの葉、テカってますね。これもシロダモやヤブニッケイと同様に照葉樹林の構成種です。

 11時20分、見晴台のようなところに出ました。先客はご夫婦と小さなお子さん(旦那さんに背負われている)のようです。

 熱海市街

 見晴台からは東側の眺望が開けていました。今朝遡ってきた谷とその先に熱海の市街地が見えます。市街地の一部だけがスポットライトを浴びているようになっていますね。今日は晴天なんですが、ときおり雲が陽射しを遮るので、日陰と日向がめまぐるしく入れ替わっているのです。

 玄岳

 見晴台からしばらく行くと左手に玄岳の山頂部が現れました。これも雲が行き過ぎるのを待って撮った写真です(手前はまだ日陰です。)。

 分岐

 すぐに分岐が現れました。山頂は左へ。

 山頂まではあと少し。ササの斜面を登っていきます。

 玄岳山頂

 11月35分、玄岳の山頂に到着しました。先客は1人だけです。

 南西−北西

 山頂からはこんな感じ。南西から北西の眺望です。眼下には三島や沼津の市街。沼津アルプスを挟んでその向こうは駿河湾です。湾の左手は西伊豆の達磨山。湾の右側には富士山の前衛、愛鷹山です。

 北西−北東

 上の写真から右手にパンした写真。北西から北東にかけての眺望です。左端は愛鷹山。その右肩の雲の中に富士山があります。写真右のドーム型の山は箱根山です。

 南東

 南東側は雲で陽射しが遮られていたので薄暗い感じ。網代漁港の沖には初島が浮かんでいます。
 さて、眺望を楽しんだら昼食です。続きは後編で。