黒岳 〜御坂山地・春から夏へ(後編)〜


 

 (後編)

【山梨県 富士河口湖町 平成22年6月6日(日)】
 
 (前編はこちら


Kashmir 3D

  さて、ここまでの歩みは、「三ツ峠入口」からジグザグの登山道を上って御坂峠へ出て、そこから尾根道を西に辿って黒岳の山頂までやってきました。

 展望台へ

 山頂では長居をせずに、南側に張り出した展望台へ行ってみます。ほぼ水平移動。やや下りか。

 あれ? あんなに青空だったのに、いつのまにか曇っているではないですか。いや、曇りというより、空気中の湿気が薄い膜になっているような感じ。富士山の山頂は比較的クリアに見えていますが、広大なすそ野は薄ぼんやりと見えるのみです。せっかくこの眺望を楽しみにしていたのに、ちょっと残念。晴れていたら凄かったでしょうね。

 山頂をアップで撮ろうとすると、横からスーッとパラグライダーが。気持ちよさそうじゃないですか。こちらはこの風景を見ながら昼ご飯としましょう。コンビニ弁当ですが。それにしても山頂にはクロメマトイがたくさんいて、顔の回りにまとわりついてうるさいこと。ええい、景色に集中できーん!

 破風山

 展望台から西の稜線を見ると、すぐ手前に破風山、奥の山塊は節刀ヶ岳や十二ヶ岳などです。これから破風山の向こう側の新道峠まで尾根道を行き、そこから左手に向かって下ります。

 一気に下る

 11時50分、晴れない天気に心を残しつつ、展望台を出発です。いったん黒岳山頂まで戻り、そこから破風山に向かい坂道を一気に下っていきます。

 ムシカリ

 まあるいムシカリの葉。なんか微笑ましくて写真を撮ってしまいました。この葉がレース状になるくらい虫が好んで食べるため、「虫喰われ」→「ムシカリ」と転訛したとのことです。

 クロモジ

 葉に隠れるように下向きに咲くクロモジの花。控えめな花です。上を向いて咲く花、下を向いて咲く花、横向きの花。いろいろです。中には内側に向かって咲く花とかもありますからね。

 すずらん峠

 12時15分、黒岳から下りきったすずらん峠に到着。地図ではここからも下る道があるようですが、分岐はよく分からなかったです。標高は1620mくらいなので、一気に170mくらい下ったことになります。

 シロバナヘビイチゴ

 すずらん峠はそのまま通過して破風山へ向かいます。足元で純白のシロバナヘビイチゴの花が揺れいていました。

 アズキナシ

 アズキナシの花は雄しべが長く飛び出していて、なんとなく奔放なイメージを感じさせます。名の由来は、果実が小さく、梨に似ているからだそうですが、なにより小豆そのものにも似ています。

 破風山

 12時30分、あっけなく破風山山頂に到着。人っ子一人いません。針葉樹林に囲まれて展望はほとんどなく、唯一南側の斜面が伐採されていることから、富士山の山頂だけがようやく望める程度でした。遠目には威容を誇る山ですが、山頂は近所の裏山のような風情です。

 フデリンドウ

 破風山の山頂にもとっとと別れを告げて、新道峠に向かいます。
 フデリンドウの端正な美しさ。直径1pほどの小さな花でこの気品なので、例えば、もしアサガオほどの大きさだったならきっと大人気でしょうね。もっとも盗掘にあってとっくに絶滅していたかもしれませんが。

 山親爺

 立派な山親爺です。いったいどのくらいここに生きているんでしょうか。少なくともyamanekoが生まれてこの方、泣いたり笑ったり腹を立てたりしながら過ごしてきた日々の何倍かにはなるはずです。おもわず挨拶をして通り過ぎてしまうような存在感がありますね。

 無人の機械

 しばらく行くと金属製のフレームにしっかりと固定されたソーラーパネルなどの機材が。説明書きを読んでみると「富士山定点観測システム」とあります。どうやら御坂山地の北側に位置する笛吹市の観光振興のNPO法人が設置しているもののようで、富士山の定点写真をネットで公開しているとのことでした。一番上の四角い箱のようなものがピンホールカメラのような部品でした。

 カメラが見つめる先には

 そのカメラの向いている方向は小さな展望台のようになっていて、その先に富士山が拝める…はずなのですが。今日は白い幕が下りてしまっていますね。

 新道峠

 12時50分、新道峠に到着しました。あれ、陽が差してきたじゃないですか。富士山は、と見ると、やっぱり相変わらず霞んでいました。残念。

 ユキザサ

 ユキザサの小群落を見送って、ここからは左手の斜面をジグザグに下りていきます。

 麓へ

 カラマツの林の中をゆっくりと。調子に乗って下りていると膝の古傷を痛めてしまいますから。

 チゴユリ

 二輪のチゴユリを見つけました。これ一株かと思いきや、一輪のものに混じって、辺りにぽつりぽつりとあります。珍しいですよね。

 ヤマシャクヤク

 登山道を何回か折り返して歩いていると、ふいに貴婦人に出会いました。ヤマシャクヤクです。ドキッとしました。ぽつんとこの一輪のみが咲いていて、その周囲だけ何か異空間のようでした。この花は3、4日で散ってしまいます。ひょっとしてyamanekoが来るのを分かっていて、タイミングを合わせてくれたのか、と勝手な解釈をしてしまうくらい、感動を与えてもらいました。

 クサタチバナ

 花だけ見るとミカン科のもののようですが、このクサタチバナはガガイモ科。風のそよがない林内にあって涼しそうな花です。

 林道と合流

 1時30分、林道に合流しました。写真の奥から出てきたのです。

 どんどん下る

 いつも2万5千分の1の地形図を携行するのですが、どうもこの付近の記載が現況と異なっているようでした。林道が川を縫うように蛇行しているのに、地図上ではなんか適当に書かれています。だいじょうぶか。

 ヤブウツギ

 渓流に覆い被さるようにヤブウツギの花。暗い森をバックに濃い紅色が神秘的です。図鑑では本州での分布は山梨県以西の太平洋側だとか。このニシキウツギにしてみれば辺境の地に生きているということになりますね。

 堰堤越しに

 1時50分、大きな砂防堰堤があり、この辺りから展望が開けてきました。ここから道はコンクリート舗装になっています。相変わらず富士山はベールに包まれています。天気予報のやつめ。

 ツクバネウツギ

 花冠の内側にオレンジ色の網目模様があるツクバネウツギ。花冠の根元に放射状に開いた萼片が見えますが、これが羽根つきの羽根に似ていることからこの名が付いたということです。午前中に見たツクバネソウといいこの花といい、羽根つきが身近なものだったということでしょうか。調べてみると羽根つき自体には約1300年の歴史があり、元は公家の間で行われた神事だったそうですが。

 マルバウツギ

 ウツギ3連発。マルバウツギです。前の2つはスイカズラ科ですが、こちらはユキノシタ科。確かに風情も異なります。前の2つは漏斗状の花冠でしたし。マルバウツギの花弁は縁取りがされているみたいで、アップリケ(死語?)みたいですね。

 破風山

 2時30分、麓の大石集落まで下りてきました。振り返ると破風山の威容が。
 ここからは路線バスで駐車場まで戻ります。バス停まで行って時刻表を見てみると、ガガーン!次は3時50分ですと。うーん、参った。しばらく途方に暮れていましたが、とりあえず国道を歩き始めることに。でも、ここから駐車場まではゆうに6qくらいはあります。ヒッチハイクでもするか。そんなことを考えながら歩いていると、ちょっと変わったバス停があるじゃないですか。近寄ってみると「レトロバス」とあります。河口湖を周遊するレトロバスの路線がどこかから合流してきていました。しかも2分後に通りかかります。ラッキー! お天道様は見放していませんでした(天気予報的には見放されていましたが。)。

 レトロバス

 そのレトロバスはこんなバス。yamanekoも昭和のボンネットバスは知っていますが、こんなのではなかったような気がします。これはどちらかというとクラシックカーですよね。それはさておき、途中から激混みでお客さんの積み残しをしながら(運転手さんが無線で臨時便増発の手配をしてくれていました。)、ようやく駐車場まで戻ってきました。やれやれです。

 御坂山地

 河口湖畔でしばし休憩。御坂山地の稜線は望めますが、やっぱり大気中の湿気が多い感じです。写真の右端が御坂峠で、そこから尾根道を歩き、黒岳(中央やや右)、破風山(中央)と縦走して、その先の新道峠から下りてきたことになります。
 景色は期待はずれの面もありましたが、多くの花にも出会えて楽しい山歩きでした。さて、駐車場前に並んでいるみやげ物屋で信玄餅でも買って帰るか(家族みんなの好物なんです。)
 
 帰りの中央道、覚悟はしていたものの激しい渋滞でした(疲)。休日1000円も考えものです。